セックスの価値

神崎

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正直な気持ち

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 今度春川がまた見に来る。それだけで桂はまたゾクゾクする。他人とセックスをしているのを見られるのがいいんじゃない。彼女にまた会えることだけでも嬉しいのだ。
 シャワーを浴び終わると、彼は控え室へ入り服を身につけた。そしてバッグの中から携帯電話を取り出す。相変わらず春川からの連絡はないが、昨日の今日で連絡がある人ではない。それも理解しなければいけないのだろう。
「桂さん。」
 帰ろうとバッグを持ったとき、声をかけられた。それは達哉の姿。彼もこの撮影に参加している一人だったのだ。
「あぁ。お前も終わりか?」
「えぇ。今日はジム行かないですか?」
「昨日の今日じゃな。」
「なんかありました?」
「変なゲイのおっさんに声かけられてさ。」
「だから言ったじゃないですか。あそこのサウナ、ゲイ多いんですって。」
 そんなことを言いながら撮影スタジオをあとにした。桂はバイクだったが、達哉は車で来ていたのだ。駐車場にはまだ人がいない。撮影スタッフはまだ片づけが終わっていないのだ。それから明日の撮影の準備もある。
「昨日早く帰りました?」
「どれくらいだったかな。サウナ入ってすぐ帰ったかな。どうしたんだ。」
「イヤ。なんかほら、女と二人で出てったような気がして。」
 その言葉に彼は少し怪訝そうな顔をした。
「……女っすか?」
 桂は少し考えたが、可能性として彼と春川が会うことはないだろう。それに彼はたぶん正面から春川を見ていない。正直に答えた。
「あぁ。」
「いつ出来たんですか?竜さんに言ったら、卒倒する。」
「頼むから言わないでくれ。面倒だ。」
「いいじゃないですか。ずっといなかったんでしょ?ゲイなんじゃないかって噂あったのに。」
「……いいから言うなって。面倒だから。」
「へぇー。桂さんがねぇ。どんな女なんだろ。後ろ姿しか見てねぇけど、結構小さい女って感じだったな。デニムとTシャツで。」
「お前目がいいな。」
「二・0ですから。」
 いらないところで発揮するものだ。桂はそう思いながら、バイクのヘルメットを取る。
「そういや、今度病院一緒行きましょうよー。」
「あぁ。性病のヤツ?何が悲しくて、男とち○ぽ並べなきゃいけないのかねぇ。」
「俺行きつけのとこ女医なんすよ。」
「ますます萎えるって。」
「えー。俺タギる。」
 達哉はちゃらいが、実はこの業界に一番向いているのかもしれない。何も考えないでセックスが出来るからだ。
 バイクを走らせながら、彼はふと考えていた。確かにこの場所は居心地が悪い訳じゃない。だがずっと続けてられるところではないのだ。
 だったら何が出来るのだろう。何がしたいわけでもなくただ都会に出たいと大学へ行っただけの彼が何が出来る訳じゃないのだ。
 春川の方がよっぽど将来を見据えている。
 信号が赤になり、彼はヘルメットで押さえられた口元で彼女の名前を呼ぶ。
「ルー。」
 旦那とやらに相変わらず縛られているのだろうか。その呪縛から解き放してあげたい。だけどそれは出来ないのだ。
 彼女が望んでいないから。

 その日。桂は、ある出版社の中にある映画の製作会社に呼び出された。「薔薇」の台本がやっと出来たらしい。読み合わせや細かい指導が入ることを考えるとぎりぎりの台本だった。
 サングラスをかけた桂は、その出版社の地下にある駐輪場にバイクを停めると、その会社の中に入っていった。その中はひんやりとしてクーラーがよく効いている。
「あつー。」
 そういって手でパタパタと顔を仰ぐ。その様子に、周りのスーツ姿の男たちが「私服のくせに」と冷ややかな目で彼を見ていた。しかし女性は違う。
「何?あの人。」
「超格好良くない?モデル?俳優?」
「でも見たことないねー。誰だろ。」
 そんな声はどちらもどうでもいい。彼はエレベーターの前に立つと、その映画製作会社の階があるボタンを押した。
 エレベーターがついて、載っていた人たちが降りていく。そして彼はそれに乗り込んだ。すると上がる人は二人のようだった。中年のような着流しの男だった。和服が珍しい。
「何階ですか?」
「あぁ。十二階にお願いしていいですか。」
 帽子をかぶっていて顔まではよくわからない。だが桂はそのボタンを押す。彼の行く階は七階だ。
「はい。つきましたよ。もう今エレベーターです。イヤ。久しぶりにこんなに遠出をしました。」
 どうやら携帯電話で話をしているらしい。あとですればいいのにと、桂は少しいらっとしてしまった。
「えぇ……。たまには私が出ないといけないところもあるでしょうしね。ははっ。池田さんに言われましたよ。たまには外に出ろとね。」
 もういい加減切ればいいのにと、彼は後ろを振り向いた。そのとき彼は我に返る。
 それは冬山祥吾だったのだ。
 彼は電話を切り、桂に一礼をする。
「すいませんね。電話をしてしまって。」
「いいえ。別に……。」
「おや。君は……。」
 そして祥吾にもこの男に見覚えがあった。春川が棚においていたAVの一本に、彼が出ていたのを覚えている。一番目を見張る男だった。
 姿だけではなく、彼の演技も気になっていたのだ。
「それじゃ、俺ここなんで。」
 扉が開き、桂はエレベーターを出て行った。そして閉まるドアを見てふっと息をはく。
「あれが……。」
 着流しがよく似合う、優しそうな口調の男だった。あれが春川の旦那。
 タイプは違うが、確かに男として魅力のある人だった。だがそんな彼は、彼女を決して抱こうとしないという。
「あれ?桂さん。来てたんですか。」
 桂に声をかけたのは、斎藤だった。彼は桂の様子を少し奇妙に思っていた。
「外、暑かったですか?」
「あぁ。暑かったですけど。」
「すげぇ汗ですよ。おしぼり冷やしたのあるから、あげますよ。俺の校了前のお供だけど。」
 そういって斎藤は桂を連れてオフィスに連れてきた。
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