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告白
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着替えだけをして、晶は部屋を出る。ジャンパーはいつもと変わらない。変えも一枚あるだけだ。色んな所に行くので、臭ってきたら洗うくらいでその間のつなぎに一枚あるだけ。
まだ寒さが残る時期だ。だが体が温かい感じがする。それは清子を今朝抱いたからだろうか。一度しただけで腰が立たなくなっていたのだ。自分で感じてくれると思うだけで浮き足立つ。
会社のエントランスに入ると同じように出社してきた人や、校了の前で寝不足気味の人たちが外に出ている。校了の人たちは、これからも仕事なのだろう。
パスを取り出してゲートをくぐる。そしてエレベーターへ向かったときだった。
「久住。」
声をかけられて晶は振り向くと、そこには史が居た。
「おはよう。」
「あぁ。おはよう。夕べは清子に説得されたのか。」
「あぁ……そうだな。あいつあんなに説教臭かったかな。いろいろ言われたよ。」
へらっと笑うその顔が、何か誤魔化している感覚がする。だがそれを聞く勇気はない。
「で、清子から何をもらった。」
「え?そんなことを言ったかな。」
「もらったモノがあるから良いと言っただろう。」
「あぁ……ジッポーな。」
そういって晶はポケットに入っているジッポーを取り出す。それは清子のモノだ。
「それから、あいつには文芸誌に文書で釈明をしろって言った。いつまでも俺もあんたも付いてやるわけにはいかないだろう。」
「まぁな。隠せば暴きたくなるのが人だろう。」
「その際に、春川にも同じことをする。あいつにはいい機会になるだろうよ。表舞台に立つなって言われてたのは、冬山祥吾なんだから。そのしがらみが無くなったし、表に出ないで隠れるようなこともしなくて良くなったから。」
「春川が表に出るのか。」
あれだけ色気のある文章を書く人だ。男か女かさえわからなかったのに、それが表に出ればちょっとした騒ぎになるかもしれない。
「……それでもやっぱ何かを探りたいってヤツは出てくるだろうな。」
エレベーターがやってきて、二人はそれに乗り込む。周りには他の人たちもいる。あまり滅多なことは言えないと、二人はまた口をつぐんだ。
そして二人のオフィスがある階にたどり着くと、ドアが開く。エレベーターホールには清子と香子の姿があったが、清子の表情は少し暗いように思えた。それに気が付いて史が声をかけようとした。だが一足先に晶が声をかける。
「よう。どうしたんだ。二人そろって、珍しいな。」
すると清子は首を横に振って、奥の史の方に視線を向ける。
「久住。ちょっといい?コーヒーでも買おうよ。あ、編集長。おはよう。」
香子はそういって強引に晶の手を引くように自動販売機の方へ向かった。その様子に史は少し首を傾げたが、清子はその様子を見ながら首を横に振る。そして史の方を見ると、少し笑った。
「おはようございます。」
「あぁ。おはよう。今日は早いね。」
「少し気になることもあったし、もう私一階に降りますから。」
「あぁ……清子。」
史はそういって清子の足を止める。
「文書で釈明するって聞いたよ。もし出来上がったら、チェックさせてもらえないかな。」
「実は、それを書いてました。文芸誌の方へ送る前に、見てもらって良いですか。」
いつもながら仕事は速い。史は少し笑って、うなづいた。
「でも何も知らないよね。それが文書になるのかな。」
「「何も知らない」ことを文書にしたんです。」
「だろうね。春川さんがどう出るかな。」
「電話をしてみましたが、春川さんの方がもっと詳しいことを知ってましたし、何のために助手をしていたのか、そして結婚していたことも嘘だったとばらすつもりだそうです。」
「……大きな騒ぎになるね。冬山祥吾の評価が地に落ちるかもしれない。」
「覚悟の上でしょう。じゃあ、私はこれで。」
清子はそういって階段の方へ向かいかけて、エレベーターへ足を進めた。もうこそこそする必要はないのだから。
甘いコーヒーを買って、香子は晶を見上げる。晶もブラックのコーヒーを買った。
「聞いたわよ。」
「え?」
「ったく。何考えてんのよ。」
「何を聞いたんだよ。」
コーヒーの蓋を開けようとするが、なかなか開けられなかった。晶もまた動揺しているのだ。
「あたし、朝残業があったから早く来たんだけど、徳成さんが異様に暗かったのよ。」
「叔父のことを告白しないといけないからだろ?」
「それだけじゃない。あんたさ……何回寝たってのよ。」
「は?」
コーヒーの蓋を開けて、香子はそれを口に運ぶ。そしてため息を付いた。
「あたしさ、何度か見てんのよ。」
「え?」
「あんたと徳成さんがキスしてんの。」
ごまかしは利かない。晶は少しため息を付くと、そのコーヒーを口に運んだ。
「徳成さんは編集長と付き合ってんでしょ?そんな中途半端なことしていいの?」
「……あいつも望んでのことだよ。」
晶はそういうとため息を付く。
「だったら何であんな不安定なのよ。」
「え?」
「あんたが手を出してるから、迷ってんでしょ?それに編集長に罪悪感だってあるし……。」
それが一番のネックだろう。晶は少しため息を付くと、香子の方を見る。
「編集長には俺から言うよ。」
「それを徳成さんが望んでるの?」
「……。」
言葉で好きだなどいわれたことはない。でもあの温もりが嘘だと思いたくなかった。それが晶の意地なのかもしれない。
「とにかく、言うから。そんで……清子を俺のものにする。」
すると香子はため息を付いて言う。
「それを徳成さんが望んでいると思えない。あたしには、徳成さんは一人で生きていくんだって意志が見えるもの。」
「……人間一人じゃ生きていけねぇよ。」
「……少なくともその相手が、あたしにはあなたとは思えない。」
「編集長でもねぇよ。」
その言葉に香子はむっとしたように言った。
「その自分勝手な解釈もうやめたら?迷惑だもの。」
「お前こそ、少し話しただけで清子をわかったような口聞くんじゃねぇよ。お前の彼氏に影響されてんのか?お前の彼氏はご立派な口を利くもんな。」
「仁のことを悪く言わないで。」
すると週刊誌担当の男が、その自販機のコーナーの中に入ってくる。
「久住。声がでかいよ。」
「あ、悪い。」
男もコインを入れるとコーヒーを買った。
「何話してんのか知らないけどさ、あまり部署内で険悪になったら悪いよ。チームで動いてんだしな。」
「あぁ。そうだな。」
だが香子は納得しないように、口を尖らせている。
まだ寒さが残る時期だ。だが体が温かい感じがする。それは清子を今朝抱いたからだろうか。一度しただけで腰が立たなくなっていたのだ。自分で感じてくれると思うだけで浮き足立つ。
会社のエントランスに入ると同じように出社してきた人や、校了の前で寝不足気味の人たちが外に出ている。校了の人たちは、これからも仕事なのだろう。
パスを取り出してゲートをくぐる。そしてエレベーターへ向かったときだった。
「久住。」
声をかけられて晶は振り向くと、そこには史が居た。
「おはよう。」
「あぁ。おはよう。夕べは清子に説得されたのか。」
「あぁ……そうだな。あいつあんなに説教臭かったかな。いろいろ言われたよ。」
へらっと笑うその顔が、何か誤魔化している感覚がする。だがそれを聞く勇気はない。
「で、清子から何をもらった。」
「え?そんなことを言ったかな。」
「もらったモノがあるから良いと言っただろう。」
「あぁ……ジッポーな。」
そういって晶はポケットに入っているジッポーを取り出す。それは清子のモノだ。
「それから、あいつには文芸誌に文書で釈明をしろって言った。いつまでも俺もあんたも付いてやるわけにはいかないだろう。」
「まぁな。隠せば暴きたくなるのが人だろう。」
「その際に、春川にも同じことをする。あいつにはいい機会になるだろうよ。表舞台に立つなって言われてたのは、冬山祥吾なんだから。そのしがらみが無くなったし、表に出ないで隠れるようなこともしなくて良くなったから。」
「春川が表に出るのか。」
あれだけ色気のある文章を書く人だ。男か女かさえわからなかったのに、それが表に出ればちょっとした騒ぎになるかもしれない。
「……それでもやっぱ何かを探りたいってヤツは出てくるだろうな。」
エレベーターがやってきて、二人はそれに乗り込む。周りには他の人たちもいる。あまり滅多なことは言えないと、二人はまた口をつぐんだ。
そして二人のオフィスがある階にたどり着くと、ドアが開く。エレベーターホールには清子と香子の姿があったが、清子の表情は少し暗いように思えた。それに気が付いて史が声をかけようとした。だが一足先に晶が声をかける。
「よう。どうしたんだ。二人そろって、珍しいな。」
すると清子は首を横に振って、奥の史の方に視線を向ける。
「久住。ちょっといい?コーヒーでも買おうよ。あ、編集長。おはよう。」
香子はそういって強引に晶の手を引くように自動販売機の方へ向かった。その様子に史は少し首を傾げたが、清子はその様子を見ながら首を横に振る。そして史の方を見ると、少し笑った。
「おはようございます。」
「あぁ。おはよう。今日は早いね。」
「少し気になることもあったし、もう私一階に降りますから。」
「あぁ……清子。」
史はそういって清子の足を止める。
「文書で釈明するって聞いたよ。もし出来上がったら、チェックさせてもらえないかな。」
「実は、それを書いてました。文芸誌の方へ送る前に、見てもらって良いですか。」
いつもながら仕事は速い。史は少し笑って、うなづいた。
「でも何も知らないよね。それが文書になるのかな。」
「「何も知らない」ことを文書にしたんです。」
「だろうね。春川さんがどう出るかな。」
「電話をしてみましたが、春川さんの方がもっと詳しいことを知ってましたし、何のために助手をしていたのか、そして結婚していたことも嘘だったとばらすつもりだそうです。」
「……大きな騒ぎになるね。冬山祥吾の評価が地に落ちるかもしれない。」
「覚悟の上でしょう。じゃあ、私はこれで。」
清子はそういって階段の方へ向かいかけて、エレベーターへ足を進めた。もうこそこそする必要はないのだから。
甘いコーヒーを買って、香子は晶を見上げる。晶もブラックのコーヒーを買った。
「聞いたわよ。」
「え?」
「ったく。何考えてんのよ。」
「何を聞いたんだよ。」
コーヒーの蓋を開けようとするが、なかなか開けられなかった。晶もまた動揺しているのだ。
「あたし、朝残業があったから早く来たんだけど、徳成さんが異様に暗かったのよ。」
「叔父のことを告白しないといけないからだろ?」
「それだけじゃない。あんたさ……何回寝たってのよ。」
「は?」
コーヒーの蓋を開けて、香子はそれを口に運ぶ。そしてため息を付いた。
「あたしさ、何度か見てんのよ。」
「え?」
「あんたと徳成さんがキスしてんの。」
ごまかしは利かない。晶は少しため息を付くと、そのコーヒーを口に運んだ。
「徳成さんは編集長と付き合ってんでしょ?そんな中途半端なことしていいの?」
「……あいつも望んでのことだよ。」
晶はそういうとため息を付く。
「だったら何であんな不安定なのよ。」
「え?」
「あんたが手を出してるから、迷ってんでしょ?それに編集長に罪悪感だってあるし……。」
それが一番のネックだろう。晶は少しため息を付くと、香子の方を見る。
「編集長には俺から言うよ。」
「それを徳成さんが望んでるの?」
「……。」
言葉で好きだなどいわれたことはない。でもあの温もりが嘘だと思いたくなかった。それが晶の意地なのかもしれない。
「とにかく、言うから。そんで……清子を俺のものにする。」
すると香子はため息を付いて言う。
「それを徳成さんが望んでいると思えない。あたしには、徳成さんは一人で生きていくんだって意志が見えるもの。」
「……人間一人じゃ生きていけねぇよ。」
「……少なくともその相手が、あたしにはあなたとは思えない。」
「編集長でもねぇよ。」
その言葉に香子はむっとしたように言った。
「その自分勝手な解釈もうやめたら?迷惑だもの。」
「お前こそ、少し話しただけで清子をわかったような口聞くんじゃねぇよ。お前の彼氏に影響されてんのか?お前の彼氏はご立派な口を利くもんな。」
「仁のことを悪く言わないで。」
すると週刊誌担当の男が、その自販機のコーナーの中に入ってくる。
「久住。声がでかいよ。」
「あ、悪い。」
男もコインを入れるとコーヒーを買った。
「何話してんのか知らないけどさ、あまり部署内で険悪になったら悪いよ。チームで動いてんだしな。」
「あぁ。そうだな。」
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