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別居
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セックスをして中で出す。それはセックスの本来の目的だ。子供を作るためにセックスをするのだから。決して快楽のためではない。
だが桂と体を重ねると、その目的すら頭の中から抜け落ちてしまう。それくらい春川は桂との体の相性がいいのだろう。祥吾ではこれほど快楽に溺れることはなかったからだ。
皿を洗いながら、春川はふっとため息をつく。桂は皿を拭いてくれていた。それも新鮮だ。祥吾は全くそういったことをしてくれなかったし、どちらかというと邪魔をしていたようにも思える。
「春。この皿はどこだ。」
「水屋の一番上に同じ皿がないかしら。」
「あぁ。」
それにしても皿は多い。昔は客が多く来ていたりしていたのだろうか。そんなに人が好きな男には見えないが。
「この家は、祥吾さんの持ち物だろう?」
「えぇ。「疑似証言」という本が売れたときに買ったと言ってた。」
「あぁ。あの小説か。映画にもなったな。」
「見たことが?」
「うん。まぁちょっとした騒ぎになっていたのも知ってるし……。」
あまりにも生々しい話で、もしかしたら事実かもしれないとにたような事件を取り出すメディアもいたほどだ。
「自殺ではなく他殺だったという話ね。そしてその犯人は、死んだ男の妻。」
コレが事実を元にして作られた話だとしたら、彼には心当たりがある。それは絹恵と祥吾のことだ。彼らは恋人同士だった時期もあるのだ。そして絹恵は自殺した小説家の旦那がいる。
それを元にして作ったとしたら、絹恵の心情は穏やかではないだろう。愛していたならなおさらだ。
「フィクションよ。先生もそう言っていた。」
皿を洗い終わり、シンクを洗う。そして皿を吹き終わった桂の方を見る。
「お風呂沸かすから。」
「一緒に入るか?」
彼女は彼に体を寄せる。
「啓治。」
「どうしたんだ。もう抱いて欲しいのか。」
「ううん。さすがに昨日もお風呂に入ってないし困る。」
「俺は困らない。むしろそれがいい。」
「変態ね。」
彼女の体に手を伸ばすと、彼はぐっと抱き寄せた。
「啓治。やっぱり子供は私まだ……。」
「それを悩んでいたのか。」
今はまだ仕事がしたい。それしか考えられない。そのためには子供はまだ言い方は悪いが足かせになるのだ。
「子供がいれば既成事実になると思った。祥吾さんはあれ以来抱いていないのだろう?」
彼の胸の中でうなづく。
抱かれなければいいと思った。最近はキスすら拒否したくなる。桂ではないのだから。身勝手かもしれないが、桂以外とキスすらしたくない。
夫なのに、愛していない。そう思えて仕方ない。
「仕事なんていつでも出来るって思うかもしれないし、あなたの年齢を考えると早い方がいいのかもしれない。だけど仕事以上に面白いとはとても思えない。」
「確かに面倒かもしれない。だがそれはそれで面白いかもしれない。達哉を見てるとそう思える。」
しれない。しれないと想像でしかものが言えない。だが彼女が子供を望まないのは、自分の家族のこともあった。
父親が母親を殺し、一家はバラバラになった。そんな彼女に幸せな家族をもてるのだろうか。全てを隠し、全てを忘れた彼女にそんな資格があるのだろうか。
「春。」
見上げると、桂は彼女の頬にキスをする。
「とりあえず、風呂に入ろう。あんた、夕べも寝てないんだろう?」
「仕事したかった。」
すると彼は少し微笑んだ。そして彼女の頬に手を置く。
「言いたかないけど、春。」
「何?」
「俺と仕事どっちがいいんだ。」
「それって普通、女性の言葉よね。」
だが彼といると仕事がどうでも良くなってくる。書いているときは仕事のことしか考えていないが、彼といるとそっちを優先してしまう。
仕事の電話が鳴っても取りたくなくなるのだ。
結局お風呂に二人で入り、部屋に戻ろうとした。そのときふと桂は足を止める。廊下かが見える縁側の向こうで、白いものが見えたのだ。
「雪か。」
「え?どうりで冷えると思った。」
板敷きの廊下はとても冷えている。さっきまで温かかったのに、足下から冷えそうだ。
「初雪か。年内に降るのは珍しいな。今年は寒波が来るのかもしれない。」
だが積もる雪ではないだろう。彼女はそう思いながら、その雪から視線を外す。そして部屋のドアを見た。そこはいつも祥吾がいる部屋。今日は彼はいない。代わりに桂がいる。
「啓治。」
雪を見ていた桂を春川は呼んだ。そして部屋のドアを開ける。
「ここね、祥吾さんの部屋なの。」
「ここで執筆活動をしているのか。」
「一日の大半はここから出ない。机に向かってあぁでもない、こうでもないと筆を走らせている。」
机が一番奥にある。ここから見れば背中しか見えないだろう。
「振り向くこともないのか。」
「資料を取ってきて、手前にテーブルがあるでしょう?そこに置いて、出て行く。その毎日よ。でもあの背中、私は一番好きだったの。」
「春……。」
いつか言っていた。彼女が男として、一番魅力を感じるのは背中だと言っていた。それは自分のことではなく、祥吾のことだったのかもしれない。
「でも結局、先生は私を振り返ることはなかった。どこか私をつなぎ止めたいから、愛の言葉を囁いているようにしか感じに気が付いたの。でも私は外の世界を見た。そして、気が付いたわ。それは愛じゃなくて、ただの憧れだって。愛する人がいるって自覚をしてわかったの。」
「春。それは……俺のことだと思っていいのか。」
「あなた以外いないわ。」
彼女はそう言って、彼の方を見上げる。
「あなたと一緒になりたい。啓治。私はあなたの初恋だったのだから。」
すると彼はその部屋のドアを閉めて、彼女の肩を抱く。
「部屋に戻ろう。せっかく温まったのに、冷えたらしょうがないだろう?」
「そうね。」
「夕べ寝てないって言ってたけど、明日は何かあるのか?」
「あなたこそ、今日は仕事だったけど撮影はないの?」
「昼からな。」
「私も昼から出掛ける。」
「だったら無理できるか。春。明日、シーツ洗えよ。」
そして二人は部屋に戻ると、電気をつけるまもなく唇を合わせる。桂の激しい行為に、彼女は思わず体をのけぞった。
「啓治……ちょっと。息を……。」
「ずっと我慢してたのに?」
そう言って彼はまた唇を合わせてきた。そして彼女の体に手を伸ばす。
だが桂と体を重ねると、その目的すら頭の中から抜け落ちてしまう。それくらい春川は桂との体の相性がいいのだろう。祥吾ではこれほど快楽に溺れることはなかったからだ。
皿を洗いながら、春川はふっとため息をつく。桂は皿を拭いてくれていた。それも新鮮だ。祥吾は全くそういったことをしてくれなかったし、どちらかというと邪魔をしていたようにも思える。
「春。この皿はどこだ。」
「水屋の一番上に同じ皿がないかしら。」
「あぁ。」
それにしても皿は多い。昔は客が多く来ていたりしていたのだろうか。そんなに人が好きな男には見えないが。
「この家は、祥吾さんの持ち物だろう?」
「えぇ。「疑似証言」という本が売れたときに買ったと言ってた。」
「あぁ。あの小説か。映画にもなったな。」
「見たことが?」
「うん。まぁちょっとした騒ぎになっていたのも知ってるし……。」
あまりにも生々しい話で、もしかしたら事実かもしれないとにたような事件を取り出すメディアもいたほどだ。
「自殺ではなく他殺だったという話ね。そしてその犯人は、死んだ男の妻。」
コレが事実を元にして作られた話だとしたら、彼には心当たりがある。それは絹恵と祥吾のことだ。彼らは恋人同士だった時期もあるのだ。そして絹恵は自殺した小説家の旦那がいる。
それを元にして作ったとしたら、絹恵の心情は穏やかではないだろう。愛していたならなおさらだ。
「フィクションよ。先生もそう言っていた。」
皿を洗い終わり、シンクを洗う。そして皿を吹き終わった桂の方を見る。
「お風呂沸かすから。」
「一緒に入るか?」
彼女は彼に体を寄せる。
「啓治。」
「どうしたんだ。もう抱いて欲しいのか。」
「ううん。さすがに昨日もお風呂に入ってないし困る。」
「俺は困らない。むしろそれがいい。」
「変態ね。」
彼女の体に手を伸ばすと、彼はぐっと抱き寄せた。
「啓治。やっぱり子供は私まだ……。」
「それを悩んでいたのか。」
今はまだ仕事がしたい。それしか考えられない。そのためには子供はまだ言い方は悪いが足かせになるのだ。
「子供がいれば既成事実になると思った。祥吾さんはあれ以来抱いていないのだろう?」
彼の胸の中でうなづく。
抱かれなければいいと思った。最近はキスすら拒否したくなる。桂ではないのだから。身勝手かもしれないが、桂以外とキスすらしたくない。
夫なのに、愛していない。そう思えて仕方ない。
「仕事なんていつでも出来るって思うかもしれないし、あなたの年齢を考えると早い方がいいのかもしれない。だけど仕事以上に面白いとはとても思えない。」
「確かに面倒かもしれない。だがそれはそれで面白いかもしれない。達哉を見てるとそう思える。」
しれない。しれないと想像でしかものが言えない。だが彼女が子供を望まないのは、自分の家族のこともあった。
父親が母親を殺し、一家はバラバラになった。そんな彼女に幸せな家族をもてるのだろうか。全てを隠し、全てを忘れた彼女にそんな資格があるのだろうか。
「春。」
見上げると、桂は彼女の頬にキスをする。
「とりあえず、風呂に入ろう。あんた、夕べも寝てないんだろう?」
「仕事したかった。」
すると彼は少し微笑んだ。そして彼女の頬に手を置く。
「言いたかないけど、春。」
「何?」
「俺と仕事どっちがいいんだ。」
「それって普通、女性の言葉よね。」
だが彼といると仕事がどうでも良くなってくる。書いているときは仕事のことしか考えていないが、彼といるとそっちを優先してしまう。
仕事の電話が鳴っても取りたくなくなるのだ。
結局お風呂に二人で入り、部屋に戻ろうとした。そのときふと桂は足を止める。廊下かが見える縁側の向こうで、白いものが見えたのだ。
「雪か。」
「え?どうりで冷えると思った。」
板敷きの廊下はとても冷えている。さっきまで温かかったのに、足下から冷えそうだ。
「初雪か。年内に降るのは珍しいな。今年は寒波が来るのかもしれない。」
だが積もる雪ではないだろう。彼女はそう思いながら、その雪から視線を外す。そして部屋のドアを見た。そこはいつも祥吾がいる部屋。今日は彼はいない。代わりに桂がいる。
「啓治。」
雪を見ていた桂を春川は呼んだ。そして部屋のドアを開ける。
「ここね、祥吾さんの部屋なの。」
「ここで執筆活動をしているのか。」
「一日の大半はここから出ない。机に向かってあぁでもない、こうでもないと筆を走らせている。」
机が一番奥にある。ここから見れば背中しか見えないだろう。
「振り向くこともないのか。」
「資料を取ってきて、手前にテーブルがあるでしょう?そこに置いて、出て行く。その毎日よ。でもあの背中、私は一番好きだったの。」
「春……。」
いつか言っていた。彼女が男として、一番魅力を感じるのは背中だと言っていた。それは自分のことではなく、祥吾のことだったのかもしれない。
「でも結局、先生は私を振り返ることはなかった。どこか私をつなぎ止めたいから、愛の言葉を囁いているようにしか感じに気が付いたの。でも私は外の世界を見た。そして、気が付いたわ。それは愛じゃなくて、ただの憧れだって。愛する人がいるって自覚をしてわかったの。」
「春。それは……俺のことだと思っていいのか。」
「あなた以外いないわ。」
彼女はそう言って、彼の方を見上げる。
「あなたと一緒になりたい。啓治。私はあなたの初恋だったのだから。」
すると彼はその部屋のドアを閉めて、彼女の肩を抱く。
「部屋に戻ろう。せっかく温まったのに、冷えたらしょうがないだろう?」
「そうね。」
「夕べ寝てないって言ってたけど、明日は何かあるのか?」
「あなたこそ、今日は仕事だったけど撮影はないの?」
「昼からな。」
「私も昼から出掛ける。」
「だったら無理できるか。春。明日、シーツ洗えよ。」
そして二人は部屋に戻ると、電気をつけるまもなく唇を合わせる。桂の激しい行為に、彼女は思わず体をのけぞった。
「啓治……ちょっと。息を……。」
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