156 / 172
幼馴染
156
しおりを挟む
ノートパソコンを閉じて、春川は伸びをする。すると桂はテーブルの上に台本を置いた。そして座ったまま彼女に近づく。目の前の彼がじっと彼女を見ている。熱っぽい視線。それにいつもやられてしまうのだ。彼女はそっと彼の胸に倒れ込んだ。
「ダメね。視線にやられそう。」
「やられろよ。俺もあんたにやられてるから。」
「うまいわよね。いつもそんなことをいうの。」
「あんただからだ。いつも演技をしていると中に入り込んでしまうから。せめてあんたの前だけは正直でいたい。」
「私もよ。物語の中からあなたがすっと引き出して現実に戻してくれる。あなただけしか見えなくなるわ。」
彼はその倒れてきた体を抱きしめた。
「愛している。」
「私も大好きよ。」
上を向き、彼は彼女の唇にキスをしようとしたときだった。携帯電話がなる。
「誰だ。こんな時間に。」
それは桂のものだった。彼はため息を付くと、彼女はすっと園からだから離れ、立ち上がる。そしてレモネードが入っていたカップをキッチンへ持って行った。
その電話を桂はとると、その相手は今日台本をよこしてくれた女性だった。
「もしもし。」
「あっ。桂さんですか?良かった繋がって。」
「どうしました?」
「実は今日渡した台本に、落丁があってですね。」
「あぁ。ページが抜けてますよね。気が付いてました。」
「です。何で、明日また来てもらえますか。落丁してない台本を渡すんで。」
「わかりました。何時くらいにお伺いすればいいですか。」
電話を切ると、春はもうその部屋にいなかった。隣のベッドルームへ行ってもいない。どこへ行ったのだろう。そう思ったときだった。
洗面所から彼女が出てきた。きょとんとして彼を見ている。
「春。」
「歯を磨いてたのよ。レモネード飲んだし。」
すると彼は少し笑い、今度こそ彼女を抱きしめ、キスをする。ほのかにミントの味がした。
「歯磨き粉かな。」
「やだ。そんなこと言わないで。」
壁に押し当てて、またキスをする。そして服越しに乳房に触れると彼女は苦しそうに声を上げた。
「あっ……。」
頬が赤くなる。
「覚えてる?春。ココ。初めてキスしたところ。」
「うん……。」
「今日は押しのけないのか?」
胸に触れて怒ったように彼女は彼を押し退けたのだ。それを引き合いに出しているのだろう。
「……もっと触って。」
「あのときも思った?」
「本当はね。んっ。」
こんなにこの体にはまると思っていなかった。すぐ赤くなる頬も、硬くなる乳首も、濡れやすい性器も、こんなに好きになると思ってなかった。
あのころよりも長くなったその髪をなでて、桂はその額にキスをする。少し気を失ったようで、その感触で春川は目を開ける。彼を見上げて、また体を寄せた。
「啓治……。」
「しかし……本当に時間がないな。一緒に入れたら毎日でも出来ると思ったのに。」
「毎日はキツいわ。それに飽きない?」
「飽きないな。あんたの体は本当に中毒になりそうだ。」
ため息を付くと、彼は彼女の体を抱きしめる。
「たまに抱くから良いのかもしれないってこともあるわ。もし、私と一ヶ月でも離れることがあったら、そのときの方が燃えると思わない?」
「……これからそういうこともあるだろうな。あんたも取材とか言って他の所へ行くこともあるんだろうし。確かに禁欲してたら、燃え上がるだろうな。そのときはオナニーも禁止するか?」
「元々しないわ。」
「俺はしたいけど。」
「ねぇ。会えなかったとき、いつもしてたの?」
「してた。あんたを想像してな。」
さらっと言う言葉に、彼女は顔が赤くなる。
「しかもあんたと初めて会ったときから、あんたで抜いてたから。」
「やだ。そんなことを?」
「いなかったタイプだし、どんな顔で乱れるのか気になってたな。でも実際は、想像以上にいやらしかったな。」
「そんなこと言わないで。」
そういって彼女は彼の体から離れ、彼に背を向けた。すると彼はその背中に指を這わせる。
「やっ……。」
「いい反応。」
「啓治……。」
そして彼は脇から手を差し込み、胸に触れてきた。そして首に跡を付ける。
桂はぎりぎりまで演技指導の予約を入れていて、台本を二冊手にして熱心に敦の所に通っていた。だが春川はもうすでにあまり外出をすることはない。清書をしたのを訪れた北川に見せたり、他の編集者が来るくらいだった。最近は原稿をメールで送ってくれというところもある。
このまま家に閉じこもって原稿を書くかもしれないとは思ったが、彼女に限ってはそんなことはないのだ。気になることは自分の足で調べるのが彼女のスタイルなのだから。
だが今日は仕事も早く終わった。午後になり、軽く食事をすませると、大掃除をしようと日差しの差し込んできたベランダに布団を干した。
そうだ。桂の部屋の布団を干しておこうと、彼女は部屋の外にでる。桂の部屋にやってきた彼女は、寝室にやってきて布団をベランダにかけ終わった時だった。
ピンポーン。
部屋のチャイムが鳴る。少し躊躇ったが、布団を干しているのに誰もいないという居留守は使えない。思えば軽率だったかもしれない。彼女はそう思いながら、玄関ドアを開けた。
「こんにちは。春川さん。」
「あ……こんにちは。お久しぶりです。」
そこには桂の母親がいたのだ。そしてその後ろにはスーツ姿の男がいる。それがおそらく彼の兄だろう。名前は確か遼一。桂をやや老けさせたように見えるが、それでも年の割には若々しく見える。
「こっちに来る用事があってね。ついでに顔を見せようって話になったんだけど、啓治はいるかしら。」
「あ、今仕事に行ってますね。あー。やだ。何も用意していないのに。」
「良いのよ。気にしなくて。あ、春川さん。コレが啓治の兄の遼一よ。」
「あ、初めまして。」
「原田遼一です。宜しく。」
スマートな男だ。この辺が桂によく似ている。
「さっきね、そこでお菓子買ったの。一緒に食べない?」
「お茶淹れますね。」
部屋にあがっていく母。そして遼一。がたいが一回り小さく見えるが、遼一はよく啓治に似ているような気がした。髪が短いだけ。確か教師をしていると言っていた。父親と同じ仕事だと。おそらく桂の仕事も彼女の仕事もあまりいい印象を持っていないだろう。
「ダメね。視線にやられそう。」
「やられろよ。俺もあんたにやられてるから。」
「うまいわよね。いつもそんなことをいうの。」
「あんただからだ。いつも演技をしていると中に入り込んでしまうから。せめてあんたの前だけは正直でいたい。」
「私もよ。物語の中からあなたがすっと引き出して現実に戻してくれる。あなただけしか見えなくなるわ。」
彼はその倒れてきた体を抱きしめた。
「愛している。」
「私も大好きよ。」
上を向き、彼は彼女の唇にキスをしようとしたときだった。携帯電話がなる。
「誰だ。こんな時間に。」
それは桂のものだった。彼はため息を付くと、彼女はすっと園からだから離れ、立ち上がる。そしてレモネードが入っていたカップをキッチンへ持って行った。
その電話を桂はとると、その相手は今日台本をよこしてくれた女性だった。
「もしもし。」
「あっ。桂さんですか?良かった繋がって。」
「どうしました?」
「実は今日渡した台本に、落丁があってですね。」
「あぁ。ページが抜けてますよね。気が付いてました。」
「です。何で、明日また来てもらえますか。落丁してない台本を渡すんで。」
「わかりました。何時くらいにお伺いすればいいですか。」
電話を切ると、春はもうその部屋にいなかった。隣のベッドルームへ行ってもいない。どこへ行ったのだろう。そう思ったときだった。
洗面所から彼女が出てきた。きょとんとして彼を見ている。
「春。」
「歯を磨いてたのよ。レモネード飲んだし。」
すると彼は少し笑い、今度こそ彼女を抱きしめ、キスをする。ほのかにミントの味がした。
「歯磨き粉かな。」
「やだ。そんなこと言わないで。」
壁に押し当てて、またキスをする。そして服越しに乳房に触れると彼女は苦しそうに声を上げた。
「あっ……。」
頬が赤くなる。
「覚えてる?春。ココ。初めてキスしたところ。」
「うん……。」
「今日は押しのけないのか?」
胸に触れて怒ったように彼女は彼を押し退けたのだ。それを引き合いに出しているのだろう。
「……もっと触って。」
「あのときも思った?」
「本当はね。んっ。」
こんなにこの体にはまると思っていなかった。すぐ赤くなる頬も、硬くなる乳首も、濡れやすい性器も、こんなに好きになると思ってなかった。
あのころよりも長くなったその髪をなでて、桂はその額にキスをする。少し気を失ったようで、その感触で春川は目を開ける。彼を見上げて、また体を寄せた。
「啓治……。」
「しかし……本当に時間がないな。一緒に入れたら毎日でも出来ると思ったのに。」
「毎日はキツいわ。それに飽きない?」
「飽きないな。あんたの体は本当に中毒になりそうだ。」
ため息を付くと、彼は彼女の体を抱きしめる。
「たまに抱くから良いのかもしれないってこともあるわ。もし、私と一ヶ月でも離れることがあったら、そのときの方が燃えると思わない?」
「……これからそういうこともあるだろうな。あんたも取材とか言って他の所へ行くこともあるんだろうし。確かに禁欲してたら、燃え上がるだろうな。そのときはオナニーも禁止するか?」
「元々しないわ。」
「俺はしたいけど。」
「ねぇ。会えなかったとき、いつもしてたの?」
「してた。あんたを想像してな。」
さらっと言う言葉に、彼女は顔が赤くなる。
「しかもあんたと初めて会ったときから、あんたで抜いてたから。」
「やだ。そんなことを?」
「いなかったタイプだし、どんな顔で乱れるのか気になってたな。でも実際は、想像以上にいやらしかったな。」
「そんなこと言わないで。」
そういって彼女は彼の体から離れ、彼に背を向けた。すると彼はその背中に指を這わせる。
「やっ……。」
「いい反応。」
「啓治……。」
そして彼は脇から手を差し込み、胸に触れてきた。そして首に跡を付ける。
桂はぎりぎりまで演技指導の予約を入れていて、台本を二冊手にして熱心に敦の所に通っていた。だが春川はもうすでにあまり外出をすることはない。清書をしたのを訪れた北川に見せたり、他の編集者が来るくらいだった。最近は原稿をメールで送ってくれというところもある。
このまま家に閉じこもって原稿を書くかもしれないとは思ったが、彼女に限ってはそんなことはないのだ。気になることは自分の足で調べるのが彼女のスタイルなのだから。
だが今日は仕事も早く終わった。午後になり、軽く食事をすませると、大掃除をしようと日差しの差し込んできたベランダに布団を干した。
そうだ。桂の部屋の布団を干しておこうと、彼女は部屋の外にでる。桂の部屋にやってきた彼女は、寝室にやってきて布団をベランダにかけ終わった時だった。
ピンポーン。
部屋のチャイムが鳴る。少し躊躇ったが、布団を干しているのに誰もいないという居留守は使えない。思えば軽率だったかもしれない。彼女はそう思いながら、玄関ドアを開けた。
「こんにちは。春川さん。」
「あ……こんにちは。お久しぶりです。」
そこには桂の母親がいたのだ。そしてその後ろにはスーツ姿の男がいる。それがおそらく彼の兄だろう。名前は確か遼一。桂をやや老けさせたように見えるが、それでも年の割には若々しく見える。
「こっちに来る用事があってね。ついでに顔を見せようって話になったんだけど、啓治はいるかしら。」
「あ、今仕事に行ってますね。あー。やだ。何も用意していないのに。」
「良いのよ。気にしなくて。あ、春川さん。コレが啓治の兄の遼一よ。」
「あ、初めまして。」
「原田遼一です。宜しく。」
スマートな男だ。この辺が桂によく似ている。
「さっきね、そこでお菓子買ったの。一緒に食べない?」
「お茶淹れますね。」
部屋にあがっていく母。そして遼一。がたいが一回り小さく見えるが、遼一はよく啓治に似ているような気がした。髪が短いだけ。確か教師をしていると言っていた。父親と同じ仕事だと。おそらく桂の仕事も彼女の仕事もあまりいい印象を持っていないだろう。
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。



体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる