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香水
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東二たちと別れて、清子は史と駅を目指した。東二たちはその足でおそらく役所へ行く。婚姻届を出すのだろう。
「そう。結婚するのか。」
だからすんなり娘のことで謝罪したのだ。東二にも少しずつ余裕が出てきた証拠だろう。そして清子は一つ問題が解決したようですっきりとした顔をしていた。
「食事はどうする?少し遅くなってしまったね。」
「作ります。今日持って帰ったモノもあるし。」
「そう?だったらうちにくる?新居だけど。」
史はそういって少し笑った。前にすんでいたところは清子が来ることはなかった。だが引っ越してきたところに始めてくるのが清子だというのが嬉しかった。
「買い足すモノがあるかな。」
「お米とかはありますか?」
「それなりにね。調味料なんかも前のところから持ってきた。」
あらかたの話は聞いた。どうして香水なんかを追っているのか。そして大切にしていたジッポーを晶に渡した理由も納得できる。
だがそのマンションの近くにあるスーパーで食材を選びながら、清子の表情は少し浮かない感じがしていた。慣れない葬儀で疲れているのだろう。
「パスタにします。貝がもうシーズンになってきたので。」
「俺に合わせなくても良いよ。食べたいモノを食べたらいい。」
「いいえ。洋食は苦手ですけど、前の職場で手早くすぐに出来るからと教えて貰って、たまに作って食べるんです。」
水菜やキャベツをかごに入れて、また食材に目を移す。その間、史は酒のコーナーにいた。ワインがある。洋酒は飲み慣れていないから苦手だろうが、飲めば今日は返さない。疲れているかもしれないが、今日は離したくなかった。
「あ、昌樹さんですよね。」
そう声をかけられて、史は声をかけられた方をみる。
「はい。」
「あたし、ずっとファンだったんです。コラム楽しみにしてます。」
「ありがとう。」
最近はAV男優の昌樹ではなく、コラムニストの昌樹のほうで声をかけられることも多い。写真は載せていないが、ウェブ情で検索すればすぐに写真が見つかるからだろう。
「握手してもらえませんか。」
「はい。」
手を差し出すと、女性特有のしなやかな手の感触がした。清子にはないものだ。
「あの、聞いても良いですか?」
「何を?」
「先月号のキスの記事なんですけど、あれって……。」
どうやら女性には恋人がいるらしく、史のコラムを見てそれを実践したら恋人が激しく拒絶反応を起こしたらしい。
「あれって本当に気持ちいいんですか?」
「人による。としか言いようがありませんね。俺のコラムは俺の視点で書いています。嫌がる人もいるし、大して気持ちいいと思えない人も居ます。もっと気持ちいいところがあるかもしれないし、それはパートナーと話し合うことですね。性癖ががっちり合う人というのはあまりいないかもしれないし、それでも感情で乗り切れることもあります。」
「そんなモノなんですか。」
「あとは恋人と話し合ってみてください。俺のコラムはあくまで参考資料ですから。」
「ありがとうございます。」
女性はそういって頭を下げると、その場を去っていった。その後ろ姿を見て、史はため息をつく。その言葉は自分にそっくり返ってきているような気がしたからだ。
清子とセックスをすると、正直何もかも忘れられるほど中毒性がある。何度だって入れ込みたくなる。だが清子はそれを求めているのかと思うと、正直わからない。
晶の方が良いとは思わないのだろうか。
「史。」
声をかけられて、史はそちらを向く。すると清子はもう買い物を済ませて荷物を持っていた。
「支払い終わったの?」
「えぇ。お酒ですか?」
「飲む?」
「この時間からフルボトルはきつくないですか?」
「その分君が飲むから良いかと思ったんだけど。」
「今日はやめておきましょう。水を買ってますから。」
「重くない?持つよ。」
史はそういって清子の荷物を持つと、そのまま二人でスーパーを出た。
駅のコインロッカーには冷蔵が出来るコインロッカーがある。それにアサリなどを入れていたのだろう。それを使ってパスタを作る。
スープやサラダを並べて二人で口を付けた。
「美味しい。」
「貝は美味しいですよね。蛤とかもとれます。鮮度が良ければ刺身で食べたりすることも出来るし……。」
部屋は少し狭くなったような気がするが、それでも史らしいきっちりと整頓された部屋だと思った。打ちっ放しのコンクリートの壁は、おしゃれに感じる。
今度の部屋は1Kタイプでベッドが部屋の中にある。だが広めに設計してあり、もし二人で住むと言っても不自由はなさそうだ。
食事を終えると清子と史は一緒に食器を片づけて、清子はソファーに腰掛けると、煙草を取り出した。そしてジッポーで火をつけてそれをしまおうとした。すると史がそれを手にする。
「あの……。」
「ん?変わったジッポーだね。久住のセンスかな。」
「……考えてみたら、久住さんに渡すというのも変な話だと思って。」
「そうだね。大事にしていたみたいだから、あっさり久住に手渡したのも俺にはちょっとした違和感になった。」
「すいません。考えなしに行動してしまって。」
清子はそういってそのジッポーを手にする。すると史はその手を握った。
「え……。」
「あいつと寝たことがあるんだろう。」
「……。」
その言葉に清子は首を縦に振る。寝たのは確かだ。それも付き合う前とかではなく、つい最近の話だった。
「史……あの……。」
「あいつの方が良かったとか思わないか。」
「いいえ。」
「そう?俺はいつも嫌がってることをしてると思う。あいつは優しいだろう?」
煙草を灰皿に置くと、清子はその体に手を伸ばした。そして体を寄せる。
「強引なの嫌いじゃないから。」
その言葉に史は清子の体をぎゅっと抱きしめる。
「押さえきれないな。このまま抱きたくなる。」
「シャワー浴びたいです。」
「清子。今抱きたい。俺のモノにしたい。」
史は清子を離すと、灰皿に置かれていた煙草を消す。そして清子の唇にキスをした。舌を絡ませると、清子もそれに答えてきた。
「すごい……顔が真っ赤になって、可愛い。」
「……恥ずかしいです。」
「俺だけのモノだから。」
史はそういってまた清子の唇にキスをした。そしてそのセーターをまくり上げる。
「そう。結婚するのか。」
だからすんなり娘のことで謝罪したのだ。東二にも少しずつ余裕が出てきた証拠だろう。そして清子は一つ問題が解決したようですっきりとした顔をしていた。
「食事はどうする?少し遅くなってしまったね。」
「作ります。今日持って帰ったモノもあるし。」
「そう?だったらうちにくる?新居だけど。」
史はそういって少し笑った。前にすんでいたところは清子が来ることはなかった。だが引っ越してきたところに始めてくるのが清子だというのが嬉しかった。
「買い足すモノがあるかな。」
「お米とかはありますか?」
「それなりにね。調味料なんかも前のところから持ってきた。」
あらかたの話は聞いた。どうして香水なんかを追っているのか。そして大切にしていたジッポーを晶に渡した理由も納得できる。
だがそのマンションの近くにあるスーパーで食材を選びながら、清子の表情は少し浮かない感じがしていた。慣れない葬儀で疲れているのだろう。
「パスタにします。貝がもうシーズンになってきたので。」
「俺に合わせなくても良いよ。食べたいモノを食べたらいい。」
「いいえ。洋食は苦手ですけど、前の職場で手早くすぐに出来るからと教えて貰って、たまに作って食べるんです。」
水菜やキャベツをかごに入れて、また食材に目を移す。その間、史は酒のコーナーにいた。ワインがある。洋酒は飲み慣れていないから苦手だろうが、飲めば今日は返さない。疲れているかもしれないが、今日は離したくなかった。
「あ、昌樹さんですよね。」
そう声をかけられて、史は声をかけられた方をみる。
「はい。」
「あたし、ずっとファンだったんです。コラム楽しみにしてます。」
「ありがとう。」
最近はAV男優の昌樹ではなく、コラムニストの昌樹のほうで声をかけられることも多い。写真は載せていないが、ウェブ情で検索すればすぐに写真が見つかるからだろう。
「握手してもらえませんか。」
「はい。」
手を差し出すと、女性特有のしなやかな手の感触がした。清子にはないものだ。
「あの、聞いても良いですか?」
「何を?」
「先月号のキスの記事なんですけど、あれって……。」
どうやら女性には恋人がいるらしく、史のコラムを見てそれを実践したら恋人が激しく拒絶反応を起こしたらしい。
「あれって本当に気持ちいいんですか?」
「人による。としか言いようがありませんね。俺のコラムは俺の視点で書いています。嫌がる人もいるし、大して気持ちいいと思えない人も居ます。もっと気持ちいいところがあるかもしれないし、それはパートナーと話し合うことですね。性癖ががっちり合う人というのはあまりいないかもしれないし、それでも感情で乗り切れることもあります。」
「そんなモノなんですか。」
「あとは恋人と話し合ってみてください。俺のコラムはあくまで参考資料ですから。」
「ありがとうございます。」
女性はそういって頭を下げると、その場を去っていった。その後ろ姿を見て、史はため息をつく。その言葉は自分にそっくり返ってきているような気がしたからだ。
清子とセックスをすると、正直何もかも忘れられるほど中毒性がある。何度だって入れ込みたくなる。だが清子はそれを求めているのかと思うと、正直わからない。
晶の方が良いとは思わないのだろうか。
「史。」
声をかけられて、史はそちらを向く。すると清子はもう買い物を済ませて荷物を持っていた。
「支払い終わったの?」
「えぇ。お酒ですか?」
「飲む?」
「この時間からフルボトルはきつくないですか?」
「その分君が飲むから良いかと思ったんだけど。」
「今日はやめておきましょう。水を買ってますから。」
「重くない?持つよ。」
史はそういって清子の荷物を持つと、そのまま二人でスーパーを出た。
駅のコインロッカーには冷蔵が出来るコインロッカーがある。それにアサリなどを入れていたのだろう。それを使ってパスタを作る。
スープやサラダを並べて二人で口を付けた。
「美味しい。」
「貝は美味しいですよね。蛤とかもとれます。鮮度が良ければ刺身で食べたりすることも出来るし……。」
部屋は少し狭くなったような気がするが、それでも史らしいきっちりと整頓された部屋だと思った。打ちっ放しのコンクリートの壁は、おしゃれに感じる。
今度の部屋は1Kタイプでベッドが部屋の中にある。だが広めに設計してあり、もし二人で住むと言っても不自由はなさそうだ。
食事を終えると清子と史は一緒に食器を片づけて、清子はソファーに腰掛けると、煙草を取り出した。そしてジッポーで火をつけてそれをしまおうとした。すると史がそれを手にする。
「あの……。」
「ん?変わったジッポーだね。久住のセンスかな。」
「……考えてみたら、久住さんに渡すというのも変な話だと思って。」
「そうだね。大事にしていたみたいだから、あっさり久住に手渡したのも俺にはちょっとした違和感になった。」
「すいません。考えなしに行動してしまって。」
清子はそういってそのジッポーを手にする。すると史はその手を握った。
「え……。」
「あいつと寝たことがあるんだろう。」
「……。」
その言葉に清子は首を縦に振る。寝たのは確かだ。それも付き合う前とかではなく、つい最近の話だった。
「史……あの……。」
「あいつの方が良かったとか思わないか。」
「いいえ。」
「そう?俺はいつも嫌がってることをしてると思う。あいつは優しいだろう?」
煙草を灰皿に置くと、清子はその体に手を伸ばした。そして体を寄せる。
「強引なの嫌いじゃないから。」
その言葉に史は清子の体をぎゅっと抱きしめる。
「押さえきれないな。このまま抱きたくなる。」
「シャワー浴びたいです。」
「清子。今抱きたい。俺のモノにしたい。」
史は清子を離すと、灰皿に置かれていた煙草を消す。そして清子の唇にキスをした。舌を絡ませると、清子もそれに答えてきた。
「すごい……顔が真っ赤になって、可愛い。」
「……恥ずかしいです。」
「俺だけのモノだから。」
史はそういってまた清子の唇にキスをした。そしてそのセーターをまくり上げる。
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