不完全な人達

神崎

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嫉妬

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 清子のお客さんというのが気になっていた。だから用事があるふりをして、一階に降りる。そしてゲートの先を見た。するとそこには金髪の男と、清子が何か話をしている。そしてその手には大きめの封筒が握られていた。
「ありがとうございます。わざわざ届けていただいて。」
「こっちに用事があった。ついでだから。」
 普段はにこりともしない清子が、笑っている。愛想笑いなのかもしれないが、それでも新鮮に思えた。
「来週の日曜日でしたね。場所が少し微妙ですけど。」
「S駅まで着いたら、案内しても良い。同じようなビルでわかりにくいかもしれないし。」
「……そうですね。だったら九時三十分に駅で待ち合わせを。」
「あぁ。連絡してくれ。」
 何の会話をしているのかわからないが、とにかく話している男は綺麗な男だった。普段、どんな客でも対応する受付の女性が見とれるくらいだから。
「あぁ、そうだ。これを母から預かっていた。」
 そういって男は、手に持っていた紙袋を清子に手渡した。
「どうしました?」
「母が花柳翼のインタビューを受けたことで、うちの売り上げが上がったって言っていた。だからお礼らしい。」
「そんな……良いのに。それに、そちらの男優さんが良かったので売れているのでしょう?」
「いいや。あんな大きな枠で紹介してもらえると思ってなかった。それに、あの……香子と言ったかな。」
「あぁ。明神さんですか。」
「あの女がうまく話を引き出してくれたと誉めていてな。見た目じゃないんだな。女も。」
 ほかの女を誉めているのを初めて聞いた。その様子に清子は少し笑う。
「えぇ。その通りですね。ではこれは、みんなでいただくことにします。ありがとうございました。」
「礼を言うのはこっちだ。じゃあ、また日曜日に。」
「はい。」
 まずいこっちに向かってくる。長井は急いで奥の方へ向かう。そして総務部へ向かうと、とりあえず用意してくれていたインクを受け取る。

 清子がオフィスに戻ってくると、封筒を自分のデスクに置く。そして出かけていこうとする史に声をかけた。
「編集長。」
「ん?」
「さっき慎吾さんが見えて、これをみなさんでどうぞと言付けを。」
 史はそれを受け取り、中身を見る。どうやらお菓子のようだ。
「社長も太っ腹だな。昔は相当けちだったのに。」
「花柳翼のインタビュー記事で、売り上げの本数が上がったと。」
「それは良かった。あの号はうちも売り上げが良かったからね。」
 やはりイケメンの男優の雑誌はうまく行くかもしれない。それを仕切るのは香子なのだ。
 となると「pink倶楽部」の記事はどうすればいいだろう。それが今二番目に悩んでいることだ。そして一番は清子のこと。
「これはみんなで食べよう。悪いけど、みんなに分けてくれるかな。」
「はい。」
「俺の分はデスクに置いておけばいいから。」
 史はそういってコートを着る。今から出かけるのだろう。
 袋から包み紙にくるまれた箱を取り出すと、包装紙をとる。そして箱を開けると、清子の目が点になった。
「これを分けろって……。」
 その様子に香子が清子の後ろから声をかける。
「どうしたの?徳成さん。」
 そして香子もその中身をみた。するとそこには、花柳翼のソフトが数本綺麗にラッピングされていたのだ。
「……お菓子かと思ったのに……。」
「分けれないわねぇ。あ、でもこれ新作じゃない。ストーリーモノでしょ?上司と部下モノ。こっちは、家庭教師と教え子のヤツ。」
 少しずれている。清子はそう思いながら、そのソフトを手にする。
「徳成さん。持って帰ったら?」
「は?」
「結構面白いよ。エ○メンもの。」
「私は結構です。興味ないし。」
 ホームページにメーカーから載せてくれと言われている、ソフトのストリーミングを見るだけでお腹いっぱいと思っていた清子にとっては、それを一本見るだけでうんざりするだろう。
「あ、慎吾さんが明神さんを誉めてましたね。」
「え?あたしを?」
「インタビュー記事のおかげで、ソフトの本数が大きく売れているとか。」
「やーだ。普通のことしか聞いてないよ。」
 その普通のことを聞くことも出来ない人が多いのだ。清子には出来そうにない。
「名前も覚えてましたよ。」
「ふふっ。でも悪い気はしないわよね。あ、長井さん。」
 インクを片手に戻ってきた長井に、香子は声をかける。
「どうしました?」
「メーカーがエ○メンのソフトを置いていったの。持って帰る?」
 すると長井は少し口を尖らせていった。
「そんなに不自由してないですから。」
「え?」
「そんなモノ観なくても良いってことです。」
 口調が少し荒い。もしかしたら、悪い風にとってしまったのだろうか。香子は慌てて否定しようとした。
「長井さん。」
 ところがそれを止めたのは清子だった。
「別に長井さんが欲求不満だとかは言ってないですよ。」
 その言葉に、慌てたのが香子だった。
「あの……違うのよ。」
 すると清子は長井の前に立って言う。
「これからインタビューもしないといけないし、記事も書いていかないといけないのであれば、こういったソフトの一本でも知識として観るべきです。」
 その様子に長井は怒ったように清子に言う。
「だったら徳成さんも観てるってことですか?」
 ふと、史と成人映画を見たときのことを思い出した。あれも経験だろう。
「えぇ。何本か観ました。それにストリーミングだったら、毎日のように観てますから。」
「……。」
「仕事です。こういうソフトを観るのも。まぁ……私がインタビューすることはありませんけど。」
 その言葉にぎすぎすしていた空気が少し和らいだ。
「そうね。徳成さんって割とはっきりモノを言うから、好かれる人も多いけど嫌われる人の方が多いかもね。」
「人から嫌われようと、別にかまいませんよ。仕事をするだけです。そこで文句は言わせません。」
「自信たっぷりですね。」
 気に入らない。年下のくせに偉そうな口を利くし、仕事に自信があるのも気に入らない。それにあの男も、史も、そして今はいないが、カメラマンの晶も、清子をちやほやしている気がするのだ。
 何か、弱みはないだろうか。長井の心の中に黒い影が落ちる。
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