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愛されたい女 と 縛りたい男たち
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今日伺った作家はSMを得意とする作家で、内容は口にするのをはばかれるような内容ばかりだった。それでも私はそれを「ファンタジー」として読むことに専念している。こんな事は「あり得ない」のだから。
「神谷先生。こちらのシーンなのですが…。」
私の父ほどの年齢の作家先生だ。この業界ではすでに重鎮として名を馳せている。しかし、それだけに意見を言えるモノは少ないという話は聞いていた。
私のようにズバリとおかしな所を指摘する人は少ないと、神谷先生は私を子供のように可愛がっている。
「なるほど。そうか。だったら君はどうしたらいいと思う?」
私なりの意見を言う。その方法は人によっては危なっかしいと、注意されることもあるが、こういう先生こそズバリと言ってしまった方がいい場合もある。案外素直なのだ。
「では先生。私はこれで。」
「あぁ。佐藤さん。」
その立派な応接室のソファから立ち上がろうとしたとき、その先生から声をかけられる。
「はい。」
「君は何かあったのか?」
「え?」
「いつもと違う気がしてね。男でも出来たのか。」
ドキリとした。いつもと同じように接しているつもりだったのに、どうしてそれがばれてしまうのだろう。
「何もないですよ。私、どこか違いますか。」
とは言いながらも、この人にはばれたのかもしれない。なるべくいつもと同じように平常心で過ごしていたのに、それが隠せなかったのかもしれない。
「イヤ。たとえ男が出来ていたとしても、私はそれでいいと思うよ。」
「…。」
「君には色気が足りない。男と同じくらい、イヤそれ以上の仕事をしているのかもしれないが、女としての自覚は必要だ。」
「それは必要なことなのでしょうか。」
「あぁ。この世に男と女がいる限り、男は男として、女は女として自覚を持つことは必要なことだ。」
その先生の家を出る。立派な家だった。庭もよく手入れされている、昔ながらの日本庭園だった。最初にここに着たときは気後れしたものだが、今では「おみやげです」と家政婦さんから干菓子をもらうくらいになった。
近くのバス停に向かい、バスの時間を見る。もうすぐバスが来るようだ。手袋をバックから取りだして、はめようとして目に付いた右手の指輪。
「ワタシは古い人間だからね。こういったモノがないと、君を手に入れたと思えないんだ。」
「私を独占したいということですか。」
「あぁ。せっかく手に入れたのだからね。離したくはない。」
伊勢さんはそう言って、恭しく私の指にこの指輪をはめた。まるで婚約でもしているかのように。
銀色のシンプルなリングは、最初は違和感があった。しかし2、3日すれば、無いことが違和感になっていく。
しかし今から行くところでは否応なしに、この指輪を外さなければいけないだろう。
「来た。」
バスがくる。駅まで向かうバスで、私たちが住んでいる町へ戻ろう。
相変わらず古いアパートだ。そこにたどり着いて、一番奥の部屋のドアを叩く。
「桐。」
しかし桐は出てこない。寝ているのだろうか。ドアノブをつかみひねってみるが、やはり開かない。
「どっか出ているのかしら。」
時計を見る。約束の時間より10分早いからか、まだ帰ってきていないのだろうか。
寒い。
とりあえずここで待っていないといけないだろう。アパートの向かいにある自動販売機に向かうと、手袋を外してコインを入れた。そしてコーヒーのボタンを押す。
「…俺にも買ってよ。」
後ろから声が聞こえる。ふと振り向くと、そこには桐の姿があった。
「桐。あなたどこへ…。」
古いデザインのコート。帽子。いつもの彼の格好ではない。
「どこへ行ってたの?」
「母さんが、保釈されるっていうから身元引受人の手続きをしてきた。」
「…あなたそれでいいの?」
「あんなんでも母親だから。」
口元だけで笑う。それは彼が無理をしている証拠だった。
私はそれを知っている。だからといって何を言うわけでもない。「大変だったね。」「元気出してね。」なんて言っても彼の心に届くわけがない。そんな言葉は上っ面の言葉だと、桐はわかっている。そう言う人をずっと見てきたのだろうから。
財布からコインを取り出して、自販機に入れる。
「コーヒー?」
「あぁ、自分で選ぶ。」
さっと体をよけて、彼にコーヒーを選ばせた。
桐がサスペンスを買きたいと言いだしたのは、きっと母親が保釈されたことからだろう。
桐が5歳の頃、母親はある男を刺して殺した。妙な薬を使用していたからかもしれない。
だからその母親に似た人を自分の小説のキャラクターに出した。プロットの時点でそう思える。薬中毒の殺人犯の女性。
「どんなことを言うのかしら。この百合子って人は。」
桐の部屋に上がって完成したプロットを見ながら、ため息をついた。
「言い訳ばかりしかしない女だ。」
「実際、会ってもそうだったの?」
「あぁ。結局更正施設にしばらくはいることになった。でもどんな形で薬を欲しがるかわからないし、その薬を手に入れるためにどんなことでもしそうだと思った。だから、毎月金を送ることにした。」
「…大丈夫なの?」
「まともな仕事に就いたことのない人だ。おそらく、またやる。今度は俺の首すら危ないかもしれない。」
薬と男ばかりに溺れていた人だ。早めにまた刑務所にでも入ってしまえばいいのだ。
「神谷先生。こちらのシーンなのですが…。」
私の父ほどの年齢の作家先生だ。この業界ではすでに重鎮として名を馳せている。しかし、それだけに意見を言えるモノは少ないという話は聞いていた。
私のようにズバリとおかしな所を指摘する人は少ないと、神谷先生は私を子供のように可愛がっている。
「なるほど。そうか。だったら君はどうしたらいいと思う?」
私なりの意見を言う。その方法は人によっては危なっかしいと、注意されることもあるが、こういう先生こそズバリと言ってしまった方がいい場合もある。案外素直なのだ。
「では先生。私はこれで。」
「あぁ。佐藤さん。」
その立派な応接室のソファから立ち上がろうとしたとき、その先生から声をかけられる。
「はい。」
「君は何かあったのか?」
「え?」
「いつもと違う気がしてね。男でも出来たのか。」
ドキリとした。いつもと同じように接しているつもりだったのに、どうしてそれがばれてしまうのだろう。
「何もないですよ。私、どこか違いますか。」
とは言いながらも、この人にはばれたのかもしれない。なるべくいつもと同じように平常心で過ごしていたのに、それが隠せなかったのかもしれない。
「イヤ。たとえ男が出来ていたとしても、私はそれでいいと思うよ。」
「…。」
「君には色気が足りない。男と同じくらい、イヤそれ以上の仕事をしているのかもしれないが、女としての自覚は必要だ。」
「それは必要なことなのでしょうか。」
「あぁ。この世に男と女がいる限り、男は男として、女は女として自覚を持つことは必要なことだ。」
その先生の家を出る。立派な家だった。庭もよく手入れされている、昔ながらの日本庭園だった。最初にここに着たときは気後れしたものだが、今では「おみやげです」と家政婦さんから干菓子をもらうくらいになった。
近くのバス停に向かい、バスの時間を見る。もうすぐバスが来るようだ。手袋をバックから取りだして、はめようとして目に付いた右手の指輪。
「ワタシは古い人間だからね。こういったモノがないと、君を手に入れたと思えないんだ。」
「私を独占したいということですか。」
「あぁ。せっかく手に入れたのだからね。離したくはない。」
伊勢さんはそう言って、恭しく私の指にこの指輪をはめた。まるで婚約でもしているかのように。
銀色のシンプルなリングは、最初は違和感があった。しかし2、3日すれば、無いことが違和感になっていく。
しかし今から行くところでは否応なしに、この指輪を外さなければいけないだろう。
「来た。」
バスがくる。駅まで向かうバスで、私たちが住んでいる町へ戻ろう。
相変わらず古いアパートだ。そこにたどり着いて、一番奥の部屋のドアを叩く。
「桐。」
しかし桐は出てこない。寝ているのだろうか。ドアノブをつかみひねってみるが、やはり開かない。
「どっか出ているのかしら。」
時計を見る。約束の時間より10分早いからか、まだ帰ってきていないのだろうか。
寒い。
とりあえずここで待っていないといけないだろう。アパートの向かいにある自動販売機に向かうと、手袋を外してコインを入れた。そしてコーヒーのボタンを押す。
「…俺にも買ってよ。」
後ろから声が聞こえる。ふと振り向くと、そこには桐の姿があった。
「桐。あなたどこへ…。」
古いデザインのコート。帽子。いつもの彼の格好ではない。
「どこへ行ってたの?」
「母さんが、保釈されるっていうから身元引受人の手続きをしてきた。」
「…あなたそれでいいの?」
「あんなんでも母親だから。」
口元だけで笑う。それは彼が無理をしている証拠だった。
私はそれを知っている。だからといって何を言うわけでもない。「大変だったね。」「元気出してね。」なんて言っても彼の心に届くわけがない。そんな言葉は上っ面の言葉だと、桐はわかっている。そう言う人をずっと見てきたのだろうから。
財布からコインを取り出して、自販機に入れる。
「コーヒー?」
「あぁ、自分で選ぶ。」
さっと体をよけて、彼にコーヒーを選ばせた。
桐がサスペンスを買きたいと言いだしたのは、きっと母親が保釈されたことからだろう。
桐が5歳の頃、母親はある男を刺して殺した。妙な薬を使用していたからかもしれない。
だからその母親に似た人を自分の小説のキャラクターに出した。プロットの時点でそう思える。薬中毒の殺人犯の女性。
「どんなことを言うのかしら。この百合子って人は。」
桐の部屋に上がって完成したプロットを見ながら、ため息をついた。
「言い訳ばかりしかしない女だ。」
「実際、会ってもそうだったの?」
「あぁ。結局更正施設にしばらくはいることになった。でもどんな形で薬を欲しがるかわからないし、その薬を手に入れるためにどんなことでもしそうだと思った。だから、毎月金を送ることにした。」
「…大丈夫なの?」
「まともな仕事に就いたことのない人だ。おそらく、またやる。今度は俺の首すら危ないかもしれない。」
薬と男ばかりに溺れていた人だ。早めにまた刑務所にでも入ってしまえばいいのだ。
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