セックスの価値

神崎

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別居

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 まず祥吾の不倫が露呈し、明奈が逮捕され、有川が流産した。その子供は祥吾の子供。
 目を瞑っても寝れないと思った。しかし一瞬意識が無くなり、春川はすっと目を開ける。遮光カーテンから光が漏れている。だがそれはきっと夕日だった。
 体を起こし靴を履くと、シーツを引っ剥がした。そこへ部屋に誰か入ってくる。それは北川だった。
「北川さん。」
「寝れました?」
「少し寝れたみたいです。頭すっきりしました。」
「プロットOKだそうです。締め切りは一週間後だそうですが、大丈夫ですか?」
「わかりました。データーでいいですか?」
「いいですよ。直接担当のアドレスに送って下さい。あとで送っときますから。」
 シーツをまとめて、周りを見渡す。すると彼女はそのシーツを受け取る。
「洗っておきます。」
「あ、すいません。」
「いいんですよ。会社のものですし。」
「……。」
「桂さんなら、うちのフロアにいますよ。女性誌の所でうちの編集者に見つかって、挨拶に来たみたいです。」
「マジですか?」
「一緒に帰っても不自然じゃないですよ。呼びましょうか?」
「あ、いいです。せっかくシーツはがしたし。やめておきます。」
 北川は苦笑いをして、春川と一緒に仮眠室の外にでた。すると向こうから桂がやってくる。
「秋野さん。」
「あ、今終わったんですか?」
「少し前に終わったけれど、呼び止められました。」
「モテモテですねぇ。」
「それほどでも。」
 本当にうまく装うカップルだ。知り合い以上、友達未満に見える。そのとき青木もやってきた。
「あ、寝てたのって、秋野さんだったんですか?」
「えぇ。夕べ寝てなくて。」
「ははっ。そんなに急ぐような仕事があったんですか?」
「まぁ、先生の穴埋めをさせていただきました。出来たのかはわかりませんけど。」
「先生?もしかして冬山祥吾の助手って、君のことだったんですか?」
「えぇ。」
「ねぇ。詳しい話聞かせてもらえません?」
 そういって青木は彼女に詰め寄る。それをみた桂は、彼女の前に立ちふさがった。
「嫌がってるだろう?」
「何ですか?あなたは?」
「男なら知ってると思った。」
 桂の言葉に青木は驚いた表情をした。
「あんた、アレだ。AVの……。」
「よくご存じで。」
「あんたもそろそろ引退して、普通の男優になるんでしょう?」
「さぁ。どうだろうな。でもあんたの差し金か?」
「俺の?何で?」
「冬山祥吾の噂が浮き彫りになったのは、あんたの差し金じゃないかって思うけど。」
 その言葉に青木は驚いたように彼を見上げる。
「俺が?俺は夕べずっとここに……。」
「いいや。おそらくあんたはゴシップライターを使ってたな。西山充って知らないか?」
 西山充の名前に青木の表情が変わった。
「まさか……。」
「あぁ。たぶんあいつがリークしたんだろ?秋野さんにつきまとってたのもそのせい。有川って言うあの編集者にばれなくて良かったな。」
「……青木さん。」
 北川は驚いて彼を見ていた。そしてぐっと唇を引き締めて、彼に言う。
「最低ですね。」
「北川さん。違う。あいつが売り込んできたんだ。春川って言う作家と、秋野っていうライターについて。調べさせてくれって。そしたら、冬山祥吾についての情報があるって……。」
「そんなことしてどうするんですか。結局、「読本」に迷惑かけたし。他の所にも迷惑かかっているでしょう?だいたい冬山祥吾が、うちと契約切るって言い出したらどうするんですか。「蓮の花」だって映画化決まったのに。」
 その様子に春川は呆れたように彼にいう。
「もういいです。先生には連絡をしておきますから。」
「秋野さん。」
「あとはどうするかは先生に聞いておきますから。ここと切ると言いだしても知りませんし、あくまで穴埋めしてくれた春川先生もどうするか知りませんけどね。」
 汚いことをしている。体を使って仕事を得ていた。だがそれは見て見ぬ振りをしないといけないことだった。真実だとしても明らかにしてはいけないことがあるのだ。

「あとのことはうちで任せて下さい。」
 春川と桂は一緒に出版社を出て行く。そして彼女はその建物を見上げた。もう夕日は沈み、暗い夜が待っているがまたやってくるのだ。
「春。」
 桂はふと彼女に声をかける。ぼんやりとしていたからだ。いつもぼんやりしていたが、いつもにましてぼんやりしている。
「……うん。いつまでもこうしてても仕方ないわね。行こうっと。」
「どこへ行くんだ?」
「とりあえず、喫茶店かな。それも純喫茶。」
「は?」
「コーヒーの話にしたから。あぁ。どうしようかな。老夫婦か。そんな喫茶店無いかな。昼間に行った喫茶店はぴったりだったけれど、働いてる人若い男の人だったし。」
「春。」
「それから風俗店ね。ソープか、ヘルス。」
「春。とりあえず、今日は休んだら?」
 そう言われたが、彼女は首を横に振る。
「やらないといけない。昔先生に言われたの。私はマグロのようだねって。」
「マグロ?」
「動いてないと生きていけないから。」
「それでマグロ……。」
「あなたの思っているマグロとは違うわ。」
 彼女は意地悪そうに笑い、彼を見上げる。
「でも今日は休む。このまま動いたらきっと事故を起こすわ。」
「それがいいと思う。」
「今日は家に帰る。どちらにしても先生が居ないことを知られてはいけないの。」
「……。」
「啓治。」
「何?」
「うちはあまり使っていないけど勝手口があるの。そこがあるのを知っているのは、家政婦の幸さんと先生だけ。入り口は開いてるし、そこからなら玄関を通らなくても台所から入ることが出来るわ。」
「春。」
「来るにはリスクがあるわね。記者が張り付いているかもしれないし、感のいい人なら見つけてそちらを這っているかもしれない。」
「……。」
「独り言。じゃあ、私行くわ。お家に帰る前にスーパー寄らないと。一人分は面倒ね。」
 その言葉に彼は少し笑う。
「二人分。作ればいい。猫でも食べに来るだろう?」
「うちは先生がアレルギーだから動物は飼えないわ。」
「その猫は食事だけしたら出て行くかもしれない。」
「それはあり得ないわ。」
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