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鍵
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お茶をテーブルに置くと、晶はふとベランダを見た。夕べ使ったタオルなんかが干されている。数が多いのは、夕べだけではなく洗濯をする暇もなかったのだろう。晶たちが帰ったあと、洗濯や掃除をしたのだ。部屋が綺麗になっている。
とすると、風呂に入ったので今日身につけている下着は晶が選んだものではないだろう。だが下着は目に付かない。晶はカメラを置くとソファーから立ち上がると、玄関の方へ向かった。
どこへ行くのだろう。トイレにでも行くのだろうかと思った。だが晶はトイレの横にある風呂場のドアを開けた。
「ちょっと……。」
思わず立ち上がり、晶を止めようとした。
「お、やっぱ干してたか。」
脱衣所には洗面をするための水道と、洗濯機。その上に下着を干していた。そしてその黒い下着を手にする。
「やめてくださいよ。」
慌てて入ってきた清子は晶に詰め寄るように、その下着を奪い取ろうとした。しかし晶はそんな清子に背を向けて、その下着を広げる。
「もう乾いてるな。でもこんなの身につけてたの知ったら、編集長も俺が居ても盛りたくなるわ。」
その言葉に清子の動きが止まる。夕べ、これを身につけていたのを知った史が見たいと言って脱がせてきたのだ。もし晶があの場にいなければきっとセックスをしていた。それを聞いていたのだろうか。
「知ってたんですか?」
「俺一人帰らせたら、やるつもりだったんだろ?死ぬと思ったから、俺も帰ったんだけどな。」
「……。」
「三大欲求って知ってるか?食欲、睡眠欲、性欲。睡眠欲が一番強くて、それから食欲。満たされたら性欲になるって言うんだけどさ。それすっ飛ばして、性欲を満たしたりしたら死ぬだろ?」
「だから、二人で帰ったんですか?」
「結構編集長も自分を押さえられないところがあるんだろうな。こんな下着がちらっと見えただけで、盛ろうとするんだし。」
「……史のことを思って?」
「半分はな。あとの半分は嫉妬。」
「嫉妬?」
すると、晶は清子の方を向いた。すると少し距離が近くて、清子は後ろにのけぞる。だがその二の腕をつかんで、晶は清子を見下ろす。
何をしたいのかわかる。だからうつむいた。だがその視線の先にその黒い下着がある。
「どうでも良いから、それを返して。」
冷静に言える。その下着がそうさせてくれる。
「編集長は俺が買ったって知らなかった。何で俺が買ったって言わないんだよ。」
「言える訳ないですよ。言えばあのホテルの部屋にいたことだってわかってしまうし……。」
「俺に手を出されてるのも何で言わないの?」
「……それは……。」
「俺のことも求めてるんだろ?清子。良いからこっち向けよ。」
「やです。」
そのとき部屋に置いている携帯電話が鳴った音がする。それは、清子のモノだった。史からかもしれない。そう思った清子はその場から去ろうと、足を外に向けようとした。だがそれを晶が止める。
「清子。」
無理矢理だった。清子の手を引いて、壁に清子を押しつける。求められたことなどない。いつも無理矢理だった。怯えている顔、泣きそうになっている目が堪らない。だが晶はそのうつむいている顔に向けて、清子に言う。
「抵抗しろよ。ヤクザに抵抗したみたいに、俺を抵抗して編集長に連絡を取ればいいだろ?本当に嫌ならそうしろよ。」
自分の気持ちだけを考えたらそうされたくない。だから腕をつかむ手に力が入る。
「痛い……。」
そのとき清子の頬に涙が落ちた。その頬に晶は手を伸ばして拭うと、その頬に唇を寄せる。そして清子と目を合わせる。
「本当は昨日、連れて帰りたかったんだ。お前が好きだから。清子。こっち向いて。」
清子の頬から顎に手を伸ばして、晶の方を向かせる。そして晶はゆっくり唇を重ねてその唇を離す。
「……久住さん……あの……。」
「今更やめれるか。どれだけ我慢してたと思ってんだ。」
自分の横で史に微笑みかける顔や、笑い顔や、すべてが自分のものではないのに自分のものにしたかった。
下着が床に落ちた。そして清子の顔を包み込むように両手で覆うと、また唇を重ねる。だが強情に清子は口を閉じたままだった。
「口を開けろよ。」
「やです……あの……。」
「言っただろ?今更やめれないって。」
顎に手を当てて口を開けさせると、舌を絡ませた。もう清子が泣いていようと、抵抗しようと、止める気はなかった。
頭がまだぼんやりとする。どうやらずっと寝ていたようだ。広いベッドの上で、ベッドサイドにある目覚まし時計を見た。もう昼に近い時間だった。こんなに長く寝たのは久し振りだと思う。
体を起こして、ベッドから降りるとトイレへ向かう。そしてまたベッドルームへ向かい、携帯電話を手にした。すると着信が数件と、メッセージが入っている。相手は晶や清子だった。
どうやら夕べ晶の車でここまで送って貰ったが、その車の中に清子の家の鍵を忘れていったらしい。それに気がついて、史はリビングにあるバッグを確かめた。確かに鍵がない。嫌な予感がする。
晶があの鍵を持っているということは、清子の家にはいることも出来るのだ。夕べ晶ははっきり言った。清子に気があると。体を重ねていないにしても、そのまま清子が晶を受け入れることだって考えられるのだ。
着ていたスウェットを脱ぐと、濃い色のジーパンとシャツを着た。そして灰色のセーターを着ると、急ぎ足で身支度をする。顔を洗って髭を剃ろうとしたとき、家のチャイムが鳴った。
「はい。」
カミソリを置いて、玄関へ向かう。ドアを開けると、そこには晶の姿があった。そしてその後ろには清子の姿がある。
「おはよう。編集長。よく寝た?」
「あぁ……。」
「パン買ってきたんだよ。前に明神が言ってた、パン屋のパン。こんな年末でもやっててラッキーだったよな。」
後ろにいる清子にそういうと、清子もうなづいた。
「えぇ。コーヒー豆も売ってたので、それも買ってきました。」
何もないのだろう。清子も自然だし、晶も上機嫌だ。
「上がれよ。寒いだろう?」
「そうする。あぁ。サーバーとかある?」
「コーヒーメーカーなんだけどな。」
「それで良いよ。」
家に上がり、清子はキッチンにあるコーヒーメーカーに水を入れた。その間史は剃りかけていた髭を剃り、晶はパンを取り出していた。チョコレートの入ったニューヨークチョコブレッド。野菜やハムが挟まったベーグルなどがある。
「美味しそうだな。」
「甘いのも総菜パンもあるんだ。買いすぎた気もするけど、まぁ、こっちの甘いヤツは、冷蔵できるしな。」
コーヒーが入るまで少し時間がかかる。清子はコーヒーをセットすると、バッグから鍵を取り出した。
「史。これを。」
それは自分の家の鍵だった。すると史は少し笑って首を横に振る。
「清子。年明けから、こっちに住まないか?」
「え?」
史はそういって棚にある引き出しから、鍵を取り出す。そしてそれを清子に手渡した。
「君の家にいるのは便利だと思う。だけど、やっぱり一人暮らしを想定した部屋だし、二人で住むのは無理かもしれないと思うから。こっちに君が来ればいい。」
「でも……私、来年の秋には居なくなるんですけど。」
「半年はいるんだ。だったら半年は一緒に居たいと思う。」
手に鍵を置かれた。それを見て晶は、軽くため息をついた。
とすると、風呂に入ったので今日身につけている下着は晶が選んだものではないだろう。だが下着は目に付かない。晶はカメラを置くとソファーから立ち上がると、玄関の方へ向かった。
どこへ行くのだろう。トイレにでも行くのだろうかと思った。だが晶はトイレの横にある風呂場のドアを開けた。
「ちょっと……。」
思わず立ち上がり、晶を止めようとした。
「お、やっぱ干してたか。」
脱衣所には洗面をするための水道と、洗濯機。その上に下着を干していた。そしてその黒い下着を手にする。
「やめてくださいよ。」
慌てて入ってきた清子は晶に詰め寄るように、その下着を奪い取ろうとした。しかし晶はそんな清子に背を向けて、その下着を広げる。
「もう乾いてるな。でもこんなの身につけてたの知ったら、編集長も俺が居ても盛りたくなるわ。」
その言葉に清子の動きが止まる。夕べ、これを身につけていたのを知った史が見たいと言って脱がせてきたのだ。もし晶があの場にいなければきっとセックスをしていた。それを聞いていたのだろうか。
「知ってたんですか?」
「俺一人帰らせたら、やるつもりだったんだろ?死ぬと思ったから、俺も帰ったんだけどな。」
「……。」
「三大欲求って知ってるか?食欲、睡眠欲、性欲。睡眠欲が一番強くて、それから食欲。満たされたら性欲になるって言うんだけどさ。それすっ飛ばして、性欲を満たしたりしたら死ぬだろ?」
「だから、二人で帰ったんですか?」
「結構編集長も自分を押さえられないところがあるんだろうな。こんな下着がちらっと見えただけで、盛ろうとするんだし。」
「……史のことを思って?」
「半分はな。あとの半分は嫉妬。」
「嫉妬?」
すると、晶は清子の方を向いた。すると少し距離が近くて、清子は後ろにのけぞる。だがその二の腕をつかんで、晶は清子を見下ろす。
何をしたいのかわかる。だからうつむいた。だがその視線の先にその黒い下着がある。
「どうでも良いから、それを返して。」
冷静に言える。その下着がそうさせてくれる。
「編集長は俺が買ったって知らなかった。何で俺が買ったって言わないんだよ。」
「言える訳ないですよ。言えばあのホテルの部屋にいたことだってわかってしまうし……。」
「俺に手を出されてるのも何で言わないの?」
「……それは……。」
「俺のことも求めてるんだろ?清子。良いからこっち向けよ。」
「やです。」
そのとき部屋に置いている携帯電話が鳴った音がする。それは、清子のモノだった。史からかもしれない。そう思った清子はその場から去ろうと、足を外に向けようとした。だがそれを晶が止める。
「清子。」
無理矢理だった。清子の手を引いて、壁に清子を押しつける。求められたことなどない。いつも無理矢理だった。怯えている顔、泣きそうになっている目が堪らない。だが晶はそのうつむいている顔に向けて、清子に言う。
「抵抗しろよ。ヤクザに抵抗したみたいに、俺を抵抗して編集長に連絡を取ればいいだろ?本当に嫌ならそうしろよ。」
自分の気持ちだけを考えたらそうされたくない。だから腕をつかむ手に力が入る。
「痛い……。」
そのとき清子の頬に涙が落ちた。その頬に晶は手を伸ばして拭うと、その頬に唇を寄せる。そして清子と目を合わせる。
「本当は昨日、連れて帰りたかったんだ。お前が好きだから。清子。こっち向いて。」
清子の頬から顎に手を伸ばして、晶の方を向かせる。そして晶はゆっくり唇を重ねてその唇を離す。
「……久住さん……あの……。」
「今更やめれるか。どれだけ我慢してたと思ってんだ。」
自分の横で史に微笑みかける顔や、笑い顔や、すべてが自分のものではないのに自分のものにしたかった。
下着が床に落ちた。そして清子の顔を包み込むように両手で覆うと、また唇を重ねる。だが強情に清子は口を閉じたままだった。
「口を開けろよ。」
「やです……あの……。」
「言っただろ?今更やめれないって。」
顎に手を当てて口を開けさせると、舌を絡ませた。もう清子が泣いていようと、抵抗しようと、止める気はなかった。
頭がまだぼんやりとする。どうやらずっと寝ていたようだ。広いベッドの上で、ベッドサイドにある目覚まし時計を見た。もう昼に近い時間だった。こんなに長く寝たのは久し振りだと思う。
体を起こして、ベッドから降りるとトイレへ向かう。そしてまたベッドルームへ向かい、携帯電話を手にした。すると着信が数件と、メッセージが入っている。相手は晶や清子だった。
どうやら夕べ晶の車でここまで送って貰ったが、その車の中に清子の家の鍵を忘れていったらしい。それに気がついて、史はリビングにあるバッグを確かめた。確かに鍵がない。嫌な予感がする。
晶があの鍵を持っているということは、清子の家にはいることも出来るのだ。夕べ晶ははっきり言った。清子に気があると。体を重ねていないにしても、そのまま清子が晶を受け入れることだって考えられるのだ。
着ていたスウェットを脱ぐと、濃い色のジーパンとシャツを着た。そして灰色のセーターを着ると、急ぎ足で身支度をする。顔を洗って髭を剃ろうとしたとき、家のチャイムが鳴った。
「はい。」
カミソリを置いて、玄関へ向かう。ドアを開けると、そこには晶の姿があった。そしてその後ろには清子の姿がある。
「おはよう。編集長。よく寝た?」
「あぁ……。」
「パン買ってきたんだよ。前に明神が言ってた、パン屋のパン。こんな年末でもやっててラッキーだったよな。」
後ろにいる清子にそういうと、清子もうなづいた。
「えぇ。コーヒー豆も売ってたので、それも買ってきました。」
何もないのだろう。清子も自然だし、晶も上機嫌だ。
「上がれよ。寒いだろう?」
「そうする。あぁ。サーバーとかある?」
「コーヒーメーカーなんだけどな。」
「それで良いよ。」
家に上がり、清子はキッチンにあるコーヒーメーカーに水を入れた。その間史は剃りかけていた髭を剃り、晶はパンを取り出していた。チョコレートの入ったニューヨークチョコブレッド。野菜やハムが挟まったベーグルなどがある。
「美味しそうだな。」
「甘いのも総菜パンもあるんだ。買いすぎた気もするけど、まぁ、こっちの甘いヤツは、冷蔵できるしな。」
コーヒーが入るまで少し時間がかかる。清子はコーヒーをセットすると、バッグから鍵を取り出した。
「史。これを。」
それは自分の家の鍵だった。すると史は少し笑って首を横に振る。
「清子。年明けから、こっちに住まないか?」
「え?」
史はそういって棚にある引き出しから、鍵を取り出す。そしてそれを清子に手渡した。
「君の家にいるのは便利だと思う。だけど、やっぱり一人暮らしを想定した部屋だし、二人で住むのは無理かもしれないと思うから。こっちに君が来ればいい。」
「でも……私、来年の秋には居なくなるんですけど。」
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