不完全な人達

神崎

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花火

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 昼近くになるまで飽きることなくお互いを求め合い、気を失うように眠りについた。目を覚ますと、あまり眠れていないのに頭がすっきりしている。
 史も狭いベッドの中で、清子の体を抱きしめるように眠っていた。端整な顔立ちが目の前にあって、思わず清子はその頬に触れた。すると史もわずかに目を開ける。起きたときに清子がいてくれるのがとても嬉しい。こんな日々が続けばいいと思いながら少し微笑んでその額にキスをした。
「おはよう。」
「……おはようございます。」
「何時かな。おはようという時間なんだろうか。」
 備え付けの時計をみて、夕方近くになっていたのに史は少し笑っていた。
「久しぶりにぐっすり眠ったよ。」
「狭くなかったですか?」
「狭いとひっついていられるから、それはそれで良いと思う。」
 史らしい言葉だ。甘い言葉を息を吐くように言うから。その言葉に一喜一憂しない。いずれは離れる人だ。来年の春、清子はここを離れるし、そうなれば史もきっと清子を忘れて別の人を見るだろうから。
「どうしたの?」
 不思議そうに史が聞くと清子は何もいわずに首を横に振り、その体から離れようと体をよじらせた。だが史は体を離す気はない。
「暑いです。」
「エアコンは利いてるよ。」
 体を離すのには、史が離さないといけないだろう。清子はそのままの体勢のまままた時計をみる。
「荷物を取りに行かないと。」
「そうだね。でももう少しこうしていたい。」
「遅くなってしまいますよ。」
「明日は予定がある?」
「明日は講習会に。」
「そうか……だったら、今日中に終わらせたいね。」
 横になったまま窓から外を見るが、カーテンがしてあってよくわからない。だが水の音がするということは、雨が降っているのだろう。
「でももう少しこうしていたい。」
 そう言って体を抱きしめる力を強めた。
「清子。恋人と……言って良い?」
「やです。
「どうして?」
「好きじゃないから。」
 清子はそう言って、体をまたよじらせた。しかし史はそれを止めるように、清子の顎を持ち上げると唇にキスをする。軽く触れて、そして舌を絡ませた。
「だったら俺しか見ないようにしてあげる。清子……。ほら。俺の……もうこんなになってる。清子がそうさせたんだ。」
 手を捕まれて、史の性器に触れさせられる。そこはもう少しずつ堅さを増していた。
「起き抜けだからです。」
「いいや。ほら……どんどん固くなって……。清子のも濡れてきた。」
 閉じられた太股の間に指を這わせると、そこはもう少しずつ濡れ始めていた。
「あ……。そんなにしたら……。」
 赤くなる頬に史はまたゾクゾクし始めた。そして史の方から唇を重ねる。

 次号の「pink倶楽部」の史のコラムからは写真が消えた。それにホームページの写真も削除すると、メッセージにファンらしい女性のメッセージが届く。
「昌樹さんの写真を載せてください。」
 その言葉に、清子は断りを入れた。未だに人気があるのだろう。相変わらず、ウェブ上での史がAV男優として出演した動画は人気があるし、無料の動画も消えることはない。史の場合は難しいのだろう。
 未だに需要はあるので、動画の削除も出来ない。香子のように検索からヒットしないようにすることも出来ないのだから。慎吾や美夏はそれを黙認しているようだったが、内心面白くないはずだ。
 現役のAV女優や男優であれば、SNSなどからファンに訴えることも出来るのかもしれない。心があるファンなら購入してみるのだろうが、それもしないファンもいる。そんな奴はファンでもなんでもないだろう。
 雑誌の発売とともに、清子は寮をでた。そして史も自宅へ帰ったようだった。一緒のマンションにいるときは、史の誘いで部屋へ行ったり部屋に来たりすることもあったがもう今はそんなこともないし、清子も自分の部屋に呼ぶことも教えることもなかった。
 以前に戻ったようだった。こうして忘れていくのだろう。清子は安心したようにまたパソコンの画面を見る。
 一方の史は、少しいらだちを隠せなかった。清子が仕事が終わったらさっさと帰ってしまうことや、自宅を言いたがないのも気に入らない。思わず社員リストを出して、清子の自宅へ押し掛けようかとも思うがそんなデリカシーのないことをしたくなかった。
「ただいまっと。」
 外から晶が戻ってきた。カメラの入ったいつものバッグを持っている。
「お疲れ。今日ってなんの撮影?」
「んー。映画。」
「映画?」
「映画の撮影現場なんだけどさ、ほらAV男優の奴が十八禁だけどAVじゃねぇ映画に出るとかで、その撮影を撮影してきた。」
「へぇ……演技できるのか?そいつ。腰振るくらいしかできないだろうに。」
 晶の隣の男はどれだけ失礼なことを言っているのかわからないのだろう。そのAV男優だった男が、ここにもいるのに。だが史の顔色は変わらない。特に気にしていないのだろう。
「でもうまかったぜ。ベテランの役者が食われそうだ。あ、そうだ。編集長。」
 そういって晶は史のところへ足を向ける。
「どうした?」
「映画雑誌の「movie」から昼からインタビューして欲しいって言われてるんですけど、その男優が編集長だったら話をするって言ってます。」
「俺?「movie」の編集長じゃないのか?」
「じゃなくて、元同僚の方が話しやすいって言ってて。」
「……。」
 まともな雑誌なら、その男優を色眼鏡で見るだろう。その映画化をする小説だって、元々は官能小説だ。聞きたいのはそれしかないようで、正直男優自身もうんざりしていたのだろう。
「誰だったか……。」
 映画は好きだが海外のモノしか見なかった史にとって、邦画は得意なジャンルじゃない。役者にも興味がなかった。
「……あぁ……。この人か。一緒に絡んだこともある。」
「へぇ。3P?」
「じゃなくて、汁の時だな。この人がメインだった。確かに演技は上手そうだったし……普通の映画でも出来そうだったな。うん。わかった。都合を付ける。浅倉さん。」
 そう言って史は、副編集長に声をかけた。といっても誰もが副編集長のように、動くことは出来るのだが。
「はい。」
「午後から少し出かけるので、ライターの誤字、脱字だけチェックしてもらっても良いですか。」
「OKです。」
「内容は帰ってきたら見ますから。」
 ちらっと清子を見るが、清子はこちらの方には全く目を向けないまま、パソコンの画面を見ていた。いないことを少しは気にして欲しいと思うが、清子の関心は画面の中だけだった。
 そのとき清子はふとお尻に手を伸ばして、携帯電話を手にする。そしてわずかに笑ったと思うと、またいつもの表情に戻った。
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