不完全な人達

神崎

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食卓

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 辰雄の家から卵や肉を分けてもらい、三人は家を出た。その帰り道、晶は少しため息を付いた。
「ホストをしていたからかな、人嫌いがひどくなってる。」
「そうなのか?愛想が言いように見えたが。」
 史はそう聞くと、清子も外を見ながら言う。
「あまり私は知らない人でしたけど、うちの祖母があまり関わりがない方がいいといってました。久住さんのところはそう厳しく言わなかったんですけど。」
「仲が良かったからな、お前の家のばーさんと、うちのばーさんが。」
「……それでも浅海さんのところよりはそこまで……。」
「……あの姉妹のところは、事情を知れば子供を近づけようとは思わないだろうな。子供に手を出すような親だから、自分の子供もそうなるんじゃないのかって心配するわ。」
 祖母がしていたことはそういうことなのだろうか。それをわからずに、清子は「どうしてあの二人と遊んではいけないのだろう」という重いだけが占めて、恨んだこともあった。
「ほら。あそこに橋があるの見えるか?」
 車を止めて晶が指さしたところを史と清子が見上げる。遠くにある吊り橋のようだった。
「あそこで父親が飛び降りて自殺したらしいわ。」
「なるほどな。結構高いみたいだ。飛び降りたら即死だろう。」
 家はもっと麓にあったはずだ。そこで母親を殺して、こんな遠くまで来るものなのだろうか。海の方が近いから完璧から飛び降りた方が近いような気もするが。
「清子。」
「はい?」
「よけいなことを考えるなよ。お前考え出したら止まらないし、何もかも調べようとするだろ?」
「……。」
「終わったことだ。何があってもあれから十年経ってるし、「自殺」と言われたらそれでいいんだよ。」
 晶はそういってまたサイドブレーキを落とした。

 晶の家に帰り着き、史と清子は車を降りる。すると茂が家の中から出てきた。
「お帰り。」
「おー。肉と卵もらってきたけど、兄貴のところもいる?」
「そうだな。少しもらうか。最近、薫製してるんだよ。」
「良いねぇ。鰹節なんかも作るのか?」
「あれは難しいからな。生節くらいは作れそうだが。」
 そのとき麓から一人の女性があがってきた。手にはビニール袋が握られている。
「茂さん。」
「あ、夏生ちゃん。」
 まだ若い女性のようで、清子よりも若く見える。ショートカットの髪型だが、その毛先は金色に光っていた。
「今日、潜ってきたの。良かったらコレ、お裾分け。」
 そういって夏生は、ビニール袋を茂に手渡す。
「なまこ?良いねぇ。大根おろしと合わせたいな。」
「ふふっ。良かった。」
 ただの知り合いではないような関係のようだ。潜ってきたということは、おそらく海女なのだろうがそれにしては若い。
「あぁ。夏生ちゃん。うちの弟と職場の同僚なんだ。」
「初めまして。安西夏生です。」
 視線を合わせた夏生は、史を見て少し視線をそらせた。だが史は何もいわずに「初めまして」とだけ声をかける。
「茂さん。たまには振興会の方にも顔を出してくれと言われてますよ。」
「そうだね。今度。」
 夏生はそういって三人に会釈をすると坂道を降りていった。
「なまこか……。さてと、どうするかな。」
 すると晶はにやっとしながら、茂に言う。
「何だよ。兄貴、彼女いるんじゃん。」
「彼女じゃないよ。俺が出所してきたくらいの時から、海女になりたいってやってきた女の子だ。休みの日でもああやって潜って練習をしている。頭が下がるな。」
 茂は何も気がついていない。それに周りの人も気がついていないならそれでいい。史は余計なことを言わないまま、家の中から荷物を取り出して自分の車の中に入れる。
「そろそろ行こうか。清子。」
「そうですね。すっかりお世話になってしまって。」
「いいんだよ。あ、もう物産館が開いている時間だから、寄って帰ればいい。」
「そうですね。釜揚げシラスがあれば買って帰ろうかな。」
「冷凍ならあるかもしれないね。」
 炊き立てのご飯に釜揚げシラスと、今日もらった卵を乗せてネギを散らせば美味しいだろう。清子はそう思いながら、荷物を手にした。
「荷物は後部座席で良いよ。」
 史はそういってドアを開けてくれた。そこに素直に清子は荷物を載せる。着たときは晶の車で来ていた。だが帰りは史の車に乗るのだろう。それはそれで仕方がない。
 明らかに晶は清子にまだ気がある。だが清子は史しか見ていないように思えた。だが夕べ、茂は見てしまった。居間で晶に言い寄られるように清子は晶とキスをしていた。離したとたん、清子は体を押し退けて出て行った。清子はきっと望んでいないし、史がそれを知らない可能性もある。
 そうではないと自分の好きな人が、他の男にキスをされているのに平気な顔で同僚だなんて言えないだろう。

 白いバンの中は良く片づけられていて、あまり荷物がないように思えた。史はここのところあまり運転をしていないので、内心「エンジンがかかって良かった」と思っていた。バッテリーでも上がっているかと思ったのだ。
「運転上手ですよね。」
「久住よりは安心して乗れる?」
 その言葉に清子は昨日、あの展望台でキスをされたことを思い出した。車の中というのは密室だ。何をされても文句は言えない。
「そうですね。久住さんは結構荒いところがあるから。」
「辰雄さんのところへ行くときも、いつ車のサイドをこするかなって思ってたし、俺は結構ヒヤヒヤしてたよ。」
 少し笑い、外を見る。海が遠くなっていく。ここに帰る前には、家をもう少し当たらないといけないだろう。それを会社にも言わないといけない。
 年が明けたらここへ来ることが多くなるかもしれない。そうなれば史と会う時間も、講習会へ費やす時間も少なくなるかもしれないのだ。史はそれで納得しているのかわからない。
 何より遠距離なのだ。こんなにしょっちゅう体を合わせているのだから、離れて出来なくなれば浮気の一つでもするのだろうか。
 それが男の甲斐性だと言われたら仕方がないのかもしれない。それにそれを清子は責められないのだ。
 慎吾に襲われそうになったことは言ったのに、未だに晶とセックスをしたことは言えていない。これは裏切りなのだ。なのに言い出せない卑怯な自分がいる。
 史とキスをする度に後ろめたくなっていった。
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