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鎮痛剤
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外にでると、雨が降っていた。コンビニで傘を買い、小夜子は家まで帰っていた。その間中、彼女の中で頭の整理が始まる。
月のモノがきたのはいつだっただろう。一巳と最後にセックスした後にはきたはず。その後、こんなに頻繁に斉藤とセックスしたときは?あれから一ヶ月もたっていない。その可能性はまだわからない。だが、彼は避妊一つしないのだ。いつ出来てもおかしくない。
笑えない。
好きでもない人の子供を妊娠したなんて、誰にも言えない。それもあいては母の恋人。そして恋人以外の人の子供。
そのときバッグの中の携帯電話が鳴った。彼女はそれをとり、相手をみた。相手は一巳だった。
「……もしもし。」
少し間があいて、彼の声が聞こえる。
「今大丈夫?」
「えぇ。」
「外にいるの?」
「えぇ。そうよ。あなたはどこにいるの?」
「スタジオでの作業が一段落したから、一度家に帰ろうと思う。あまりいれないけどね。」
「そう。何か用意する?」
「食事?大丈夫だよ。昼を食べたばかりだし、それよりも会いたい。」
「えぇ。そうね。」
チクリと胸が痛む。それでも口はマニュアルのように勝手に動いた。
「どれくらいで帰れる?」
「もうすぐ帰れる。五分もしないわ。」
「僕は今からスタジオをでるよ。」
「私は家にいるから帰ってきたらチャイムを鳴らしてね。」
「わかった。」
どこか不自然なところはなかっただろうか。震える手で電話をバックにしまった。そのとき、彼女は下腹部に痛みを覚えた。
「え?」
急ぎ足で彼女はアパートに帰っていった。
「おかえりー。」
スーパーで買った醤油をキッチンに置いて、小夜子は起きてきた啓子に挨拶をされた。その側には斉藤もいる。
「ただいま。」
それだけ言うと彼女は自分の部屋へ行き、そしてそのままトイレに向かった。
正直ほっとした。
そう思いながら便器が赤い血で染まっているのを見下ろしている。しかしほっとしている場合じゃない。子供が出来てなくてよかったなんて女性としてどうなんだろう。
たぶん好きな人の子供じゃないからそう思えるのだ。
やはりどんなに体の相性が良くても、彼とは心まで通じ合え無いのだ。そう思いながら彼女はトイレを出ていく。
リビングにやってくると、そこには母がいなかった。斉藤は彼女の飲んだカップを片づけている。
「もっとゆっくり外に出て行くのかと思いましたよ。」
「一巳が来てくれるらしいですから。」
一巳の名前に彼の手が一瞬止まった。
「だから急いで帰ってきたんですね。」
「それもあるけれど……。」
あなたのせいで不安になったとは口が裂けても言えない。すると彼はカップを持ったまま、彼女の側に近づいた。そして耳元で囁く。
「その跡を見たら、彼はなんと思うでしょうね。」
そういってあいている指で彼女の襟元に触れた。そこで彼女はやっとその跡がわずかに見えていたのだと気がついた。
「着替えますから。」
「でも今日もするんでしょう?」
「出来ないわ。生理が来たの。」
すると彼は口元だけで笑う。
「そうでしたか。」
「斉藤さん。」
彼女は自分の部屋に戻ろうとしたその一瞬。彼の方をみる。
「邪魔しないで下さいね。やっと彼に会えるのですから。」
そういって彼女は部屋に戻っていった。すると斉藤は口元だけで笑っていたその表情を、すっと真顔に戻す。
「やっぱり、強引にでも奪わないとね。」
そういって彼はカップをキッチンに持って行った。
仕事着に着替え終わった啓子は部屋から出てくると、コーヒーを飲んでいる小夜子に違和感を感じた。さっきは黒いワンピースだったのに、今は薄いニットのシャツとジーパンになっていたから。
「何で着替えたの?」
「服が汚れたから。」
「ワンピースにすればいいのに。」
「なんで?」
「一巳君に会うんでしょ?」
聞こえたのか。ひやりとする。もしさっきの斉藤の会話が聞こえていたら、大変なことになる。
「脱がせやすいじゃない。ワンピースって。ねぇ。斉藤。」
すると斉藤は苦笑いをして、煙草を吸っていた。
「何も出来ないから。」
「え?何で?」
「さっき生理キタから。」
「何だ。そうなの。タイミング悪いわね。」
「それだけに会ってるんじゃないわ。」
どうやらさっきの会話は途中までしか聞こえていなかったようだった。まぁ、耳元でしか言われていなかったしドア越しなら無理もない。
それにほっとしながら、彼女はテレビの下にある引き出しを開いた。そして薬箱を取り出す。
「あれ?」
そこにはいつも常用している痛み止めが切れていたのだ。おかしい。この間買ったばかりなのに。
「どうしたの?」
「久しぶりにキタから痛くなりそうだし、痛み止めを出しておこうと思ったんだけど。」
「あぁ。あたしの部屋にあるわ。最近、頭痛がひどくてね。」
「飲み過ぎじゃなくて?」
「歳かしらね。お酒が抜けないのよ。」
「それは頭痛薬じゃなくて、違うやつの方がいいんじゃないの?それにあまり常用すると良くないって聞くわ。」
「そうねぇ。」
困ったように彼女は首を傾げる。すると斉藤は煙草を消して、彼女に言う。
「一度病院へ行った方がいいと言ったんですがね。私の言うことは聞いてくれない。小夜さん。あなたから言ってもらえませんか。」
「私が言ったことを母が聞くと思いますか。」
「……それもそうですね。」
部屋から出てきた啓子は、小夜子にいた見留の薬を渡す。
「母さん、店が休みの日にでも病院へ行ったら?」
「何科に行くのかわからないわよ。」
「とりあえず総合病院へ行ったら?」
「待ち時間が面倒。」
「良いから、行ってよ。」
そのとき部屋のチャイムが鳴った。おそらく一巳だろう。すると斉藤が、玄関に向かっていく。
「あ。斉藤さん。」
「出るだけですから。」
斉藤はそういいながら、玄関のドアを開けた。
月のモノがきたのはいつだっただろう。一巳と最後にセックスした後にはきたはず。その後、こんなに頻繁に斉藤とセックスしたときは?あれから一ヶ月もたっていない。その可能性はまだわからない。だが、彼は避妊一つしないのだ。いつ出来てもおかしくない。
笑えない。
好きでもない人の子供を妊娠したなんて、誰にも言えない。それもあいては母の恋人。そして恋人以外の人の子供。
そのときバッグの中の携帯電話が鳴った。彼女はそれをとり、相手をみた。相手は一巳だった。
「……もしもし。」
少し間があいて、彼の声が聞こえる。
「今大丈夫?」
「えぇ。」
「外にいるの?」
「えぇ。そうよ。あなたはどこにいるの?」
「スタジオでの作業が一段落したから、一度家に帰ろうと思う。あまりいれないけどね。」
「そう。何か用意する?」
「食事?大丈夫だよ。昼を食べたばかりだし、それよりも会いたい。」
「えぇ。そうね。」
チクリと胸が痛む。それでも口はマニュアルのように勝手に動いた。
「どれくらいで帰れる?」
「もうすぐ帰れる。五分もしないわ。」
「僕は今からスタジオをでるよ。」
「私は家にいるから帰ってきたらチャイムを鳴らしてね。」
「わかった。」
どこか不自然なところはなかっただろうか。震える手で電話をバックにしまった。そのとき、彼女は下腹部に痛みを覚えた。
「え?」
急ぎ足で彼女はアパートに帰っていった。
「おかえりー。」
スーパーで買った醤油をキッチンに置いて、小夜子は起きてきた啓子に挨拶をされた。その側には斉藤もいる。
「ただいま。」
それだけ言うと彼女は自分の部屋へ行き、そしてそのままトイレに向かった。
正直ほっとした。
そう思いながら便器が赤い血で染まっているのを見下ろしている。しかしほっとしている場合じゃない。子供が出来てなくてよかったなんて女性としてどうなんだろう。
たぶん好きな人の子供じゃないからそう思えるのだ。
やはりどんなに体の相性が良くても、彼とは心まで通じ合え無いのだ。そう思いながら彼女はトイレを出ていく。
リビングにやってくると、そこには母がいなかった。斉藤は彼女の飲んだカップを片づけている。
「もっとゆっくり外に出て行くのかと思いましたよ。」
「一巳が来てくれるらしいですから。」
一巳の名前に彼の手が一瞬止まった。
「だから急いで帰ってきたんですね。」
「それもあるけれど……。」
あなたのせいで不安になったとは口が裂けても言えない。すると彼はカップを持ったまま、彼女の側に近づいた。そして耳元で囁く。
「その跡を見たら、彼はなんと思うでしょうね。」
そういってあいている指で彼女の襟元に触れた。そこで彼女はやっとその跡がわずかに見えていたのだと気がついた。
「着替えますから。」
「でも今日もするんでしょう?」
「出来ないわ。生理が来たの。」
すると彼は口元だけで笑う。
「そうでしたか。」
「斉藤さん。」
彼女は自分の部屋に戻ろうとしたその一瞬。彼の方をみる。
「邪魔しないで下さいね。やっと彼に会えるのですから。」
そういって彼女は部屋に戻っていった。すると斉藤は口元だけで笑っていたその表情を、すっと真顔に戻す。
「やっぱり、強引にでも奪わないとね。」
そういって彼はカップをキッチンに持って行った。
仕事着に着替え終わった啓子は部屋から出てくると、コーヒーを飲んでいる小夜子に違和感を感じた。さっきは黒いワンピースだったのに、今は薄いニットのシャツとジーパンになっていたから。
「何で着替えたの?」
「服が汚れたから。」
「ワンピースにすればいいのに。」
「なんで?」
「一巳君に会うんでしょ?」
聞こえたのか。ひやりとする。もしさっきの斉藤の会話が聞こえていたら、大変なことになる。
「脱がせやすいじゃない。ワンピースって。ねぇ。斉藤。」
すると斉藤は苦笑いをして、煙草を吸っていた。
「何も出来ないから。」
「え?何で?」
「さっき生理キタから。」
「何だ。そうなの。タイミング悪いわね。」
「それだけに会ってるんじゃないわ。」
どうやらさっきの会話は途中までしか聞こえていなかったようだった。まぁ、耳元でしか言われていなかったしドア越しなら無理もない。
それにほっとしながら、彼女はテレビの下にある引き出しを開いた。そして薬箱を取り出す。
「あれ?」
そこにはいつも常用している痛み止めが切れていたのだ。おかしい。この間買ったばかりなのに。
「どうしたの?」
「久しぶりにキタから痛くなりそうだし、痛み止めを出しておこうと思ったんだけど。」
「あぁ。あたしの部屋にあるわ。最近、頭痛がひどくてね。」
「飲み過ぎじゃなくて?」
「歳かしらね。お酒が抜けないのよ。」
「それは頭痛薬じゃなくて、違うやつの方がいいんじゃないの?それにあまり常用すると良くないって聞くわ。」
「そうねぇ。」
困ったように彼女は首を傾げる。すると斉藤は煙草を消して、彼女に言う。
「一度病院へ行った方がいいと言ったんですがね。私の言うことは聞いてくれない。小夜さん。あなたから言ってもらえませんか。」
「私が言ったことを母が聞くと思いますか。」
「……それもそうですね。」
部屋から出てきた啓子は、小夜子にいた見留の薬を渡す。
「母さん、店が休みの日にでも病院へ行ったら?」
「何科に行くのかわからないわよ。」
「とりあえず総合病院へ行ったら?」
「待ち時間が面倒。」
「良いから、行ってよ。」
そのとき部屋のチャイムが鳴った。おそらく一巳だろう。すると斉藤が、玄関に向かっていく。
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斉藤はそういいながら、玄関のドアを開けた。
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