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突然 の 行動
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定時で帰れるのは月のうち何度か。打ち合わせや桐を初めとした作家の文章のチェックなど、会社に帰ってきてもやることは多い。
今日は運良く昼食後に会社に帰ってこれたので、何時間かの残業があったものの、比較的早い時間に帰ることが出来た。
あまりお腹は空いていない。昼食を食べた後はあまり動いていないからかもしれないな。でも何か食べておかなければいけない。
何が食べたいかな。コンビニ?弁当屋さん?それともふらりとどこか定食屋さんに入る?30手前の女一人だから、一人で食事なんて普通。
バスに乗って、最寄りのバス停で降りる。結局寄ったのは、近所のスーパーだった。寒い時期だもの。うどんでも食べよう。
冷凍庫の中に冷凍のうどん玉があるはず。卵とか野菜とか入れて食べればポカポカになるはずだ。
そう思いながら、スーパーへ足を延ばした。幸いにもすぐ近所に24時までやっているスーパーがある。校了前にはこのスーパーすら開いていないときもあるけれど、今日はまだだいぶ余裕だ。
かごを持ってネギや白菜を入れる。そしてお肉のコーナーに来たときだった。
「依。」
声をかけられてふと前を見る。そこには成の姿があった。
「成。こんなところで何をしているの?」
「ただの買い物だよ。」
「駅前からこんなところまで?」
少し驚いて彼をみる。すると少し苦笑いをして彼は言った。
「ちょっと桐の所へ行こうと思ってね。」
「桐の所へ?」
「ついでに何か食事でもしようと思って買ってた。ほらあいつ、放っておいたらコーヒーしか飲まないじゃないか。」
「そうね。だから何か差し入れを?」
「あぁ。それから少し話しもしたいと思っていて。」
「…そう。」
成は成で気になることがあるのだろう。おそらく今度でる本についてのことだ。
官能小説を桐が書き出してその本を出版する際、その本のデザインは一括で成の会社に頼んでいた。実際、成の会社が手がける本のデザインはセンスがいいと、「東雲」の名前を知らなくてもジャケットで買ってしまう人も多いらしい。
それだけに成はその出来映えに、少しでも不安があったら桐に相談するのだ。
そうなってくると私の出番はない。二人で相談すればいいのだ。相談した結果を私に報告してくれればいい。
「頑張って。」
それだけ声をかけて、その場を去ろうとした。私には家にかえってうどんが待っているのだから。すると背中越しに成が声をかけてきた。
「依。君も来ないか?」
「私も?どうして?」
「と言うか、君の家を借りたいんだけど。」
「…。」
「桐の部屋は狭いし、キッチンも使いにくいからね。」
ため息をついて、私は成の持っているかごを見た。
「白菜に、椎茸、鶏肉…あぁ…鍋でもしようと思ってたのね。」
「チゲ鍋にしてよ。」
「パス。辛いのは食べられないわ。水炊きをしましょ。うどんを入れてね。」
かごではなくカートを持ってきて、再び野菜コーナーから選び出した。
「ビール飲みたいな。」
「弱いくせに。それにあなた車でしょう?ノンアルコールにして。」
こうやって並んで買い物をしていると何に見えるのだろうか。
スーツを二人が着ている。スーパーで買い物をしている。まるで新婚夫婦のようだ。でも…。
「どうした?」
笑顔がまぶしい。それに男前だ。何も知らない人が見たらおそらくモデルか何かに見えるかもしれない。こんな人と並んでいても、私が奥さんに見えるわけがない。
二人で並んでいても滑稽だ。
買い物を済ませると、駐車場に向かう。そこには赤い車が停まっていた。それが成の車。社用車としても使っているらしく、あの会社の人で免許を持っている人だったら、この車を運転したことがある人がほとんどだ。
「どうせ義理の父が持っていたものだ。少しぐらいこすっても大丈夫だよ。」
そんなに爽やかに言われれば、そうかもしれないとみんな勘違いするかもしれないのに。
「桐?今から行くよ。あぁ。依も一緒だ。依の家で鍋をしようと言う話になっている。」
そんな話になっていたのか。改めて実感した。
「成。悪いけど、先に私の家に私を送ってくれないかしら。」
「どうして?」
「部屋を暖めておきたいの。私の家は古いから、すぐにストーブも温まらないし…。」
「依。」
成のその行動は予想外だった。
成は私の頬に手を置いた。そしてその手にぐっと力が入る。私は自然に成の方を向いた。そして彼が私の顔に近づいてくる。
「やめなさい。」
その行動に成がでる前に、私はその唇を手で塞いだ。
「何を考えているの。成。」
「冗談じゃないつもりだったんだけどな。」
「冗談じゃなければ、私に発情しないで。まだアルコールも入っていないんでしょう?」
すると彼はいつもの笑いに変わる。そしてフロントガラスの所に置いてあった煙草を1本取り出して口にくわえる。
「桐にはさせたのに?」
「…何を言っているの?」
「「東雲」としての最初の作品。「幼なじみの君」。あのモデルは君なんだろう?」
「違うわ。」
「ヤってるんだろう?」
「してないわ。バカなこと言わないで。あれは…桐の妄想よ。」
「…妄想?」
思い出してしまった。私が最初に東雲を担当して、桐が初めて東雲として出版した小説のことを。
「…変なことをして悪かったね。行こうか。」
そういって成は車のエンジンをかけた。そして駐車場を出て行く。
「お互いに忘れよう。」
「そのつもりよ。」
早く。早く車を降りたい。そして成と一緒に桐がやってくればいい。3人に戻れば、いつものようになれるのだから。
今日は運良く昼食後に会社に帰ってこれたので、何時間かの残業があったものの、比較的早い時間に帰ることが出来た。
あまりお腹は空いていない。昼食を食べた後はあまり動いていないからかもしれないな。でも何か食べておかなければいけない。
何が食べたいかな。コンビニ?弁当屋さん?それともふらりとどこか定食屋さんに入る?30手前の女一人だから、一人で食事なんて普通。
バスに乗って、最寄りのバス停で降りる。結局寄ったのは、近所のスーパーだった。寒い時期だもの。うどんでも食べよう。
冷凍庫の中に冷凍のうどん玉があるはず。卵とか野菜とか入れて食べればポカポカになるはずだ。
そう思いながら、スーパーへ足を延ばした。幸いにもすぐ近所に24時までやっているスーパーがある。校了前にはこのスーパーすら開いていないときもあるけれど、今日はまだだいぶ余裕だ。
かごを持ってネギや白菜を入れる。そしてお肉のコーナーに来たときだった。
「依。」
声をかけられてふと前を見る。そこには成の姿があった。
「成。こんなところで何をしているの?」
「ただの買い物だよ。」
「駅前からこんなところまで?」
少し驚いて彼をみる。すると少し苦笑いをして彼は言った。
「ちょっと桐の所へ行こうと思ってね。」
「桐の所へ?」
「ついでに何か食事でもしようと思って買ってた。ほらあいつ、放っておいたらコーヒーしか飲まないじゃないか。」
「そうね。だから何か差し入れを?」
「あぁ。それから少し話しもしたいと思っていて。」
「…そう。」
成は成で気になることがあるのだろう。おそらく今度でる本についてのことだ。
官能小説を桐が書き出してその本を出版する際、その本のデザインは一括で成の会社に頼んでいた。実際、成の会社が手がける本のデザインはセンスがいいと、「東雲」の名前を知らなくてもジャケットで買ってしまう人も多いらしい。
それだけに成はその出来映えに、少しでも不安があったら桐に相談するのだ。
そうなってくると私の出番はない。二人で相談すればいいのだ。相談した結果を私に報告してくれればいい。
「頑張って。」
それだけ声をかけて、その場を去ろうとした。私には家にかえってうどんが待っているのだから。すると背中越しに成が声をかけてきた。
「依。君も来ないか?」
「私も?どうして?」
「と言うか、君の家を借りたいんだけど。」
「…。」
「桐の部屋は狭いし、キッチンも使いにくいからね。」
ため息をついて、私は成の持っているかごを見た。
「白菜に、椎茸、鶏肉…あぁ…鍋でもしようと思ってたのね。」
「チゲ鍋にしてよ。」
「パス。辛いのは食べられないわ。水炊きをしましょ。うどんを入れてね。」
かごではなくカートを持ってきて、再び野菜コーナーから選び出した。
「ビール飲みたいな。」
「弱いくせに。それにあなた車でしょう?ノンアルコールにして。」
こうやって並んで買い物をしていると何に見えるのだろうか。
スーツを二人が着ている。スーパーで買い物をしている。まるで新婚夫婦のようだ。でも…。
「どうした?」
笑顔がまぶしい。それに男前だ。何も知らない人が見たらおそらくモデルか何かに見えるかもしれない。こんな人と並んでいても、私が奥さんに見えるわけがない。
二人で並んでいても滑稽だ。
買い物を済ませると、駐車場に向かう。そこには赤い車が停まっていた。それが成の車。社用車としても使っているらしく、あの会社の人で免許を持っている人だったら、この車を運転したことがある人がほとんどだ。
「どうせ義理の父が持っていたものだ。少しぐらいこすっても大丈夫だよ。」
そんなに爽やかに言われれば、そうかもしれないとみんな勘違いするかもしれないのに。
「桐?今から行くよ。あぁ。依も一緒だ。依の家で鍋をしようと言う話になっている。」
そんな話になっていたのか。改めて実感した。
「成。悪いけど、先に私の家に私を送ってくれないかしら。」
「どうして?」
「部屋を暖めておきたいの。私の家は古いから、すぐにストーブも温まらないし…。」
「依。」
成のその行動は予想外だった。
成は私の頬に手を置いた。そしてその手にぐっと力が入る。私は自然に成の方を向いた。そして彼が私の顔に近づいてくる。
「やめなさい。」
その行動に成がでる前に、私はその唇を手で塞いだ。
「何を考えているの。成。」
「冗談じゃないつもりだったんだけどな。」
「冗談じゃなければ、私に発情しないで。まだアルコールも入っていないんでしょう?」
すると彼はいつもの笑いに変わる。そしてフロントガラスの所に置いてあった煙草を1本取り出して口にくわえる。
「桐にはさせたのに?」
「…何を言っているの?」
「「東雲」としての最初の作品。「幼なじみの君」。あのモデルは君なんだろう?」
「違うわ。」
「ヤってるんだろう?」
「してないわ。バカなこと言わないで。あれは…桐の妄想よ。」
「…妄想?」
思い出してしまった。私が最初に東雲を担当して、桐が初めて東雲として出版した小説のことを。
「…変なことをして悪かったね。行こうか。」
そういって成は車のエンジンをかけた。そして駐車場を出て行く。
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