196 / 289
実家
195
しおりを挟む
晶の家は会社から歩いて十分ほど。その途中に二十四時間開いているスーパーがあった。正月らしくオードブルなどもあったが、パーティをするわけではないのだ。
二十四時間を歌っているスーパーだが、こんな夜中では生鮮品はそんなにそろっていない。その上野菜はあるが、割と割高だと思う。それにどれだけ調味料があるのかわからない。まぁ、無ければまた買いに来ればいいと、冷凍のうどんを手にした。炊飯器もあるか、鍋もあるかなどは聞いていなかったからだ。
そして指定されたアパートへ向かう。あまり新しいアパートではないが、駐車場込みだというアパートは裏手が寺になっていて、墓地が見える。だから安いのだろう。
一階は駐車場になり、二階以降が住宅スペースになる。その三階が晶の家だ。階段を上がって二つ目の部屋。そこに鍵を挿すと、隣の部屋のドアが開いた。
「もういい!出ていくから!」
「待てよ。理彩。子供はどうすんだよ。」
「あんたの子供なんか、産みたくもないわ!」
そう言って痩せた金髪の女が出ていった。騒がしい家だな。そう思いながら、ドアを開く。
電気をつけると、思ったよりも狭い部屋だとわかった。部屋の隅にきちんと畳まれた布団。テーブルと、ミニコンポ。そしてカメラの機材。パソコンはない。おそらくいつか見たノートパソコン以外は持っていなかったのだろう。
畳敷きで、ベランダはない。おそらく一つある窓に干すのだろう。どちらにしても一人暮らしではないときつい部屋だ。隣のカップルがここと同じ間取りに住んでいるとすれば、四六時中顔を合わせないといけないだろう。
清子は買ってきた食材を冷蔵庫に入れる。思ったよりも食材はあるようだ。ウィンナーや卵、冷凍できる野菜は冷凍庫にあっていつでも食べれるようになっている。
炊飯器はない。やはりうどんにして良かったと思った。清子はコートを脱ぐと、エアコンのスイッチを入れた。ワンルームの狭い部屋だとすぐに暖かくなりそうだ。
そしてうどんの汁を作り始める。豚肉や、蒲鉾、ネギ、白菜を入れる。お湯が沸くまで、キャベツとピーマンとウィンナーを切りフライパンで炒める。塩とこしょうで味を付け、少し醤油を入れれば香りが高くなる。
そしてそれを皿に盛ると、今度はうどん用にお湯を沸かした。そのとき、部屋の玄関のドアが開いた。
「ただいまー。んーいい香りがするなぁ。」
「お帰りなさい。うどん作っておきましたよ。あれ?史は来ないんですか?」
帰ってきたのは晶一人だった。すると晶は頭をかいて、清子の方へ近づく。
「何か総務部に社長が居てさ、話があるって連れて行ったわ。」
「え?」
「前から言われてる話を進めとこうと思ったんじゃねぇ?」
「話?」
お湯が沸いて、清子はうどんをその中に三玉入れた。
「新聞社と合同で雑誌出すんだろ?タウン誌。」
「タウン誌?」
「既存のタウン誌がうちでも出しているけど、新聞社の方も出しているんだよな。新聞社の方は、フリーペーパーだから広告ばっかだけど。それを合併して新規でタウン誌を出すみたいだ。」
「それに史を?」
「フリーペーパーはやっぱ宣伝が中心だろ?これまでの「pink倶楽部」も結構宣伝が多くてつてが広いんだろうって思われてるんだろうな。」
「つてって……AV関係のつてですか?」
「それだけじゃねぇよ。編集長ってあぁみえて、出版業界にも顔が広いみたいだ。秋野っていうライターのコラムを載せれるようになったのは、編集長の腕だったみたいだし。」
その言葉に、清子は箸を止めた。そして晶の方をみる。
「秋野さんと史は連絡が取れるんですか?」
「秋野が書いてるところだったら、担当の編集だけじゃなくて編集長も連絡が取れるようになってんだろ。担当が休みの時は、編集長が行くのが当たり前だし。」
秋野というフリーライターと春川という作家は同一人物だ。それをきっと史は知っている。なのに黙っていたのだ。
「……どうして黙ってたんでしょう。」
「何が?」
「私が……春川さんに渡したいものがあると知っていたのに、それを知らないふりをしていた理由がわからない。」
すると晶が頭をかいたが、傷口に手が当たったのだろう。その手をよけた。
「秋野と春川が一緒の人だとお前は知ってんのか。」
「はい。」
「でも他では知られてはいけないことだ。春川は、自分の正体がばれたら書くのを辞めると言っている。そんなことになれば、出版業界自体の損失だろう。」
「……。」
「それを考えて言ってなかったんだろうな。」
そうなのだろうか。うどんが湯がけてざるに移す。すると湯気で眼鏡が曇る。眼鏡を外して、そのうどんを見た。
「でも……こっちにはこっちの事情がある。編集長にさ、早いところ春川に連絡を取ってもらった方が良い。」
「どうして?」
「そりゃ……人の生死の問題だしな。」
その言葉に清子が晶に詰め寄る。
「誰の生死ですか。もしかして……。」
「落ち着け。落ち付けって。」
体が近い。胸が触れそうだ。こんな状態で迫られて、手を出さない男が居るだろうか。
思わず清子の肩に手を置いて、引き離そうとした。だがそのとき腕に筋肉痛のような痛みを感じる。
「いてっ。」
「え?どこか打ちましたか。」
座り込んでいる晶の前で清子がしゃがみ込んで様子を見る。これも無意識だったら、本当にたちが悪い。
「大丈夫だ。筋肉痛みたいな痛みが……。」
「事故はあとで来ますからね。立てますか?」
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。史が来たのだろう。清子は手をさしのべて晶を立ち上がらせると、玄関へ向かった。
「はい。」
そこにはやはり史の姿があった。手には筒のようなものがある。
「遅くなった。悪いね。」
「いいえ。あの……それは?」
「あとで説明するよ。良い匂いがするね。何を作ったの?」
「うどんです。消化が良いものの方が良いかと。」
「だと思うよ。上がらせてもらう。あぁ。ここに来るときに、ゆずを買った。レモネードの要領で、ゆずで出来ないかな。」
「ゆず湯みたいなものですか。出来ると思いますよ。」
「久住の様子はどう?」
「痛みが出てきてるみたいです。」
さっきうずくまってしまったのだ。さっさとうどんを食べさせて、薬を飲ませた方が良い。
二十四時間を歌っているスーパーだが、こんな夜中では生鮮品はそんなにそろっていない。その上野菜はあるが、割と割高だと思う。それにどれだけ調味料があるのかわからない。まぁ、無ければまた買いに来ればいいと、冷凍のうどんを手にした。炊飯器もあるか、鍋もあるかなどは聞いていなかったからだ。
そして指定されたアパートへ向かう。あまり新しいアパートではないが、駐車場込みだというアパートは裏手が寺になっていて、墓地が見える。だから安いのだろう。
一階は駐車場になり、二階以降が住宅スペースになる。その三階が晶の家だ。階段を上がって二つ目の部屋。そこに鍵を挿すと、隣の部屋のドアが開いた。
「もういい!出ていくから!」
「待てよ。理彩。子供はどうすんだよ。」
「あんたの子供なんか、産みたくもないわ!」
そう言って痩せた金髪の女が出ていった。騒がしい家だな。そう思いながら、ドアを開く。
電気をつけると、思ったよりも狭い部屋だとわかった。部屋の隅にきちんと畳まれた布団。テーブルと、ミニコンポ。そしてカメラの機材。パソコンはない。おそらくいつか見たノートパソコン以外は持っていなかったのだろう。
畳敷きで、ベランダはない。おそらく一つある窓に干すのだろう。どちらにしても一人暮らしではないときつい部屋だ。隣のカップルがここと同じ間取りに住んでいるとすれば、四六時中顔を合わせないといけないだろう。
清子は買ってきた食材を冷蔵庫に入れる。思ったよりも食材はあるようだ。ウィンナーや卵、冷凍できる野菜は冷凍庫にあっていつでも食べれるようになっている。
炊飯器はない。やはりうどんにして良かったと思った。清子はコートを脱ぐと、エアコンのスイッチを入れた。ワンルームの狭い部屋だとすぐに暖かくなりそうだ。
そしてうどんの汁を作り始める。豚肉や、蒲鉾、ネギ、白菜を入れる。お湯が沸くまで、キャベツとピーマンとウィンナーを切りフライパンで炒める。塩とこしょうで味を付け、少し醤油を入れれば香りが高くなる。
そしてそれを皿に盛ると、今度はうどん用にお湯を沸かした。そのとき、部屋の玄関のドアが開いた。
「ただいまー。んーいい香りがするなぁ。」
「お帰りなさい。うどん作っておきましたよ。あれ?史は来ないんですか?」
帰ってきたのは晶一人だった。すると晶は頭をかいて、清子の方へ近づく。
「何か総務部に社長が居てさ、話があるって連れて行ったわ。」
「え?」
「前から言われてる話を進めとこうと思ったんじゃねぇ?」
「話?」
お湯が沸いて、清子はうどんをその中に三玉入れた。
「新聞社と合同で雑誌出すんだろ?タウン誌。」
「タウン誌?」
「既存のタウン誌がうちでも出しているけど、新聞社の方も出しているんだよな。新聞社の方は、フリーペーパーだから広告ばっかだけど。それを合併して新規でタウン誌を出すみたいだ。」
「それに史を?」
「フリーペーパーはやっぱ宣伝が中心だろ?これまでの「pink倶楽部」も結構宣伝が多くてつてが広いんだろうって思われてるんだろうな。」
「つてって……AV関係のつてですか?」
「それだけじゃねぇよ。編集長ってあぁみえて、出版業界にも顔が広いみたいだ。秋野っていうライターのコラムを載せれるようになったのは、編集長の腕だったみたいだし。」
その言葉に、清子は箸を止めた。そして晶の方をみる。
「秋野さんと史は連絡が取れるんですか?」
「秋野が書いてるところだったら、担当の編集だけじゃなくて編集長も連絡が取れるようになってんだろ。担当が休みの時は、編集長が行くのが当たり前だし。」
秋野というフリーライターと春川という作家は同一人物だ。それをきっと史は知っている。なのに黙っていたのだ。
「……どうして黙ってたんでしょう。」
「何が?」
「私が……春川さんに渡したいものがあると知っていたのに、それを知らないふりをしていた理由がわからない。」
すると晶が頭をかいたが、傷口に手が当たったのだろう。その手をよけた。
「秋野と春川が一緒の人だとお前は知ってんのか。」
「はい。」
「でも他では知られてはいけないことだ。春川は、自分の正体がばれたら書くのを辞めると言っている。そんなことになれば、出版業界自体の損失だろう。」
「……。」
「それを考えて言ってなかったんだろうな。」
そうなのだろうか。うどんが湯がけてざるに移す。すると湯気で眼鏡が曇る。眼鏡を外して、そのうどんを見た。
「でも……こっちにはこっちの事情がある。編集長にさ、早いところ春川に連絡を取ってもらった方が良い。」
「どうして?」
「そりゃ……人の生死の問題だしな。」
その言葉に清子が晶に詰め寄る。
「誰の生死ですか。もしかして……。」
「落ち着け。落ち付けって。」
体が近い。胸が触れそうだ。こんな状態で迫られて、手を出さない男が居るだろうか。
思わず清子の肩に手を置いて、引き離そうとした。だがそのとき腕に筋肉痛のような痛みを感じる。
「いてっ。」
「え?どこか打ちましたか。」
座り込んでいる晶の前で清子がしゃがみ込んで様子を見る。これも無意識だったら、本当にたちが悪い。
「大丈夫だ。筋肉痛みたいな痛みが……。」
「事故はあとで来ますからね。立てますか?」
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。史が来たのだろう。清子は手をさしのべて晶を立ち上がらせると、玄関へ向かった。
「はい。」
そこにはやはり史の姿があった。手には筒のようなものがある。
「遅くなった。悪いね。」
「いいえ。あの……それは?」
「あとで説明するよ。良い匂いがするね。何を作ったの?」
「うどんです。消化が良いものの方が良いかと。」
「だと思うよ。上がらせてもらう。あぁ。ここに来るときに、ゆずを買った。レモネードの要領で、ゆずで出来ないかな。」
「ゆず湯みたいなものですか。出来ると思いますよ。」
「久住の様子はどう?」
「痛みが出てきてるみたいです。」
さっきうずくまってしまったのだ。さっさとうどんを食べさせて、薬を飲ませた方が良い。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる