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狭い部屋 の 小説家
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うるさい上司との通話を切り、私はあるアパートの前に立っていた。木造のアパートはとても古くてボロいように見える。実際部屋の中もボロボロなのだけれど。
アパートの前の駐車場を通り抜けて、アパートの外階段を上がる。パンプスの靴でその錆びた階段を上がると、カンカンと音がしてきっとここの住人たちは、誰かがここに上がってきていることはわかっているのだろう。
上がりきったその廊下を歩いていく。そして一番端の部屋のドアの前に立つと、そのドアを叩いた。
「桐。」
チャイムはあるがすでに壊れていて鳴らないのだ。
しばらくすると、そのドアを開ける人がいた。それは髪をぼさぼさに伸ばしている男だった。
「依。」
「原稿のチェックに来たの。」
「上がれ。」
そう言って彼は私を部屋の中に入れる。部屋の中はすぐに煙草の匂いが鼻についた。
部屋の中は、あまり広くはない。ワンルームの部屋で、トイレとキッチン、畳6畳ほどの部屋に本が山積みされていた。あとはベッド、パソコン、ローテーブルだけのシンプルな部屋。ゴミはないし、部屋の隅に埃もない。清潔にはしているようだ。でも彼が清潔とは限らないけど。
「コーヒー飲む?」
「えぇ。いただこうかしら。」
「インスタントしかないけど。あ、ついでに砂糖もミルクもない。」
「ブラックでいいわ。」
ローテーブルの上には紐でまとめられた紙の束が置いてある。それが「原稿」なのだ。
「これかしら。うちの原稿は。」
「あぁ。」
「読ませてもらうわね。」
原稿を手にすると、私は畳の上に座り込んだ。そしてバックから赤ペンを取り出す。
原稿のタイトルは「女性教師 春野岬の疼き」と書いてあった。今回は男性向けの官能小説のためこんなタイトルになったのだろう。
内容は本当にこんな都合がよく女が股を開くのだろうかと、首を傾げるような内容ではあった。しかしこれが男性にはうけるのだろう。
「コーヒー。」
そう言って彼は私にマグカップを渡してきた。
「ありがとう。」
それを受け取るとマグカップから暖かい感触が伝わってくる。
「依。」
パソコン台の上から灰皿と煙草を持ってくると、彼はその煙草を1本くわえて火をつける。
「女には厳しいだろう?こんな小説の内容は。」
「別に…。もうすでに私の中でこれはファンタジーだと思っているから。」
「ファンタジーね。」
口元だけで少し笑い、煙を吐き出した。
「大体、セックスで気絶する人なんか相手にしたことがある?」
「まぁ。大抵はないんじゃないのか。お前は気絶したことはないのか?」
「無いわよ。って何を言わせるのよ。バカね。桐は。」
彼は「中村桐」。私がつとめている出版社の中にある成人向け雑誌「ポルノ」のワンコーナーである小説を書いているのだ。
すでに桐は官能小説家としては地位を築いていて、ある程度の本を発行しているしそれなりのヒット作もある。だからこんな三流雑誌の小説を書くことは異例だと思う。
「そんな人がいるのか、気にはなるけどな。」
「そういう映像もあるわ。見てみればいいじゃない。男なんだから恥ずかしくはないでしょう?」
「そんな暇はない。一応、ここだけじゃないしな。連載は。」
話しながら文章をチェックする。慣れたものだ。もうこの出版業界に入って6年がたつ。そして「中村桐」こと「東雲」の担当になって3年。
赤ペンを持って修正をしたり、付け足したりすることはもうお手の物だった。当初の頃より修正が減った。それだけ彼の文章力が上がったのかもしれない。
「終わったわ。これを修正して、それからデーターを会社に送ってくれる?」
「わかった。」
紙の束を彼に渡す。そして私は温くなってしまったコーヒーに再び口を付けた。
「それにしても、作家「東雲」がこんな部屋にいるとはね。」
「気に入ってるんだ。」
「お風呂もないのに。」
「掃除が面倒。」
「でもすきま風もあるし…。」
「エアコンがあるから大丈夫。」
「…女性だって連れてこれないわよ。」
「女はお前くらいしか来ない。」
不思議なものだ。官能小説なんて書いているのだから、女性関係は激しいのかと思っていたのに、女性を連れ込んだこともないのから。
「そう言えば彼女がいたって言う話も聞いたことはないわね。28にもなって。ゲイなの?」
「だったらゲイの小説家いている。今のところそんなものはいらないってことだ。どうとでも抜くことは出来るし。」
普通の女性なら、そんな話題はいやがるだろう。でも私はそんなこと気にしない。
「そう。男性はいいわね。そう言うことが出来て。」
「お前も男を買えばいい。最近は恋人もいないんだろう?」
「忙しくてね。それに彼氏は面倒だわ。こんな雑誌の担当にどうしてなったんだとか、もっと早く帰れないのかとか。家でどれだけ待っていたんだ。とかね。もう面倒。」
「お前は仕事人間だから。」
「成ほどじゃないわ。」
それだけじゃないじゃない。
私は桐の方を見て、軽くため息を心の中でついた。
2、3ヶ月前までいた恋人は、彼といたときも桐からの電話が鳴って出ることもあった。それが面白くなかったのだろう。
「イヤ、似たようなものね。」
ぽつりとつぶやき、私はコーヒーを飲み干した。
アパートの前の駐車場を通り抜けて、アパートの外階段を上がる。パンプスの靴でその錆びた階段を上がると、カンカンと音がしてきっとここの住人たちは、誰かがここに上がってきていることはわかっているのだろう。
上がりきったその廊下を歩いていく。そして一番端の部屋のドアの前に立つと、そのドアを叩いた。
「桐。」
チャイムはあるがすでに壊れていて鳴らないのだ。
しばらくすると、そのドアを開ける人がいた。それは髪をぼさぼさに伸ばしている男だった。
「依。」
「原稿のチェックに来たの。」
「上がれ。」
そう言って彼は私を部屋の中に入れる。部屋の中はすぐに煙草の匂いが鼻についた。
部屋の中は、あまり広くはない。ワンルームの部屋で、トイレとキッチン、畳6畳ほどの部屋に本が山積みされていた。あとはベッド、パソコン、ローテーブルだけのシンプルな部屋。ゴミはないし、部屋の隅に埃もない。清潔にはしているようだ。でも彼が清潔とは限らないけど。
「コーヒー飲む?」
「えぇ。いただこうかしら。」
「インスタントしかないけど。あ、ついでに砂糖もミルクもない。」
「ブラックでいいわ。」
ローテーブルの上には紐でまとめられた紙の束が置いてある。それが「原稿」なのだ。
「これかしら。うちの原稿は。」
「あぁ。」
「読ませてもらうわね。」
原稿を手にすると、私は畳の上に座り込んだ。そしてバックから赤ペンを取り出す。
原稿のタイトルは「女性教師 春野岬の疼き」と書いてあった。今回は男性向けの官能小説のためこんなタイトルになったのだろう。
内容は本当にこんな都合がよく女が股を開くのだろうかと、首を傾げるような内容ではあった。しかしこれが男性にはうけるのだろう。
「コーヒー。」
そう言って彼は私にマグカップを渡してきた。
「ありがとう。」
それを受け取るとマグカップから暖かい感触が伝わってくる。
「依。」
パソコン台の上から灰皿と煙草を持ってくると、彼はその煙草を1本くわえて火をつける。
「女には厳しいだろう?こんな小説の内容は。」
「別に…。もうすでに私の中でこれはファンタジーだと思っているから。」
「ファンタジーね。」
口元だけで少し笑い、煙を吐き出した。
「大体、セックスで気絶する人なんか相手にしたことがある?」
「まぁ。大抵はないんじゃないのか。お前は気絶したことはないのか?」
「無いわよ。って何を言わせるのよ。バカね。桐は。」
彼は「中村桐」。私がつとめている出版社の中にある成人向け雑誌「ポルノ」のワンコーナーである小説を書いているのだ。
すでに桐は官能小説家としては地位を築いていて、ある程度の本を発行しているしそれなりのヒット作もある。だからこんな三流雑誌の小説を書くことは異例だと思う。
「そんな人がいるのか、気にはなるけどな。」
「そういう映像もあるわ。見てみればいいじゃない。男なんだから恥ずかしくはないでしょう?」
「そんな暇はない。一応、ここだけじゃないしな。連載は。」
話しながら文章をチェックする。慣れたものだ。もうこの出版業界に入って6年がたつ。そして「中村桐」こと「東雲」の担当になって3年。
赤ペンを持って修正をしたり、付け足したりすることはもうお手の物だった。当初の頃より修正が減った。それだけ彼の文章力が上がったのかもしれない。
「終わったわ。これを修正して、それからデーターを会社に送ってくれる?」
「わかった。」
紙の束を彼に渡す。そして私は温くなってしまったコーヒーに再び口を付けた。
「それにしても、作家「東雲」がこんな部屋にいるとはね。」
「気に入ってるんだ。」
「お風呂もないのに。」
「掃除が面倒。」
「でもすきま風もあるし…。」
「エアコンがあるから大丈夫。」
「…女性だって連れてこれないわよ。」
「女はお前くらいしか来ない。」
不思議なものだ。官能小説なんて書いているのだから、女性関係は激しいのかと思っていたのに、女性を連れ込んだこともないのから。
「そう言えば彼女がいたって言う話も聞いたことはないわね。28にもなって。ゲイなの?」
「だったらゲイの小説家いている。今のところそんなものはいらないってことだ。どうとでも抜くことは出来るし。」
普通の女性なら、そんな話題はいやがるだろう。でも私はそんなこと気にしない。
「そう。男性はいいわね。そう言うことが出来て。」
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「忙しくてね。それに彼氏は面倒だわ。こんな雑誌の担当にどうしてなったんだとか、もっと早く帰れないのかとか。家でどれだけ待っていたんだ。とかね。もう面倒。」
「お前は仕事人間だから。」
「成ほどじゃないわ。」
それだけじゃないじゃない。
私は桐の方を見て、軽くため息を心の中でついた。
2、3ヶ月前までいた恋人は、彼といたときも桐からの電話が鳴って出ることもあった。それが面白くなかったのだろう。
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