不完全な人達

神崎

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別人

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 夏。
 清子は寺の裏にある「徳成家」の墓の前にいた。その墓には、祖母、祥吾、そして清吾が眠っている。
「……。」
 家をリフォームしていた業者から連絡が入ったのは、数ヶ月前のことだった。
 家はシロアリが巣を作り、張り替えないといけないところもあったり土台ごと変えないといけないところがあった。そこを掘り起こすと、何か別のものが出てきたと騒ぎになったのだ。
 それは人骨だった。
 徳成清吾はとっくの昔に殺されていたのだ。それで清子は納得した。
「清子。」
 声をかけられて清子は振り返る。そこには晶の姿があった。
「墓参りだろうって言ってたから。ん?その花、清子が持ってきたのか?」
「ううん。さっき誰かが置いていったみたい。」
「墓の前に添える花じゃねぇな。結婚式のブーケみたいだ。」
 華やかな花束だ。それを添える人は一人しか知らない。
「父親が死んでたの、ショックか?」
「多分そうだろうなとは思ってた。」
「何で?」
「覚えてる?弁護士の人が父親と同級生だったって。」
「あぁ……。」
 印象がまるで別人だった。弁護士の林の印象と、H道にいた安西の印象が。
「別人だったとはな。」
「それを隠すのにヤクザの手が必要だった。あの人をかくまっていたのは坂本組の人だった。だからあの人の正体をさらせば、坂本組の力が弱まると思ってたのね。」
「その前に死んだら、意味なかったな。」
 清子と晶が男に会った夜、男は首を吊って死んでいた。

 清子と晶は家に帰ると、オフィスの中はまだレイアウトで悩んでいる史がいた。
「史。そんなに悩まなくても良いから。」
「そう言ってもさ、創刊号だよ。ぱっと目立つ感じじゃないと。」
「意気込みすぎ。」
 すると周りのスタッフも笑った。
「そうだよ。良いと思ったものを載せる。良いものを作りたいって言ってたじゃん。」
「とりあえず、すいか食べる?夏生さんからもらった。」
「良いねぇ。清子。切ってきて。」
「はい。はい。冷えてるのもらったから、今切るわ。」
 清子はそう言って台所へ向かう。
 完全ではないから、補いながら生きていくのだ。みんなの力が合わさったとき、きっと初めて完全になれるのだと思う。
「清子。」
 台所に晶がやってきた。そして携帯電話を見せる。
「お前の妹に、仁があったらしいわ。」
「そっちの町に行ったんだっけ?」
「蓮と付き合ってるらしいぞ。」
「え?蓮って……あの、バーで女が嫌いだった?」
「お前の妹も、結構男受けがいいんじゃないの?」
「変なことを言わないでよ。あんただけすいかをあげないわよ。」
「何だよ。けち。」
 すると晶は向こうであぁでもない、こうでもないと悩んでいるスタッフを見て、こそっと清子の耳元で言う。
「今夜、抜けようぜ。」
「さっき、史からも言われた。」
「だったら奪ってやる。」
 そう言って晶はいたずらっぽく笑った。そしてそっとその頬にキスをする。
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