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人体改造の男
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車を停めていたのは、繁華街にあるコインパーキング。桂はそこまで春川を送る。見慣れた白い軽自動車の鍵を開けたあと、彼女はそこの端にある機械にコインを入れようとしていた。
「春川さん。」
出来れば抱きたい。時間が許す限り、彼女を喜ばせたい。ぐじゃぐじゃにして彼を求めてほしい。
それは彼女も同じ気持ちだった。
抱いて欲しい。自分で良くなり、気持ちよくなって欲しい。昼に抱いたあの女優ほど具合がいいのではないのかもしれないけれど、それでも愛の言葉を囁いて欲しい。そして祥吾を忘れさせて欲しい。
彼女はコインを入れる手を止めて、彼の方を振り向いた。そのとき、彼女の動きが止まる。視線は彼の向こうを見ているようだった。彼もそれに気が付いてそちらを振り返る。
そこには夜の闇に紛れるように、黒ずくめの服を着た男がこちらを見ていた。だが髪の毛だけは銀色のような髪でそれが遠くからでも目立つ。
彼は二人に近づいてきている。
近づいてよく見ると特徴的な容姿をしている。ブラックジーンズと黒いシャツ。そこからのぞかれている黒を主体とした入れ墨。そして耳や眉、唇にはフープのピアスがしていて、耳と口は細い鎖で繋がれている。
どこかのヤンキーかと思い、桂は春川を守るようにその前に立った。
「今晩は。」
思ったよりも低い声だ。しゃがれた声で彼は話す。ちらちらと見えている舌にもピアスがしてあるようだった。どちらにしても彼らにはあまり縁の無さそうな人に見える。
「……誰ですか?」
桂も、春川も、こんな人には見覚えがない。
「こういうモノです。」
そういって彼は二人に名刺を手渡す。その指にも指輪とともに入れ墨がしてあった。
「フリーライター、西川充?」
春川はそれに声を上げた。
「えぇ。あなたと同じ職種ですね。」
珍しい容姿だと思う。こういう感じの人は初めて見るような気がした。
「専門は人体改造か何かですか?」
「えぇ。でもまぁ、あんたと同じですよ。」
「私と?」
「風俗ライターでしょう?」
「えぇ。それが何か?」
「女性目線で書いている文章が受けているのを知ってますか?あんたの書いているウェブ上の文章がアップされる度に、アクセス数が増えている。」
その噂は桂も知っていることだった。春川だからとかそう言う理由ではない。自然と現場のスタッフや、監督、同業者からその話を聞いていたのだ。
だが肝心の春川はそれを知らないようだった。
「そうなんですか?すいません。私は自分の手から放れた文章にはもう興味が無くて。」
だから無関心だったのだ。その言葉に充は僅かに舌打ちをした。
確かに春川は自分の文章が世に出るまでは強いこだわりがあるようだったが、離れてしまえばすでに関心がないようだ。もう商品としてでてしまったモノは、彼女に関係ないと思っているのかもしれない。
だがぞんざいに扱われるのはとてもいやがる。
だから「薔薇」の脚本に携わったのだろう。
「あんた、女だからそう言うことが出来るんですか?」
その言葉にはさすがの彼女もむっとしたようだった。一歩前にでて、彼を見上げる。
「失礼な人。私が床で情報を得ていると言いたいんですか?」
すると彼はわずかに笑う。そして手を彼女の方へ伸ばしてきた。その手は彼女の胸に触れてくる。
あまりのことに彼女も、そして桂も何も言えなかった。
「六十五のDってとこか。貧乳でもないし、大きくもない。こういうのは男が好きになるだろうな。」
「や……。」
やっと口を開き、桂が止める前に彼女は自分で充の手を振り払った。
「でも色気不足。化粧もしていないし、わざと?」
「……あなたに話すことは何もありません。」
そして彼女は戻ってきた駐車カードをまた手に戻すと、それをまた差し込み口に入れようとした。しかしその手を充の手が止める。
「まだ話は終わってねぇよ。」
さすがにやりすぎだ。桂は充の手首を掴むと、それをひねりあげた。
「いてぇ!」
「桂さん。」
あわてたように春川がそれを止めた。
「無視しようと思えば出来たが、あんたやりすぎだ。飯の種をこいつに奪われていらついてるのはわかるが、それはこいつの腕だろう?」
腕を振り払い、充は恨めしそうに桂を見上げる。しかしどう見てもかなわない。身長もがたいも、勝てる自信はなかった。
だが勝てそうなところが一つある。
「あんた、AV男優の桂だろ?」
「そうだけど。」
「AV男優が人妻をたらし込んでるとはな。」
その言葉に彼は表情を変えない。それどころか彼に詰め寄る。
「たまたま一緒になっただけだ。この人とは何も関係はない。」
「だったら何でそんなにかばうんだよ。」
「うちで世話になった人を無碍には出来ないし、これから世話になるかもしれない。それ以前にあんたみたいなヤツがいれば、助けるのが男の役目だ。」
ドキリとした。桂がそんなことを言うと思っていなかったからだ。
「あくまでフェミニストってわけだ。わかった。春川さん。また会いに来る。」
「もう来ないでください。」
「嫌われちまったな。」
充はそう言って彼らから離れていった。
二人は立ち尽くし、ため息を付く。そして春川は桂を見上げた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
「フェミニストなんですね。」
「そうですね……。」
すると彼は彼女の耳元で囁く。
「あなたにだけですよ。基本、女性には興味がありません。」
その言葉に彼女の頬が赤くなる。
「メッセージを送ります。」
「わかりました。」
カードを入れる手が止まる。出来ればこの場で抱きしめたいのに。そして彼女も抱きしめられたいと思っていた。
だけどさっきのこともある。今は我慢しなければいけないだろう。
カードを差し込むと、いれるお金を表示される。彼女はコインを入れると、車の輪留めが取れた。
「あとで。」
「あぁ。」
そう言って彼女は車の方へ向かっていった。
「春川さん。」
出来れば抱きたい。時間が許す限り、彼女を喜ばせたい。ぐじゃぐじゃにして彼を求めてほしい。
それは彼女も同じ気持ちだった。
抱いて欲しい。自分で良くなり、気持ちよくなって欲しい。昼に抱いたあの女優ほど具合がいいのではないのかもしれないけれど、それでも愛の言葉を囁いて欲しい。そして祥吾を忘れさせて欲しい。
彼女はコインを入れる手を止めて、彼の方を振り向いた。そのとき、彼女の動きが止まる。視線は彼の向こうを見ているようだった。彼もそれに気が付いてそちらを振り返る。
そこには夜の闇に紛れるように、黒ずくめの服を着た男がこちらを見ていた。だが髪の毛だけは銀色のような髪でそれが遠くからでも目立つ。
彼は二人に近づいてきている。
近づいてよく見ると特徴的な容姿をしている。ブラックジーンズと黒いシャツ。そこからのぞかれている黒を主体とした入れ墨。そして耳や眉、唇にはフープのピアスがしていて、耳と口は細い鎖で繋がれている。
どこかのヤンキーかと思い、桂は春川を守るようにその前に立った。
「今晩は。」
思ったよりも低い声だ。しゃがれた声で彼は話す。ちらちらと見えている舌にもピアスがしてあるようだった。どちらにしても彼らにはあまり縁の無さそうな人に見える。
「……誰ですか?」
桂も、春川も、こんな人には見覚えがない。
「こういうモノです。」
そういって彼は二人に名刺を手渡す。その指にも指輪とともに入れ墨がしてあった。
「フリーライター、西川充?」
春川はそれに声を上げた。
「えぇ。あなたと同じ職種ですね。」
珍しい容姿だと思う。こういう感じの人は初めて見るような気がした。
「専門は人体改造か何かですか?」
「えぇ。でもまぁ、あんたと同じですよ。」
「私と?」
「風俗ライターでしょう?」
「えぇ。それが何か?」
「女性目線で書いている文章が受けているのを知ってますか?あんたの書いているウェブ上の文章がアップされる度に、アクセス数が増えている。」
その噂は桂も知っていることだった。春川だからとかそう言う理由ではない。自然と現場のスタッフや、監督、同業者からその話を聞いていたのだ。
だが肝心の春川はそれを知らないようだった。
「そうなんですか?すいません。私は自分の手から放れた文章にはもう興味が無くて。」
だから無関心だったのだ。その言葉に充は僅かに舌打ちをした。
確かに春川は自分の文章が世に出るまでは強いこだわりがあるようだったが、離れてしまえばすでに関心がないようだ。もう商品としてでてしまったモノは、彼女に関係ないと思っているのかもしれない。
だがぞんざいに扱われるのはとてもいやがる。
だから「薔薇」の脚本に携わったのだろう。
「あんた、女だからそう言うことが出来るんですか?」
その言葉にはさすがの彼女もむっとしたようだった。一歩前にでて、彼を見上げる。
「失礼な人。私が床で情報を得ていると言いたいんですか?」
すると彼はわずかに笑う。そして手を彼女の方へ伸ばしてきた。その手は彼女の胸に触れてくる。
あまりのことに彼女も、そして桂も何も言えなかった。
「六十五のDってとこか。貧乳でもないし、大きくもない。こういうのは男が好きになるだろうな。」
「や……。」
やっと口を開き、桂が止める前に彼女は自分で充の手を振り払った。
「でも色気不足。化粧もしていないし、わざと?」
「……あなたに話すことは何もありません。」
そして彼女は戻ってきた駐車カードをまた手に戻すと、それをまた差し込み口に入れようとした。しかしその手を充の手が止める。
「まだ話は終わってねぇよ。」
さすがにやりすぎだ。桂は充の手首を掴むと、それをひねりあげた。
「いてぇ!」
「桂さん。」
あわてたように春川がそれを止めた。
「無視しようと思えば出来たが、あんたやりすぎだ。飯の種をこいつに奪われていらついてるのはわかるが、それはこいつの腕だろう?」
腕を振り払い、充は恨めしそうに桂を見上げる。しかしどう見てもかなわない。身長もがたいも、勝てる自信はなかった。
だが勝てそうなところが一つある。
「あんた、AV男優の桂だろ?」
「そうだけど。」
「AV男優が人妻をたらし込んでるとはな。」
その言葉に彼は表情を変えない。それどころか彼に詰め寄る。
「たまたま一緒になっただけだ。この人とは何も関係はない。」
「だったら何でそんなにかばうんだよ。」
「うちで世話になった人を無碍には出来ないし、これから世話になるかもしれない。それ以前にあんたみたいなヤツがいれば、助けるのが男の役目だ。」
ドキリとした。桂がそんなことを言うと思っていなかったからだ。
「あくまでフェミニストってわけだ。わかった。春川さん。また会いに来る。」
「もう来ないでください。」
「嫌われちまったな。」
充はそう言って彼らから離れていった。
二人は立ち尽くし、ため息を付く。そして春川は桂を見上げた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
「フェミニストなんですね。」
「そうですね……。」
すると彼は彼女の耳元で囁く。
「あなたにだけですよ。基本、女性には興味がありません。」
その言葉に彼女の頬が赤くなる。
「メッセージを送ります。」
「わかりました。」
カードを入れる手が止まる。出来ればこの場で抱きしめたいのに。そして彼女も抱きしめられたいと思っていた。
だけどさっきのこともある。今は我慢しなければいけないだろう。
カードを差し込むと、いれるお金を表示される。彼女はコインを入れると、車の輪留めが取れた。
「あとで。」
「あぁ。」
そう言って彼女は車の方へ向かっていった。
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