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開店前、累は店の準備をしながらあくびをした。さすがに寝ないのはつらいかもしれない。しかし疲労も幸せだった。
何度も打ち込まれて、そのたびに声を上げて藍を求める。こんな体ではなければ、きっとあっという間に妊娠してしまうだろう。それでも不思議なことがある。
彼とセックスした次の日、いつも頭痛がする。薬を飲めば収まるが、それがなぜかはわからない。
「……。」
それを誰に相談できるわけがない。零教授にもその事実は言ったことはないのだ。薬の色は白色、青色とあるが、飲むのはだいたい青色。それは精神的なものだろう。
もしかしたら感情を持つことは、ヒューマノイドして反しているのかもしれない。だからバランスが崩れて頭痛がする。頭を降り、彼女は思い直した。
それでもかまわない。藍といれるなら、薬でも何でも飲もう。
カラン。
ドアベルが鳴った。ふとそちらを見ると、そこには彩の姿があった。彼も彼で疲れているらしく、目の下にクマを作っている。
「早いけど、食事させてくれないかな。」
「えぇ。用意はできてます。どちらにしますか。」
「そうだな。白身のフライをもらおうかな。」
その言葉に彼女は、温めておいたフライヤーに用意しておいた白身魚に衣を付けたモノを入れた。
これからここが開店することがわかっているなら、もう彼女の体を求めないだろう。少しほっとした。今抱かれれば、イヤでも藍の痕跡が残っているのだから。
「累。聞きたいことがあるんだが。」
「何でしょうか。」
どうしても躊躇ってしまう。藍という男が赤の側近である紅花なのだという事実を言うこと。
「夕べはどこかへ行ってたのか。」
他愛もないことを聞いてしまった彼は、ため息をついた。しかし彼女にとってその話題は触れられたくないことで、藍といたなど口が裂けてもいえない。
だが表情を変えてはいけない。いつも通りを装い、彼女は揚げている魚のフライをパットで脂ぎりする。
「えぇ。」
「どこに?」
「散歩です。と言っても一時間も外出しなかったでしょうが。」
「あまりうろうろしてはいけないよ。変な男に因縁を付けられても困るのはあっちだろうしね。」
そういえば昨日は因縁を付けられたのだ。結局建物を出ていったとき、男たちの姿はなかったところを見ると諦めたのだろう。
「ソースとタルタルソースはどちらにしますか。」
「ソースにしてくれないか。」
彼女はその声に別皿にソースを入れてトレーに載せる。そして彼の前に食事を置いた。
「お待たせしました。」
「美味しそうだ。」
箸を付けてそれを切り分けながら口に運ぶ。この切り身は大きなモノだ。コレ一つで満足できるだろう。おそらくコレも彼女が捌いたのだ。こういうことも顔色変えずに出来る。人間だったら良かったのに。彩は初めてそう思えた。
「……累。」
「どうしました?」
「コレを食べたら、二階で少し眠りたいんだがいいだろうか。」
「どうぞ。ご自由に。」
おかしなことをいうものだ。いつも勝手に上がって勝手に眠っているのに。
「それから……。」
「……。」
「噂程度のことだ。あまり気負わずに聞いて欲しい。」
「どうしました?」
「幻と言う女性を知っているだろう。」
「はい。よく見えてくださいます。港で検疫をされているとか。」
「彼女はどうやら城に目を付けられているらしい。」
「どうしてですか?」
「……今まで検疫や外交をしていた称という男は、案外頭のいい人間だったらしい。それは見て見ぬ振りが出来る人間だ。」
「見て見ぬ振り?」
「国家を動かすというのは、綺麗なことだけをするだけじゃなく時には汚いことも必要だってこと。」
「それが……見て見ぬ振りということですか。」
「そうだね。でも彼女は、それが出来ない。行き先不明、荷主不明のものはすべて国内に入れないらしい。」
「……それで……。」
「え?」
「あぁ。昔、称さんにスパイスをいただきました。まだこの国に入れるかどうか迷っていると。」
「……そういったものだよ。」
知らない間にそういった密航されたモノを彼女もまた使っていたのだ。スパイスだから許されるというわけではないのだろう。表沙汰にでれば、どんなことになったかわからない。
「……それがどうして彼女が城に目を付けられると?」
「城にもそういったモノが運ばれているってこと。それは表沙汰にはなっていない。トップシークレットのモノだ。だがそれを解き明かそうとしている。それで城に目を付けられているんだ。」
「そうでしたか。」
自分には関係ないことだ。幻がどうなろうと知ったことではないのだから。
「城は、幻を暗殺しようとしている。その役目を赤の兵団長に任せたらしい。」
「……その兵団長を始末するのですか?」
それが目的だったのか。幻を餌にして、兵団長を一人でも殺せば城の兵の力を削ぐことになるから。」
「出来るか。」
すると彼女はため息をついていった。
「出来るかではなく、やらないといけないのでしょう。」
「頼もしい限りだ。」
「詳しい話はいつ?」
「その詳しい話を今日してくる手はずになっている。うまくいけば、三日後に。」
「わかりました。」
また人を殺さないといけない。生み出すことは出来ないうえに、消すことしかできない彼女は、ますます人間ではないことを自覚させる。
あんなに愛されても、言葉を囁かれても、幸せでも、彼女は人間ではないのだから。
食事を終えた彩は、トレーを持ってキッチンに入ってくる。そしてその食器を水に漬けると、累の手を引く。
それにも逆らってはいけないのだ。
彼女らはちょうど裏口のドアの前。ついたてがあり入り口からは死角になるところに立つと、彼は彼女の頬に触れる。そのとき彼女の首もとからわずかに見える赤い跡が目に付いた。
そうか。夕べ、累は彼と会っていたのだ。こんな跡を付けるくらい激しく求め合ったのだろう。ぐっと唇を噛み、彼は彼女の唇にいきなりキスをした。最初から舌を入れて、激しく求める。
「ん……ん……。」
その吐息も、その声も、彼女は藍のものになっていたのだ。
渡したくない。その一心だった。
「……彩……。」
腕に力を入れて、引き寄せたかった。だがその力はすぐに弱くなり、彼はうつむいたまま裏口のドアを開けた。
「上を借りるよ。」
「はい。」
横になっても眠れそうにない。今日も彼女以外の人とセックスをしないといけないだろう。愛すらわからないまま、彼は愛の言葉を囁くのだ。
何度も打ち込まれて、そのたびに声を上げて藍を求める。こんな体ではなければ、きっとあっという間に妊娠してしまうだろう。それでも不思議なことがある。
彼とセックスした次の日、いつも頭痛がする。薬を飲めば収まるが、それがなぜかはわからない。
「……。」
それを誰に相談できるわけがない。零教授にもその事実は言ったことはないのだ。薬の色は白色、青色とあるが、飲むのはだいたい青色。それは精神的なものだろう。
もしかしたら感情を持つことは、ヒューマノイドして反しているのかもしれない。だからバランスが崩れて頭痛がする。頭を降り、彼女は思い直した。
それでもかまわない。藍といれるなら、薬でも何でも飲もう。
カラン。
ドアベルが鳴った。ふとそちらを見ると、そこには彩の姿があった。彼も彼で疲れているらしく、目の下にクマを作っている。
「早いけど、食事させてくれないかな。」
「えぇ。用意はできてます。どちらにしますか。」
「そうだな。白身のフライをもらおうかな。」
その言葉に彼女は、温めておいたフライヤーに用意しておいた白身魚に衣を付けたモノを入れた。
これからここが開店することがわかっているなら、もう彼女の体を求めないだろう。少しほっとした。今抱かれれば、イヤでも藍の痕跡が残っているのだから。
「累。聞きたいことがあるんだが。」
「何でしょうか。」
どうしても躊躇ってしまう。藍という男が赤の側近である紅花なのだという事実を言うこと。
「夕べはどこかへ行ってたのか。」
他愛もないことを聞いてしまった彼は、ため息をついた。しかし彼女にとってその話題は触れられたくないことで、藍といたなど口が裂けてもいえない。
だが表情を変えてはいけない。いつも通りを装い、彼女は揚げている魚のフライをパットで脂ぎりする。
「えぇ。」
「どこに?」
「散歩です。と言っても一時間も外出しなかったでしょうが。」
「あまりうろうろしてはいけないよ。変な男に因縁を付けられても困るのはあっちだろうしね。」
そういえば昨日は因縁を付けられたのだ。結局建物を出ていったとき、男たちの姿はなかったところを見ると諦めたのだろう。
「ソースとタルタルソースはどちらにしますか。」
「ソースにしてくれないか。」
彼女はその声に別皿にソースを入れてトレーに載せる。そして彼の前に食事を置いた。
「お待たせしました。」
「美味しそうだ。」
箸を付けてそれを切り分けながら口に運ぶ。この切り身は大きなモノだ。コレ一つで満足できるだろう。おそらくコレも彼女が捌いたのだ。こういうことも顔色変えずに出来る。人間だったら良かったのに。彩は初めてそう思えた。
「……累。」
「どうしました?」
「コレを食べたら、二階で少し眠りたいんだがいいだろうか。」
「どうぞ。ご自由に。」
おかしなことをいうものだ。いつも勝手に上がって勝手に眠っているのに。
「それから……。」
「……。」
「噂程度のことだ。あまり気負わずに聞いて欲しい。」
「どうしました?」
「幻と言う女性を知っているだろう。」
「はい。よく見えてくださいます。港で検疫をされているとか。」
「彼女はどうやら城に目を付けられているらしい。」
「どうしてですか?」
「……今まで検疫や外交をしていた称という男は、案外頭のいい人間だったらしい。それは見て見ぬ振りが出来る人間だ。」
「見て見ぬ振り?」
「国家を動かすというのは、綺麗なことだけをするだけじゃなく時には汚いことも必要だってこと。」
「それが……見て見ぬ振りということですか。」
「そうだね。でも彼女は、それが出来ない。行き先不明、荷主不明のものはすべて国内に入れないらしい。」
「……それで……。」
「え?」
「あぁ。昔、称さんにスパイスをいただきました。まだこの国に入れるかどうか迷っていると。」
「……そういったものだよ。」
知らない間にそういった密航されたモノを彼女もまた使っていたのだ。スパイスだから許されるというわけではないのだろう。表沙汰にでれば、どんなことになったかわからない。
「……それがどうして彼女が城に目を付けられると?」
「城にもそういったモノが運ばれているってこと。それは表沙汰にはなっていない。トップシークレットのモノだ。だがそれを解き明かそうとしている。それで城に目を付けられているんだ。」
「そうでしたか。」
自分には関係ないことだ。幻がどうなろうと知ったことではないのだから。
「城は、幻を暗殺しようとしている。その役目を赤の兵団長に任せたらしい。」
「……その兵団長を始末するのですか?」
それが目的だったのか。幻を餌にして、兵団長を一人でも殺せば城の兵の力を削ぐことになるから。」
「出来るか。」
すると彼女はため息をついていった。
「出来るかではなく、やらないといけないのでしょう。」
「頼もしい限りだ。」
「詳しい話はいつ?」
「その詳しい話を今日してくる手はずになっている。うまくいけば、三日後に。」
「わかりました。」
また人を殺さないといけない。生み出すことは出来ないうえに、消すことしかできない彼女は、ますます人間ではないことを自覚させる。
あんなに愛されても、言葉を囁かれても、幸せでも、彼女は人間ではないのだから。
食事を終えた彩は、トレーを持ってキッチンに入ってくる。そしてその食器を水に漬けると、累の手を引く。
それにも逆らってはいけないのだ。
彼女らはちょうど裏口のドアの前。ついたてがあり入り口からは死角になるところに立つと、彼は彼女の頬に触れる。そのとき彼女の首もとからわずかに見える赤い跡が目に付いた。
そうか。夕べ、累は彼と会っていたのだ。こんな跡を付けるくらい激しく求め合ったのだろう。ぐっと唇を噛み、彼は彼女の唇にいきなりキスをした。最初から舌を入れて、激しく求める。
「ん……ん……。」
その吐息も、その声も、彼女は藍のものになっていたのだ。
渡したくない。その一心だった。
「……彩……。」
腕に力を入れて、引き寄せたかった。だがその力はすぐに弱くなり、彼はうつむいたまま裏口のドアを開けた。
「上を借りるよ。」
「はい。」
横になっても眠れそうにない。今日も彼女以外の人とセックスをしないといけないだろう。愛すらわからないまま、彼は愛の言葉を囁くのだ。
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