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行方
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煙草の火を消すと、社長は清子の方をみる。いつもと変わらない冷静な清子を装っているのだろう。だがその手の先は少し震えている。それだけ動揺しているのだろう。
「私の母は三島出版の現会長の愛人をしていましたが、次第に会長から飽きられました。そこで親子ともども路頭に迷っていたところを助けてくださったのが、徳成さんでした。」
清吾は、アパートの保証人になったりしてくれた。澤村にとっては、清吾は恩人みたいなものだろう。そのあと結局澤村の母は、別の男と知り合い、今はその男との間に出来た子供夫婦と暮らしている。
「澤村。その話はするなと言っているだろう。」
「うるせぇよ。社長か何かしらねぇけど、こいつの話の方が重要だろう?」
あまりにも酷い口の効き方だ。あわてて清子は晶をとめる。
「久住さん。」
「あ?」
「社長ですよ。」
「わかってるよ。でもさ……。」
「久住。」
社長は足を組んで、晶をみる。その目はますます圭吾に似ているようだ。
「お前の兄は殺人犯だったな。」
「それがどうした。今は漁師だよ。」
「兄の恋人が、AV女優だったことも知っているのか。」
「知ってるよ。」
「再び、AV女優に返り咲かせたくはないだろう。」
その言葉に晶は悔しそうに社長を見ていた。この社長ならやりかねない。
「マニアックな路線だっただろうが、それでも人気はあったようだ。」
「……。」
不機嫌そうに晶はレモネードを口に入れた。
「脅すつもりですか。」
言われたのは晶なのに、清子も口にした。それだけ清子もいらついていたのだろう。
「……徳成。」
「脅すつもりなら、こちらも手を打つまでですから。」
清子はそういって携帯電話の画面を見せる。そこには一人の少女が写っていた。背が高く細身の学生服を着た髪の長い少女だった。高校生くらいだろう。
「英子さんの子供と言うことになってますね。」
「……。」
「ですが、養子になっている。それは産んだ人が別人だから。」
「別人?」
「代理母出産をしたそうですよ。しかしその母親の子供かもしれない。そうなれば問題ですよね。その「産んだ人」はもっと問題のある人だったのだから。」
「……。」
もっとも恐れていたことだった。英子の子供であるこの子供だが、その証明は何一つ無い。子供にDNA鑑定でもすれば別の話だろうが、子供は何一つ知らないのだからそんな真似をさせられない。
それにその生みの母というのは、「三島出版」よりも大手の会社の関係者だからだ。社長はそこまで調べがついている清子を少し怖いと思った。と同時に、やはりこちらについてもらっていた方がこちらに利益があると確信した。
「脅す気か?」
「脅されているのはこちらです。だからこちらも調べただけです。」
すると清子はその携帯電話を閉じる。すると社長は少し舌打ちをすると清子に聞いた。
「何が望みだ。」
「……父が今居る所を教えてもらいます。」
「……。」
「私は別に会っても会わなくてもかまわない。どうなろうと知ったことではないですから。でも話さないといけない事情がある。」
「……。」
「それで無かったことにします。私は何も知らない。今まで通り、仕事をしますから。」
やはりよく似ている親子なのだ。人を脅したり、騙したり、人に対して感情がないから出来ることだろう。だが清子は決定的に清吾と違うことがある。清子は人を信用したらとことん尽くすのだろう。そしてその信用しているのは、きっと史ではなく晶なのだ。
「わかった。そうしよう。」
「社長。そんなことをしたら……。」
「もういいだろう。あの男が表にでるのを英子姉さんは嫌がっているかもしれないが、元々そんなにこの国にいる人ではない。」
「しかし……。」
すると社長は、清子に向かって言う。
「徳成清吾は、ずっと条件を出していた。」
「条件?」
「徳成清子が、人間らしい生き方が出来るようにと。そのためにうちの会社で働き、しかるべき相手と家庭を持って欲しい。あの祖母の側で育ったのだから、愛情の一つもうけたことはないのだろうと。」
「……。」
「愛情を注いでくれる相手と一緒になって欲しいと。」
「本心ですか?」
「私にはそう聞いている。」
「……。」
信じられない。一度も会ったことのない娘に、そんな言葉をかけるような人だったのだろうか。
「だからうちの会社で雇ってもらえないだろうかと。そしてしかるべき相手と一緒にして欲しいと。」
「それが編集長だったわけだ。」
晶はそれが唯一不満だった。どうして史なのだろうと。自分では悪かったのだろうかと。
「一般的な家庭で育っているし、AV男優だったかもしれないが基本は真面目な男だ。軽薄そうにも見えない。」
「その通りですよ。私にはもったいない相手です。」
口先だけだろう。その言葉には心がないように思える。
「でも、俺にはそれが嘘に聞こえるな。」
晶はそういうと、煙草に火をつけた。
「社長が嘘を付いていると?」
澤村がそういって晶をにらむ。どうやら二人は、とことん気が合わないようだ。
「だったら清子を引き取れよ。自分の母親に押しつけるんじゃなくてさ。もしかしたら、清子。コレもあいつの思惑なのかもしれない。」
「あいつの思惑?」
「つまり、お前の父親は何かしらの狙いがあった。だから会社に入社させたり、編集長とくっつけようとした。そうすれば、お前は一般的な幸せを手に入れたような気になるだろう。」
「……えぇ。」
「たとえば、そこから一気に落とす。そうすればお前はさらに人間不信になるだろうよ。」
「……。」
「その顔を見るのが好きだとしたら。」
「ろくでもないですね。」
すると清子は少しため息を付くと、首を横に振った。
「やはり一度父に会わないといけませんかね。」
「その方が良い。社長。合うことは出来るんだろ?」
「望んでいない。」
社長はそういうと、首を横に振った。
「徳成。徳成さんに会えば、きっと幻滅する。そんな男だ。」
「あんたが言うかね。」
「だから、誤魔化したのだが。」
「誤魔化しはいりません。父の真意を知りたい。」
仕方がない。社長は携帯電話を取り出すと、メッセージを入れた。
「明日、代休になるだろう。」
「はい。」
「澤村。徳成さんの所に案内しろ。」
「しかし……。社長。」
「有無は言わせない。このままだと、おそらくうちの会社は「戸崎グループ」に吸収合併される。」
その言葉に清子はやっと納得した。やはり英子の代理母出産をした女性は、戸崎グループの関係者だったのだ。
「清子。あの圭吾って奴がそれだけで何か言ってきたらどうするんだ。」
「そのときも手はあります。」
清子はそういって少し笑った。その目を晶はよく知っている。血の通っていない冷たい目だ。
「私の母は三島出版の現会長の愛人をしていましたが、次第に会長から飽きられました。そこで親子ともども路頭に迷っていたところを助けてくださったのが、徳成さんでした。」
清吾は、アパートの保証人になったりしてくれた。澤村にとっては、清吾は恩人みたいなものだろう。そのあと結局澤村の母は、別の男と知り合い、今はその男との間に出来た子供夫婦と暮らしている。
「澤村。その話はするなと言っているだろう。」
「うるせぇよ。社長か何かしらねぇけど、こいつの話の方が重要だろう?」
あまりにも酷い口の効き方だ。あわてて清子は晶をとめる。
「久住さん。」
「あ?」
「社長ですよ。」
「わかってるよ。でもさ……。」
「久住。」
社長は足を組んで、晶をみる。その目はますます圭吾に似ているようだ。
「お前の兄は殺人犯だったな。」
「それがどうした。今は漁師だよ。」
「兄の恋人が、AV女優だったことも知っているのか。」
「知ってるよ。」
「再び、AV女優に返り咲かせたくはないだろう。」
その言葉に晶は悔しそうに社長を見ていた。この社長ならやりかねない。
「マニアックな路線だっただろうが、それでも人気はあったようだ。」
「……。」
不機嫌そうに晶はレモネードを口に入れた。
「脅すつもりですか。」
言われたのは晶なのに、清子も口にした。それだけ清子もいらついていたのだろう。
「……徳成。」
「脅すつもりなら、こちらも手を打つまでですから。」
清子はそういって携帯電話の画面を見せる。そこには一人の少女が写っていた。背が高く細身の学生服を着た髪の長い少女だった。高校生くらいだろう。
「英子さんの子供と言うことになってますね。」
「……。」
「ですが、養子になっている。それは産んだ人が別人だから。」
「別人?」
「代理母出産をしたそうですよ。しかしその母親の子供かもしれない。そうなれば問題ですよね。その「産んだ人」はもっと問題のある人だったのだから。」
「……。」
もっとも恐れていたことだった。英子の子供であるこの子供だが、その証明は何一つ無い。子供にDNA鑑定でもすれば別の話だろうが、子供は何一つ知らないのだからそんな真似をさせられない。
それにその生みの母というのは、「三島出版」よりも大手の会社の関係者だからだ。社長はそこまで調べがついている清子を少し怖いと思った。と同時に、やはりこちらについてもらっていた方がこちらに利益があると確信した。
「脅す気か?」
「脅されているのはこちらです。だからこちらも調べただけです。」
すると清子はその携帯電話を閉じる。すると社長は少し舌打ちをすると清子に聞いた。
「何が望みだ。」
「……父が今居る所を教えてもらいます。」
「……。」
「私は別に会っても会わなくてもかまわない。どうなろうと知ったことではないですから。でも話さないといけない事情がある。」
「……。」
「それで無かったことにします。私は何も知らない。今まで通り、仕事をしますから。」
やはりよく似ている親子なのだ。人を脅したり、騙したり、人に対して感情がないから出来ることだろう。だが清子は決定的に清吾と違うことがある。清子は人を信用したらとことん尽くすのだろう。そしてその信用しているのは、きっと史ではなく晶なのだ。
「わかった。そうしよう。」
「社長。そんなことをしたら……。」
「もういいだろう。あの男が表にでるのを英子姉さんは嫌がっているかもしれないが、元々そんなにこの国にいる人ではない。」
「しかし……。」
すると社長は、清子に向かって言う。
「徳成清吾は、ずっと条件を出していた。」
「条件?」
「徳成清子が、人間らしい生き方が出来るようにと。そのためにうちの会社で働き、しかるべき相手と家庭を持って欲しい。あの祖母の側で育ったのだから、愛情の一つもうけたことはないのだろうと。」
「……。」
「愛情を注いでくれる相手と一緒になって欲しいと。」
「本心ですか?」
「私にはそう聞いている。」
「……。」
信じられない。一度も会ったことのない娘に、そんな言葉をかけるような人だったのだろうか。
「だからうちの会社で雇ってもらえないだろうかと。そしてしかるべき相手と一緒にして欲しいと。」
「それが編集長だったわけだ。」
晶はそれが唯一不満だった。どうして史なのだろうと。自分では悪かったのだろうかと。
「一般的な家庭で育っているし、AV男優だったかもしれないが基本は真面目な男だ。軽薄そうにも見えない。」
「その通りですよ。私にはもったいない相手です。」
口先だけだろう。その言葉には心がないように思える。
「でも、俺にはそれが嘘に聞こえるな。」
晶はそういうと、煙草に火をつけた。
「社長が嘘を付いていると?」
澤村がそういって晶をにらむ。どうやら二人は、とことん気が合わないようだ。
「だったら清子を引き取れよ。自分の母親に押しつけるんじゃなくてさ。もしかしたら、清子。コレもあいつの思惑なのかもしれない。」
「あいつの思惑?」
「つまり、お前の父親は何かしらの狙いがあった。だから会社に入社させたり、編集長とくっつけようとした。そうすれば、お前は一般的な幸せを手に入れたような気になるだろう。」
「……えぇ。」
「たとえば、そこから一気に落とす。そうすればお前はさらに人間不信になるだろうよ。」
「……。」
「その顔を見るのが好きだとしたら。」
「ろくでもないですね。」
すると清子は少しため息を付くと、首を横に振った。
「やはり一度父に会わないといけませんかね。」
「その方が良い。社長。合うことは出来るんだろ?」
「望んでいない。」
社長はそういうと、首を横に振った。
「徳成。徳成さんに会えば、きっと幻滅する。そんな男だ。」
「あんたが言うかね。」
「だから、誤魔化したのだが。」
「誤魔化しはいりません。父の真意を知りたい。」
仕方がない。社長は携帯電話を取り出すと、メッセージを入れた。
「明日、代休になるだろう。」
「はい。」
「澤村。徳成さんの所に案内しろ。」
「しかし……。社長。」
「有無は言わせない。このままだと、おそらくうちの会社は「戸崎グループ」に吸収合併される。」
その言葉に清子はやっと納得した。やはり英子の代理母出産をした女性は、戸崎グループの関係者だったのだ。
「清子。あの圭吾って奴がそれだけで何か言ってきたらどうするんだ。」
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清子はそういって少し笑った。その目を晶はよく知っている。血の通っていない冷たい目だ。
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