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奪う
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清子の手にはまだジッポーがある。それは祖母が大事にしていたモノを、こっそりと清子が家を追い出されたときに持ってきたものだという。年代物で、マニアにしてみれば価値のあるモノかもしれない。だが本来ならこれも冬山祥吾のモノだ。それを祥吾が追求しないのは、そんな細かいところをいちいち言いたくないからだろう。
「最近さ、他の出版社とかのページとか荒れてんの知ってる?」
「あぁ……荒らしが居るみたいですね。」
荒らしというのは、わかりにくいし、犯罪になりにくいのだ。そしてそれを取り締まる法律がまだ出来ていないなどの理由で、頻繁に起こりやすいらしくそれが問題になっている。
だが会社に対するメッセージや掲示板の荒らしなどがエスカレートして、脅迫になることはある。
「さっきさ週刊誌に呼ばれたんだけど、すげぇらしいわ。」
「相手にしないことです。いちいち返信していたらきりがない。それに、それが起爆剤になることも考えられます。」
「起爆剤?」
「不用意なことを言って、馬鹿を見るのはこっちですから。それだけですか?」
他の男が煙草を吸い終わると、新聞を畳んで喫煙所を出て行く。残ったのは晶と清子だけだった。
「つきあってるって言ってたな。」
「あぁ……。そう言うことですか。別にプライベートのことだから言いたくありません。」
そう言って清子は灰を落とす。
「お前さ……そんなに編集長が良かったのか?」
「……良いも悪いも、よくわかりませんよ。」
「あっちだけじゃねぇよ。歳だって離れてるしさ……何より、お前の事情ってあっちは知ってるのか?」
「あらかたは。」
あっさり言ってしまったのだろうか。そんなに軽く話せることだったのだろうか。
「その上で遠距離になるの覚悟か?」
「……それで良いとおっしゃるのだから、それでいいのでしょう。聞いてみてください。」
「お前等の問題だろ?俺が聞いてどうするんだよ。」
晶は不機嫌そうに清子に聞く。すると清子はため息を付いていった。
「気になるんですか?」
「気になるね。俺が好きだから。」
すると清子は呆れたように晶をみる。
「気にしないでください。お互いに悪い夢を見たとでも思って。」
清子は煙草を消すと、喫煙所を出て行こうとした。そのあとを晶も追いかけるようについて行く。するとオフィスの横にあるそうこの前に、発注した用紙やインク、ペンなどがコンテナに入って置いてあった。
「お、やっときたか。インク。」
「一つ残して、あとは倉庫に入れておきます。」
清子はそういってコンテナを持つと、倉庫をあけた。そのあとを晶も入っていく。いったんコンテナを床に置くと清子は脚立を手にして、そこを登っていく。
「手渡すから、どんどん置いていけよ。」
晶はそういって下から清子にインクを渡していく。そしてそれを清子は色別に置いていった。
「黒が多いですね。」
「黒が一番切れるからな。ほら。用紙も。」
用紙の束はインクとは違ってずっしり重い。それを棚に置くだけで、疲れそうだ。
「ほら。最後。」
用紙を手渡されて、清子はそれを乗せると脚立を降りた。そして残りのモノを棚にしまい込んだ晶を見て、脚立を奥にしまう。そのとき、背中にふわっと温かい感触がした。
「清子……。」
「駄目です。」
腰に伸びてきた手を振り払っても、清子は晶の方を見なかった。
「駄目か?」
「駄目です。私には……史が居るから……。」
編集長と呼ばなかった。わざと名前を呼んで、晶を遠ざけた。だが晶は再び清子の腰から前に手を伸ばす。
そのとき倉庫のドアノブが開く音がした。それを聞いて、慌てて晶は清子から手を離す。
「あれ?もう倉庫にしまい終わった?」
「はい。」
同じ部署の人だった。清子は晶を振りきって、インクを片手に出口へ向かった。その後を晶も追うように出て行く。
金曜日の夜。清子は史とともに、電車に乗っていた。慎吾や美夏が経営するAV男優の事務所である「APIA」という会社は、普通の芸能事務所とあまり変わらない。スケジュールの管理、仕事依頼、その他、体調管理まで行うらしい。
「俺らの時はそこまで至れり尽くせりじゃなかったけどね。」
基本、AV男優というのは事務所を持たない。そういう事務所がなかったこともあって、イベントやグッズなどを作る人も居たが、それもすべて自分でこなしていた。
史には真似できないと思いながらも、女性用のAVに出始めたときは、イベントにゲストとして呼ばれることもあった。それなりに楽しい時間だったと思う。
「イベントって言うのは、どういうことをするんですか?」
「そうだな……。それぞれ男優には個性があるし、バンドをしている人もいれば、トークが上手な人もいる。それに知識が豊富な人もいるんだ。」
「知識?」
「つまり……セックスの知識。」
「技とか、性癖のことですか?」
まだ遅い時間ではないので、電車の中は疲れたサラリーマンなどが居たりする。あまり声高に言える話題ではないので声を抑えていたが、清子にはその辺の羞恥心がない。
「そういうこともあるけど、たとえばセックスレスだったり、持続力だったり、そういった悩みを持っている人にアドバイスをすることもある。」
「確かに……そういったことはどこで相談して良いかわからないですよね。」
納得した。医者に相談できる内容ではないし、相談しても明確な答えが出るとは思えない。
「学歴が高い男優もいるしね。そういう人はそういうことにも研究熱心だ。」
「そうだったんですか。」
やがて駅に着く。清子たちが普段通勤している町とは様相の違う、若者向けの町だった。
「そういうイベントって、私も行けたりするんですかね。」
「え?行きたいの?」
意外だった。あまりそういうことに興味がなさそうだったのに、清子が言い出すとは思えなかったから。
「というか……相談できればと思って。」
「何を相談したいの?何か悩みでもある?俺に言えないこと?」
自分が居るのに、他の男に相談したいというのは何なのだろう。思わず食い気味に清子に詰め寄った。
「あ……別に編集長に言えないと言うか……。」
「言ってよ。彼氏だろ?」
すると清子は戸惑いながら言った。
「……その……何度もするのがですね……。」
「何度も?」
「声は枯れるし、体は変になりそうだし、何より体力が持たなくて……。」
歩きながらも清子の頬が赤くなる。それを聞いて史は少し笑った。取り越し苦労だったのだ。
「だったら一度だけでいいの?」
「ずっとそう言ってますけど。」
「俺は満足しないな。でも思いっきりじらして良いなら、一度でも良いかもね。」
「……それはそれで……。」
「今夜そうしようか?」
意地悪そうに史が耳元で聞くと、清子はますます頬を赤くさせた。
そして前にも来たことがあるその事務所の前にたち、二人は中に入っていった。
「最近さ、他の出版社とかのページとか荒れてんの知ってる?」
「あぁ……荒らしが居るみたいですね。」
荒らしというのは、わかりにくいし、犯罪になりにくいのだ。そしてそれを取り締まる法律がまだ出来ていないなどの理由で、頻繁に起こりやすいらしくそれが問題になっている。
だが会社に対するメッセージや掲示板の荒らしなどがエスカレートして、脅迫になることはある。
「さっきさ週刊誌に呼ばれたんだけど、すげぇらしいわ。」
「相手にしないことです。いちいち返信していたらきりがない。それに、それが起爆剤になることも考えられます。」
「起爆剤?」
「不用意なことを言って、馬鹿を見るのはこっちですから。それだけですか?」
他の男が煙草を吸い終わると、新聞を畳んで喫煙所を出て行く。残ったのは晶と清子だけだった。
「つきあってるって言ってたな。」
「あぁ……。そう言うことですか。別にプライベートのことだから言いたくありません。」
そう言って清子は灰を落とす。
「お前さ……そんなに編集長が良かったのか?」
「……良いも悪いも、よくわかりませんよ。」
「あっちだけじゃねぇよ。歳だって離れてるしさ……何より、お前の事情ってあっちは知ってるのか?」
「あらかたは。」
あっさり言ってしまったのだろうか。そんなに軽く話せることだったのだろうか。
「その上で遠距離になるの覚悟か?」
「……それで良いとおっしゃるのだから、それでいいのでしょう。聞いてみてください。」
「お前等の問題だろ?俺が聞いてどうするんだよ。」
晶は不機嫌そうに清子に聞く。すると清子はため息を付いていった。
「気になるんですか?」
「気になるね。俺が好きだから。」
すると清子は呆れたように晶をみる。
「気にしないでください。お互いに悪い夢を見たとでも思って。」
清子は煙草を消すと、喫煙所を出て行こうとした。そのあとを晶も追いかけるようについて行く。するとオフィスの横にあるそうこの前に、発注した用紙やインク、ペンなどがコンテナに入って置いてあった。
「お、やっときたか。インク。」
「一つ残して、あとは倉庫に入れておきます。」
清子はそういってコンテナを持つと、倉庫をあけた。そのあとを晶も入っていく。いったんコンテナを床に置くと清子は脚立を手にして、そこを登っていく。
「手渡すから、どんどん置いていけよ。」
晶はそういって下から清子にインクを渡していく。そしてそれを清子は色別に置いていった。
「黒が多いですね。」
「黒が一番切れるからな。ほら。用紙も。」
用紙の束はインクとは違ってずっしり重い。それを棚に置くだけで、疲れそうだ。
「ほら。最後。」
用紙を手渡されて、清子はそれを乗せると脚立を降りた。そして残りのモノを棚にしまい込んだ晶を見て、脚立を奥にしまう。そのとき、背中にふわっと温かい感触がした。
「清子……。」
「駄目です。」
腰に伸びてきた手を振り払っても、清子は晶の方を見なかった。
「駄目か?」
「駄目です。私には……史が居るから……。」
編集長と呼ばなかった。わざと名前を呼んで、晶を遠ざけた。だが晶は再び清子の腰から前に手を伸ばす。
そのとき倉庫のドアノブが開く音がした。それを聞いて、慌てて晶は清子から手を離す。
「あれ?もう倉庫にしまい終わった?」
「はい。」
同じ部署の人だった。清子は晶を振りきって、インクを片手に出口へ向かった。その後を晶も追うように出て行く。
金曜日の夜。清子は史とともに、電車に乗っていた。慎吾や美夏が経営するAV男優の事務所である「APIA」という会社は、普通の芸能事務所とあまり変わらない。スケジュールの管理、仕事依頼、その他、体調管理まで行うらしい。
「俺らの時はそこまで至れり尽くせりじゃなかったけどね。」
基本、AV男優というのは事務所を持たない。そういう事務所がなかったこともあって、イベントやグッズなどを作る人も居たが、それもすべて自分でこなしていた。
史には真似できないと思いながらも、女性用のAVに出始めたときは、イベントにゲストとして呼ばれることもあった。それなりに楽しい時間だったと思う。
「イベントって言うのは、どういうことをするんですか?」
「そうだな……。それぞれ男優には個性があるし、バンドをしている人もいれば、トークが上手な人もいる。それに知識が豊富な人もいるんだ。」
「知識?」
「つまり……セックスの知識。」
「技とか、性癖のことですか?」
まだ遅い時間ではないので、電車の中は疲れたサラリーマンなどが居たりする。あまり声高に言える話題ではないので声を抑えていたが、清子にはその辺の羞恥心がない。
「そういうこともあるけど、たとえばセックスレスだったり、持続力だったり、そういった悩みを持っている人にアドバイスをすることもある。」
「確かに……そういったことはどこで相談して良いかわからないですよね。」
納得した。医者に相談できる内容ではないし、相談しても明確な答えが出るとは思えない。
「学歴が高い男優もいるしね。そういう人はそういうことにも研究熱心だ。」
「そうだったんですか。」
やがて駅に着く。清子たちが普段通勤している町とは様相の違う、若者向けの町だった。
「そういうイベントって、私も行けたりするんですかね。」
「え?行きたいの?」
意外だった。あまりそういうことに興味がなさそうだったのに、清子が言い出すとは思えなかったから。
「というか……相談できればと思って。」
「何を相談したいの?何か悩みでもある?俺に言えないこと?」
自分が居るのに、他の男に相談したいというのは何なのだろう。思わず食い気味に清子に詰め寄った。
「あ……別に編集長に言えないと言うか……。」
「言ってよ。彼氏だろ?」
すると清子は戸惑いながら言った。
「……その……何度もするのがですね……。」
「何度も?」
「声は枯れるし、体は変になりそうだし、何より体力が持たなくて……。」
歩きながらも清子の頬が赤くなる。それを聞いて史は少し笑った。取り越し苦労だったのだ。
「だったら一度だけでいいの?」
「ずっとそう言ってますけど。」
「俺は満足しないな。でも思いっきりじらして良いなら、一度でも良いかもね。」
「……それはそれで……。」
「今夜そうしようか?」
意地悪そうに史が耳元で聞くと、清子はますます頬を赤くさせた。
そして前にも来たことがあるその事務所の前にたち、二人は中に入っていった。
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