不完全な人達

神崎

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別離の条件

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 ウーロン茶を飲みながら、香子は隣に座っている晶をみる。清子と史はトイレに行きたいと、少し離れたコンビニへ行ってしまったのだ。今がチャンスかもしれない。
「久住さぁ。今日徳成さんを誘おうとか思ってる?」
「思ってるね。」
 晶は面倒見がよく気が利くところがある。だがボサボサの髪やよれよれのシャツなんかをずっと着ていたので、女性からはあまり人気はない。その上無神経な言葉をよく言う。それで嫌われているところもあるが、それでも仕事面で一定の評価があるので支持はされている。
 だが髪を切って、出てきた顔立ちが思ったよりも整っていたし、ハーフ顔がさらに女性人気を得ている。だが肝心の晶は全くそれに興味を示していない。
 それよりも香子は気になることがある。晶はこんなに無神経だっただろうか。いいや、無神経なのは今に始まったことではないが、隣に史が居るのだ。そしてまだ史と清子は切れていない。
「編集長がいるよ。」
「関係ねぇよ。あいつがどっちに来たいかで選んだ方に行けばいい。来なかったら大人しくオ○ニーするわ。」
 煙草に火をつけて、晶はにやっと笑う。自信があるのかもしれない。清子が晶について来ると。

 そのころ、清子はトイレを借りたついでに煙草を買っていた。そして史も、お茶を買っていた。
「寒いとトイレが近くなりますね。」
 コンビニを出て、清子は腕時計をみる。まだ電車は出ている時間だが、終電を考えるとそろそろ帰った方が良いかもしれない。
「終電で……。」
「清子。今日帰るつもり?」
「え?」
「家に来て欲しいといっただろ?」
「……そうでしたね。」
「いやなの?」
「そんなことはないですけど……。あの……。」
「ん?」
「縛ったりしないんですよね。」
 その言葉に史は少し笑った。
「ははっ。君が望むんならそうしても良いけど。」
「嫌です。」
 すると史は清子の肩に手をおいた。
「生理、きたっていってたっけ。」
「えぇ。」
「狙ってしないと出来ないかな。」
「え?」
「子供が欲しいと思う。」
 その言葉に清子は戸惑っているように史を見上げた。
「え……あの……子供?」
「そう。俺も三十六になったし、今子供が出来て、生まれた頃には三十七だ。子供が成人することを考えると、六十近く。遅くなるかもしれないと思ってね。」
「遅く……。」
 史の歳ではそう思うのは当然かもしれない。だが清子の心が追いつかなかった。
「君との子供が欲しい。そろそろ排卵期が近いだろう?」
「あの……それは……結婚すると言うことでしょうか。」
「そうだね。」
 その言葉に清子は戸惑ってしまった。確かに結婚して欲しいとは言われた。だがそれは同時に晶にも言われたことだ。そして今、清子の心の中にずっと晶がいる。それを今まで告白できなかったのは、自分の弱いところだった。
「私……。史に言わないといけないことが……。」
「どうしたの?」
「あの……。」
 その時、屋台の方から走って来る香子が見えた。その様子が慌てているように見えて、史は思わず清子の肩から手を離す。
「大変。編集長。」
 息を切らせて、香子が史に詰め寄った。
「どうした。」
「久住が変な男たちに連れて行かれて……。」
 その言葉に清子は驚いて、香子の方をみる。
「どんな奴らだ。」
「なんか……チンピラみたいな、ヤクザみたいな。何?あいつヤクザに喧嘩でも売ったの?」
 香子は知らないのだ。晶が裏ビデオのパッケージを撮っていて、それを途中で切ったことを。無理矢理引き離したようなものだ。だから逆恨みでも買ったのかもしれない。
「警察に言った方がいいのかな。」
 そう言って史は携帯電話を取り出す。しかし清子がそれを止める。
「待ってください。ヤクザに関わっていたなんて事がわかったら久住さんの身が危ないし、何より会社的にも問題でしょう。」
 清子は冷静にそう言った。その言葉に史は言葉を詰まらせる。冷静なつもりだったのに、もっと冷静だったのは清子の方だったのだ。
「だったらどうすればいい?久住、このままだと何をされるかわからないよ。」
 香子はそう言って清子を急かす。すると清子はふとここに来る前のことを思い出していた。仁が言うには村上組が晶を狙っているという事。だとしたらさらったのは村上組だろう。
 そして清子の名刺入れの中には、村上組の、おそらくかなり地位の高い人の名刺がある。それを取り出すと、「村上圭吾 建設会社村上組専務」と書いてあった。
「専務と言うことは、社長の一つ下。」
 その名刺を史ものぞき見る。
「その名刺どうしたの?」
「年末に、コンサートホールで会った人の名刺です。ヤクザだろうとは思ってましたが、この方が関わっているのでしょうね。」
 そう言ってその番号に清子はコールをしようとした。その時史がそれを止める。
「ちょっと待って。一度、桂さんに連絡をしてみる。」
「桂さん?」
 AV男優だった桂だろうか。その男もヤクザと関わりがあるのかと、香子は驚いていた。
 確かにAVに出たのは一度きりだ。そして二度目はないと言ったとき、脅してきた男たちはヤクザに見えないこともなかった。だからAV業界と裏の世界は繋がっているのだろうと思っていたが、こんなに露骨に見ることはなかった。
 関わっていた自分が、怖い。うまく断れて、まともにいませ威喝が出来ているのが奇跡みたいなものだろう。
 そしてAVに関わっている今でも、人気だった女優がいきなり消えることもある。それはやはりヤクザの力なのかもしれないと思った。ぞっとする。
「もしもし……はい。今、大丈夫ですか?」
 桂は映画の撮影が終わったと思ったら、今度はドラマの撮影に入ったらしい。濡れ場のない撮影は、純粋に桂の演技力を買われてのことだろう。
「そうですか。わかりました。ありがとうございます。」
 史は電話を切ると、少しため息をついた。
「桂さんはそう言った世界に繋がりはない。だけど、春川さんがよく知っているらしい。清子。一度、坂本組の人の力を借りたことがあるね?」
「えぇ……。私の同期が組の事をしているみたいで、手間をかけてもらいました。」
「だったら、久住が連れ去られたのは逆恨みってところか。素人相手に、何をしているんだか。」
「……おそらく、久住さんを連れ去った人と、この人は別人でしょう。少し連絡を取ってみます。」
 清子はそう言って少し離れると、その番号を携帯電話に打ち込む。その手は少し震えていた。
 連れ去られたと香子が言っているのは、おそらく無理矢理車か何かに乗せられたのだ。死んでしまったら意味がない。何より死なせたくない。これ以上人の死が、身近にならない方がいい。その一心だった。
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