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セックスしたい相手
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取材が終われば、ハウススタジオへ行く。今日も仕事のためのセックスをしないといけないのだ。
特に性欲が強いわけではない。たぶん並よりは強いはずだがそういうのは問題じゃないのだ。
あっちもでかいわけじゃない。春川に言われたように桂馬の桂の字をもらった芸名だが、馬ほどでかいわけじゃない。
恵まれた体格と、体力がこの仕事をしているのだ。だがそれも年齢とともに落ちてくる。保つ為には食べ物や、体を鍛える事に余念はない。そういう努力の賜物が彼をまだ現役に仕立て上げる。
最初は役者になりたいと思った。だから田舎から出てきたのだ。だが結局身にならなかった。だけど熱心に役者のレッスンは通い、若い頃は舞台の端の役や、二時間サスペンスなんかで嫌みな男を演じたこともある。
三十の時、事務所からAV出てみればと言われて出たのがきっかけだったか。事務所を辞めたのは、体良く身にならない役者をきったのだと気がついたのはこの世界に入ってからの話だ。
それ以来、女のアレコレソレまで全部こなしてみた。まぁ、AVなんて女しか見ていないのだ。自分が脇役になるだけ。
使われないハウススタジオの空き部屋に通され、今度の撮影のプロットが書かれた紙に目を通す。体位や、どのカメラアングルで撮るか、など細かいことがかかれているが、ようは男優次第、そして女優の気乗り次第かもしれない。
「よー。桂。」
部屋にやってきたのは、この業界では先輩になる竜だった。
「お疲れさまです。」
「今日3Pだってさ。聞いてる?」
「さっき目を通しましたよ。竜さんと絡みか。」
「露骨にイヤな顔すんじゃねぇよ。わかってるよ。縛ったり、殴ったりはなしだろ?」
「俺さ、もう四十五なんですけどね。なんなんすかね。このシチュエーション。彼氏と彼女のラブラブなところに、弟乱入って。なんか無茶苦茶だな。」
「いいじゃねぇの。どうせセックスしか見てねぇんだよ。それよか、お前、雰囲気作ってやれよ。女、お前指名らしいからな。」
「何て奴でしたっけ。名前。」
「さぁな。」
AV男優は結構長く続けている人が多いが、女優は短命な場合が多い。本数を重ねれば重ねるほど、価値が下がっていくのだ。彼らも毎日違う相手とセックスをしてれば、どんな相手だか覚えていないのは当然かもしれない。
「そういやさ、今度お前、まともな映画に出るんだって?しかも準主役。」
「官能小説が原作って、まともなんすかね。」
「R18でもさ、普通のシネコンなんかでする映画だろ?しかもハメないでいいってさ、楽な仕事だな。」
「その分台詞が多い。あー、早く台本こねぇかな。」
「んでさ、聞きてぇことがあんだよ。」
「何すか。」
彼はそういって後ずさりする。竜のこう言うときは何かしらのイヤなことを聞きたいときだから。
「春川って会ったんだろ?」
「あぁ。さっきまで。」
「どんな奴だ?男か?女か?」
「あんまり言うなって言われたんです。」
「んだよ。つまんねぇな。」
あんな女のどこがいいのだろう。姿をなかなか見せないからミステリアスだというのが魅力なのだろうか。でも彼は決めた。
とりあえず帰りに本屋によろう。そして春川の本を読んでみようと。
「そろそろ俺準備しますわ。」
「おう。」
春川の本は一言でいうと、生々しいという印象だった。
”波子の浴衣の帯が解ける音がした。襖一枚の向こうで、彼女が浴衣を脱いでいる。しゅるしゅると布の擦れる音がして、その音だけで譲二の下腹部が熱く、盛り上がる気がする。
やがて波子の吐息混じりの声が聞こえる。
「叔父さん……。ソコ、いじって。んっ……。あぁっ。」
部屋に響きわたる卑猥な水の音は、十三歳とは思えない女の音だった。そしてその名は、自分の名前。思わずその襖を開けて、彼女の奧に突っ込んでやりたい衝動に駆られる。だがそれは許されない。
譲二はズボンを脱ぎ下着を取ると、そのそそり立つ熱い男性器に手を当てた。”
「薔薇」はまだ十三歳の娘、波子と四十五の叔父、譲二のいわゆる近親相姦モノだった。女性にウケるのはきっと心の描写が絶妙だからだろう。
触れたいのに触れられない。触れられたいのに触れてくれない。そんなぎりぎりのところを、表現している。おそらく、コレがジレジレというヤツだ。
桂は本を閉じ、ソファに背をもたれ掛かる。
一人暮らしには十分な広さの部屋だ。だがここに女性が来たことはない。セックスをプライベートですることもあるが、二度はない。それでいいと思う。何も期待しない方がいいのだ。
だが彼女を思う。春川。今まで彼によってきた女とも、そして仕事の相手の女とも違う女。そして人の妻。
そのとき彼は自分の下腹部が膨らんでいるのに気が付いた。仕方なくティッシュを側に寄せると、下着をとり、そそり立つそれに触れた。そして頭にあるのは、春川の顔だった。
どんな顔でセックスをするのだろう。どんな顔で喘ぐのだろう。女の顔をしているのか。
そう思うだけで声が出そうになる。
「はっ……。」
ぎりぎりのところでティッシュで押さえ込んだ。それを捨てると、ため息を付く。
したい。
彼女とセックスをしてみたい。そう思ったのは初めてのことだった。
そのころ、春川は自宅に帰ってきた。
大きな日本家屋。庭も定期的に庭師がやってくるようなそんな家。
そこに二人暮らしの彼女。
「ただいま。」
そういって彼女は、奥の間に足を進める。
「ただいま帰りました。」
そこには白髪の浴衣姿の男がいた。細身で、浴衣からのぞくあばら骨と白いを通り越して青白い肌がは 不健康そうな気がする。しかし笑顔が優しい印象だった。
「お帰り。春。」
「お食事はお食べになりましたか。」
「あぁ。幸さんの料理を食べたよ。」
「すいません。今日はご用意できなくて。」
「いいんだ。君も食べなさい。疲れただろう。慣れないインタビューで。」
「えぇ。明日は作りますね。」
「楽しみにしているよ。」
「頼まれた資料を、置いておきます。」
「ありがとう。では早速、目を通そう。」
彼はペンを置き、いすから立ち上がるとその資料に手を置いた。そしてまた仕事に戻る。そうなると彼女には目もくれない。
彼女はそっと部屋を出ると、キッチンに置いてあった食事をみる。肉じゃが、ほうれん草のお浸し、炊き込みご飯、豆腐とワカメの味噌汁。
そしてそのダイニングテーブルに腰掛けると、それを口に運んだ。一人きりの食卓は、もう慣れたものだ。
彼がプロットを立て終わり、清書を始めるとさらに周りが見えなくなる。彼女にも目が入らないのだ。そんなとき彼女は自分のいる意味を考える。
助手としてここの家に入り、彼の指導の元で書いた作品は確かに売れている。だがそんなことを思って書いたのだろうかと、疑問に思うこともある。もっと違うモノを書きたいのではないかと思う時もあった。
そして、夫婦という檻の中に閉じ込められている気がしないでもない。彼と体を合わせる事はもうずっと無いのに。
だが彼は言う。
「愛の形はセックスだけじゃないよ。君を愛している。」
味の濃い肉じゃがだ。彼女はそれを口にして、ご飯を口に運ぶ。
特に性欲が強いわけではない。たぶん並よりは強いはずだがそういうのは問題じゃないのだ。
あっちもでかいわけじゃない。春川に言われたように桂馬の桂の字をもらった芸名だが、馬ほどでかいわけじゃない。
恵まれた体格と、体力がこの仕事をしているのだ。だがそれも年齢とともに落ちてくる。保つ為には食べ物や、体を鍛える事に余念はない。そういう努力の賜物が彼をまだ現役に仕立て上げる。
最初は役者になりたいと思った。だから田舎から出てきたのだ。だが結局身にならなかった。だけど熱心に役者のレッスンは通い、若い頃は舞台の端の役や、二時間サスペンスなんかで嫌みな男を演じたこともある。
三十の時、事務所からAV出てみればと言われて出たのがきっかけだったか。事務所を辞めたのは、体良く身にならない役者をきったのだと気がついたのはこの世界に入ってからの話だ。
それ以来、女のアレコレソレまで全部こなしてみた。まぁ、AVなんて女しか見ていないのだ。自分が脇役になるだけ。
使われないハウススタジオの空き部屋に通され、今度の撮影のプロットが書かれた紙に目を通す。体位や、どのカメラアングルで撮るか、など細かいことがかかれているが、ようは男優次第、そして女優の気乗り次第かもしれない。
「よー。桂。」
部屋にやってきたのは、この業界では先輩になる竜だった。
「お疲れさまです。」
「今日3Pだってさ。聞いてる?」
「さっき目を通しましたよ。竜さんと絡みか。」
「露骨にイヤな顔すんじゃねぇよ。わかってるよ。縛ったり、殴ったりはなしだろ?」
「俺さ、もう四十五なんですけどね。なんなんすかね。このシチュエーション。彼氏と彼女のラブラブなところに、弟乱入って。なんか無茶苦茶だな。」
「いいじゃねぇの。どうせセックスしか見てねぇんだよ。それよか、お前、雰囲気作ってやれよ。女、お前指名らしいからな。」
「何て奴でしたっけ。名前。」
「さぁな。」
AV男優は結構長く続けている人が多いが、女優は短命な場合が多い。本数を重ねれば重ねるほど、価値が下がっていくのだ。彼らも毎日違う相手とセックスをしてれば、どんな相手だか覚えていないのは当然かもしれない。
「そういやさ、今度お前、まともな映画に出るんだって?しかも準主役。」
「官能小説が原作って、まともなんすかね。」
「R18でもさ、普通のシネコンなんかでする映画だろ?しかもハメないでいいってさ、楽な仕事だな。」
「その分台詞が多い。あー、早く台本こねぇかな。」
「んでさ、聞きてぇことがあんだよ。」
「何すか。」
彼はそういって後ずさりする。竜のこう言うときは何かしらのイヤなことを聞きたいときだから。
「春川って会ったんだろ?」
「あぁ。さっきまで。」
「どんな奴だ?男か?女か?」
「あんまり言うなって言われたんです。」
「んだよ。つまんねぇな。」
あんな女のどこがいいのだろう。姿をなかなか見せないからミステリアスだというのが魅力なのだろうか。でも彼は決めた。
とりあえず帰りに本屋によろう。そして春川の本を読んでみようと。
「そろそろ俺準備しますわ。」
「おう。」
春川の本は一言でいうと、生々しいという印象だった。
”波子の浴衣の帯が解ける音がした。襖一枚の向こうで、彼女が浴衣を脱いでいる。しゅるしゅると布の擦れる音がして、その音だけで譲二の下腹部が熱く、盛り上がる気がする。
やがて波子の吐息混じりの声が聞こえる。
「叔父さん……。ソコ、いじって。んっ……。あぁっ。」
部屋に響きわたる卑猥な水の音は、十三歳とは思えない女の音だった。そしてその名は、自分の名前。思わずその襖を開けて、彼女の奧に突っ込んでやりたい衝動に駆られる。だがそれは許されない。
譲二はズボンを脱ぎ下着を取ると、そのそそり立つ熱い男性器に手を当てた。”
「薔薇」はまだ十三歳の娘、波子と四十五の叔父、譲二のいわゆる近親相姦モノだった。女性にウケるのはきっと心の描写が絶妙だからだろう。
触れたいのに触れられない。触れられたいのに触れてくれない。そんなぎりぎりのところを、表現している。おそらく、コレがジレジレというヤツだ。
桂は本を閉じ、ソファに背をもたれ掛かる。
一人暮らしには十分な広さの部屋だ。だがここに女性が来たことはない。セックスをプライベートですることもあるが、二度はない。それでいいと思う。何も期待しない方がいいのだ。
だが彼女を思う。春川。今まで彼によってきた女とも、そして仕事の相手の女とも違う女。そして人の妻。
そのとき彼は自分の下腹部が膨らんでいるのに気が付いた。仕方なくティッシュを側に寄せると、下着をとり、そそり立つそれに触れた。そして頭にあるのは、春川の顔だった。
どんな顔でセックスをするのだろう。どんな顔で喘ぐのだろう。女の顔をしているのか。
そう思うだけで声が出そうになる。
「はっ……。」
ぎりぎりのところでティッシュで押さえ込んだ。それを捨てると、ため息を付く。
したい。
彼女とセックスをしてみたい。そう思ったのは初めてのことだった。
そのころ、春川は自宅に帰ってきた。
大きな日本家屋。庭も定期的に庭師がやってくるようなそんな家。
そこに二人暮らしの彼女。
「ただいま。」
そういって彼女は、奥の間に足を進める。
「ただいま帰りました。」
そこには白髪の浴衣姿の男がいた。細身で、浴衣からのぞくあばら骨と白いを通り越して青白い肌がは 不健康そうな気がする。しかし笑顔が優しい印象だった。
「お帰り。春。」
「お食事はお食べになりましたか。」
「あぁ。幸さんの料理を食べたよ。」
「すいません。今日はご用意できなくて。」
「いいんだ。君も食べなさい。疲れただろう。慣れないインタビューで。」
「えぇ。明日は作りますね。」
「楽しみにしているよ。」
「頼まれた資料を、置いておきます。」
「ありがとう。では早速、目を通そう。」
彼はペンを置き、いすから立ち上がるとその資料に手を置いた。そしてまた仕事に戻る。そうなると彼女には目もくれない。
彼女はそっと部屋を出ると、キッチンに置いてあった食事をみる。肉じゃが、ほうれん草のお浸し、炊き込みご飯、豆腐とワカメの味噌汁。
そしてそのダイニングテーブルに腰掛けると、それを口に運んだ。一人きりの食卓は、もう慣れたものだ。
彼がプロットを立て終わり、清書を始めるとさらに周りが見えなくなる。彼女にも目が入らないのだ。そんなとき彼女は自分のいる意味を考える。
助手としてここの家に入り、彼の指導の元で書いた作品は確かに売れている。だがそんなことを思って書いたのだろうかと、疑問に思うこともある。もっと違うモノを書きたいのではないかと思う時もあった。
そして、夫婦という檻の中に閉じ込められている気がしないでもない。彼と体を合わせる事はもうずっと無いのに。
だが彼は言う。
「愛の形はセックスだけじゃないよ。君を愛している。」
味の濃い肉じゃがだ。彼女はそれを口にして、ご飯を口に運ぶ。
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