不完全な人達

神崎

文字の大きさ
上 下
175 / 289

174

しおりを挟む
 晶が風呂に入った音を聞いても、清子はぼんやりしているようだった。その様子に史が座り込むと、清子の目線に下がる。
「清子。」
 名前を呼ばれて、清子は史の方をみる。すると史はその唇にキスをした。
「何……。」
 思わず口を押さえた。
「今日は休んだ方が良い。今日抱きたいって思ったけれど、やっぱり俺も清子も疲れてる。」
「……。」
「気になるのかも知れないけれど、今日は俺も君を抱きしめて寝たい。」
「史……。」
 清子はそういって史の方へ体を委ねようとした。そのとき、ふと史の視線にその襟刳りから見えるモノが目に付いた。
「ん?」
 史はそのブラウスのボタンの一番上だけをはずす。
「何……。」
 思わず体から離れて、前を軽く押さえた。しかしその手を避けて、ブラウスから襟刳りを開く。
「黒?」
 こんな下着を見たことがない。驚いて清子をみる。
「あの……。」
「どうしたの?これ。」
「……実は……一昨日の夜、史が下着を買ってきてくれたんですけど、その前に私も買ってて……。」
「黒の下着?」
「適当に手に取ったんで……。」
 上手く誤魔化した。本当は晶が買ってきたモノだったが、これで史の前に出ることはないだろうと思って仕方なくこの下着を身につけていたのだ。思ったよりも履き心地が慣れないので、もう二度と身につけることはないと思う。
「見せて。」
「え……嫌です。」
「良いから。」
 ブラウスのボタンを一つずつはずし、シャツをまくり上げた。
「エロ……。」
 黒縁の眼鏡、一つにくくった飾り気のない髪。紺色のスーツと白のブラウスという就活生のような容姿なのに、その下が黒のレースが付いた下着というのに思わず性欲がかき立てられるようだ。
「やです。あまり見ないで。」
 清子はそういってシャツを下げようとした。だが史はそれを止める。
「何で?見たい。」
 そしてそのレースに手をかけて、乳首を出す。
「まだ……久住さんがいて……。」
「わかってる。だから少しだけ。」
 その出てきた乳首に指を這わせると、清子の吐息が漏れた。
「んっ……。」
「立ってきた。こっちは?」
 そういってもう片方の胸にも手を伸ばす。するとそこはもう堅くなりつつあった。
「まだ触ってもないのに。」
「もう良いですよね。」
 史の手を握って、シャツをおろした。いつ晶が帰ってくるかわからない状態で、こんなことをされたくなかったから。
「下も同じ?」
「……上下セットが安かったから。」
「どこで買ったの?あの量販店で?」
「ホテルの前にありましたしね。遅くまでやってるから便利です。」
 こんな状況で手を出さない男がいるだろうか。だが清子はそれを望んでいない。食事をして風呂にでも入ったら速攻で眠りたいのだ。清子の目の下もクマが出来ている。
「それを着て、俺の前に立って欲しい。思ったよりも似合っているし、もっときわどいのを着ているのを見たい。」
 そういって史はまたキスをしようとした。そのときバスルームのドアが開いた音がして、それを止める。
「あいつ、帰るんだろ?」
「えぇ。まぁ……泊まりたいと言えば泊まれないこともないですけどね。」
 クローゼットの中には予備の布団がある。ソファーでも寝れないことはないだろう。
「帰らせて。」
 やっと二人になれたのだ。ここ数日、晶には世話になったかもしれないがそれとこれとは別だと思う。そのときリビングのドアが開いた。
「暖まった。たまには湯船も良いよな。普段シャワーばっかだし。」
 まだ濡れたままの髪で、あまりよく拭いていないのか滴がシャツに落ちている。
「よく拭いて出ろよ。それかドライヤーかけるとか。」
「ドライヤー苦手なんだよ。」
「それで外に出たら風邪を引くぞ。」
 やはり帰らせるつもりなのか。それを感じた晶は新たに手を打つ。
「引かねぇよ。それよか、編集長いつ帰る?俺帰るときに送って良いよ。」
「は?」
 史はそういって晶の方をみた。だが晶の表情は変わらない。
「泊まるつもり?こんな狭いベッドに二人で寝て、疲れなんか取れるわけねぇだろ?一週間くらいだっけ。ここにいたの。」
「そうですね。それくらいで……。」
「だから疲れが取れねぇんだよ。清子だって今日はぐっすり寝たいだろうし。」
「……。」
 もっともな意見に聞こえる。だが真実は違うのだろう。きっと二人にさせたくないのだ。
「正月に帰るんだろ?って言うか、明日からいれるんだろうし。今日くらいゆっくりさせたら?」
 晶の言葉に、首を横に振る。
「いた方がゆっくり出来る。お前がいた方がゆっくり出来ないし、帰ってくれないか。」
 戸惑っている清子の代わりに言った。しかし晶も納得していない。
「清子。お前は……。」
 すると清子はクローゼットの中から下着を取り出す。そして二人を一瞥すると何もいわずにバスルームへ向かった。
「清子。」
「どちらでも良いです。お二人が帰っても良いし、帰らなければそこのクローゼットに予備の布団がありますから。」
 随分冷たい言い方をしている。何かいらつくことでもあったのだろうかと、史はその後を追った。
「清子。」
「お二人が帰っても私もまだやることがあるし、しばらくは寝ませんから。」
 そういって清子はバスルームへ入っていった。
 ドアを閉めると少しため息をついて壁にもたれる。正直、いたたまれなかった。自分を独占するのは自分だと、史も晶も言っているように思える。
 そんな立派な人間じゃない。たかが中卒の派遣だ。運良く、「三島出版」から引き抜いて貰ったが、本来そんなにちやほやされる人ではない。
 ブラウスを脱ぎシャツを脱ぐと、黒い下着が目に留まった。自分では絶対選ばないデザインだ。これを着ていると確かに相当セクシーに見えるだろう。だがその胸の下には、薄く浮いたあばら骨が浮いている。手足も多少は筋肉はあるが、ほとんど骨と皮だ。
 こんな体をどうして独占しようとしているのだろう。訳が分からない。そう思いながら、スラックスを脱ぐと黒のレースで作られたショーツを脱いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...