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北と南
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次の日。清子は役所にやってきた。戸籍謄本を確認するためだった。受付の女性から封筒に入れられたそれをコーヒーを飲みながら確認する。
清子はどうやら北の地で生まれたらしい。父親は徳成清吾。母親は英子と書かれてあった。聞いたことのない母親の名前だなと思いながら、清子はそれよりもその清吾の現住所をみる。北の土地になっていた。ここへ行ったことはないが、近くの街にいたことがある。その時すれ違ったりしているのかもしれないが、顔もわからない人だ。
そう思いながら東屋でその紙を置いた。すると携帯電話が鳴る。
「はい。」
それは晶だった。どうやら撮影が終わったらしく、戸籍を取ってくると行っていた清子が気になって、連絡をしたらしい。公園にいることを言うと、すぐに晶はやってきた。
「どうだった。」
清子はその戸籍謄本を晶に手渡す。すると晶も首を傾げた。
「ここは俺も行ったことはねぇな。」
「今もそこにいるのかはわかりませんが、訪ねてみる価値はありますね。」
「今度の休みにでも行くか?」
すると清子はいぶかしげに晶をみる。
「一日で行ける距離ではないですよ。飛行機のチケットも取らないと。」
「二枚取ってよ。」
「久住さんも行くんですか?」
「良い機会になった。あっちの方でさ、湖に白鳥が来るんだよ。それが撮りたいってずっと思ってたし。」
遊びに行くようだ。自分のことなのに。清子はため息をついてコーヒーを口に入れる。
「遊びに行くんじゃないんですけど。」
「わかってるよ。」
少し笑って、晶は手に持っていた紙袋を開ける。そこにはコーヒーとサンドイッチがあった。
「ほら。お前の分。」
そういって晶は、その紙袋からサンドイッチを清子に手渡した。
「こんなに大きいの食べれませんよ。」
「良いから食え。また倒れるぞ。」
大きいとは言ってもほとんど野菜だ。レタス、トマト、キュウリ、チーズ、それにハムが挟まっている。晶のサンドイッチには、ボリュームのある鳥の照り焼きが挟まっているというのに。こう言うところは気のきく男だ。
「格安チケットなら取れますね。ん……あ、ホテル付きなら安い。」
「それ取っておけよ。たぶん、祭りをしてるからすぐ無くなるかもしれないし。」
「史は行きますかね。」
「たぶん行けねぇよ。」
晶はそういってサンドイッチにかぶりつく。
「どうしてですか?」
「あの、例のさ、タウン誌。」
「あぁ。」
「タウン誌だけじゃなくて、ほら、スポーツ雑誌とか、文芸誌も出すだろ?それぞれの編集長と社長とか専務とかで、親睦会をかねて温泉だって。良い身分だよな。」
「久住さんは行かなくていいんですか?」
「俺は下っ端だし。」
史がそれで冷静になっていられるのだろうか。晶と二人で旅行みたいなことをするのだ。だがそれは晶のためといっただけで、史の感情はどうなのだろう。
夕べは帰るのもしゃくだからと、そのホテルに泊まった。もちろん晶や史は帰ったので、泊まったのは自分一人だったが。
夕べ、抱きたい。子供が欲しいなどと言っていた割にはすんなり帰ったのが違和感だ。
「どうしたんだよ。暗い顔だな。」
「え?」
「マヨネーズじゃなかった方が良かったか?」
サンドイッチのことを言っているのだろう。サンドイッチはマヨネーズが入っていて、少し濃厚だ。
「美味しいです。でも半分でお腹いっぱい。」
「頑張って食えよ。おーそうだ。そのサンドイッチを売ってるねーちゃんが、すげぇ良いおっぱいしててさ。」
「へー。」
「それ目当てに男の客が多いんだよ。」
「大きいのが好きですか。そうですか。」
清子は不機嫌そうに、コーヒーを口に入れた。
「お前もちいさかねぇって。」
「別に良いです。フォローしてもらわなくても。」
「今度、挟んで。」
「は?」
驚いたように清子は晶の方をみる。
「やりようがあるだろ?教えてやるから。」
「いいえ。結構です。」
「今夜するか。」
「帰りたい。」
「じゃあ、俺がお前の家に行くわ。」
「チェーンかけとくから。」
悪態をついて、清子はまたサンドイッチに口を付ける。
仕事に戻り、清子はパソコンを立ち上げた。そしてホームページの更新を始める。今週までには更新をしたいと、文章と画像のチェックをする。
「……やっぱこっちかなぁ。」
データフォルダーを開けて別の写真に置き換えようとしたときだった。ふと隣の写真が目に映る。それはGカップを売りにしている女優が、男優の性器を胸に挟んでいる画像だった。こういうことを晶はして欲しいと思っているのかもしれないが、いくら何でもこんなに大きくはない。
その時目の前に手が振られる。それに気がついて、清子はヘッドホンを取って史の方を見上げる。
「どうしました。」
「土日で、出張に行って欲しいと言われてね。」
「誰がですか?」
「徳成さんが。」
驚いて、清子は史を見上げる。
「は?」
「うちの支所が北の方にあるんだけど、そこのウェブ関係の更新と、データのチェックをして欲しいらしい。」
「わかりました。」
チケットはキャンセルをしないといけないかもしれない。まだ購入してなくて良かった。
「場所はここ。」
紙を差し出されて、清子は驚いたように史を見上げる。
「どうしたの?」
「あ……父の本籍地に近いと思って。」
「あぁ。そうだったね。どうだった?戸籍謄本は。
史はこの件に関してあまり乗り気ではなさそうだ。だから晶がつけ込む隙があるのだろう。
「土日にでも行ってこようかと思ってました。」
「だったら、ついでに見てくると良いよ。」
場所はS市。大きな街なのだろう。
「俺は行けないけどね。」
「あぁ。タウン誌の方の打ち合わせだとか。」
「あぁ。ほとんど行くのに、久住は行けないらしいからね。」
だから二人で行くことはないだろう。そう言われているようだ。だが戻ってきた晶が、上機嫌に自分のデスクにバッグをおく。
「どうした。久住。機嫌が良さそうだな。」
「土日でHへ行くから。」
「は?何?観光?」
「じゃなくて、新聞社の用事。俺、あそこ初めてだし、祭りも撮ってきたいし。」
その言葉に史が驚いたように晶をみる。まさか晶まで行くと思っていなかったからだ。
「おみやげに期待しようかな。」
「あ、俺、焼きトウキビが良い。」
「ビール。」
「遊びに行くんじゃねぇよ。だいたい、俺行くのそんな街じゃねぇし。」
街ではない?史はほっとしたように話を聞いていた。
「どこ行くの?」
「T。」
「徳成さんも行くって言ってたな。でも離れてるところだっけ。」
「へぇ。清子はどこに行くの?」
しかし清子は返事をしない。もう更新を始めていて、晶の言葉など耳に入らないのだろう。
清子はどうやら北の地で生まれたらしい。父親は徳成清吾。母親は英子と書かれてあった。聞いたことのない母親の名前だなと思いながら、清子はそれよりもその清吾の現住所をみる。北の土地になっていた。ここへ行ったことはないが、近くの街にいたことがある。その時すれ違ったりしているのかもしれないが、顔もわからない人だ。
そう思いながら東屋でその紙を置いた。すると携帯電話が鳴る。
「はい。」
それは晶だった。どうやら撮影が終わったらしく、戸籍を取ってくると行っていた清子が気になって、連絡をしたらしい。公園にいることを言うと、すぐに晶はやってきた。
「どうだった。」
清子はその戸籍謄本を晶に手渡す。すると晶も首を傾げた。
「ここは俺も行ったことはねぇな。」
「今もそこにいるのかはわかりませんが、訪ねてみる価値はありますね。」
「今度の休みにでも行くか?」
すると清子はいぶかしげに晶をみる。
「一日で行ける距離ではないですよ。飛行機のチケットも取らないと。」
「二枚取ってよ。」
「久住さんも行くんですか?」
「良い機会になった。あっちの方でさ、湖に白鳥が来るんだよ。それが撮りたいってずっと思ってたし。」
遊びに行くようだ。自分のことなのに。清子はため息をついてコーヒーを口に入れる。
「遊びに行くんじゃないんですけど。」
「わかってるよ。」
少し笑って、晶は手に持っていた紙袋を開ける。そこにはコーヒーとサンドイッチがあった。
「ほら。お前の分。」
そういって晶は、その紙袋からサンドイッチを清子に手渡した。
「こんなに大きいの食べれませんよ。」
「良いから食え。また倒れるぞ。」
大きいとは言ってもほとんど野菜だ。レタス、トマト、キュウリ、チーズ、それにハムが挟まっている。晶のサンドイッチには、ボリュームのある鳥の照り焼きが挟まっているというのに。こう言うところは気のきく男だ。
「格安チケットなら取れますね。ん……あ、ホテル付きなら安い。」
「それ取っておけよ。たぶん、祭りをしてるからすぐ無くなるかもしれないし。」
「史は行きますかね。」
「たぶん行けねぇよ。」
晶はそういってサンドイッチにかぶりつく。
「どうしてですか?」
「あの、例のさ、タウン誌。」
「あぁ。」
「タウン誌だけじゃなくて、ほら、スポーツ雑誌とか、文芸誌も出すだろ?それぞれの編集長と社長とか専務とかで、親睦会をかねて温泉だって。良い身分だよな。」
「久住さんは行かなくていいんですか?」
「俺は下っ端だし。」
史がそれで冷静になっていられるのだろうか。晶と二人で旅行みたいなことをするのだ。だがそれは晶のためといっただけで、史の感情はどうなのだろう。
夕べは帰るのもしゃくだからと、そのホテルに泊まった。もちろん晶や史は帰ったので、泊まったのは自分一人だったが。
夕べ、抱きたい。子供が欲しいなどと言っていた割にはすんなり帰ったのが違和感だ。
「どうしたんだよ。暗い顔だな。」
「え?」
「マヨネーズじゃなかった方が良かったか?」
サンドイッチのことを言っているのだろう。サンドイッチはマヨネーズが入っていて、少し濃厚だ。
「美味しいです。でも半分でお腹いっぱい。」
「頑張って食えよ。おーそうだ。そのサンドイッチを売ってるねーちゃんが、すげぇ良いおっぱいしててさ。」
「へー。」
「それ目当てに男の客が多いんだよ。」
「大きいのが好きですか。そうですか。」
清子は不機嫌そうに、コーヒーを口に入れた。
「お前もちいさかねぇって。」
「別に良いです。フォローしてもらわなくても。」
「今度、挟んで。」
「は?」
驚いたように清子は晶の方をみる。
「やりようがあるだろ?教えてやるから。」
「いいえ。結構です。」
「今夜するか。」
「帰りたい。」
「じゃあ、俺がお前の家に行くわ。」
「チェーンかけとくから。」
悪態をついて、清子はまたサンドイッチに口を付ける。
仕事に戻り、清子はパソコンを立ち上げた。そしてホームページの更新を始める。今週までには更新をしたいと、文章と画像のチェックをする。
「……やっぱこっちかなぁ。」
データフォルダーを開けて別の写真に置き換えようとしたときだった。ふと隣の写真が目に映る。それはGカップを売りにしている女優が、男優の性器を胸に挟んでいる画像だった。こういうことを晶はして欲しいと思っているのかもしれないが、いくら何でもこんなに大きくはない。
その時目の前に手が振られる。それに気がついて、清子はヘッドホンを取って史の方を見上げる。
「どうしました。」
「土日で、出張に行って欲しいと言われてね。」
「誰がですか?」
「徳成さんが。」
驚いて、清子は史を見上げる。
「は?」
「うちの支所が北の方にあるんだけど、そこのウェブ関係の更新と、データのチェックをして欲しいらしい。」
「わかりました。」
チケットはキャンセルをしないといけないかもしれない。まだ購入してなくて良かった。
「場所はここ。」
紙を差し出されて、清子は驚いたように史を見上げる。
「どうしたの?」
「あ……父の本籍地に近いと思って。」
「あぁ。そうだったね。どうだった?戸籍謄本は。
史はこの件に関してあまり乗り気ではなさそうだ。だから晶がつけ込む隙があるのだろう。
「土日にでも行ってこようかと思ってました。」
「だったら、ついでに見てくると良いよ。」
場所はS市。大きな街なのだろう。
「俺は行けないけどね。」
「あぁ。タウン誌の方の打ち合わせだとか。」
「あぁ。ほとんど行くのに、久住は行けないらしいからね。」
だから二人で行くことはないだろう。そう言われているようだ。だが戻ってきた晶が、上機嫌に自分のデスクにバッグをおく。
「どうした。久住。機嫌が良さそうだな。」
「土日でHへ行くから。」
「は?何?観光?」
「じゃなくて、新聞社の用事。俺、あそこ初めてだし、祭りも撮ってきたいし。」
その言葉に史が驚いたように晶をみる。まさか晶まで行くと思っていなかったからだ。
「おみやげに期待しようかな。」
「あ、俺、焼きトウキビが良い。」
「ビール。」
「遊びに行くんじゃねぇよ。だいたい、俺行くのそんな街じゃねぇし。」
街ではない?史はほっとしたように話を聞いていた。
「どこ行くの?」
「T。」
「徳成さんも行くって言ってたな。でも離れてるところだっけ。」
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