不完全な人達

神崎

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北と南

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 昼間は会議室として打ち合わせをしていた場所も、夜になれば目的通りの宴会場に変わる。川の幸である鯉のあらいや、春先にしか食べれない山菜などが並べられた。
 史はこの中でも若い部類にはいる。だから若い人であれば肉の方が良いのかもしれないが、年齢的にもこういったさっぱりとしたものの方が良い。
「正木編集長。この後、どうですか?この先にストリップがあるみたいですよ。」
「あー。すいません。こういう場では仕事のことは離れたいので。」
 つきあいが悪いと言われても、行きたくないものは行きたくないのだ。だいたい、こんな田舎のストリップだと自分の母親ほどの女性が出てきて脱ぐのを見ても、楽しくはないだろう。
「正木編集長は、そろそろ結婚が近いようですね。」
 堀がそう言うと、スポーツ誌の男が笑う。
「あーそうでしたか。それは野暮なことを。」
 酒を注ぎあって、男はまた別の人のところへ行く。史はその酒を口に入れると、堀の方を見た。
「誰が結婚が近いって言いましたか?」
「良い歳だもの。遊びでつきあっているんじゃないですよね。」
 堀はそう言って少し笑う。温泉に入ってきたのだろう。浴衣姿がとても色っぽいと思った。だがその左手の薬指には、指輪がしてある。堀もまた順調なのだろう。
「子供は今日は?」
「旦那の実家が見てくれてますよ。結構近いので、あたしがこういう用事があるときは、協力してくれますから。」
「子供さんはいくつでしたっけ。」
「もうすぐ小学生と、三年生。」
「堀さんが母親ね……意外だったな。」
「何?どういう意味ですか。」
「子供は嫌いだといっていたのに。」
 大学生の時、堀とつきあっていた時期がある。AVの世界に入る前のことだ。セックスをしないことはないが堀はずっとピルを飲んでいたし、史にも絶対コンドームをつけるようにと注意していた。
 体の相性は悪くなかった。だが、堀も史が気持ちいいようにと色々と工夫をしていたが、それがかえって萎えさせることもある。
「正木編集長も早く子供を作った方が良いですよ。もう若くないんだし。」
「年齢はわかってますよ。だから、早く欲しいとは思ってますけどね。」
 清子に「子供が欲しい」と言ったとき、清子の表情が微妙に変わったのを思い出す。清子は欲しくないと思っているのだろう。家族という形に、あまり希望を持てなかった女だ。だからこそ幸せにしたいと思っていたのに。
「徳成さんが渋ってるなら、別の相手を捜した方が良いですよ。もう遊ぶ年齢じゃあるまいし。」
「そうですね。だからそう言う風にしますよ。」
 何でも思い通りになるとでも思っているのだろうか。堀は少しため息をついた。そのとき、トイレから安西が戻ってきた。安西も温泉に入ってきたらしく浴衣姿だったが、色気というよりはおばさんが浴衣を着ている感じに見える。ここまで徹底的に色気を出さない女もいるんだと、史は呆れたようにその姿を追っていた。
「安西編集長ね。」
「あぁ。新聞社だって言ってましたね。」
「えぇ。とても評判はいいんですよ。ずっと冬山祥吾先生の担当をしていたみたいで。」
 と言うことは、あの女も祥吾に抱かれていたのだろうか。見かけによらないものだ。
「あの人、昔からあたし知っている人で。」
「はぁ……。」
「大学は違ったんですけど、図書館の備品だって言われてましたね。その分、相当知識はあるみたいですけど。」
 この騒ぎの中でも、冷静に酒を飲んでいる。その姿が清子にかぶる。
「やっぱり、あの人は本を作りたいんでしょうね。編集長になったら、可能かもしれないとは言いましたけど。」
 清子とはやはり違う。似ているのは仕事の姿勢くらいだ。

 宴会がお開きになり、他の男性たちはストリップや風俗へ行ったり、女性たちは飲み直しに行ったりしていた。史はそんな中、部屋に戻るとタオルを用意した。温泉には入ったが、もう一度入るのも悪くない。外には露天があるのだ。そこにはいるのは十二時までだし、一度くらいは入れるだろう。
 史は温泉が好きだった。育ったのは都会の方で団地住まいだったが、実家に帰ると温泉がありそれにずっと入っていたこともある。つまり温泉は特別な存在だった。
 半纏を羽織り、タオルを手にすると階下に降りていく。すると宿のロビーで浴衣姿の女性が戸惑っているようにうろうろとしていた。
「どうしました?」
 史は声をかけると、それは安西だった。
「露店に行きたいと思ったんですけど、どこから行くのかわからなくて。」
「こっちですよ。」
 史はそう言って安西を誘導する。露天は一度宿をでて、離れにあるので見つからなかったのだろう。
「温泉は好きですか。」
「えぇ。この歳になると、本を読むと方も腰もバキバキになるから温泉で温まるのも良いかと。」
「運動もした方が良いですね。」
「定期的には山に登ることとかはするんですけど。」
 案外アクティブだった。そう思いながら、露天へやってくる。
「女湯はそっちです。それじゃ……。」
 史は男湯に入ろうとしたときだった。安西がふとその向こうをみる。
「何かありました?」
「植物園があるんですね。」
「あぁ。夜はライトアップしてます。」
「後で行ってみよう。」
 可愛いところがある人だ。そう思いながら史は男湯に入っていく。安西も女湯に入っていった。

 温泉場はあまり人が居なかった。史はゆっくりと温まりそこから出ると植物園の方に目をやった。携帯電話を持ってきている。この風景を清子に送りたい。そう思ってそのまま植物園の方へ向かう。
 サボテンに花が咲いている。割と温暖だから、咲いているのだろう。珍しいと赤い花に携帯電話を向けた。すると向こうから安西が歩いてきた。
「正木編集長。」
「来るって言ってましたね。」
「えぇ。サボテンの花って珍しい。私も撮ったんですよ。」
 そう言って安西は自分の携帯電話の画像を見せる。割ときれいに撮れていた。
「夜の花って良いですね。」
「えぇ。」
 湯上がりで頬がピンクだ。さっきまで色っぽさのかけらもないと思っていたのに、こんなところで色っぽいと思う。だがそんなことに心を奪われてはいけない。
「他にもあるのかな。」
「向こうに、珍しい花もありましたよ。やっぱりこの辺は温暖ですね。街ではあまり見ない花がある。」
 自然と二人で歩いていた。そして史は先ほどのサボテンの花を、清子に送る。その様子に安西は、少し笑った。
「どうしました?」
「若いなって思って。恋人に送ったんでしょう?」
「えぇ。来れなかったから。」
「私もさっき送ったんですよ。」
「え?」
「あぁ。結婚はしてないんですけど、ずっとパートナーが居て。」
「そういうことだったんですか。」
 すると安西は少し暗い顔で言う。
「でも……やっぱり、相手が若いからですかね。どうも自信がなくて。」
「え?」
「もう四十手前ですし、相手は二十代なんですよ。だから若い子の方が良いかと思って。」
 同じような悩みを持つものだ。清子は本当は晶くらいの人の方が良いのかもしれないと、ずっと思っていたのだから。
「そう卑下することはないと思いますよ。一緒に暮らしているのでしょう?」
「えぇ……。」
「嫌な相手とは一緒には暮らせませんから。」
 そう。暮らせないはずだ。だが、清子はきっと晶の所にも行っている。だから朝方に晶の家から出てきたのだ。それが悔しい。
「……正木編集長?」
「あぁ……何でもないです。」
「あの……もしかして……。」
「戻りましょう。湯冷めしてしまいます。」
 そういって史は、宿の方へ向かっていく。そのとき、携帯電話のメッセージが届いた。相手は清子だった。あっちはまた雪が降り出したらしい。
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