40 / 172
人体改造の男
40
しおりを挟む
飲み会の場には、東の姿もあった。東は他の人のテンションとは全く違い、暗く沈んでいるように見える。それでもこの場にいるのは意地なのかもしれない。
だが春川は目の前のミルクリゾットを食べていて、そんな事は全く気にしていなかった。
「あ、すいません。俺ちょっとトイレ。」
隣に座っていた達哉が席を立った。達哉は何かしらと話しかけてくれるので、割と退屈はしない。いい場に来たと、彼女は飲み物をお代わりしようと飲み物のリストを見ていた。そのとき彼女の隣に東が座ってくる。
「今晩は。」
「どうも。あ、すいません。オレンジジュースもらえますか?氷なしで。」
店員にそういうと、彼はメモをして去っていった。
「飲まないんですね。」
「えぇ。強くないので。」
「酔った方が話せることもあるんじゃないんですか?」
「酔って話すことは嘘です。だからみんな次の日に忘れるんでしょう?」
「確かにね。」
東はそういって少し笑う。やっと笑顔がみれた。
「春川さんは、どうしてこんな仕事を?」
「……そうですね。文章をただ書きたかった。何でも良いからどんな文章でも良いから、人を動かすような文章をありのままに書きたかった。それだけの理由です。」
「……それって、別にこういう世界ではなくても良いってことですよね。」
「まぁ。そうですね。」
失礼になるかと思ったが、彼女は素直に頷いた。本当のことだったから。
「女性には厳しいところでしょう?」
「そうですね。ソープにも行ってみましたが、あんたが働いてみるかとか、ヤクザみたいな人に因縁を付けられたこともありましたか。」
「それでもするんだ。」
「えぇ。どんな職種でも、みんなプライドを持って仕事をしていると思ったので。」
「プライド?」
「えぇ。」
達哉が戻ってきたのがわかったが、話し込んでいる春川と東を見て彼はそっと別の席に座る。
「仕事に取り組む姿勢を書きたいんです。だから職種にはこだわりません。」
「……うちの父親にプライドがあるようには思えないけれど。」
「ありますよ。どうやったら観ている人が立つか、濡れるか、それをずっと考えてます。里香さんを色っぽく撮すために、とても苦労されてましたよ。だからドラマシーンの一言、表情一つ、ずっとこだわってました。」
「……男優次第でなんとでもならないの?」
「なりませんよ。一つの映画を撮るだけでも、女優、男優、だけで成り立ってませんから。」
すると彼女はため息を付く。そのとき店員が彼女のオレンジジュースを前に置いた。
「春川さんー。」
向こうで彼女を呼ぶ声が聞こえる。彼女は少し笑うと、席を立った。
「春川さんの夫婦ってレスなんだって?俺相手しようか?」
達哉はそういって彼女の肩に手を置いてきた。
「嫌ですよ。若すぎる。」
取りつく島もなく、春川は達哉の手を避ける。
「何?年上がいいの?俺、二十八だけど。」
「まだまだお子ちゃまじゃないですか。男は三十からですよ。」
その言葉に桂がこちらを見る。春川は頬を膨らませた。
「アレはでかいよ。試す?」
「でかけりゃ良いってもんじゃないでしょ?」
「お?だったら何?」
考えるふりをして桂を見る。彼もテーブルに肘をおいて、こちらを見ていた。気がついたようだ。
「相性かな。」
「そりゃ、確かめてみねぇとわかんないヤツじゃん。だーかーらぁ。」
「お断り。不感症相手にするの面倒でしょ?」
「何?不感症なの?」
その言葉に桂は少し笑っていた。どこが不感症なんだと。
この間、桂の腕の中で乱れまくっていたのに、不感症なんてよく言ったものだと感心した。
「二次会行く人ー?」
ワインバーを出て、二次会へ行く人、別でどこかへ行く人、もう帰る人と別れてしまった。
春川はバッグから携帯電話を取り出す。着信はない。おそらく女を呼んでいるのだろう。
彼女は少しため息を付いて、携帯電話をしまった。
「春川さん。二次会行かない?」
達哉はそう聞いてきたが、彼女は首を横に振る。
「いいえ。仕事が残ってるので、今日は失礼します。」
「そうなんだ。」
明らかにがっかりしたが、よく考えたら人妻だ。手を出しては行けないだろう。
「春川さん。」
今度は嵐から声をかけられた。
「どうしました?」
「あんた、今度の企画に加わらないか?」
「え?」
「あんたを呼んだの、その話もしようと思ったんだよ。」
「でも……。」
「あんた文才あるよ。発想力もな。だから今度の企画、女性向けのポルノ。アレの原案をあんたにしてもらいたいと思ってる。」
その言葉に彼女は少し黙った。そして彼を見上げる。
「酔ってます?」
「酔ってるね。でも考えはまとも。連絡して。」
彼は名刺をバッグから取り出す。そして彼女に渡した。裏に携帯の番号がかかれている。
「……。」
「待ってるから。」
肩に手をおいて、そのままはずされた。そして二次会へ行く人の群の中に入っていく。
その名刺をバッグにいれると、ため息を付いた。
「春川さん。」
今度は桂に声をかけられた。
「はい?」
「車ですか?」
「えぇ。」
「俺もバイクなんです。一緒に行きましょう。」
「そうですね。」
治安を考えると、桂が一緒に来てくれるのはありがたいだろう。
「桂さん。来ないの?」
「あぁ。あとは好きに楽しめよ。」
そういって二人はその群から離れていく。その後ろ姿を見ていて、達哉は首を傾げた。あの姿は、どこかで見た。どこでだったか。つい最近だった気がするが。
だが春川は目の前のミルクリゾットを食べていて、そんな事は全く気にしていなかった。
「あ、すいません。俺ちょっとトイレ。」
隣に座っていた達哉が席を立った。達哉は何かしらと話しかけてくれるので、割と退屈はしない。いい場に来たと、彼女は飲み物をお代わりしようと飲み物のリストを見ていた。そのとき彼女の隣に東が座ってくる。
「今晩は。」
「どうも。あ、すいません。オレンジジュースもらえますか?氷なしで。」
店員にそういうと、彼はメモをして去っていった。
「飲まないんですね。」
「えぇ。強くないので。」
「酔った方が話せることもあるんじゃないんですか?」
「酔って話すことは嘘です。だからみんな次の日に忘れるんでしょう?」
「確かにね。」
東はそういって少し笑う。やっと笑顔がみれた。
「春川さんは、どうしてこんな仕事を?」
「……そうですね。文章をただ書きたかった。何でも良いからどんな文章でも良いから、人を動かすような文章をありのままに書きたかった。それだけの理由です。」
「……それって、別にこういう世界ではなくても良いってことですよね。」
「まぁ。そうですね。」
失礼になるかと思ったが、彼女は素直に頷いた。本当のことだったから。
「女性には厳しいところでしょう?」
「そうですね。ソープにも行ってみましたが、あんたが働いてみるかとか、ヤクザみたいな人に因縁を付けられたこともありましたか。」
「それでもするんだ。」
「えぇ。どんな職種でも、みんなプライドを持って仕事をしていると思ったので。」
「プライド?」
「えぇ。」
達哉が戻ってきたのがわかったが、話し込んでいる春川と東を見て彼はそっと別の席に座る。
「仕事に取り組む姿勢を書きたいんです。だから職種にはこだわりません。」
「……うちの父親にプライドがあるようには思えないけれど。」
「ありますよ。どうやったら観ている人が立つか、濡れるか、それをずっと考えてます。里香さんを色っぽく撮すために、とても苦労されてましたよ。だからドラマシーンの一言、表情一つ、ずっとこだわってました。」
「……男優次第でなんとでもならないの?」
「なりませんよ。一つの映画を撮るだけでも、女優、男優、だけで成り立ってませんから。」
すると彼女はため息を付く。そのとき店員が彼女のオレンジジュースを前に置いた。
「春川さんー。」
向こうで彼女を呼ぶ声が聞こえる。彼女は少し笑うと、席を立った。
「春川さんの夫婦ってレスなんだって?俺相手しようか?」
達哉はそういって彼女の肩に手を置いてきた。
「嫌ですよ。若すぎる。」
取りつく島もなく、春川は達哉の手を避ける。
「何?年上がいいの?俺、二十八だけど。」
「まだまだお子ちゃまじゃないですか。男は三十からですよ。」
その言葉に桂がこちらを見る。春川は頬を膨らませた。
「アレはでかいよ。試す?」
「でかけりゃ良いってもんじゃないでしょ?」
「お?だったら何?」
考えるふりをして桂を見る。彼もテーブルに肘をおいて、こちらを見ていた。気がついたようだ。
「相性かな。」
「そりゃ、確かめてみねぇとわかんないヤツじゃん。だーかーらぁ。」
「お断り。不感症相手にするの面倒でしょ?」
「何?不感症なの?」
その言葉に桂は少し笑っていた。どこが不感症なんだと。
この間、桂の腕の中で乱れまくっていたのに、不感症なんてよく言ったものだと感心した。
「二次会行く人ー?」
ワインバーを出て、二次会へ行く人、別でどこかへ行く人、もう帰る人と別れてしまった。
春川はバッグから携帯電話を取り出す。着信はない。おそらく女を呼んでいるのだろう。
彼女は少しため息を付いて、携帯電話をしまった。
「春川さん。二次会行かない?」
達哉はそう聞いてきたが、彼女は首を横に振る。
「いいえ。仕事が残ってるので、今日は失礼します。」
「そうなんだ。」
明らかにがっかりしたが、よく考えたら人妻だ。手を出しては行けないだろう。
「春川さん。」
今度は嵐から声をかけられた。
「どうしました?」
「あんた、今度の企画に加わらないか?」
「え?」
「あんたを呼んだの、その話もしようと思ったんだよ。」
「でも……。」
「あんた文才あるよ。発想力もな。だから今度の企画、女性向けのポルノ。アレの原案をあんたにしてもらいたいと思ってる。」
その言葉に彼女は少し黙った。そして彼を見上げる。
「酔ってます?」
「酔ってるね。でも考えはまとも。連絡して。」
彼は名刺をバッグから取り出す。そして彼女に渡した。裏に携帯の番号がかかれている。
「……。」
「待ってるから。」
肩に手をおいて、そのままはずされた。そして二次会へ行く人の群の中に入っていく。
その名刺をバッグにいれると、ため息を付いた。
「春川さん。」
今度は桂に声をかけられた。
「はい?」
「車ですか?」
「えぇ。」
「俺もバイクなんです。一緒に行きましょう。」
「そうですね。」
治安を考えると、桂が一緒に来てくれるのはありがたいだろう。
「桂さん。来ないの?」
「あぁ。あとは好きに楽しめよ。」
そういって二人はその群から離れていく。その後ろ姿を見ていて、達哉は首を傾げた。あの姿は、どこかで見た。どこでだったか。つい最近だった気がするが。
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。



体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる