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対面
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山道を少し走らせたところに、展望台がある。晶はそこに車を停めると、シートベルトをはずした。
「ほら。海が見える。」
車のフロントガラス越しに海が見えて、向こうには島がある。清子は、シートベルトをはずすとその外にでた。
「……。」
山の上では海の匂いはしない。だが自分が住んでいた町が見えた。小さな集落で、その向こうにも集落がある。似たような所で、そこも漁をして生計を立てているのだろう。
「過疎してましたね。」
「あぁ。漁師で生計を立てるのは今は難しいんだろうな。昔は、女一人でも子供を大学まで出すことが出来たって行ってたけど、今は海女だけでは生活も出来ないらしい。」
晶は煙草をくわえて、火をつけた。そして清子も煙草を取り出した。そして火をつけようとジッポーに手を伸ばして手を止める。
そのジッポーは祖父のものだと思っていた。だがそれも怪しい話だ。大切な人がいるといって、その人が祖父とは限らないのだ。祥吾の言うように、観も知らない男が祖父なのかも知れない。
「夕方になりかけると少し寒いな。」
そう言って晶は、車に戻るとジャケットを取り出した。そしてそのジャケットを清子の肩に掛ける。
「あの……私は……。」
「良いから着てろよ。風邪でもひかれたら困るし。」
形は違うが、晶も優しい人だと思う。素直にそのジャケットを着ていると、煙草の匂いがした。清子とは違う銘柄の匂いだった。
「ここ、誰も来ないんだな。」
「夜になると違うみたいですね。」
「え?」
そう言って清子が目に留めたものを、晶も見る。そこには白いゴミが落ちている。だがそれをよく見ると使用済みのコンドームのようだった。
「野外でするヤツもいるんだな。で。ゴミは放置か。」
「マナーが悪すぎますね。」
すると晶は少し笑って、清子に言う。
「だったらさ、寄り道して帰るか?」
「……しませんから。」
「だったらここでキスさせろよ。」
「しませんからって。外ですよ。」
「誰も見てねぇよ。」
するとがさっと言う音がした。誰か居るのかと思って、清子は思わず晶との距離を取った。しかしそこにいたのは、イタチのような動物で二人に気が付くとさっとまた藪の中に消えていく。
「動物しか見てねぇよ。」
「だとしても、しませんから。」
それが目的か。清子は呆れたように煙草を消すと携帯灰皿に吸い殻をしまい、車に戻ろうとした。そのときぐっと体を捕まれる。そして車のドアを背に、晶が清子の前に立っている。手に持っている煙草を足でもみ消すと、じっと清子を見下ろしていた。
「こっち見ろよ。」
「やです。」
「……。」
すると晶はその手を清子の頬に持ってきた。清子の体がびくっと震える。
「今日は……居てくれてとてもありがたいと思ったけれど……それとこれとは別です。久住さんには……。」
「晶。」
「久住さんには待っている人が居るから……。」
「晶って呼べよ。あのときみたいにさ。」
この手に抱かれたことがあった。そのとき確かに清子は晶の名前を呼んだ。
頬に置かれている指が、すっと顎に下ろされる。だが清子はそれを振りきるように、顔をよけた。すると首もとが見える。わずかに見える赤い跡。晶はそれに指を這わせると、清子の頬が少し赤くなった。
「や……。」
「こんな跡を付けられたんだ。やつは上手かったんだろ?」
「知らない……。」
すると晶は襟刳りを引く。そしてありありとなったその跡に唇を重ねる。
「や……何……。ん……。」
わずかに痛みを感じる。一度離してもまた唇を合わせてきた。やっと唇が離れたとき、清子はその跡に手を当てる。
「跡がまた……。」
「わかんねぇよ。そんな跡じゃな。でも何だ。お前、すごい赤くなって……欲情してんのか?あれくらいで。」
「知るか。」
思い切って股間を蹴ってやろうかと思うが、そんなことで晶が引き下がるとは思えない。
「あのころと変らねぇな。」
「あまり過去にこだわらないで。私も間違いだと思うことにするから……。」
「そう思えない。やっぱ……俺……。」
「言わないで。愛さんのことを考えるなら……。」
「お前のことを考えたい。清子。」
「駄目。少なくともこんな所で……。」
「動物が見てても駄目って事か。いいぜ。車に入れよ。」
晶はそう言って清子の前から離れて、運転席に戻る。きっとこのまま助手席に戻ったら何をされるかわからない。周りが明るくても関係ないのだろう。誰も見てなかったらいいと思っているのか。
震える手で車のドアを開けて、中にはいると半ドアで上手く閉まらなかった。改めてドアを閉めると、晶はすぐに清子の方へ近づいてきた。
「何……。」
「黙ってろよ。」
そう言って晶はその口をふさぐように、唇を重ねてきた。頭を捕まれて、拒否できないように。
唇を離すと拒否の言葉しかでない。だからさせないように強引に唇を重ねる。
「……。」
それに答えたくなかった。だが唇を割って、頬を撫でられると、体が熱くなる。
「晶……。」
唇を離すと、清子の口から名前が呼ばれた。晶は少し微笑んで軽く唇を重ねて離すと、清子から離れた。
「ホテル行くか。」
「行かない。」
「ハンドル握ってんのは俺だぞ。」
「ここでしたら強姦でしょう?」
「そう言うの好きだって言ってたじゃん。良いところがあるんだよ。」
「愛さんと行ったんですか。」
その言葉に不機嫌そうにエンジンをかける。
「俺はな、お前と違って一人しかしてねぇわけじゃねぇ。お前に似たような女ばっかりつきあってな、それでも忘れられなかったんだ。忘れようと思っても忘れられなかったんだよ。」
サイドブレーキをおろし、車を走らせた。
「初めてだからそう思えただけ。私にはそう思えますけどね。」
「……初めてだったからじゃない。ずっと好きだった。」
山を下れば、街がある。川岸に、ホテルが建ち並んでいるはずだ。そこへ行こう。夜までには帰れるだろうか。
「……正直に言いますけど……。」
「何?」
「編集長と寝たんです。」
その言葉に晶は、表情を変えなかった。
「知ってるよ。お前、あぁいうの好きなのか?」
「好きじゃない。けれど、編集長はそれで良いと言ってました。いつか自分に振り向いてもらえればいいと。」
「それで……その指輪か。」
「はい。」
「……。」
史も同じように好きなのだろう。だが今日は渡したくない。
「俺の方に向かせるから。」
呆れるほど前向きだ。史の使い古しだとわかっていてもそれでも手に入れたいのだろうか。男心はわからない。
「ほら。海が見える。」
車のフロントガラス越しに海が見えて、向こうには島がある。清子は、シートベルトをはずすとその外にでた。
「……。」
山の上では海の匂いはしない。だが自分が住んでいた町が見えた。小さな集落で、その向こうにも集落がある。似たような所で、そこも漁をして生計を立てているのだろう。
「過疎してましたね。」
「あぁ。漁師で生計を立てるのは今は難しいんだろうな。昔は、女一人でも子供を大学まで出すことが出来たって行ってたけど、今は海女だけでは生活も出来ないらしい。」
晶は煙草をくわえて、火をつけた。そして清子も煙草を取り出した。そして火をつけようとジッポーに手を伸ばして手を止める。
そのジッポーは祖父のものだと思っていた。だがそれも怪しい話だ。大切な人がいるといって、その人が祖父とは限らないのだ。祥吾の言うように、観も知らない男が祖父なのかも知れない。
「夕方になりかけると少し寒いな。」
そう言って晶は、車に戻るとジャケットを取り出した。そしてそのジャケットを清子の肩に掛ける。
「あの……私は……。」
「良いから着てろよ。風邪でもひかれたら困るし。」
形は違うが、晶も優しい人だと思う。素直にそのジャケットを着ていると、煙草の匂いがした。清子とは違う銘柄の匂いだった。
「ここ、誰も来ないんだな。」
「夜になると違うみたいですね。」
「え?」
そう言って清子が目に留めたものを、晶も見る。そこには白いゴミが落ちている。だがそれをよく見ると使用済みのコンドームのようだった。
「野外でするヤツもいるんだな。で。ゴミは放置か。」
「マナーが悪すぎますね。」
すると晶は少し笑って、清子に言う。
「だったらさ、寄り道して帰るか?」
「……しませんから。」
「だったらここでキスさせろよ。」
「しませんからって。外ですよ。」
「誰も見てねぇよ。」
するとがさっと言う音がした。誰か居るのかと思って、清子は思わず晶との距離を取った。しかしそこにいたのは、イタチのような動物で二人に気が付くとさっとまた藪の中に消えていく。
「動物しか見てねぇよ。」
「だとしても、しませんから。」
それが目的か。清子は呆れたように煙草を消すと携帯灰皿に吸い殻をしまい、車に戻ろうとした。そのときぐっと体を捕まれる。そして車のドアを背に、晶が清子の前に立っている。手に持っている煙草を足でもみ消すと、じっと清子を見下ろしていた。
「こっち見ろよ。」
「やです。」
「……。」
すると晶はその手を清子の頬に持ってきた。清子の体がびくっと震える。
「今日は……居てくれてとてもありがたいと思ったけれど……それとこれとは別です。久住さんには……。」
「晶。」
「久住さんには待っている人が居るから……。」
「晶って呼べよ。あのときみたいにさ。」
この手に抱かれたことがあった。そのとき確かに清子は晶の名前を呼んだ。
頬に置かれている指が、すっと顎に下ろされる。だが清子はそれを振りきるように、顔をよけた。すると首もとが見える。わずかに見える赤い跡。晶はそれに指を這わせると、清子の頬が少し赤くなった。
「や……。」
「こんな跡を付けられたんだ。やつは上手かったんだろ?」
「知らない……。」
すると晶は襟刳りを引く。そしてありありとなったその跡に唇を重ねる。
「や……何……。ん……。」
わずかに痛みを感じる。一度離してもまた唇を合わせてきた。やっと唇が離れたとき、清子はその跡に手を当てる。
「跡がまた……。」
「わかんねぇよ。そんな跡じゃな。でも何だ。お前、すごい赤くなって……欲情してんのか?あれくらいで。」
「知るか。」
思い切って股間を蹴ってやろうかと思うが、そんなことで晶が引き下がるとは思えない。
「あのころと変らねぇな。」
「あまり過去にこだわらないで。私も間違いだと思うことにするから……。」
「そう思えない。やっぱ……俺……。」
「言わないで。愛さんのことを考えるなら……。」
「お前のことを考えたい。清子。」
「駄目。少なくともこんな所で……。」
「動物が見てても駄目って事か。いいぜ。車に入れよ。」
晶はそう言って清子の前から離れて、運転席に戻る。きっとこのまま助手席に戻ったら何をされるかわからない。周りが明るくても関係ないのだろう。誰も見てなかったらいいと思っているのか。
震える手で車のドアを開けて、中にはいると半ドアで上手く閉まらなかった。改めてドアを閉めると、晶はすぐに清子の方へ近づいてきた。
「何……。」
「黙ってろよ。」
そう言って晶はその口をふさぐように、唇を重ねてきた。頭を捕まれて、拒否できないように。
唇を離すと拒否の言葉しかでない。だからさせないように強引に唇を重ねる。
「……。」
それに答えたくなかった。だが唇を割って、頬を撫でられると、体が熱くなる。
「晶……。」
唇を離すと、清子の口から名前が呼ばれた。晶は少し微笑んで軽く唇を重ねて離すと、清子から離れた。
「ホテル行くか。」
「行かない。」
「ハンドル握ってんのは俺だぞ。」
「ここでしたら強姦でしょう?」
「そう言うの好きだって言ってたじゃん。良いところがあるんだよ。」
「愛さんと行ったんですか。」
その言葉に不機嫌そうにエンジンをかける。
「俺はな、お前と違って一人しかしてねぇわけじゃねぇ。お前に似たような女ばっかりつきあってな、それでも忘れられなかったんだ。忘れようと思っても忘れられなかったんだよ。」
サイドブレーキをおろし、車を走らせた。
「初めてだからそう思えただけ。私にはそう思えますけどね。」
「……初めてだったからじゃない。ずっと好きだった。」
山を下れば、街がある。川岸に、ホテルが建ち並んでいるはずだ。そこへ行こう。夜までには帰れるだろうか。
「……正直に言いますけど……。」
「何?」
「編集長と寝たんです。」
その言葉に晶は、表情を変えなかった。
「知ってるよ。お前、あぁいうの好きなのか?」
「好きじゃない。けれど、編集長はそれで良いと言ってました。いつか自分に振り向いてもらえればいいと。」
「それで……その指輪か。」
「はい。」
「……。」
史も同じように好きなのだろう。だが今日は渡したくない。
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呆れるほど前向きだ。史の使い古しだとわかっていてもそれでも手に入れたいのだろうか。男心はわからない。
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