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遺書
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喫煙所にはいると、他にも人がいる。週刊誌を担当している男で、いつも目にする男だ。
「よう。ついに勤務中にここにきたか。」
週刊誌は校了前で、どうやら男は泊まり込んでいるらしい。だから一服するくらいは目を瞑っているのだろう。
「連絡を取らないといけないところがあってな。」
「ふーん。」
晶は煙草に火をつけると携帯電話を取り出す。そして電話帳のメモリーを呼び出した。そして通話を押すと、数回のコールが流れたあと男の声がした。
「あ、俺、俺。久しぶりだな。おう。こっち帰ってきてる。お前は?まだ歌ってる?……ふーん。たまには行くよ。チケット融通してくれよ。どうせ人気なんだろ。お前のバンド。」
昔なじみに連絡をしているのだろう。そう思いながら男は煙草を吸い終わると、晶に少し合図をして喫煙所を出て行った。すると向こうから清子の姿が見える。どうやら「pink倶楽部」のオフィスから出てきたようだ。
「徳成さん。」
「あぁ……。お疲れさまです。」
「徳成さんも煙草?」
「いいえ。」
「そっちは大変だな。そっちの編集長に話を聞いても良い感じ?」
「あー。女性とマンションから出てきたあれですか?」
「AV男優の昌樹はまだ人気だから。」
どんなネタでも記事にしたいと思っているのだろう。そうではなければ週刊誌などやっていけない。
「マンションを寮にしているんですけど、隣に住んでいる女性とたまたま同じタイミングで出てきただけでネタになるんですか?」
すると男は頭をかく。
「そうなの?」
「本人はそう言ってますけど。」
「何だ。肩すかしか。」
男はそう言ってつまらなそうに、その場をあとにした。引退して数年たっているのに、まだ史は人気なのだ。それをやっと実感した。そしてその隣に自分などがいていいのだろうか。不安が襲いかかる。
「徳成さん。」
後ろから声をかけられて振り返ると、そこには香子の姿があった。
「お疲れさまです。」
「どうしたの?トイレ行ってたんじゃないの?」
わざとそう言った。トイレなんかではないことは香子でもわかっていたのに。
「嘘。気になるんでしょ?」
「えぇ。」
「あたしも気になったの。ねぇ。自販機に行かない?新製品の紅茶、評判が良いよ。」
「紅茶って甘いですよね。」
「甘くないのもあるよ。」
香子はそう言って清子を連れ出すように、喫煙所の方へ向かう。その向こうに自販機があるのだ。ちらっとアクリル版の向こうの晶をみる。いつものへらへらした笑いはなく、真剣な顔つきだ。
「あんな表情も出来るんだね。」
「そうですね。あぁ、でも写真を撮っているときはあんな感じでしょうか。」
「へぇ。あたし、取材に同行したことはなかったからさ、あんな真剣な顔初めて見るわ。」
香子は春にここを辞める。仁の行く街にある地元のタウン誌に籍を置くのだ。月に一度発行されるタウン誌は、割と部数が多い。遊ぶスポットや食べるところやニューオープンの店の紹介などを載せているらしい。その中には、風俗の紹介もある。香子がそこに雇われたのは、「pink倶楽部」でAV女優や男優のインタビューを引き受けていたからだろう。精神的に不安定な人が多いこの世界では、香子のように人当たりがいい人は重宝される。
赤い自動販売機の前で、香子はホットのミルクティーが入ったペットボトルを手にする。そして清子も何にしようかと見ていたときだった。
喫煙所から晶が出てきた。思ったよりも早かったようで、清子たちは驚いて晶をみる。
「よう。コーヒー?俺もおごってよ。財布、オフィスに忘れてきたし。」
いつも通りの顔だ。清子は無糖と書いている紅茶のボタンを押すと、携帯電話をかざした。そして晶にも勧める。
「どれがいいんですか。」
「マジでおごってくれるの?っと、炭酸にしようかな。」
「この寒いのに。」
「いつも欲しい訳じゃねぇけど、たまに飲みたくなるんだよ。」
晶も自販機のボタンを押すと、清子はまた携帯電話をかざす。そろそろチャージしなくては。そう思いながら、残高をみる。
「清子。例の件、話ついたから。」
ペットボトルの炭酸を手にして晶はそう言うと、香子が詰め寄るように晶に聞いた。
「何で?どうやって話を付けたの?」
「落ちつけって。話はオフィスでするから。」
晶はそのままペットボトルを手にして、オフィスに戻っていく。
清子がオフィスに戻り、パソコンを開く。そしてSNSを開くと、驚いたことに史の隣にいたその女性からの書き込みがあった。
「誤解を招くような行動をしてしまったことに、「pink倶楽部」の編集者、及び、読者様にご迷惑をかけました。」と言う感じの言葉だ。
ここは会社の寮が数部屋あり、同じタイミングででることがあった史と出ることがあったこと。それが朝帰りをするように見えたこと。少し考えれば、こんなことにならなかったと反省の言葉も添えられていた。
その謝罪文にユーザーは納得した人がほとんどだったが、わずかには「言わせたのではないか」とか「女だけを悪者にしている。男がどうして何も言わないのか」という書き込みもあった。それは確かにそうかもしれない。
だが史の上の上司も、これ以上反論することはない、と言う見解だ。火種はやがて収束する。それを待つしかないのだから。
そして史の元に人事部から連絡があった。
「はい……。え……。あぁ……わかりました。土曜日にでもそうさせていただきます。」
電話を切って史はため息をつく。
「どうしたんだよ。編集長。」
「寮がいくつかあるから、他に移ってくれないかとね。今のところは、どっちにしても住んでいる場所もばれてしまったから。」
「だろうな。」
晶は笑いながら、さっき映してきた自分の写真をパソコン上でチェックしていた。
「その……村山さんって方はどうするんですか?」
「あぁ……村山さんね。あっちの会社が、相当厳しく処分したらしい。」
「え?処分?撮られただけで?」
その言葉に周りがざわめいた。だが冷静だったのは、晶だけだったように思える。そうし向けたのは、晶だったからだ。
「よう。ついに勤務中にここにきたか。」
週刊誌は校了前で、どうやら男は泊まり込んでいるらしい。だから一服するくらいは目を瞑っているのだろう。
「連絡を取らないといけないところがあってな。」
「ふーん。」
晶は煙草に火をつけると携帯電話を取り出す。そして電話帳のメモリーを呼び出した。そして通話を押すと、数回のコールが流れたあと男の声がした。
「あ、俺、俺。久しぶりだな。おう。こっち帰ってきてる。お前は?まだ歌ってる?……ふーん。たまには行くよ。チケット融通してくれよ。どうせ人気なんだろ。お前のバンド。」
昔なじみに連絡をしているのだろう。そう思いながら男は煙草を吸い終わると、晶に少し合図をして喫煙所を出て行った。すると向こうから清子の姿が見える。どうやら「pink倶楽部」のオフィスから出てきたようだ。
「徳成さん。」
「あぁ……。お疲れさまです。」
「徳成さんも煙草?」
「いいえ。」
「そっちは大変だな。そっちの編集長に話を聞いても良い感じ?」
「あー。女性とマンションから出てきたあれですか?」
「AV男優の昌樹はまだ人気だから。」
どんなネタでも記事にしたいと思っているのだろう。そうではなければ週刊誌などやっていけない。
「マンションを寮にしているんですけど、隣に住んでいる女性とたまたま同じタイミングで出てきただけでネタになるんですか?」
すると男は頭をかく。
「そうなの?」
「本人はそう言ってますけど。」
「何だ。肩すかしか。」
男はそう言ってつまらなそうに、その場をあとにした。引退して数年たっているのに、まだ史は人気なのだ。それをやっと実感した。そしてその隣に自分などがいていいのだろうか。不安が襲いかかる。
「徳成さん。」
後ろから声をかけられて振り返ると、そこには香子の姿があった。
「お疲れさまです。」
「どうしたの?トイレ行ってたんじゃないの?」
わざとそう言った。トイレなんかではないことは香子でもわかっていたのに。
「嘘。気になるんでしょ?」
「えぇ。」
「あたしも気になったの。ねぇ。自販機に行かない?新製品の紅茶、評判が良いよ。」
「紅茶って甘いですよね。」
「甘くないのもあるよ。」
香子はそう言って清子を連れ出すように、喫煙所の方へ向かう。その向こうに自販機があるのだ。ちらっとアクリル版の向こうの晶をみる。いつものへらへらした笑いはなく、真剣な顔つきだ。
「あんな表情も出来るんだね。」
「そうですね。あぁ、でも写真を撮っているときはあんな感じでしょうか。」
「へぇ。あたし、取材に同行したことはなかったからさ、あんな真剣な顔初めて見るわ。」
香子は春にここを辞める。仁の行く街にある地元のタウン誌に籍を置くのだ。月に一度発行されるタウン誌は、割と部数が多い。遊ぶスポットや食べるところやニューオープンの店の紹介などを載せているらしい。その中には、風俗の紹介もある。香子がそこに雇われたのは、「pink倶楽部」でAV女優や男優のインタビューを引き受けていたからだろう。精神的に不安定な人が多いこの世界では、香子のように人当たりがいい人は重宝される。
赤い自動販売機の前で、香子はホットのミルクティーが入ったペットボトルを手にする。そして清子も何にしようかと見ていたときだった。
喫煙所から晶が出てきた。思ったよりも早かったようで、清子たちは驚いて晶をみる。
「よう。コーヒー?俺もおごってよ。財布、オフィスに忘れてきたし。」
いつも通りの顔だ。清子は無糖と書いている紅茶のボタンを押すと、携帯電話をかざした。そして晶にも勧める。
「どれがいいんですか。」
「マジでおごってくれるの?っと、炭酸にしようかな。」
「この寒いのに。」
「いつも欲しい訳じゃねぇけど、たまに飲みたくなるんだよ。」
晶も自販機のボタンを押すと、清子はまた携帯電話をかざす。そろそろチャージしなくては。そう思いながら、残高をみる。
「清子。例の件、話ついたから。」
ペットボトルの炭酸を手にして晶はそう言うと、香子が詰め寄るように晶に聞いた。
「何で?どうやって話を付けたの?」
「落ちつけって。話はオフィスでするから。」
晶はそのままペットボトルを手にして、オフィスに戻っていく。
清子がオフィスに戻り、パソコンを開く。そしてSNSを開くと、驚いたことに史の隣にいたその女性からの書き込みがあった。
「誤解を招くような行動をしてしまったことに、「pink倶楽部」の編集者、及び、読者様にご迷惑をかけました。」と言う感じの言葉だ。
ここは会社の寮が数部屋あり、同じタイミングででることがあった史と出ることがあったこと。それが朝帰りをするように見えたこと。少し考えれば、こんなことにならなかったと反省の言葉も添えられていた。
その謝罪文にユーザーは納得した人がほとんどだったが、わずかには「言わせたのではないか」とか「女だけを悪者にしている。男がどうして何も言わないのか」という書き込みもあった。それは確かにそうかもしれない。
だが史の上の上司も、これ以上反論することはない、と言う見解だ。火種はやがて収束する。それを待つしかないのだから。
そして史の元に人事部から連絡があった。
「はい……。え……。あぁ……わかりました。土曜日にでもそうさせていただきます。」
電話を切って史はため息をつく。
「どうしたんだよ。編集長。」
「寮がいくつかあるから、他に移ってくれないかとね。今のところは、どっちにしても住んでいる場所もばれてしまったから。」
「だろうな。」
晶は笑いながら、さっき映してきた自分の写真をパソコン上でチェックしていた。
「その……村山さんって方はどうするんですか?」
「あぁ……村山さんね。あっちの会社が、相当厳しく処分したらしい。」
「え?処分?撮られただけで?」
その言葉に周りがざわめいた。だが冷静だったのは、晶だけだったように思える。そうし向けたのは、晶だったからだ。
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