セックスの価値

神崎

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幼馴染

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 ノートパソコンを閉じて、春川は伸びをする。すると桂はテーブルの上に台本を置いた。そして座ったまま彼女に近づく。目の前の彼がじっと彼女を見ている。熱っぽい視線。それにいつもやられてしまうのだ。彼女はそっと彼の胸に倒れ込んだ。
「ダメね。視線にやられそう。」
「やられろよ。俺もあんたにやられてるから。」
「うまいわよね。いつもそんなことをいうの。」
「あんただからだ。いつも演技をしていると中に入り込んでしまうから。せめてあんたの前だけは正直でいたい。」
「私もよ。物語の中からあなたがすっと引き出して現実に戻してくれる。あなただけしか見えなくなるわ。」
 彼はその倒れてきた体を抱きしめた。
「愛している。」
「私も大好きよ。」
 上を向き、彼は彼女の唇にキスをしようとしたときだった。携帯電話がなる。
「誰だ。こんな時間に。」
 それは桂のものだった。彼はため息を付くと、彼女はすっと園からだから離れ、立ち上がる。そしてレモネードが入っていたカップをキッチンへ持って行った。
 その電話を桂はとると、その相手は今日台本をよこしてくれた女性だった。
「もしもし。」
「あっ。桂さんですか?良かった繋がって。」
「どうしました?」
「実は今日渡した台本に、落丁があってですね。」
「あぁ。ページが抜けてますよね。気が付いてました。」
「です。何で、明日また来てもらえますか。落丁してない台本を渡すんで。」
「わかりました。何時くらいにお伺いすればいいですか。」
 電話を切ると、春はもうその部屋にいなかった。隣のベッドルームへ行ってもいない。どこへ行ったのだろう。そう思ったときだった。
 洗面所から彼女が出てきた。きょとんとして彼を見ている。
「春。」
「歯を磨いてたのよ。レモネード飲んだし。」
 すると彼は少し笑い、今度こそ彼女を抱きしめ、キスをする。ほのかにミントの味がした。
「歯磨き粉かな。」
「やだ。そんなこと言わないで。」
 壁に押し当てて、またキスをする。そして服越しに乳房に触れると彼女は苦しそうに声を上げた。
「あっ……。」
 頬が赤くなる。
「覚えてる?春。ココ。初めてキスしたところ。」
「うん……。」
「今日は押しのけないのか?」
 胸に触れて怒ったように彼女は彼を押し退けたのだ。それを引き合いに出しているのだろう。
「……もっと触って。」
「あのときも思った?」
「本当はね。んっ。」
 こんなにこの体にはまると思っていなかった。すぐ赤くなる頬も、硬くなる乳首も、濡れやすい性器も、こんなに好きになると思ってなかった。

 あのころよりも長くなったその髪をなでて、桂はその額にキスをする。少し気を失ったようで、その感触で春川は目を開ける。彼を見上げて、また体を寄せた。
「啓治……。」
「しかし……本当に時間がないな。一緒に入れたら毎日でも出来ると思ったのに。」
「毎日はキツいわ。それに飽きない?」
「飽きないな。あんたの体は本当に中毒になりそうだ。」
 ため息を付くと、彼は彼女の体を抱きしめる。
「たまに抱くから良いのかもしれないってこともあるわ。もし、私と一ヶ月でも離れることがあったら、そのときの方が燃えると思わない?」
「……これからそういうこともあるだろうな。あんたも取材とか言って他の所へ行くこともあるんだろうし。確かに禁欲してたら、燃え上がるだろうな。そのときはオナニーも禁止するか?」
「元々しないわ。」
「俺はしたいけど。」
「ねぇ。会えなかったとき、いつもしてたの?」
「してた。あんたを想像してな。」
 さらっと言う言葉に、彼女は顔が赤くなる。
「しかもあんたと初めて会ったときから、あんたで抜いてたから。」
「やだ。そんなことを?」
「いなかったタイプだし、どんな顔で乱れるのか気になってたな。でも実際は、想像以上にいやらしかったな。」
「そんなこと言わないで。」
 そういって彼女は彼の体から離れ、彼に背を向けた。すると彼はその背中に指を這わせる。
「やっ……。」
「いい反応。」
「啓治……。」
 そして彼は脇から手を差し込み、胸に触れてきた。そして首に跡を付ける。

 桂はぎりぎりまで演技指導の予約を入れていて、台本を二冊手にして熱心に敦の所に通っていた。だが春川はもうすでにあまり外出をすることはない。清書をしたのを訪れた北川に見せたり、他の編集者が来るくらいだった。最近は原稿をメールで送ってくれというところもある。
 このまま家に閉じこもって原稿を書くかもしれないとは思ったが、彼女に限ってはそんなことはないのだ。気になることは自分の足で調べるのが彼女のスタイルなのだから。
 だが今日は仕事も早く終わった。午後になり、軽く食事をすませると、大掃除をしようと日差しの差し込んできたベランダに布団を干した。
 そうだ。桂の部屋の布団を干しておこうと、彼女は部屋の外にでる。桂の部屋にやってきた彼女は、寝室にやってきて布団をベランダにかけ終わった時だった。

 ピンポーン。

 部屋のチャイムが鳴る。少し躊躇ったが、布団を干しているのに誰もいないという居留守は使えない。思えば軽率だったかもしれない。彼女はそう思いながら、玄関ドアを開けた。
「こんにちは。春川さん。」
「あ……こんにちは。お久しぶりです。」
 そこには桂の母親がいたのだ。そしてその後ろにはスーツ姿の男がいる。それがおそらく彼の兄だろう。名前は確か遼一。桂をやや老けさせたように見えるが、それでも年の割には若々しく見える。
「こっちに来る用事があってね。ついでに顔を見せようって話になったんだけど、啓治はいるかしら。」
「あ、今仕事に行ってますね。あー。やだ。何も用意していないのに。」
「良いのよ。気にしなくて。あ、春川さん。コレが啓治の兄の遼一よ。」
「あ、初めまして。」
「原田遼一です。宜しく。」
 スマートな男だ。この辺が桂によく似ている。
「さっきね、そこでお菓子買ったの。一緒に食べない?」
「お茶淹れますね。」
 部屋にあがっていく母。そして遼一。がたいが一回り小さく見えるが、遼一はよく啓治に似ているような気がした。髪が短いだけ。確か教師をしていると言っていた。父親と同じ仕事だと。おそらく桂の仕事も彼女の仕事もあまりいい印象を持っていないだろう。
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