セックスの価値

神崎

文字の大きさ
上 下
118 / 172
別居

118

しおりを挟む
 まず祥吾の不倫が露呈し、明奈が逮捕され、有川が流産した。その子供は祥吾の子供。
 目を瞑っても寝れないと思った。しかし一瞬意識が無くなり、春川はすっと目を開ける。遮光カーテンから光が漏れている。だがそれはきっと夕日だった。
 体を起こし靴を履くと、シーツを引っ剥がした。そこへ部屋に誰か入ってくる。それは北川だった。
「北川さん。」
「寝れました?」
「少し寝れたみたいです。頭すっきりしました。」
「プロットOKだそうです。締め切りは一週間後だそうですが、大丈夫ですか?」
「わかりました。データーでいいですか?」
「いいですよ。直接担当のアドレスに送って下さい。あとで送っときますから。」
 シーツをまとめて、周りを見渡す。すると彼女はそのシーツを受け取る。
「洗っておきます。」
「あ、すいません。」
「いいんですよ。会社のものですし。」
「……。」
「桂さんなら、うちのフロアにいますよ。女性誌の所でうちの編集者に見つかって、挨拶に来たみたいです。」
「マジですか?」
「一緒に帰っても不自然じゃないですよ。呼びましょうか?」
「あ、いいです。せっかくシーツはがしたし。やめておきます。」
 北川は苦笑いをして、春川と一緒に仮眠室の外にでた。すると向こうから桂がやってくる。
「秋野さん。」
「あ、今終わったんですか?」
「少し前に終わったけれど、呼び止められました。」
「モテモテですねぇ。」
「それほどでも。」
 本当にうまく装うカップルだ。知り合い以上、友達未満に見える。そのとき青木もやってきた。
「あ、寝てたのって、秋野さんだったんですか?」
「えぇ。夕べ寝てなくて。」
「ははっ。そんなに急ぐような仕事があったんですか?」
「まぁ、先生の穴埋めをさせていただきました。出来たのかはわかりませんけど。」
「先生?もしかして冬山祥吾の助手って、君のことだったんですか?」
「えぇ。」
「ねぇ。詳しい話聞かせてもらえません?」
 そういって青木は彼女に詰め寄る。それをみた桂は、彼女の前に立ちふさがった。
「嫌がってるだろう?」
「何ですか?あなたは?」
「男なら知ってると思った。」
 桂の言葉に青木は驚いた表情をした。
「あんた、アレだ。AVの……。」
「よくご存じで。」
「あんたもそろそろ引退して、普通の男優になるんでしょう?」
「さぁ。どうだろうな。でもあんたの差し金か?」
「俺の?何で?」
「冬山祥吾の噂が浮き彫りになったのは、あんたの差し金じゃないかって思うけど。」
 その言葉に青木は驚いたように彼を見上げる。
「俺が?俺は夕べずっとここに……。」
「いいや。おそらくあんたはゴシップライターを使ってたな。西山充って知らないか?」
 西山充の名前に青木の表情が変わった。
「まさか……。」
「あぁ。たぶんあいつがリークしたんだろ?秋野さんにつきまとってたのもそのせい。有川って言うあの編集者にばれなくて良かったな。」
「……青木さん。」
 北川は驚いて彼を見ていた。そしてぐっと唇を引き締めて、彼に言う。
「最低ですね。」
「北川さん。違う。あいつが売り込んできたんだ。春川って言う作家と、秋野っていうライターについて。調べさせてくれって。そしたら、冬山祥吾についての情報があるって……。」
「そんなことしてどうするんですか。結局、「読本」に迷惑かけたし。他の所にも迷惑かかっているでしょう?だいたい冬山祥吾が、うちと契約切るって言い出したらどうするんですか。「蓮の花」だって映画化決まったのに。」
 その様子に春川は呆れたように彼にいう。
「もういいです。先生には連絡をしておきますから。」
「秋野さん。」
「あとはどうするかは先生に聞いておきますから。ここと切ると言いだしても知りませんし、あくまで穴埋めしてくれた春川先生もどうするか知りませんけどね。」
 汚いことをしている。体を使って仕事を得ていた。だがそれは見て見ぬ振りをしないといけないことだった。真実だとしても明らかにしてはいけないことがあるのだ。

「あとのことはうちで任せて下さい。」
 春川と桂は一緒に出版社を出て行く。そして彼女はその建物を見上げた。もう夕日は沈み、暗い夜が待っているがまたやってくるのだ。
「春。」
 桂はふと彼女に声をかける。ぼんやりとしていたからだ。いつもぼんやりしていたが、いつもにましてぼんやりしている。
「……うん。いつまでもこうしてても仕方ないわね。行こうっと。」
「どこへ行くんだ?」
「とりあえず、喫茶店かな。それも純喫茶。」
「は?」
「コーヒーの話にしたから。あぁ。どうしようかな。老夫婦か。そんな喫茶店無いかな。昼間に行った喫茶店はぴったりだったけれど、働いてる人若い男の人だったし。」
「春。」
「それから風俗店ね。ソープか、ヘルス。」
「春。とりあえず、今日は休んだら?」
 そう言われたが、彼女は首を横に振る。
「やらないといけない。昔先生に言われたの。私はマグロのようだねって。」
「マグロ?」
「動いてないと生きていけないから。」
「それでマグロ……。」
「あなたの思っているマグロとは違うわ。」
 彼女は意地悪そうに笑い、彼を見上げる。
「でも今日は休む。このまま動いたらきっと事故を起こすわ。」
「それがいいと思う。」
「今日は家に帰る。どちらにしても先生が居ないことを知られてはいけないの。」
「……。」
「啓治。」
「何?」
「うちはあまり使っていないけど勝手口があるの。そこがあるのを知っているのは、家政婦の幸さんと先生だけ。入り口は開いてるし、そこからなら玄関を通らなくても台所から入ることが出来るわ。」
「春。」
「来るにはリスクがあるわね。記者が張り付いているかもしれないし、感のいい人なら見つけてそちらを這っているかもしれない。」
「……。」
「独り言。じゃあ、私行くわ。お家に帰る前にスーパー寄らないと。一人分は面倒ね。」
 その言葉に彼は少し笑う。
「二人分。作ればいい。猫でも食べに来るだろう?」
「うちは先生がアレルギーだから動物は飼えないわ。」
「その猫は食事だけしたら出て行くかもしれない。」
「それはあり得ないわ。」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

偶然PTAのママと

Rollman
恋愛
偶然PTAのママ友を見てしまった。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...