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多忙
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釈明文を載せる二十時まで、もう少し時間がある。できあがった文章を清子は史と誤解を生む文章はないかとチェックしていた。そしてそれができあがると、清子は自分のデスクに戻る。すると新たなメッセージが届いていた。
それを開いて清子は少し笑った。そしてまた史のデスクに近づく。
「編集長。新たなメッセージなんですけど。」
「どうしたの?」
釈明文の打ち合わせで仕事が遅れてしまった。史は自分の仕事に戻ろうとファイルを手にしている。
「どうやら「なりすまし」がいるようですね。」
「「なりすまし」?」
「芸能人なんかに多いのですけど、本人になりすまして女性にDMを送ったりする人です。ナンパ目的で。」
「そんな人がいるのか。」
史もパソコンでSNSに繋げてみる。するとメッセージで「この間、昌樹を名乗る人からDMが来た。本人かどうかわからない。」と書いてある。
「俺は個人的にSNSをしていない。ということは……。」
「「なりすまし」がいたのでしょう。編集長の名前を使って、女性をひっかけるような。」
「セックスが目的なら会わないといけないだろう。そのときはどうするの?」
「編集長が都合が悪くなって代理できた。とか何とか言って誘うはずです。アカウント名を開いてみましたが、やはりそのようですね。それから、この「なりすまし」は、実際女性に会ったときに編集長の根も葉もない噂を広めてます。」
「そいつなのか。」
「おそらく……。」
著名人だから利用された。そう思うしかない。
「アカウント名があります。釈明文を載せて、このアカウントが削除されれば騒ぎが収束するかもしれません。」
その言葉に了が首を振る。
「甘いな。」
「え?」
「別アカウントを作って、また同じ事をする。鼬ごっこだと思うけどな。」
「……。」
「一番いいのは、編集長のSNSのアカウントを作ることだろう。あんた、人気者だったんだろうからそれくらいしたら?」
すると史は首を横に振る。
「いいや。それはしない。SNSで痛い目に遭っていて、もうする必要性を感じないから。」
すると清子は手元にある紙に目を留める。それを手にすると史に確認をした。
「これは破棄するものですか?」
「あぁ。失敗したから。」
「でしたら、こういう文章を追加していいですか。」
そういって清子は「今後いっさいSNSのアカウントを取ることはないので、名乗る人は別人だと思ってください」と書いてあった。
「絶対しないですね。」
「あぁ。」
あれだけ痛い目に遭っているのだ。もうする必要性を感じない。
「でしたら追加分を打ちます。」
清子はそういって自分のデスクに戻る。相変わらずメッセージが届いているようだったが、そのほとんどは「真実を知りたい」「最低な男の釈明が楽しみだ」とかそんなものだ。
SNSに文章を載せる。内容は、AVの世界にいたときも、そして現在も、恋人以外と関係を持ったことはない。子供を作った事実もない。ということだった。
これが真実として受け入れられているのかはわからない。だがずいぶんコメントが届いている。その中には「知らないと言うのは罪だ」とか「人殺し」などというコメントもあるが、その大半は信じてくれる人ばかりだ。
割とこの国の人も悪くない。清子はそう思いながら、その対処に追われていた。そのとき清子のデスクにコンビニの袋が置かれた。見上げると、そこには了がいる。
「久住君。」
「あんた、今日コーヒーしか飲んでないだろう?これ食ったら?」
昼に買ってきたカレーは、もうなかったのだろう。コンビニなどに行ける暇があったのだろうか。
「ありがとうございます。でも……いつ外に?」
「うちのやつが差し入れてくれたんだよ。でも俺はもう上がるから、あんたに。」
「あぁ。そうですか。」
周りを見れば、もう半分くらいは社員がいない。時計を見ればもう日を越しているからだろう。
「まだいるの?」
「コメントが入ってきているのと、仕事が残ってるので。」
「コメントはとりあえず一時とかで切った方がいいだろ?二十四時間対応してるわけじゃないし。それくらいはユーザーならわかる。」
「そうですね。」
そのとき外から晶が戻ってきた。晶もよその部署から呼び出されて、対応していたらしい。
「それから、あいつにも渡しておいて。中、おにぎりだし。」
「あいつ?」
視線の先には史がいる。昨日も寝ていないように見えるが、今日も仮眠が出来るかどうか怪しい。
「倒れるぞ。あいつ。」
「明日まででしょうから。」
「編集者ってのはそんなもんかね。」
体に鞭を打って、栄養ドリンクやコーヒーで眠気を覚ましながら仕事をするのが編集者なのだろうか。
そのとき史がメモをチェックしながら、がくっと首が曲がった。
「編集長。」
それに清子がいち早く気がついて、立ち上がった。
「あ……悪い。ちょっと急に眠気が来て。」
「一度仮眠した方がいいですね。」
「でも……。」
仕事が終わらない。やることはあるのに体がうまく動かないのだ。すると晶が史の方へ近づいていく。
「編集長。二十分か三十分くらいでも寝た方がいい。仕事だったら、俺が見とくから。」
「久住……。」
「何やってたの?ん?写真のチェックか。俺しとくよ。清子は仕事はどうだ?」
「もう少しで終わります。」
「だったらお前もやって。文章ならいけるだろ?編集長を仮眠室に送ったら、やって。」
「了解です。」
そういって清子は無理矢理史を立ち上がらせると、オフィスをあとにした。
「仮眠室はいいよ。本格的に寝てしまいそうだ。」
「だったらどうしたらいいですか?」
「倉庫で寝るから。」
「だったらちょっと待ってください。」
そういって倉庫に入って行った史をおいて、清子はオフィスに戻る。そして自分のいすにかけておいた膝掛けの毛布と、ダウンのコートを手にして倉庫に入っていった。すると史はその奥で、床に腰掛けている。壁にもたれてうつむいていた。
「これを体にかけてください。そうですね……一時になったら呼びに来ますから。」
膝掛けを足下にかけて、コートを体に掛けた。すると史は清子の方を見て少し笑う。
「君の匂いがする。」
「イヤなことを言わないでくださいよ。」
「いい匂いだ。すぐ眠れそう。」
そういって史は清子の手首を握ると、その体を引き寄せた。
「あ……。」
「キスしたい。こんな時だけど、深くなくていいから軽く。」
史はそういって手首から手を離すと、清子の首に手を回した。すると清子もそれに答えるように、顔を近づける。
「ん……。」
ちゅっと音をさせると、史は少し笑った。目の下にはクマが出来ている。それでも寝るよりもキスがしたかった。ずっと側に居るのに、触れられなかったから。
それを開いて清子は少し笑った。そしてまた史のデスクに近づく。
「編集長。新たなメッセージなんですけど。」
「どうしたの?」
釈明文の打ち合わせで仕事が遅れてしまった。史は自分の仕事に戻ろうとファイルを手にしている。
「どうやら「なりすまし」がいるようですね。」
「「なりすまし」?」
「芸能人なんかに多いのですけど、本人になりすまして女性にDMを送ったりする人です。ナンパ目的で。」
「そんな人がいるのか。」
史もパソコンでSNSに繋げてみる。するとメッセージで「この間、昌樹を名乗る人からDMが来た。本人かどうかわからない。」と書いてある。
「俺は個人的にSNSをしていない。ということは……。」
「「なりすまし」がいたのでしょう。編集長の名前を使って、女性をひっかけるような。」
「セックスが目的なら会わないといけないだろう。そのときはどうするの?」
「編集長が都合が悪くなって代理できた。とか何とか言って誘うはずです。アカウント名を開いてみましたが、やはりそのようですね。それから、この「なりすまし」は、実際女性に会ったときに編集長の根も葉もない噂を広めてます。」
「そいつなのか。」
「おそらく……。」
著名人だから利用された。そう思うしかない。
「アカウント名があります。釈明文を載せて、このアカウントが削除されれば騒ぎが収束するかもしれません。」
その言葉に了が首を振る。
「甘いな。」
「え?」
「別アカウントを作って、また同じ事をする。鼬ごっこだと思うけどな。」
「……。」
「一番いいのは、編集長のSNSのアカウントを作ることだろう。あんた、人気者だったんだろうからそれくらいしたら?」
すると史は首を横に振る。
「いいや。それはしない。SNSで痛い目に遭っていて、もうする必要性を感じないから。」
すると清子は手元にある紙に目を留める。それを手にすると史に確認をした。
「これは破棄するものですか?」
「あぁ。失敗したから。」
「でしたら、こういう文章を追加していいですか。」
そういって清子は「今後いっさいSNSのアカウントを取ることはないので、名乗る人は別人だと思ってください」と書いてあった。
「絶対しないですね。」
「あぁ。」
あれだけ痛い目に遭っているのだ。もうする必要性を感じない。
「でしたら追加分を打ちます。」
清子はそういって自分のデスクに戻る。相変わらずメッセージが届いているようだったが、そのほとんどは「真実を知りたい」「最低な男の釈明が楽しみだ」とかそんなものだ。
SNSに文章を載せる。内容は、AVの世界にいたときも、そして現在も、恋人以外と関係を持ったことはない。子供を作った事実もない。ということだった。
これが真実として受け入れられているのかはわからない。だがずいぶんコメントが届いている。その中には「知らないと言うのは罪だ」とか「人殺し」などというコメントもあるが、その大半は信じてくれる人ばかりだ。
割とこの国の人も悪くない。清子はそう思いながら、その対処に追われていた。そのとき清子のデスクにコンビニの袋が置かれた。見上げると、そこには了がいる。
「久住君。」
「あんた、今日コーヒーしか飲んでないだろう?これ食ったら?」
昼に買ってきたカレーは、もうなかったのだろう。コンビニなどに行ける暇があったのだろうか。
「ありがとうございます。でも……いつ外に?」
「うちのやつが差し入れてくれたんだよ。でも俺はもう上がるから、あんたに。」
「あぁ。そうですか。」
周りを見れば、もう半分くらいは社員がいない。時計を見ればもう日を越しているからだろう。
「まだいるの?」
「コメントが入ってきているのと、仕事が残ってるので。」
「コメントはとりあえず一時とかで切った方がいいだろ?二十四時間対応してるわけじゃないし。それくらいはユーザーならわかる。」
「そうですね。」
そのとき外から晶が戻ってきた。晶もよその部署から呼び出されて、対応していたらしい。
「それから、あいつにも渡しておいて。中、おにぎりだし。」
「あいつ?」
視線の先には史がいる。昨日も寝ていないように見えるが、今日も仮眠が出来るかどうか怪しい。
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「明日まででしょうから。」
「編集者ってのはそんなもんかね。」
体に鞭を打って、栄養ドリンクやコーヒーで眠気を覚ましながら仕事をするのが編集者なのだろうか。
そのとき史がメモをチェックしながら、がくっと首が曲がった。
「編集長。」
それに清子がいち早く気がついて、立ち上がった。
「あ……悪い。ちょっと急に眠気が来て。」
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「でも……。」
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「編集長。二十分か三十分くらいでも寝た方がいい。仕事だったら、俺が見とくから。」
「久住……。」
「何やってたの?ん?写真のチェックか。俺しとくよ。清子は仕事はどうだ?」
「もう少しで終わります。」
「だったらお前もやって。文章ならいけるだろ?編集長を仮眠室に送ったら、やって。」
「了解です。」
そういって清子は無理矢理史を立ち上がらせると、オフィスをあとにした。
「仮眠室はいいよ。本格的に寝てしまいそうだ。」
「だったらどうしたらいいですか?」
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「だったらちょっと待ってください。」
そういって倉庫に入って行った史をおいて、清子はオフィスに戻る。そして自分のいすにかけておいた膝掛けの毛布と、ダウンのコートを手にして倉庫に入っていった。すると史はその奥で、床に腰掛けている。壁にもたれてうつむいていた。
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「いい匂いだ。すぐ眠れそう。」
そういって史は清子の手首を握ると、その体を引き寄せた。
「あ……。」
「キスしたい。こんな時だけど、深くなくていいから軽く。」
史はそういって手首から手を離すと、清子の首に手を回した。すると清子もそれに答えるように、顔を近づける。
「ん……。」
ちゅっと音をさせると、史は少し笑った。目の下にはクマが出来ている。それでも寝るよりもキスがしたかった。ずっと側に居るのに、触れられなかったから。
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