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ツケ
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残業が終わり、帰り支度をすませると清子はオフィスを出て行く。清子が提案したアカウント制は、どうやら他部署でも提案が出ていたらしく、案外すんなりと採用されそうだ。
エロ本よりもマンガ雑誌の方がそう言う輩が多いのだろう。小耳に挟んだことによると、清子はこの部署に配属されるかマンガ雑誌の方へ配属されるかは上の方で検討されていたらしい。清子にとってはどちらの部署でもかまわないと思っていたのだが。
一階に降りると、玄関ホールに史が居た。手にはコーヒーが握られている。どうやらコーヒーを飲みながら待っていたらしい。
「編集長。」
「一緒に帰らないか。」
清子は少し呆れながらも、行く先は一緒だと思いながらその話に乗った。外に出ると、むっとした空気がまとわりつく。お盆は過ぎているが、まだ暑さは残っているようだった。
「真っ直ぐ帰る?」
「いいえ。量販店へ行きたいです。着替えとか、身の回りのものを買いたいので。」
「それもそうだね。俺も行こう。」
「駅前にありましたね。」
そう言って二人は駅の方向へ向かう。
駅前の量販店は何でも揃う。シャンプーなどの日用品から服、下着、雑貨や食料品などもある。生鮮食品がないだけだ。
史は下着を手にしてかごの中に入れると、清子の方を見る。すると清子は首を傾げていた。
「どうしたの?」
「どうしてこんな下着ばかりなのでしょう。もっとまともな感じのはないんですかね。」
清子が手にしていたのは、黒い下着でレースがふんだんに使われている。上下セットになっていたが、ショーツは後ろがTバックになっていて、紐のようなものしかない。その隣には、下着を紐で結ぶ紐パンだ。どうやらこの辺はアダルトグッズがおいてあるらしく、少し離れたところにはローションやディルドが置いてあった。
「俺、こういうの好きだけどな。」
そう言って史は紫の透けたベビードールを手にする。それを清子は見て、いぶかしげに言った。
「お腹が冷えそうです。」
「似合うと思うよ。」
「そうですか?びっくりするほど似合わないと思います。」
「細いだけでスタイルは悪くない。俺のドストライクだからね。」
「勝手に想像だけしていてください。」
やっと下着のコーナーが別にあることに清子が気がついて、そこへ足を延ばす。白い下着を手にしてサイズを確かめた。
「タオルも必要ですね。」
「あぁ……それから、シャンプーとかはないから、それも買っておいた方がいい。」
目を移す清子を見て、史はそっとコンドームを一箱かごの中に入れた。これを使うときが来ればいいと思いながら。
「着替えは一着で良いですね。適当に。」
そう言って清子は綿のズボンに手をのばす。すると史はハンガーに掛かっている水色のワンピースを手にした。そして清子の体に合わせる。
「こっちの方が似合ってる。」
「そうですか?」
丈が短い。足は細すぎるのであまりだしたくなかったから、普段のスーツも決まってパンツスーツだったのに。
「パンツとシャツを買うよりも、こっちと、足を出したくないならレギンスとか合わせてもこっちの方が安いよ。このワンピース二十%オフだって。」
その言葉に清子は史を見上げていった。
「服を選ぶの好きなんですか?」
「そうだね。女性の服を見るのも好きだな。特に……好きな女性のものはね。」
その言葉に清子は表情を変えずに言う。
「……そっちにします。」
「靴もサンダルの方がいいんじゃない?ローファーだと合わないよ。」
「男性は良いですね。その靴でも別に違和感がなさそうで。」
「そう?明日帰るだけだからこれで良いかと思ってたんだけど。そうだ。明日、車を出そうと思ってたんだよ。荷物を運びたいから。君の家にも寄っても良いけど。」
すると清子は首を横に振る。
「遠慮します。さっき久住さんにも同じことを言われましたが、私はあまり荷物がないので。」
「パソコン周りはどうするの?」
「ハードディスクだけ持ってきます。デスクトップでしかできないことはしないつもりなので。ノートでも出来ないことはないし。」
主な講習会がなくて良かった。清子はそう思いながら、サンダルを見ていた。
バスで二つ停留所を越したところで降りる。そして河川敷を少し歩いたところに、五階建てのマンションがあった。地下もあるらしく、地下は駐車場になっている。ずいぶん立派なマンションだな。清子はそう思いながら、その建物を見ていた。
マンションと言いながらも間取りは2DK。一人暮らしをするには贅沢すぎるところなのに、家賃は会社が半額見て貰えるので割と安く住むことが出来る。
「荷物を置いたら……。」
食事でも行かないか。そう言いかけたときだった。清子の視線がエントランスにあるエレベーターの横にひっそりとあるコンセントに向けられた。そこには小さな黒い機械が取り付けられている。
「これ……。」
清子はそれを見て、エレベーターの横にある階段を降りていった。
「清子。」
史もそこを降りて、清子の後を追う。
そして駐車場に降りた清子は、きょろきょろと周りを見渡していた。
「……どうしたの?」
すると清子の視線がある一台の車に目線を止めた。それは古い黒いバンで、ラジオを聞くために立てられているアンテナが立ってある。だがそのアンテナは不自然なほど長い。
しばらくそれを見ているとバンは、エンジンをかけて駐車場をあとにした。
「……このマンション、盗聴か盗撮されてますね。」
「え?」
「誰か有名な方でも住んでるんでしょうか。」
その言葉に史の顔色が悪くなる。
「盗聴?盗撮?」
「部屋におそらく盗聴器かカメラが仕込んであって離れているからかもしれないけれど、エレベーターの横にあったあの黒い機械を中継させる。そしてあの黒い車に流れるようにしてあったように思えます。」
昔は盗撮をネタにAVが発売されることもあった。だがそれはもちろん仕込みがあってのことだ。史もそれに参加をしたことがあるし、見たことがあると思っていたのに気がつかなかったのは、清子が居て浮かれていたからかもしれない。
「……俺らの部屋かな。」
「気になるようでしたら、簡易的に調べることは出来ます。コンビニへ行って良いですか?」
「コンビニでいいの?」
「たぶん売っていると思うから。」
清子はそう言って階段を上がっていく。だがその後ろを着いていく史の手がふるえる。もしかしたらあのストーカーがやったことかもしれない。
今日送られたメッセージには、「女と一緒にいるなんて。部屋の中にまで来たら、どうなっても知らない」と書いてあった。
だからわざと清子とわざと恋人のように振る舞っていたのだが、それが徒になったのかもしれない。
見えない相手というのはきついものがある。
エロ本よりもマンガ雑誌の方がそう言う輩が多いのだろう。小耳に挟んだことによると、清子はこの部署に配属されるかマンガ雑誌の方へ配属されるかは上の方で検討されていたらしい。清子にとってはどちらの部署でもかまわないと思っていたのだが。
一階に降りると、玄関ホールに史が居た。手にはコーヒーが握られている。どうやらコーヒーを飲みながら待っていたらしい。
「編集長。」
「一緒に帰らないか。」
清子は少し呆れながらも、行く先は一緒だと思いながらその話に乗った。外に出ると、むっとした空気がまとわりつく。お盆は過ぎているが、まだ暑さは残っているようだった。
「真っ直ぐ帰る?」
「いいえ。量販店へ行きたいです。着替えとか、身の回りのものを買いたいので。」
「それもそうだね。俺も行こう。」
「駅前にありましたね。」
そう言って二人は駅の方向へ向かう。
駅前の量販店は何でも揃う。シャンプーなどの日用品から服、下着、雑貨や食料品などもある。生鮮食品がないだけだ。
史は下着を手にしてかごの中に入れると、清子の方を見る。すると清子は首を傾げていた。
「どうしたの?」
「どうしてこんな下着ばかりなのでしょう。もっとまともな感じのはないんですかね。」
清子が手にしていたのは、黒い下着でレースがふんだんに使われている。上下セットになっていたが、ショーツは後ろがTバックになっていて、紐のようなものしかない。その隣には、下着を紐で結ぶ紐パンだ。どうやらこの辺はアダルトグッズがおいてあるらしく、少し離れたところにはローションやディルドが置いてあった。
「俺、こういうの好きだけどな。」
そう言って史は紫の透けたベビードールを手にする。それを清子は見て、いぶかしげに言った。
「お腹が冷えそうです。」
「似合うと思うよ。」
「そうですか?びっくりするほど似合わないと思います。」
「細いだけでスタイルは悪くない。俺のドストライクだからね。」
「勝手に想像だけしていてください。」
やっと下着のコーナーが別にあることに清子が気がついて、そこへ足を延ばす。白い下着を手にしてサイズを確かめた。
「タオルも必要ですね。」
「あぁ……それから、シャンプーとかはないから、それも買っておいた方がいい。」
目を移す清子を見て、史はそっとコンドームを一箱かごの中に入れた。これを使うときが来ればいいと思いながら。
「着替えは一着で良いですね。適当に。」
そう言って清子は綿のズボンに手をのばす。すると史はハンガーに掛かっている水色のワンピースを手にした。そして清子の体に合わせる。
「こっちの方が似合ってる。」
「そうですか?」
丈が短い。足は細すぎるのであまりだしたくなかったから、普段のスーツも決まってパンツスーツだったのに。
「パンツとシャツを買うよりも、こっちと、足を出したくないならレギンスとか合わせてもこっちの方が安いよ。このワンピース二十%オフだって。」
その言葉に清子は史を見上げていった。
「服を選ぶの好きなんですか?」
「そうだね。女性の服を見るのも好きだな。特に……好きな女性のものはね。」
その言葉に清子は表情を変えずに言う。
「……そっちにします。」
「靴もサンダルの方がいいんじゃない?ローファーだと合わないよ。」
「男性は良いですね。その靴でも別に違和感がなさそうで。」
「そう?明日帰るだけだからこれで良いかと思ってたんだけど。そうだ。明日、車を出そうと思ってたんだよ。荷物を運びたいから。君の家にも寄っても良いけど。」
すると清子は首を横に振る。
「遠慮します。さっき久住さんにも同じことを言われましたが、私はあまり荷物がないので。」
「パソコン周りはどうするの?」
「ハードディスクだけ持ってきます。デスクトップでしかできないことはしないつもりなので。ノートでも出来ないことはないし。」
主な講習会がなくて良かった。清子はそう思いながら、サンダルを見ていた。
バスで二つ停留所を越したところで降りる。そして河川敷を少し歩いたところに、五階建てのマンションがあった。地下もあるらしく、地下は駐車場になっている。ずいぶん立派なマンションだな。清子はそう思いながら、その建物を見ていた。
マンションと言いながらも間取りは2DK。一人暮らしをするには贅沢すぎるところなのに、家賃は会社が半額見て貰えるので割と安く住むことが出来る。
「荷物を置いたら……。」
食事でも行かないか。そう言いかけたときだった。清子の視線がエントランスにあるエレベーターの横にひっそりとあるコンセントに向けられた。そこには小さな黒い機械が取り付けられている。
「これ……。」
清子はそれを見て、エレベーターの横にある階段を降りていった。
「清子。」
史もそこを降りて、清子の後を追う。
そして駐車場に降りた清子は、きょろきょろと周りを見渡していた。
「……どうしたの?」
すると清子の視線がある一台の車に目線を止めた。それは古い黒いバンで、ラジオを聞くために立てられているアンテナが立ってある。だがそのアンテナは不自然なほど長い。
しばらくそれを見ているとバンは、エンジンをかけて駐車場をあとにした。
「……このマンション、盗聴か盗撮されてますね。」
「え?」
「誰か有名な方でも住んでるんでしょうか。」
その言葉に史の顔色が悪くなる。
「盗聴?盗撮?」
「部屋におそらく盗聴器かカメラが仕込んであって離れているからかもしれないけれど、エレベーターの横にあったあの黒い機械を中継させる。そしてあの黒い車に流れるようにしてあったように思えます。」
昔は盗撮をネタにAVが発売されることもあった。だがそれはもちろん仕込みがあってのことだ。史もそれに参加をしたことがあるし、見たことがあると思っていたのに気がつかなかったのは、清子が居て浮かれていたからかもしれない。
「……俺らの部屋かな。」
「気になるようでしたら、簡易的に調べることは出来ます。コンビニへ行って良いですか?」
「コンビニでいいの?」
「たぶん売っていると思うから。」
清子はそう言って階段を上がっていく。だがその後ろを着いていく史の手がふるえる。もしかしたらあのストーカーがやったことかもしれない。
今日送られたメッセージには、「女と一緒にいるなんて。部屋の中にまで来たら、どうなっても知らない」と書いてあった。
だからわざと清子とわざと恋人のように振る舞っていたのだが、それが徒になったのかもしれない。
見えない相手というのはきついものがある。
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