不完全な人達

神崎

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 何度もセックスをして、それを隠すためにシャワーを浴びたのにバスルームでも入れ込まれた。何度入れ込んでも清子の中はゆるゆると絞めてきて、ずっとこうしていたいと思うくらい心地よかった。
 ホテルの外に出たとき、もう外は暗くなっていて清子はあきれたように流れる景色を見ていた。
「あんなにするなんて思ってなかった。」
 その言葉に晶は少し笑う。
「お前のすごい良いからな。」
 信号で停まり、晶は煙草を取り出して火をつける。すると清子は道行く人を見ていた。休日の夜は、町中も家族連れが多い。子供の手を引いてどこかへ行く父親と、子供を抱いている母親。食事でもしに行くのだろうか。
 あんな家族にはなれない。史と一緒になっても、晶と一緒になってもまともな家族を作れるとは思えなかった。自分がそうしてきていなかったから。
「これからかえって……どうするんだ。」
「編集長に連絡をしないと。」
「あいつに?」
「本当は編集長が付いてくると行っていたの。だけど……他の人にうちの事情は知られたくなかったから、黙ってここにきた。」
「俺はいいのか?」
「無理矢理だったじゃない。本当だったら一人で……。」
「一人で耐えれるわけねぇだろ。お前、今日一人であの街にいたら崖から飛び降りてた。」
 結果的に居て良かったのかも知れない。悔しいがそれは認めないといけないだろう。
「編集長ともするのか?」
「さぁ……。どうかしらね。」
「一応、それ以外の跡は付けてねぇから、良いと思うけどな……。」
 だが清子の指にはまっていたその指輪ははずすことはなかった。それが史に監視されているように思えても。
 やがて清子の最寄り駅にたどり着いた。晶でも家の場所までは知られたくないし、晶ももうそろそろ帰らなければ愛がもう家に戻っているかも知れないのだ。
 駅から少し離れた暗がりの駐車場で、晶は清子の方を振り向くと唇を重ねた。
「また明日な。」
「そうね。また明日。」
 車を降りれば日常が始まる。そう思いながら清子は車を降りて、後部座席に乗せてあった発泡スチロールを取り出した。
 そして去っていく車を見て、清子は携帯電話を取り出した。メッセージを入れる。電話ではなくメッセージにしたのは、声を聞けば罪悪感になるから。

 家に帰り着いて、清子は発泡スチロールの中身を取り出すと冷蔵庫に入れた。しばらく買い物をしなくて良いかも知れない。肉ではなく、魚なのが清子好みだ。
 するとバッグの中の携帯電話がなる。着信の相手は史だった。
「はい……今日はすいませんでした。はい……。」
「本当だよ。起きたら居ないんだから。でも……帰ってきたら何でもするって言ってくれたよね。」
 怒っているのかも知れないが、声は嬉しそうだ。きっとセックスをするのだろう。数時間前まで晶が入れ込んだところに、史が入れ込むのだ。それは晶も一緒だろう。愛が求めれば断らない。
「……そうですね。ご期待に添えるかどうか。」
「だったら、家で話をしたい。君の家はどの辺にある?近くに何かあるかな。」
 清子は家の周りを少し思い出す。
「うちは大通りに面しているので、車は停めにくいかと。」
「車で行く気はないよ。近くまで歩いていくから。」
 それもそうだ。晶とは違うのだから。
「公園があります。」
「あぁ……。ちょっと広めの公園だろ?じゃあ、そこに行くから。そうだな。十分もしたら付くと思う。」
 おそらく駅にいたのだろう。だから十分ほどという時間なのだ。清子はバッグを持ち直すと、電気を切り部屋を出る。

 夜の公園はひっそりとしている。会社の近くの公園とは違って、この辺は住宅街で野外セックスを楽しむような人はいないのだ。とはいえ、その片隅にあるトイレでは別だ。セックスをするだけではなく、ひどいマゾヒストが居ることもある。そんな一人になるつもりはない。清子はそう思いながら、煙草に火をつけて史を待った。
 煙草を吸い終わる頃、影が見える。それは史だった。その姿に、清子は煙草を携帯灰皿に捨てると、史の方をみた。
「すいません。今日は勝手に出て行ってしまって。」
 すると史は少し笑って清子に言う。
「良いよ。結果的には、こうして会えた。」
 そういって史は清子の肩に手をおく。誰も見ていないから、キスをするつもりなのだろうか。
「あの……外ですけど……。」
「そうだった。だったら家に連れて行ってもらっても良い?」
 知られれば引っ越す。それがわかっていて家に来たいと言っているのだろうか。清子は少しうなづくと、肩に置かれた手を下ろして手を握る。冷たい手は、清子の温度だ。

 見える位置に前住んでいたアパートが見える。清子はその建物の中にはいると、三階へあがっていく。そして手前の部屋のドアの鍵を開けた。
「こんなに近いところに住んでいたんだね。」
「あまり変えたくはなかったので。」
 パソコン周りを移動させるのが面倒だった。そしてまたWi-Fiなどを接続する作業も面倒だ。
 電気をつけると、前に住んでいたところよりも手狭な部屋だと思った。それでも少し新しい気がする。築年数はこちらの方が新しいのだろう。
「何か食べましたか。」
「いいや。」
「簡単なものでよければ、作りますけど。」
 今日買ってきた魚類は流水解凍できる。そうすればすぐに食べられるだろう。そのときふと、史は奇妙に思うものに目を留めた。
「今日は一人で?」
 すると清子の手が止まった。そして史の方を見ると、少し笑う。
「どうしてですか?」
「たぶん何か買ったんだと思うんだけど、この発泡スチロールを持ってうろうろしていたのかなと思ったんだ。」
 その言葉にごまかしは利かないと清子は思う。
「久住さんに会いました。」
「久住と回っていたのか?」
 自分は拒否していて晶はあっさり受け入れた。やはり晶を想っているのだろうか。
「久住さんもあっちの街に用事があったみたいでしたね。」
 手をとめて清子はぽつりという。
「居て良かった。お互い、耐えられない現実があったから。」
 祖母の血が流れている。清子はそれを認めないといけない。あっさりと晶と寝てしまったのだから。
「……今度は、俺を連れていって。」
 史はそういうと、キッチンへ足を運ぶ。そして清子の体を抱きしめた。
「傷をお互い舐め会うだけでは解決できない。だったら、第三者を連れていくべきだ。俺はそう思うけどね。」
「……。」
「その一つ一つを話してくれないか。」
「私のことはいいんですけど……久住さんのことは……。」
「あいつにはあいつが頼るべき人がいる。それが君とって俺になればいいと思うよ。」
 史はそういって清子の頬にキスをする。
 一緒に行動を一日していた。墓へ行くくらいなら、こんな時間に帰ってこない。きっと何かあった。そう思うと清子の体を抱きしめる力が強くなる。
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