不完全な人達

神崎

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入社

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 見積書を会計室に提出したとたん、史のところに会計室から連絡がきた。
「何なんですか、この見積もり。パソコンのセキュリティーの向上だってそんなにかかるわけ無いでしょ?」
 史は会計室に呼び出されて、席を立った。すると清子が相変わらずヘッドフォンをつけてパソコン操作をしているのが目に留まる。
「……徳成さん。」
 目の前で手を振ると、清子はヘッドフォンをとる。
「はい。」
「一緒に会計室に来てくれる?あの見積書は、俺が説明できることではないと思うから。」
 その言葉に清子は席を立った。
「わかりました。」
 部屋を出て、二人でエレベーターに乗る。エレベーターにボタンはない。そのかわりパスをかざすと勝手に連れて行ってくれるのだ。会計室も、総務部も一階にあるため、史たちのパスは十階と一階しかいけない。ほかの階に用事があるときは階段で移動するのだ。
「俺もあの値段はないと思ってたんだけどね。」
「……本気でそんなことを思ってるんなら、ウェブに参入しない方が良いですよ。」
 その言葉に清子の方をみるが、清子の表情は変わらない。

 他の課のウェブ担当者が、怒りを露わにして会計室をあとにした。その様子を涼しい顔で清子はみている。
「徳成さん……。」
「私は真実しか言っていません。」
 ウェブに力を入れると口で言いながらもずさんなセキュリティー体制だった。その証拠を清子は見せたのだ。
 簡単なパスコード。それをかいくぐって、見せた本部の会計。不自然な金の流れがある。それからまだウェブ上にも乗せていない、作家の原稿。それが露わになったのだ。
「……セキュリティーは二重にするべきですね。それから今のウィルスは消去させるソフトを入れない限り、出版する度に誤字があったことを訂正させる記事を載せないといけません。」
「ウィルスはどこから?」
「海外のサーバーです。ヨーロッパの方ですね。この国からのようですが、中継させているのではっきりしたところがわかりません。それから……。」
 つつけばつつくほどぼろが出る。電子書籍の方に手が回っていなくて良かった。個人情報が流出などされたら、信用問題になる。
「……わかりました。この金額でみてみます。」
「よろしくお願いします。」
 清子は頭を下げると、史とともに会計室を出ていった。その様子に会計の女はため息を付いた。
「どうしたの?」
「すごい出来る人だなと思って。どうして普通のウェブの会社とかに行かなかったのかしら。」
「さぁね。でもあの徳成清子って噂があるよね。」
「何?」
「……超仕事は出来るけど、人間関係で煙たがられてるって。仕事だけみて延長したいってところもあったみたいだけど、あの人から断ってるみたいだし。」

 十階にたどり着いて、清子は住ぐに仕事場に戻ろうとした。しかし史が足を止める。
「一服していかない?」
 連れだって煙草など吸いたくない。それがよけいな誤解を与えるのだろうし。
「いいえ。仕事に戻りたいです。」
「どっちにしてもセキュリティーが強化されないと、仕事も出来ないんじゃないの?」
 面倒だな。清子はそう思いながら、首を横に振る。
「煙草忘れてきましたから。」
「俺ので良ければ吸っていく?」
 赤いパッケージの煙草だ。それを見て清子は喫煙所に促された。三度断ると、さすがに人間関係がいびつになると思ったから。
「どうぞ。」
 機嫌が良さそうに煙草を勧める。清子はそのうちの一本を取り出して、火をつけてもらった。その時そばに寄ってみてわかった。着飾っていないし、黒縁の眼鏡をしているが、顔立ちは悪くない。むしろ美人な方だろう。
「……何か?」
「いいや。」
 さすがに見すぎだ。史はそう思いながら煙草を自分も取り出して、それをくわえた。
「それにしてもこういうウェブって、専門学校か何かに通って習ったの?」
「そうですね。職業訓練校ですが。取れるだけ資格を取りました。」
「へぇ。職業訓練校か。専門学校じゃないんだね。」
「専門学校だったらもっと深く学べたかもしれませんが……あとは独学で資格を取りました。」
 なるほど。これがおそらくあまり人間関係を円滑にしていない理由だろう。
「でも抵抗無い?エロ雑誌なんてさ。」
「……別に。仕事ですし。」
「処女にはきついだろうなと思って。」
 その言葉に思わず清子は煙草を落としかけた。そして史を見上げる。
「誰が?」
「処女っぽいなって思って。」
「失礼ですね。」
「違うんだ。」
「……違いますけど。」
 良かった。昼休憩の時の晶との会話を聞かれてなかったのだ。
「意外。」
「そうですか?」
「堅そうだから。」
「堅くはないですよ。体に悪いとわかっていても煙草はやめれない。お酒も適度なら良いけれど、適度ではないし。」
「お酒飲むんだ。だったら歓迎会を……。」
 いい機会になった。清子は灰を落とすと、史に言う。
「歓迎会なんて結構ですから。」
「どうして?」
「一年契約です。来年には居なくなるし、歓迎会なんて……。」
「俺は歓迎してるけどね。」
 史も灰を落とすと、少し笑う。その煙の向こうの笑顔がまぶしい。だが清子には何も響いてこない。
「ホスト並の気遣いが必要だって言ってましたね。」
「え?」
「AV男優。女性向けなら尚更ですか?」
 その言葉に、今度は史がひきつる番だ。
「何を?」
「……ウェブ上のコラムに、編集長のものがありましたから。プロフィールを読みました。」
「あぁ。そうだったね。でも俺、別に隠してないし。」
「三十五ならまだ現役でいけそうですけど。」
「無理だな。仕事はともかく、何かストーカーみたいなのに追いかけられてね。SNSのDMで自分のマ○コの画像を送りつけてくる人とかいるし。」
 その言葉に清子は眉をひそめた。話には聞いていたが、そんなところもあるのかと。
「オ○ニーの動画とか。」
「もう結構です。」
 表情が変わらないと思っていたが、案外変わる。赤くなったり、眉をひそめたり、本来はこんなに忙しいお嬢さんなのだろう。
「AV今でも見るんですか。」
「そうだね。コラム書かないといけないし。今度一緒にみる?」
「いいえ。自分で見ますから。」
 そう言うことにも慣れていかないといけないのだろう。と同時に、昔のことを思い出してしまった。
 晶とセックスをしたときのこと。初めてだったのに、ずいぶん感じてしまったような気がする。一度目は痛かったが、二度、三度と苦痛よりも快感が勝っていた。
 自分が淫乱になった気がする。もう二度としたくないとあのとき以来、セックスはしていない。声をかけられることもない。
 だから史のこの言葉を素直に受け取ることは出来なかったのだ。
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