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小一時間ほどたち、清子はやっとそのメッセージの主の顔を出すことが出来た。どこでもいるような若い女性だと思った。その顔が映し出された画面を見て、慎吾は少しため息を付く。
「普通の女性だな。」
「えぇ。でもこういう人が一番怖いのかもしれませんね。」
食事をしていたさらに移った女性の顔は笑顔だった。年頃は二十代ほどだろう。清子とあまり歳は変わらない。
「花柳さんはいくつですか。」
「俺?二十五。」
美夏のところにいた翼が、慎吾のデスクに近づいてくる。そしてその女性をみた。
「……見たこと無いな。たぶん、イベントとかも来たことない人だ。」
「イベントは結構出るんですか。」
「そうだね。今度は年明け。徳成さんも来る?」
「いいえ。あまり興味はないです。」
こういう仕事に就いているのだから、百戦錬磨なのだろうというイメージがなくなった。興味があるからエロ本の担当になっているわけではないのだろう。
「アカウントに鍵をかけてください。フォローをしているのは、どういった方が多いですか?」
清子はいすから立ち上がり、翼に聞く。
「そうだな。同じ男優仲間とか、俺、ホストをしてたからホストの仲間とか、上客とか、あと、DMでフォローをしてくださいって人。」
「女性ですよね。」
「うん。フォローをしている人は、黙ってフォローをしてないよ。顔をちゃんと写している人とか、あとは、イベントで会う人とか作品をちゃんと買ってる人。」
「だったらその人たちを大事にしてください。無料でみれる動画で、ファンですというのは本当のファンではないので、切っても文句は言えませんから。」
慎吾はうなづいて、パソコンの画面の女をみる。その女性の顔を切りだしてプリントアウトすると、他の画像を見始めた。
「……あれ?」
「え?どうしました?」
すると慎吾はそのネイルの画面を見て、首を傾げた。
「ネイルは綺麗だが手が荒れてる。もしかして飲食業か、美容師とか、そんな仕事をしているのかもしれない。」
すると清子はまた画面を見る。確かに爪はつけ爪のように不自然だし、その下の指は少しあかぎれが見える。
「……確かにそうですね。まぁ……どちらにしてもこの人はブロックしてください。もしフォロー申請が来たら、ちゃんとプロフィール画面を見て。」
「わかった。」
すると慎吾は少しため息を付いて言う。
「それにしてもこんなに熱狂的なのだったら、もっと他のことで力を使えばいいのに。」
すると清子は首を横に振る。
「SNSは誰もが簡単にアカウントをとれるツールになりましたし、手に触れることも声をかけられることもないと思っていた画面の向こうの人が、急に身近になったから勘違いする人も多いのでしょう。だから、注意をして使わないといけませんね。」
「その通りだ。さてと……清子。明日は九時三十分で良いか。」
「あぁ。講習ですね。」
その言葉に美夏は、ため息を付く。全く色気のない話ばかりだ。慎吾にやっと女の影が出来たのだと思っていたが、清子には全く興味がないように見える。苦しい過去がきっかけで、慎吾は女をずっと拒否していたのだが、清子がきっかけで少しは女に興味を持ったのだと思ったのに。
「何時くらいに終わりそう?」
史がそれに加わって、慎吾に聞いた。
「昼を挟む。終わりの予定は十五時だ。」
「だったら、迎えに行くよ。」
史は笑顔で清子を見下ろす。清子も少し黙っていたが、ため息を付いて史を見上げる。
「迎え?明日って会社は休みじゃないの?」
不思議そうに美夏が聞くと、史は少し笑って言う。
「クリスマスイブに会わない理由がないですよ。」
「普通の休日でしょう。」
「帰りにワインを買いたいな。どうせ君はしゃれた店なんかは興味がないだろう?」
「日本酒が良いです。」
まるでカップルの会話だ。上司と部下の関係ではなかったのだろうか。美夏は不思議そうに、史をみる。
「え?」
すると翼が大げさに声を上げる。
「彼女ですか?やっぱそうだったんですね。ずっとちらちら昌樹さんが見てたから、そうじゃないかって思ってたんですけど。」
史が清子に送っていた視線は気のせいではなかった。慎吾と清子の距離が近すぎると、ずっと気にしていたのだ。
「この間からね。」
この間?いつのことだろう。あの謝恩会の時から?バーにいたときはそんなそぶりはなかった。だったらその後?慎吾の頭の中で記憶がぐるぐると回る。
「何だ。つまらないわねぇ。」
美夏はそう言うと煙草に火をつけた。
「どうしてですか?」
「うちの息子とデキたら良かったのにって思ったのよ。そしたら、うちの会社にこっそりそのウェブ上の知識を教えてくれないかとも思ったのに。」
清子はその言葉に少し笑う。
「得意不得意がありますから。慎吾さんは私よりもプログラミングなんかは詳しいですから。もしウィルスなんかに犯されたら、私がわからないことがあるかもしれないとき、我孫子さんよりも先に慎吾さんに聞くと思います。」
「そう?だったら慎吾の不得意なことは教えてくれる?」
「わかりました。でもそれを無くすために、二人で講習や勉強会へ行ってるんです。私は少し知識が偏っているから。」
「我孫子さんって方の講習しか受けてなかったって言ってたわね。」
「そうです。まぁ……他の方の講習も受けてましたけど、どうしても偏りがちになりますね。」
そんな言葉は慎吾に入らない。清子がどうして史とつきあっているのか。そのために「三島出版」に籍を置くことにしたのか。それだけ好きなのか。そんな言葉がぐるぐると回る。
「慎吾。」
名前を呼ばれて、やっと美夏の方を向く。
「あぁ……何?」
「聞いてなかったの?徳成さんは、半年くらいはこちらにいるようよ。だからその間にだけでも、一緒に講習に行った方が良いって言ってたの。」
「半年?」
清子は半年したら居なくなるのだろうか。遠距離をするつもりなのだろうか。いろんな事を聞きたいのに、それが口に出せない。
「在宅勤務になるんです。来年の秋に。」
納得したわけじゃない。だがこれしか方法が見つからなかったのだ。
「普通の女性だな。」
「えぇ。でもこういう人が一番怖いのかもしれませんね。」
食事をしていたさらに移った女性の顔は笑顔だった。年頃は二十代ほどだろう。清子とあまり歳は変わらない。
「花柳さんはいくつですか。」
「俺?二十五。」
美夏のところにいた翼が、慎吾のデスクに近づいてくる。そしてその女性をみた。
「……見たこと無いな。たぶん、イベントとかも来たことない人だ。」
「イベントは結構出るんですか。」
「そうだね。今度は年明け。徳成さんも来る?」
「いいえ。あまり興味はないです。」
こういう仕事に就いているのだから、百戦錬磨なのだろうというイメージがなくなった。興味があるからエロ本の担当になっているわけではないのだろう。
「アカウントに鍵をかけてください。フォローをしているのは、どういった方が多いですか?」
清子はいすから立ち上がり、翼に聞く。
「そうだな。同じ男優仲間とか、俺、ホストをしてたからホストの仲間とか、上客とか、あと、DMでフォローをしてくださいって人。」
「女性ですよね。」
「うん。フォローをしている人は、黙ってフォローをしてないよ。顔をちゃんと写している人とか、あとは、イベントで会う人とか作品をちゃんと買ってる人。」
「だったらその人たちを大事にしてください。無料でみれる動画で、ファンですというのは本当のファンではないので、切っても文句は言えませんから。」
慎吾はうなづいて、パソコンの画面の女をみる。その女性の顔を切りだしてプリントアウトすると、他の画像を見始めた。
「……あれ?」
「え?どうしました?」
すると慎吾はそのネイルの画面を見て、首を傾げた。
「ネイルは綺麗だが手が荒れてる。もしかして飲食業か、美容師とか、そんな仕事をしているのかもしれない。」
すると清子はまた画面を見る。確かに爪はつけ爪のように不自然だし、その下の指は少しあかぎれが見える。
「……確かにそうですね。まぁ……どちらにしてもこの人はブロックしてください。もしフォロー申請が来たら、ちゃんとプロフィール画面を見て。」
「わかった。」
すると慎吾は少しため息を付いて言う。
「それにしてもこんなに熱狂的なのだったら、もっと他のことで力を使えばいいのに。」
すると清子は首を横に振る。
「SNSは誰もが簡単にアカウントをとれるツールになりましたし、手に触れることも声をかけられることもないと思っていた画面の向こうの人が、急に身近になったから勘違いする人も多いのでしょう。だから、注意をして使わないといけませんね。」
「その通りだ。さてと……清子。明日は九時三十分で良いか。」
「あぁ。講習ですね。」
その言葉に美夏は、ため息を付く。全く色気のない話ばかりだ。慎吾にやっと女の影が出来たのだと思っていたが、清子には全く興味がないように見える。苦しい過去がきっかけで、慎吾は女をずっと拒否していたのだが、清子がきっかけで少しは女に興味を持ったのだと思ったのに。
「何時くらいに終わりそう?」
史がそれに加わって、慎吾に聞いた。
「昼を挟む。終わりの予定は十五時だ。」
「だったら、迎えに行くよ。」
史は笑顔で清子を見下ろす。清子も少し黙っていたが、ため息を付いて史を見上げる。
「迎え?明日って会社は休みじゃないの?」
不思議そうに美夏が聞くと、史は少し笑って言う。
「クリスマスイブに会わない理由がないですよ。」
「普通の休日でしょう。」
「帰りにワインを買いたいな。どうせ君はしゃれた店なんかは興味がないだろう?」
「日本酒が良いです。」
まるでカップルの会話だ。上司と部下の関係ではなかったのだろうか。美夏は不思議そうに、史をみる。
「え?」
すると翼が大げさに声を上げる。
「彼女ですか?やっぱそうだったんですね。ずっとちらちら昌樹さんが見てたから、そうじゃないかって思ってたんですけど。」
史が清子に送っていた視線は気のせいではなかった。慎吾と清子の距離が近すぎると、ずっと気にしていたのだ。
「この間からね。」
この間?いつのことだろう。あの謝恩会の時から?バーにいたときはそんなそぶりはなかった。だったらその後?慎吾の頭の中で記憶がぐるぐると回る。
「何だ。つまらないわねぇ。」
美夏はそう言うと煙草に火をつけた。
「どうしてですか?」
「うちの息子とデキたら良かったのにって思ったのよ。そしたら、うちの会社にこっそりそのウェブ上の知識を教えてくれないかとも思ったのに。」
清子はその言葉に少し笑う。
「得意不得意がありますから。慎吾さんは私よりもプログラミングなんかは詳しいですから。もしウィルスなんかに犯されたら、私がわからないことがあるかもしれないとき、我孫子さんよりも先に慎吾さんに聞くと思います。」
「そう?だったら慎吾の不得意なことは教えてくれる?」
「わかりました。でもそれを無くすために、二人で講習や勉強会へ行ってるんです。私は少し知識が偏っているから。」
「我孫子さんって方の講習しか受けてなかったって言ってたわね。」
「そうです。まぁ……他の方の講習も受けてましたけど、どうしても偏りがちになりますね。」
そんな言葉は慎吾に入らない。清子がどうして史とつきあっているのか。そのために「三島出版」に籍を置くことにしたのか。それだけ好きなのか。そんな言葉がぐるぐると回る。
「慎吾。」
名前を呼ばれて、やっと美夏の方を向く。
「あぁ……何?」
「聞いてなかったの?徳成さんは、半年くらいはこちらにいるようよ。だからその間にだけでも、一緒に講習に行った方が良いって言ってたの。」
「半年?」
清子は半年したら居なくなるのだろうか。遠距離をするつもりなのだろうか。いろんな事を聞きたいのに、それが口に出せない。
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