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長い夜
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帰ってきた時間が十九時。それから家に帰るまで一時間ほど。その後食事の用意をするのが面倒だと、適当なファミレスで食事をしようと思ったら、史と清子に出会った。愛と清子は全く対照的だったが、どこか似ていると思ったのは仕事に対する姿勢なのかもしれない。
愛は自分を売りにしているので、自分の体のケアに余念がない。清子は自分の知識を売りにしているので、休日の度に講習会などへ足を運んだりしていた。そう言うところなのだろう。
だた、今この時間、清子は誰といるのだろう。二人で同じマンションに住んでいるのだ。どちらかの部屋へ行くこともできるだろう。そうなれば男と女だ。一度セックスをした仲だし、史が責めれば清子は断らないだろう。一度すれば二度、三度とあるのだから。
風呂から上がると、珍しく愛がウィスキーを飲んでいる。外食をしたから体を動かしてカロリーを消化すると思っていたのに、今日は酒を口にしているのに珍しいと思った。
「愛。」
風呂から上がった晶を見て、愛はふっと笑う。そしてソファの隣に座った晶の肩に掛かっているタオルで、まだ濡れている髪を拭いた。
「ドライヤー苦手だって言ってたけど、せめてよく拭いてから上がってよ。」
「あまり気にしてないよ。」
外国ではドライヤーはおろか、シャンプーや石鹸すらないところもある。体を毎日洗う習慣がないところであれば、何日も体を拭かないこともあるという。それに慣れているからか、晶は自分の体に頓着がない。長すぎる前髪を切ることすら嫌がるのだ。
「徳成さんって美人ね。」
髪を拭き終わり、そのタオルを晶に手渡した。
「そうか?わかんねぇ。」
「好みじゃない?」
「さぁな。」
話をはぐらかす。そうだ。晶が話をはぐらかすのは、清子の話をしたときだ。清子と何かあったのだろうか。それが一番気になるところだった。
「史とつきあえばいいのに。」
「そうだな。編集長は優しいし。俺と違って。」
「晶も優しいよ。それに誰よりも綺麗に撮ってくれるから。」
愛はそう言って晶の体に体を寄せる。ボディクリームだろうか。化粧品だろうか。そんな匂いがする。人工的な匂いは、あまり好きじゃなかった。だが愛がそんな匂いなのだ。イヤだとは言えない。臆病な自分が顔を覗かせる。だから清子を史に取られるのをいやだと思っているのに、結局こそこそ手を出そうとしているのだ。
食事を終えて、清子はコンビニに立ち寄るとビールを手にした。飲んでいるからセックスしたくないといいわけにしたかったから。だがそれを見て史は「君なら関係ないだろう」といいかねない。最初にセックスしたときもお互い飲んでいたのだから。
すると史もその様子を見てビールを手にする。
「編集長も飲むんですか?」
「そうだね。一杯飲んでしたいから。」
飲んだ方が淫らになる。そう思っていたが、清子の酒の強さに素面と変わらない気がする。
「やっぱり今日くらいはやめておこうかな。」
「え?」
そう言ってビールを棚に戻す。
「素面の時でしたいし。酒は立ちも悪くなるから。清子は飲んでも良いよ。」
その言葉に清子はビールを棚に戻す。そしてため息をついた。
「する事が前提なんですね。」
「もちろん。」
「編集長は元気ですよね。」
そう言って清子はその隣にある水を手にした。外食は味が濃い。自分で作る分には味の調整が利くが、外食はそうはいかない。ファミレスの塩鯖は、塩味が濃かった。
「編集長じゃないよ。会社を出たんだから、ここにいるのは男と女だろ?」
その言葉に清子は少しため息をついた。恋人のように振る舞う史に、もう何も言う気はなかった。
シャワーを浴びて、シャンプーをあけた。この後清子もシャワーを浴びるのだろう。同じ匂いになるのだ。すべて自分のモノになるようなそんな錯覚になる。
さっきは寸前だった。だから我慢も限界だった。想像するだけで勃起しそうになっているのを、少し我慢する。押さえろ自分。清子がシャワーから上がったらもう我慢しなくていいのだから。
タオルで体を拭くと、新しい下着を身につけた。そしてハーフパンツとTシャツといういつもよりもラフな格好でリビングに戻ってきた。
「先に使わせてもらったよ。」
すると清子はベッドに座ったまま、携帯電話を当たっている。どこかに連絡をしているのだろうか。
「どうしたの?」
「……あのペン型の録音機なんですけど。」
「うん。君の言われたように、目立たないところに置いてきたつもりなんだけどね。」
「ある程度の距離だったら、離れて聞くこともできるんです。」
「マイクのように?」
「えぇ。限度はあるし、その分電池の消耗が激しくなるんですけど、そもそも丸二日くらいは録音できるので良いかと思って。」
専用のアプリがあるらしい。それを清子は繋げて聞いていたようだ。
「……何の音もしてないみたいですね。」
時計を見ると、二十二時くらいだ。飲みに行っていると考えれば、不自然ではないのかもしれない。
「……それにしても誰がこんな事を……。」
「勘ぐっても仕方ないよ。答えは明日出る。そうだろう?明日よりも今からのことを考えようか。」
そういって史はテーブルに置かれていたペットボトルの水をあけて口に含む。
「シャワー浴びてきなよ。」
「……前から聞きたかったんですけど。」
「どうしたの?」
「私には編集長に感情がありません。それでも抱きたいと思うのは何なんですか?」
すると史は少し微笑んで言った。
「俺が抱きたいから。」
「……それだけ?」
「抱く度に、君が俺に振り向くと思うよ。」
「錯覚です。」
清子はそういって買ってきたビニールの袋から、下着を取り出した。すると史は少し笑って自分の買ってきたビニールの袋から、白いシャツを取り出す。
「これを着て出てきてくれないか。」
「何なんですか?」
受け取ったそれは白いワイシャツだった。男物で、清子が着ればワンピースのようになるかもしれない。
「大きいですよ。」
「それがいいんだよ。」
ふと「pink倶楽部」に載っていた女性向けのコーナーを思い出した。彼氏のシャツを着て、そのままセックスをするというものだ。そういうことがしたいのだろうか。
「買ったヤツだから。」
「……変態ですか。」
「君からは言われ慣れたな。」
下着とそのシャツを手にすると、バスルームへ向かった。そのまま組み敷いても良かったが、清子がそれを嫌がっていた。いずれ、そのままセックスしてもいい。清子が求めてくるまで、入れてほしいと懇願するまで、今日は何度でもしたい。
そして頭の片隅にある晶を消したい。
愛は自分を売りにしているので、自分の体のケアに余念がない。清子は自分の知識を売りにしているので、休日の度に講習会などへ足を運んだりしていた。そう言うところなのだろう。
だた、今この時間、清子は誰といるのだろう。二人で同じマンションに住んでいるのだ。どちらかの部屋へ行くこともできるだろう。そうなれば男と女だ。一度セックスをした仲だし、史が責めれば清子は断らないだろう。一度すれば二度、三度とあるのだから。
風呂から上がると、珍しく愛がウィスキーを飲んでいる。外食をしたから体を動かしてカロリーを消化すると思っていたのに、今日は酒を口にしているのに珍しいと思った。
「愛。」
風呂から上がった晶を見て、愛はふっと笑う。そしてソファの隣に座った晶の肩に掛かっているタオルで、まだ濡れている髪を拭いた。
「ドライヤー苦手だって言ってたけど、せめてよく拭いてから上がってよ。」
「あまり気にしてないよ。」
外国ではドライヤーはおろか、シャンプーや石鹸すらないところもある。体を毎日洗う習慣がないところであれば、何日も体を拭かないこともあるという。それに慣れているからか、晶は自分の体に頓着がない。長すぎる前髪を切ることすら嫌がるのだ。
「徳成さんって美人ね。」
髪を拭き終わり、そのタオルを晶に手渡した。
「そうか?わかんねぇ。」
「好みじゃない?」
「さぁな。」
話をはぐらかす。そうだ。晶が話をはぐらかすのは、清子の話をしたときだ。清子と何かあったのだろうか。それが一番気になるところだった。
「史とつきあえばいいのに。」
「そうだな。編集長は優しいし。俺と違って。」
「晶も優しいよ。それに誰よりも綺麗に撮ってくれるから。」
愛はそう言って晶の体に体を寄せる。ボディクリームだろうか。化粧品だろうか。そんな匂いがする。人工的な匂いは、あまり好きじゃなかった。だが愛がそんな匂いなのだ。イヤだとは言えない。臆病な自分が顔を覗かせる。だから清子を史に取られるのをいやだと思っているのに、結局こそこそ手を出そうとしているのだ。
食事を終えて、清子はコンビニに立ち寄るとビールを手にした。飲んでいるからセックスしたくないといいわけにしたかったから。だがそれを見て史は「君なら関係ないだろう」といいかねない。最初にセックスしたときもお互い飲んでいたのだから。
すると史もその様子を見てビールを手にする。
「編集長も飲むんですか?」
「そうだね。一杯飲んでしたいから。」
飲んだ方が淫らになる。そう思っていたが、清子の酒の強さに素面と変わらない気がする。
「やっぱり今日くらいはやめておこうかな。」
「え?」
そう言ってビールを棚に戻す。
「素面の時でしたいし。酒は立ちも悪くなるから。清子は飲んでも良いよ。」
その言葉に清子はビールを棚に戻す。そしてため息をついた。
「する事が前提なんですね。」
「もちろん。」
「編集長は元気ですよね。」
そう言って清子はその隣にある水を手にした。外食は味が濃い。自分で作る分には味の調整が利くが、外食はそうはいかない。ファミレスの塩鯖は、塩味が濃かった。
「編集長じゃないよ。会社を出たんだから、ここにいるのは男と女だろ?」
その言葉に清子は少しため息をついた。恋人のように振る舞う史に、もう何も言う気はなかった。
シャワーを浴びて、シャンプーをあけた。この後清子もシャワーを浴びるのだろう。同じ匂いになるのだ。すべて自分のモノになるようなそんな錯覚になる。
さっきは寸前だった。だから我慢も限界だった。想像するだけで勃起しそうになっているのを、少し我慢する。押さえろ自分。清子がシャワーから上がったらもう我慢しなくていいのだから。
タオルで体を拭くと、新しい下着を身につけた。そしてハーフパンツとTシャツといういつもよりもラフな格好でリビングに戻ってきた。
「先に使わせてもらったよ。」
すると清子はベッドに座ったまま、携帯電話を当たっている。どこかに連絡をしているのだろうか。
「どうしたの?」
「……あのペン型の録音機なんですけど。」
「うん。君の言われたように、目立たないところに置いてきたつもりなんだけどね。」
「ある程度の距離だったら、離れて聞くこともできるんです。」
「マイクのように?」
「えぇ。限度はあるし、その分電池の消耗が激しくなるんですけど、そもそも丸二日くらいは録音できるので良いかと思って。」
専用のアプリがあるらしい。それを清子は繋げて聞いていたようだ。
「……何の音もしてないみたいですね。」
時計を見ると、二十二時くらいだ。飲みに行っていると考えれば、不自然ではないのかもしれない。
「……それにしても誰がこんな事を……。」
「勘ぐっても仕方ないよ。答えは明日出る。そうだろう?明日よりも今からのことを考えようか。」
そういって史はテーブルに置かれていたペットボトルの水をあけて口に含む。
「シャワー浴びてきなよ。」
「……前から聞きたかったんですけど。」
「どうしたの?」
「私には編集長に感情がありません。それでも抱きたいと思うのは何なんですか?」
すると史は少し微笑んで言った。
「俺が抱きたいから。」
「……それだけ?」
「抱く度に、君が俺に振り向くと思うよ。」
「錯覚です。」
清子はそういって買ってきたビニールの袋から、下着を取り出した。すると史は少し笑って自分の買ってきたビニールの袋から、白いシャツを取り出す。
「これを着て出てきてくれないか。」
「何なんですか?」
受け取ったそれは白いワイシャツだった。男物で、清子が着ればワンピースのようになるかもしれない。
「大きいですよ。」
「それがいいんだよ。」
ふと「pink倶楽部」に載っていた女性向けのコーナーを思い出した。彼氏のシャツを着て、そのままセックスをするというものだ。そういうことがしたいのだろうか。
「買ったヤツだから。」
「……変態ですか。」
「君からは言われ慣れたな。」
下着とそのシャツを手にすると、バスルームへ向かった。そのまま組み敷いても良かったが、清子がそれを嫌がっていた。いずれ、そのままセックスしてもいい。清子が求めてくるまで、入れてほしいと懇願するまで、今日は何度でもしたい。
そして頭の片隅にある晶を消したい。
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