不完全な人達

神崎

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二人の夜

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 香子は二つの選択肢を迫られていた。このまま会社を辞めるか、今の部署を離れて会社に残るか。
 会社に残る場合は、清子たちが動画の流出をくい止めるという。そのためには香子にもメーカーに足を運ぶ必要があるが。
「あとは検索エンジンの会社に動画の検索がヒットしないように言うことが必要でしょう。」
 清子はそういって携帯電話を取り出した。
「何?」
「えっと……先進国では結構あるらしいですが、過去の写真や動画をSNSなどにアップした場合ですね、本人がそれを削除するかアカウントを消滅させない限り、ずっと検索すればヒットする可能性があるんです。」
「へぇ……だから俺の動画もヒットするのか。」
 史はそういって感心する。史自体はAV男優をしていたことは、オープンにしているし会社も知っていることだ。だからそれを今更グダグダと言うつもりはない。だが内心は良い気持ちはしていないのが本音であり、過去の仕事セックスを清子に見られたくないと思う。
「それを検索エンジンの会社にヒットさせないでくれということは可能なんです。それが受け入れられれば、明神さんの動画がいくらアップされても検索することは出来ません。」
「引っかからなければ、あげても意味がないってことか。」
 焼酎を飲みながら、晶は感心したように言う。
「大手の会社であれば、数も少ないですし。」
 そのとき香子はウーロン茶を一口飲んで、清子に向かって言う。
「わかった……あたし……メーカーに出向いてみる。」
「……大丈夫ですか?」
「逃げるように出てきたところだし……気は進まないけど、自分でまいた種だもの。」
 オムライスがやってきて、慎吾はそれを受け取ると早速口に運んだ。
「美味いな。卵がとろとろじゃなくて堅いのが良い。」
 全く関係ない話をしている。こんな場でも呆れるくらいマイペースなのだ。
「そうだな……明神……出来れば弁護士か何かをつけた方が良い。法律に詳しい人だ。」
 史はそういうと、香子は首を傾げた。
「そんな職業の人は知り合いにいませんよ。」
「それかウェブ関係に明るい方ですね。」
「徳成も詳しいだろ?」
 晶はそういうと、清子は首を横に振る。
「私はウェブ関係と言うだけで、法律はあまり……そういうことは我孫子さんの周りの方が……。」
 そうか。我孫子に話をしてみればいいのだ。早速メッセージを入れてみよう。清子はバッグから携帯電話を取り出して、我孫子へメッセージを送る。そして携帯をしまうと、慎吾が急に清子に話しかける。
「清子。このオムライス美味い。食ってみて。」
 そういってスプーンですくったそのオムライスを、清子の口に運んだ。その様子に香子が唖然としてみていた。それは絵に描いたような美男子が、清子のような地味な女にスプーンで食事を与えている光景。
「やだ……かっこいい。」
 おもわず香子が思わず声に出してしまった。だがその声に晶が反応する。
「てめぇ。何してんだよ。」
 しかし慎吾は何も思っていないのか、またオムライスにスプーンを入れる。
「美味いだろ?」
「確かに……そうですけど……。」
 気まずい。そう思いながら、慎吾を見たあとに史の方を見るが、史は何も言わずに酒を注いでいた。だが見た目ではわからないが、軽くため息を付いたのがわかる。
「てめぇ、この国のヤツじゃねぇのはわかるけどよ、こんな場ですることじゃねぇ。」
 晶はムキになったように慎吾に向かってそういうが、慎吾はその様子に軽くため息を付く。
「何であんたがそんなにムキになってんのかわかんねぇな。彼氏はそっちだろ?」
 そういって慎吾は史の方をスプーンで指さす。すると香子も驚いたように、清子と史を交互に見る。
「え?いつから付き合ってるの?」
 身を乗り出して香子はそう聞くと、清子は首を横に振る。
「付き合ってませんから。」
「え?でもさっき否定しなかったし、そうなんだろうと思ってたんだけど。」
 良い機会だ。ここで既成事実を作ってしまおう。史はそう思いながら、清子の肩に手を置く。
「もう誤魔化せないな。」
「は?」
 怪訝そうな顔の清子は、そのまま史の方を見る。そしてその肩に置かれた手をよけた。
「やめて下さい。」
「あれだけ求めておいて良くやめてって言えるよね。」
「やめろ。酔っぱらい。」
 清子はそういって席を立つ。そのとき携帯電話が鳴った。またしゃがみ込むとバッグから携帯電話を取り出した。相手は我孫子だった。
「もしもし……はい……。すいません。ちょっとお話が……。」
 そういって清子は立ち上がると部屋を出ていった。その様子に史はため息を付く。
「良いチャンスだったのにな。」
「……え……。ねぇ。本当は付き合って無いんですか?」
「拒否されてばっかだよ。強情なお嬢さんだ。」
 史の言葉に香子はほっとする。やはり史が言っているだけだったのだ。
 だが晶は不機嫌なままだった。付き合っていないが、セックスはしたのだ。それは自分と同じ条件であり、愛がいる分、自分の方が不利かもしれない。

 居酒屋を出ると、まだ雨が降っていた。
「……いつやむんですかねぇ。」
 香子の手にはメモが握られている。それは我孫子が紹介した弁護士事務所の連絡先だった。こういった案件の相談は多いらしく、まだ数は少ないウェブ専門の弁護士は、警察と連携も取ることもあり信用はおけるらしい。
 ただ早い方が良い。我孫子はそういって電話を切った。
「台風が来ているらしいね。直撃なら、会社は自宅待機と言うだろうけど。」
「自宅待機ねぇ……。」
 慎吾の姿はここにはない。慎吾はおおかたの話が終わったら、母である美夏がいるという部屋に戻っていったのだ。案外ドライだ。
「電車ならありますね。」
 清子はそういって傘を差しながら、電車の時間を調べていた。さすがにもうバスはないようだ。
「今日は電車で帰ります。」
「じゃあ、一緒に行きましょう。久住さんは?」
「俺、車だから代行で帰るわ。」
 そういって携帯電話を取り出す。どうやらメッセージが入っていたらしい。相手はおそらく愛なのだろう。
「じゃあ、また明日。」
 そういって晶は三人と別れる。その後ろ姿を見ながら少しため息を付いた。
 電車で帰れば、最初に降りるのは香子だろう。そうなれば史と清子は二人きりだ。途中で史が降りても良い。清子が史の所に行っても良い。とにかく二人でいれる時間があるのだ。
 そのあとまたセックスするのだろうか。夕べもしておいて、今日もするのか。そう思うと、身が張り裂けそうだ。
 そのとき携帯電話が鳴った。その相手を見てため息を付く。
「帰りに水を買ってきて。」
 愛の言う「水」は外国のどこかのメーカーのものではないといけないらしい。コンビニでも手にはいるが、水なら何でも良いというわけではないその姿勢が、最近とても窮屈だと思う。
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