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ゴーストライター
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誰かと話をしている?会社を出た史は、コンビニの前で清子と晶、そしてもう一人の男と話をしているようだった。清子の知り合いとしても、晶の知り合いとしても少し違和感を持つような男だった。顔中にピアスをして、首元には入れ墨が見え隠れする。その入れ墨を見て、史は少しぞっとした。
あの和服の男にも入れ墨があった。そしてそれが清子の父親かもしれない。想像の範囲でしかないし、その証拠もない。だが間違いないだろう。だがそれを正直に清子に言えるだろうか。
史はそう思いながら足を進める。すると、先に気が付いたのは晶だった。
「編集長。」
その言葉に清子も男も振り返った。
「出張だったんですよね。お疲れさまでした。」
清子はそういうと、史は笑顔になる。
「遊び半分みたいな仕事だったよ。だから明日から仕事をするから。」
「あ、俺らも仕事はいるわ。」
「君らは本当に出張だったんだから、代休をとってもいい。」
笑っているが目の奥が笑っていない。そんな気がした。二人で帰ってきたということは、二人で一緒に行動をしていたのかもしれない。
会社が用意したホテルには泊まらなかった。どこなのかは想像も付かない。そこで何があってもおかしくないのだ。男と女なのだから。
「そうはいきませんよ。この騒ぎでのうのうと休めません。ウェブから発信されたものですから、その調査を……。」
「朝倉部長がしてくれた。」
史はそういうと、清子は少しうなづく。
「あぁ……。そうでしたか。」
朝倉なら簡単に予想をつけて行動に移すだろう。そのスピードで雇われたようなモノなのだから。だが清子は複雑だった。自分の仕事を他人がしたというのは、自分の代わりはいくらでもいると言われているようだったから。必要だと言われて、「三島出版」に入社することを決めたのだ。だが実際は自分の代わりはいくらでもいるのだと言われて、存在価値すら見いだせない。
「徳成さんには別の仕事があるだろう?」
「え……。」
ちらっと西川をみる。すると西川は持っているバッグの中から名刺入れを取りだした。
「初めましてかな。西川です。」
史はその名刺を受け取ると、自分の名刺を西川に手渡す。
「正木です。二人の上司になります。」
「……正木……字が違うけど、男優にいましたよね。女向けの……。」
「あぁ。俺のことです。」
「へぇ……。桂とはタイプが違うけど、人気がありましたよね。」
「昔の話ですよ。もう十年になります。」
「「pink倶楽部」ねぇ……。この間の緊縛の特集は面白かったですよ。初心者向けの縛り方とか。」
「西川さんは、人体改造を専門としているんですよね。」
「昔、それを見たくていろんな所に行きました。」
「今度取材をさせてください。今度の編集長が、興味を持っているので。」
その言葉に少し違和感を覚えた。今度の編集長ということは、史は別部署に変わるのだろうか。
「連絡をしてください。そちらの情報も気になるし。」
ちらっと清子をみる。清子からまだ聞きたいことがあるのだろうか。
西川は煙草をバッグにしまうと、そこから離れようとした。だがふと足を止めて、史の方をみる。
「そういえば、「三島出版」は社長が代わったんでしたっけ。」
「えぇ。去年の話ですけど。」
「……派手なことをしない方が良いって言って置いてください。」
どういう意味だろう。それに西川は何を知っているのか、史たちには想像が付かなかった。
「いろいろ聞きたいことがあるな。どこかに食事に行こうか?」
すると晶は周りを見渡す。おそらくこの中に記者などもいるだろう。この近くで食事をしたりすれば、情報が漏れるかもしれない。下手なことは口走れないのだ。
「久住さん。いつか食事をした所ってお部屋をとれますか?」
清子はそう聞くと、晶は少し笑って言う。
「日曜だし、いきなり行って部屋を取れるとは思えないな。でも聞いてみようか?」
「出来れば個室があるようなところが良いと思うので。」
晶はそういって携帯電話を取りだして、少し離れたところで連絡を取る。その後ろ姿を見て、清子は少しため息を付いた。
「マフラー買った?」
史はそう聞くと、清子は首を横に振る。
「クリスマスに慎吾さんからいただいたものです。」
「慎吾さんから?」
あまり思い出したくないことだった。だがどんな寒さか想像は付かなかったので、防寒できるならしておいた方が良いと思いこのマフラーをつけた。だが結局、このマフラーだけではしのげなかったほど、寒さは厳しい。
「寒さが段違いでした。」
「だろうね。まさかそんな軽装で行くと思ってなかったな。」
「……慎吾さんのお兄さんがウェブ担当で働いていました。」
「へぇ……社長に息子がもう一人居たんだね。似てた?」
史はその会社に籍を置いていたことがあるのだ。だから慎吾と智也の母親である美夏のことはよく知っているのだろう。
「面影はありました。もう結婚されているとかで。」
「そっか。」
すると晶が二人の元に戻ってきた。
「部屋は空いてなかった。日曜だしな。」
「だったら一子さんの所も期待は出来ないな。」
すると清子は携帯電話を取りだして、周りを見渡す。駅の方向を見ているようだった。
「どうしたの?」
「検索していたので。個室があって、食事が出来るところ。居酒屋かダイニングバーみたいな。で、今から入れるところ。」
「あった?」
「こっちです。」
清子はそういって地図アプリを広げて、二人を案内する。だがその手は震えていた。
まさかこんなに早く史に会うと思っていなかったから。そしてこんなには約真実を伝えないといけないのかと、心の中でため息を付く。
そして史も清子の後ろ姿を見て、心が痛かった。夕べ、気の迷いだったかもしれないが、清子以外の女性を抱きしめてキスをしてしまったのだ。激しく拒否をされたがその温かさや柔らかさが、まだ腕の中にあるようだった。
早く忘れたい。清子を抱きしめて、それを忘れられないだろうか。だが清子も夕べはこの隣にいる男に抱かれたのではないのかと疑問が浮かぶ。
「編集長。」
不意に晶が声をかけた。
「何だ。」
「さっきのヤツさ。」
「西川?」
「俺、たぶん一度会ってんだよな。」
ボディサスペンションのイベントがあるというので、一度行ったことがある。
人間の肌に直接穴をあけてフックで吊す。痛みよりも快感を得ることが出来て、無我の境地に達するらしい。事実、終わった人たちはみんなすがすがしい顔をしていた。
だが一人だけまだもやもやしている人がいた。それが西川充だったような気がする。
あの和服の男にも入れ墨があった。そしてそれが清子の父親かもしれない。想像の範囲でしかないし、その証拠もない。だが間違いないだろう。だがそれを正直に清子に言えるだろうか。
史はそう思いながら足を進める。すると、先に気が付いたのは晶だった。
「編集長。」
その言葉に清子も男も振り返った。
「出張だったんですよね。お疲れさまでした。」
清子はそういうと、史は笑顔になる。
「遊び半分みたいな仕事だったよ。だから明日から仕事をするから。」
「あ、俺らも仕事はいるわ。」
「君らは本当に出張だったんだから、代休をとってもいい。」
笑っているが目の奥が笑っていない。そんな気がした。二人で帰ってきたということは、二人で一緒に行動をしていたのかもしれない。
会社が用意したホテルには泊まらなかった。どこなのかは想像も付かない。そこで何があってもおかしくないのだ。男と女なのだから。
「そうはいきませんよ。この騒ぎでのうのうと休めません。ウェブから発信されたものですから、その調査を……。」
「朝倉部長がしてくれた。」
史はそういうと、清子は少しうなづく。
「あぁ……。そうでしたか。」
朝倉なら簡単に予想をつけて行動に移すだろう。そのスピードで雇われたようなモノなのだから。だが清子は複雑だった。自分の仕事を他人がしたというのは、自分の代わりはいくらでもいると言われているようだったから。必要だと言われて、「三島出版」に入社することを決めたのだ。だが実際は自分の代わりはいくらでもいるのだと言われて、存在価値すら見いだせない。
「徳成さんには別の仕事があるだろう?」
「え……。」
ちらっと西川をみる。すると西川は持っているバッグの中から名刺入れを取りだした。
「初めましてかな。西川です。」
史はその名刺を受け取ると、自分の名刺を西川に手渡す。
「正木です。二人の上司になります。」
「……正木……字が違うけど、男優にいましたよね。女向けの……。」
「あぁ。俺のことです。」
「へぇ……。桂とはタイプが違うけど、人気がありましたよね。」
「昔の話ですよ。もう十年になります。」
「「pink倶楽部」ねぇ……。この間の緊縛の特集は面白かったですよ。初心者向けの縛り方とか。」
「西川さんは、人体改造を専門としているんですよね。」
「昔、それを見たくていろんな所に行きました。」
「今度取材をさせてください。今度の編集長が、興味を持っているので。」
その言葉に少し違和感を覚えた。今度の編集長ということは、史は別部署に変わるのだろうか。
「連絡をしてください。そちらの情報も気になるし。」
ちらっと清子をみる。清子からまだ聞きたいことがあるのだろうか。
西川は煙草をバッグにしまうと、そこから離れようとした。だがふと足を止めて、史の方をみる。
「そういえば、「三島出版」は社長が代わったんでしたっけ。」
「えぇ。去年の話ですけど。」
「……派手なことをしない方が良いって言って置いてください。」
どういう意味だろう。それに西川は何を知っているのか、史たちには想像が付かなかった。
「いろいろ聞きたいことがあるな。どこかに食事に行こうか?」
すると晶は周りを見渡す。おそらくこの中に記者などもいるだろう。この近くで食事をしたりすれば、情報が漏れるかもしれない。下手なことは口走れないのだ。
「久住さん。いつか食事をした所ってお部屋をとれますか?」
清子はそう聞くと、晶は少し笑って言う。
「日曜だし、いきなり行って部屋を取れるとは思えないな。でも聞いてみようか?」
「出来れば個室があるようなところが良いと思うので。」
晶はそういって携帯電話を取りだして、少し離れたところで連絡を取る。その後ろ姿を見て、清子は少しため息を付いた。
「マフラー買った?」
史はそう聞くと、清子は首を横に振る。
「クリスマスに慎吾さんからいただいたものです。」
「慎吾さんから?」
あまり思い出したくないことだった。だがどんな寒さか想像は付かなかったので、防寒できるならしておいた方が良いと思いこのマフラーをつけた。だが結局、このマフラーだけではしのげなかったほど、寒さは厳しい。
「寒さが段違いでした。」
「だろうね。まさかそんな軽装で行くと思ってなかったな。」
「……慎吾さんのお兄さんがウェブ担当で働いていました。」
「へぇ……社長に息子がもう一人居たんだね。似てた?」
史はその会社に籍を置いていたことがあるのだ。だから慎吾と智也の母親である美夏のことはよく知っているのだろう。
「面影はありました。もう結婚されているとかで。」
「そっか。」
すると晶が二人の元に戻ってきた。
「部屋は空いてなかった。日曜だしな。」
「だったら一子さんの所も期待は出来ないな。」
すると清子は携帯電話を取りだして、周りを見渡す。駅の方向を見ているようだった。
「どうしたの?」
「検索していたので。個室があって、食事が出来るところ。居酒屋かダイニングバーみたいな。で、今から入れるところ。」
「あった?」
「こっちです。」
清子はそういって地図アプリを広げて、二人を案内する。だがその手は震えていた。
まさかこんなに早く史に会うと思っていなかったから。そしてこんなには約真実を伝えないといけないのかと、心の中でため息を付く。
そして史も清子の後ろ姿を見て、心が痛かった。夕べ、気の迷いだったかもしれないが、清子以外の女性を抱きしめてキスをしてしまったのだ。激しく拒否をされたがその温かさや柔らかさが、まだ腕の中にあるようだった。
早く忘れたい。清子を抱きしめて、それを忘れられないだろうか。だが清子も夕べはこの隣にいる男に抱かれたのではないのかと疑問が浮かぶ。
「編集長。」
不意に晶が声をかけた。
「何だ。」
「さっきのヤツさ。」
「西川?」
「俺、たぶん一度会ってんだよな。」
ボディサスペンションのイベントがあるというので、一度行ったことがある。
人間の肌に直接穴をあけてフックで吊す。痛みよりも快感を得ることが出来て、無我の境地に達するらしい。事実、終わった人たちはみんなすがすがしい顔をしていた。
だが一人だけまだもやもやしている人がいた。それが西川充だったような気がする。
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