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葬儀
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少し遅くなってしまった。複雑な気持ちのままエレベーターに乗り、帰ろうとしたときに朝倉に声をかけられたのだ。明後日から清子が出勤するが、その際には溜まっている仕事をして欲しい。だから、「pink倶楽部」のオフィスへ行く時間を減らして欲しいとのことだった。
だがこちらにはこちらの仕事がある。それで朝倉と少し言い合っていたのだ。強情な男で、引き下がることを知らない。史は少しため息をつくと外に出る。もうすっかり暗くなっていて、清子はずっとあのカフェにいるのだろうか。そう思いながら駅の近くにあるカフェへ向かった。
カフェでコーヒーを買うと、喫煙所をみる。そしてその中にはいると、清子はボックス席で誰かと話をしているようだった。男に見える。晶ではないだろう。晶はジッポーを手渡されると脱兎のごとく帰って行ったのだから。
そのボックス席に近づくと、そこには清子の向かいに東二と、もう一人女性がいた。女性には見覚えがある。東二と同年代の女性で、グレーのスーツを着ていた。綺麗に化粧をしていて、ホステスにも見えないことはない。
「あら。昌樹君じゃない。」
「ご存じでしたか。」
「あぁ。やっときたのか。」
東二はそういって少し笑う。
「ちょっと他部署の人に捕まってて、遅くなってしまいました。」
「どうぞ。腰掛けてください。」
清子はそういって席を奥に座った。こうして東二と向き合うのは、年末以来かもしれない。あのときは嫌みを言われた。だが今の東二は、違って見える。
「昌樹君。ますは謝らせてくれないか。」
「は?」
意外な言葉だった。東二はコーヒーを避けると、頭を下げた。
「娘のことで……君に誤解をさせるような真似をした。」
「……誤解?」
すると隣の女性もばつが悪そうに史に言う。
「娘が死んだとき、娘のバッグの中にあなたのソフトが入っていた。だからきっとあなたがほかでセックスをしているのが、許せなかったと思っているのでしょう?」
「そうではないのですか。」
「俺があとから入れた。」
その言葉に史は驚いて東二をみる。
「あなたが?」
「娘がずっとトラウマを持っていたのは知っている。それは俺の責任だ。そのトラウマを君がゆっくり解いていったのだろうに、それを俺が嫉妬したんだ。」
意外な言葉だった。清子は知っていたのだろうか。表情は変わらない。
「全ては過去です。謝ってくれなくても良いですから。」
「……。」
「それに、今は清子がいる。あなたの娘以上に好きになれたと思ってますから。」
その言葉に清子は少しうつむいた。こんなに思ってくれているのに、自分がずっと裏切っているから。そしてこんなに素直に謝れる東二が、羨ましくも思えた。
和解をしたように東二と史は、このまま飲みに行こうと言ってきた。だが清子がそれを止める。
「今日は大切な日になるのでしょう?」
二人が結婚をする日だ。それを邪魔してはいけない。
そのとき史の携帯電話がなって、史はそれをみる。相手は愛だった。
「もしもし?え?あぁ……隣にいる。変わろうか?」
史は携帯電話を手にして、清子をみる。
「愛が、君に話があるそうだ。」
「あぁ……香水の件ですね。失礼します。」
清子は携帯電話を手にすると、席を立った。そして少し離れたところで話をしている。
「香水?」
東二の奥さんが不思議そうに史に聞いた。
「あぁ。君は香水の部門だったね。」
「えぇ。だから香りの嗅ぎ分けには自信があるのだけど。」
「大丈夫ですか?こんな喫煙席にいて。」
「大丈夫よ。そんなにヤワじゃないから。」
へらへらと笑うその顔は、昔を思い出す。この人は昔AV女優だった。相当人気のあった女優で、何人モノ男を相手にしてもそれに応えていたのを覚えている。
「それにしてもAV業界も変わったわねぇ。あたしの時は、男が多人数で女が一人なんて珍しかったけど、今は相当な数を相手にするのって珍しくないでしょう?」
「そうですね。ジャンルにも寄りますけど。」
「ア○ルとマ○コに突っ込まれて、口と手で奉仕なんて体力がないと出来なかったのに。」
さすがに周りにいる人たちの目が気になったのだろう。東二がそれを止める。
「淳子。それくらいにしておけ。」
「あら?普通の会話じゃない?ねぇ。知ってる?今、あたし香水の部門にいるんだけど、香水って昔は媚薬だったのよ。」
「媚薬ですか?」
「だって香水の成分に、生殖器の成分が入っているモノもあるもの。動物のモノは匂いがキツいからね。」
そのとき清子が席に戻ってきた。だがその表情は暗い。
「愛が君に何の話を?」
「ちょっと調べていることがあって。」
「香水のこと?」
東二の奥さんがそれに食いついてきた。だが清子はため息をつくと、鞄のポケットから香水の小瓶を取り出す。
「愛さんにさっき会ったんですけど、この香水のことを知らないかって聞いたんです。」
「愛ならわかるかもしれないね。」
「でも愛さんはわからないから、これから撮影するメイクさんに聞いてみると言ってたんですけど……やっぱりわからないと。」
透明な液体だ。あまり飾らないようなモノに見える。
「誰に……。」
誰に愛に聞いたらいいと言われたのだろう。それにどうしてこの香水のことを調べているのか。聞きたいことがあるのに、東二の奥さんが話に加わってきた。
「えっと……徳成さんだっけ?」
「はい。」
「その香水、貸してくれないかしら。」
「えぇ。どうぞ。」
清子はそれを渡すと、奥さんはその蓋を開けて匂いを嗅ぐ。そして液体をガラス越しにじっと見ていた。
「専門家なんですか?」
「今は化粧品会社の香水の開発をしているみたいだ。」
「あぁ……だから。」
すると奥さんはその香水を清子に手渡す。
「これは廃盤になっている香水ね。時がたってるから、匂いも少し飛んでいるみたいだけど。」
「わかりますか?」
「えぇ。おそらく外国のモノ。今は手に入らないわ。」
「どこの会社とかわかりますか。」
「ヨーロッパの方ね。えっと……そうね。この会社ね。」
そういって携帯電話のウェブサイトを開く。
「これに近い匂いのモノだったら、まだ発売されている。手に入れることも出来るわ。でも、たぶんこの国では発売されていない。手に入れるには現地へ行かないといけないけど。」
「そうでしたか……ありがとうございます。」
清子はそういって少し笑顔を浮かべた。
おそらく祖母、または祖父はその外国の人と繋がりがあった。だから手に入れられたのだろう。
だがこちらにはこちらの仕事がある。それで朝倉と少し言い合っていたのだ。強情な男で、引き下がることを知らない。史は少しため息をつくと外に出る。もうすっかり暗くなっていて、清子はずっとあのカフェにいるのだろうか。そう思いながら駅の近くにあるカフェへ向かった。
カフェでコーヒーを買うと、喫煙所をみる。そしてその中にはいると、清子はボックス席で誰かと話をしているようだった。男に見える。晶ではないだろう。晶はジッポーを手渡されると脱兎のごとく帰って行ったのだから。
そのボックス席に近づくと、そこには清子の向かいに東二と、もう一人女性がいた。女性には見覚えがある。東二と同年代の女性で、グレーのスーツを着ていた。綺麗に化粧をしていて、ホステスにも見えないことはない。
「あら。昌樹君じゃない。」
「ご存じでしたか。」
「あぁ。やっときたのか。」
東二はそういって少し笑う。
「ちょっと他部署の人に捕まってて、遅くなってしまいました。」
「どうぞ。腰掛けてください。」
清子はそういって席を奥に座った。こうして東二と向き合うのは、年末以来かもしれない。あのときは嫌みを言われた。だが今の東二は、違って見える。
「昌樹君。ますは謝らせてくれないか。」
「は?」
意外な言葉だった。東二はコーヒーを避けると、頭を下げた。
「娘のことで……君に誤解をさせるような真似をした。」
「……誤解?」
すると隣の女性もばつが悪そうに史に言う。
「娘が死んだとき、娘のバッグの中にあなたのソフトが入っていた。だからきっとあなたがほかでセックスをしているのが、許せなかったと思っているのでしょう?」
「そうではないのですか。」
「俺があとから入れた。」
その言葉に史は驚いて東二をみる。
「あなたが?」
「娘がずっとトラウマを持っていたのは知っている。それは俺の責任だ。そのトラウマを君がゆっくり解いていったのだろうに、それを俺が嫉妬したんだ。」
意外な言葉だった。清子は知っていたのだろうか。表情は変わらない。
「全ては過去です。謝ってくれなくても良いですから。」
「……。」
「それに、今は清子がいる。あなたの娘以上に好きになれたと思ってますから。」
その言葉に清子は少しうつむいた。こんなに思ってくれているのに、自分がずっと裏切っているから。そしてこんなに素直に謝れる東二が、羨ましくも思えた。
和解をしたように東二と史は、このまま飲みに行こうと言ってきた。だが清子がそれを止める。
「今日は大切な日になるのでしょう?」
二人が結婚をする日だ。それを邪魔してはいけない。
そのとき史の携帯電話がなって、史はそれをみる。相手は愛だった。
「もしもし?え?あぁ……隣にいる。変わろうか?」
史は携帯電話を手にして、清子をみる。
「愛が、君に話があるそうだ。」
「あぁ……香水の件ですね。失礼します。」
清子は携帯電話を手にすると、席を立った。そして少し離れたところで話をしている。
「香水?」
東二の奥さんが不思議そうに史に聞いた。
「あぁ。君は香水の部門だったね。」
「えぇ。だから香りの嗅ぎ分けには自信があるのだけど。」
「大丈夫ですか?こんな喫煙席にいて。」
「大丈夫よ。そんなにヤワじゃないから。」
へらへらと笑うその顔は、昔を思い出す。この人は昔AV女優だった。相当人気のあった女優で、何人モノ男を相手にしてもそれに応えていたのを覚えている。
「それにしてもAV業界も変わったわねぇ。あたしの時は、男が多人数で女が一人なんて珍しかったけど、今は相当な数を相手にするのって珍しくないでしょう?」
「そうですね。ジャンルにも寄りますけど。」
「ア○ルとマ○コに突っ込まれて、口と手で奉仕なんて体力がないと出来なかったのに。」
さすがに周りにいる人たちの目が気になったのだろう。東二がそれを止める。
「淳子。それくらいにしておけ。」
「あら?普通の会話じゃない?ねぇ。知ってる?今、あたし香水の部門にいるんだけど、香水って昔は媚薬だったのよ。」
「媚薬ですか?」
「だって香水の成分に、生殖器の成分が入っているモノもあるもの。動物のモノは匂いがキツいからね。」
そのとき清子が席に戻ってきた。だがその表情は暗い。
「愛が君に何の話を?」
「ちょっと調べていることがあって。」
「香水のこと?」
東二の奥さんがそれに食いついてきた。だが清子はため息をつくと、鞄のポケットから香水の小瓶を取り出す。
「愛さんにさっき会ったんですけど、この香水のことを知らないかって聞いたんです。」
「愛ならわかるかもしれないね。」
「でも愛さんはわからないから、これから撮影するメイクさんに聞いてみると言ってたんですけど……やっぱりわからないと。」
透明な液体だ。あまり飾らないようなモノに見える。
「誰に……。」
誰に愛に聞いたらいいと言われたのだろう。それにどうしてこの香水のことを調べているのか。聞きたいことがあるのに、東二の奥さんが話に加わってきた。
「えっと……徳成さんだっけ?」
「はい。」
「その香水、貸してくれないかしら。」
「えぇ。どうぞ。」
清子はそれを渡すと、奥さんはその蓋を開けて匂いを嗅ぐ。そして液体をガラス越しにじっと見ていた。
「専門家なんですか?」
「今は化粧品会社の香水の開発をしているみたいだ。」
「あぁ……だから。」
すると奥さんはその香水を清子に手渡す。
「これは廃盤になっている香水ね。時がたってるから、匂いも少し飛んでいるみたいだけど。」
「わかりますか?」
「えぇ。おそらく外国のモノ。今は手に入らないわ。」
「どこの会社とかわかりますか。」
「ヨーロッパの方ね。えっと……そうね。この会社ね。」
そういって携帯電話のウェブサイトを開く。
「これに近い匂いのモノだったら、まだ発売されている。手に入れることも出来るわ。でも、たぶんこの国では発売されていない。手に入れるには現地へ行かないといけないけど。」
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