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序
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高校生になったとたん、祖母が入院した。たった一人の身内であった徳成清子は、入院費と生活費を稼ぐために高校を辞めた。高校生であった時期は、三ヶ月。真新しい夏服は洗い替えも含めて二着あったのに、全てが無駄になってしまった。
昼間はバイトに精を出し、夜になれば祖母の元へ通った。援助してくれる人は居ない。聖子には両親が居なかったからだ。
「清子。人をあまり信じてはいけないよ。身内だってこんな調子なのだから、他人となれば尚更だ。」
祖母は入院先に行く度に清子にそう言い聞かせ、清子もそんなものなのだろうと思っていた。わずかな蓄えもなくなっても、誰も援助してくれるわけではない。
祖母が危篤になったと、連絡を受けた冬の終わりかけたある日。清子は病院に向かっていた。
だが自転車をこいでたどり着いた病院の一室で、祖母は動かなくなり顔には白い布がかけられていた。
葬儀はひっそりと行われ、参拝する人は近所の人や祖母が働いていたスーパーの人に限られた。近所づきあいもそんなに無かったし、人間関係も得意ではなかったからかもしれない。
そして清子は葬儀を終えると、その報告を身内にした。長男である叔父は、仕事が忙しいからと帰ってこなかった。次男の叔父は、地方へ仕事へ行っている。そして三男である清子の父親に限ってはどこにいるかもわからない。
結局そんなものなのだ。入院費と葬儀代、四十九日法要は、祖母が細々とかけていた保険金でまかなえた。正直、足りなかったら自分が貯めていたお金を出さないといけないと思っていたので、正直ほっとした。
そして納骨を済ませて、清子は家の片づけをしていた。祖母のものを処分して、この家と土地を売ってしまおうと思っていたから。自分のことを考えるとそうしてしまった方が良いと思う。ところがその家に電話がかかる。
「清子ちゃん。その家のことだけど……。」
葬儀にも四十九日にも出なかった叔父である長男が自分に権利があると主張してきたのだ。この田舎の二束三文の土地代が欲しいのだろう。
清子はその電話を切ったあと、何故か涙が出てきた。人間とは、結局そんなものなのだ。そう言われているようだった。
次の日。清子は自分で貯めたバイト代を手にして家を出た。祖母が亡くなれば、きっと長男は家の権利を主張してくる。それは想像していたことだった。だから少し前から、ある学校へ行くように手配をしていたのだ。
結局信じれるのは自分だけ。自分だけで生きて行くには、きっと資格が必要だ。そして都会であればあるほど、人間関係も希薄だと思う。もう関わりたくなかった。一人で生きていかなければいけない。この町を居なくなっても悲しむ人など誰もいないのだから。信じれるのは自分だけ。そう思って足を進める。
早朝の駅だった。朝靄がかかっているその駅にたどり着いて、清子はため息を付いた。
強がっていると思いながらも。
昼間はバイトに精を出し、夜になれば祖母の元へ通った。援助してくれる人は居ない。聖子には両親が居なかったからだ。
「清子。人をあまり信じてはいけないよ。身内だってこんな調子なのだから、他人となれば尚更だ。」
祖母は入院先に行く度に清子にそう言い聞かせ、清子もそんなものなのだろうと思っていた。わずかな蓄えもなくなっても、誰も援助してくれるわけではない。
祖母が危篤になったと、連絡を受けた冬の終わりかけたある日。清子は病院に向かっていた。
だが自転車をこいでたどり着いた病院の一室で、祖母は動かなくなり顔には白い布がかけられていた。
葬儀はひっそりと行われ、参拝する人は近所の人や祖母が働いていたスーパーの人に限られた。近所づきあいもそんなに無かったし、人間関係も得意ではなかったからかもしれない。
そして清子は葬儀を終えると、その報告を身内にした。長男である叔父は、仕事が忙しいからと帰ってこなかった。次男の叔父は、地方へ仕事へ行っている。そして三男である清子の父親に限ってはどこにいるかもわからない。
結局そんなものなのだ。入院費と葬儀代、四十九日法要は、祖母が細々とかけていた保険金でまかなえた。正直、足りなかったら自分が貯めていたお金を出さないといけないと思っていたので、正直ほっとした。
そして納骨を済ませて、清子は家の片づけをしていた。祖母のものを処分して、この家と土地を売ってしまおうと思っていたから。自分のことを考えるとそうしてしまった方が良いと思う。ところがその家に電話がかかる。
「清子ちゃん。その家のことだけど……。」
葬儀にも四十九日にも出なかった叔父である長男が自分に権利があると主張してきたのだ。この田舎の二束三文の土地代が欲しいのだろう。
清子はその電話を切ったあと、何故か涙が出てきた。人間とは、結局そんなものなのだ。そう言われているようだった。
次の日。清子は自分で貯めたバイト代を手にして家を出た。祖母が亡くなれば、きっと長男は家の権利を主張してくる。それは想像していたことだった。だから少し前から、ある学校へ行くように手配をしていたのだ。
結局信じれるのは自分だけ。自分だけで生きて行くには、きっと資格が必要だ。そして都会であればあるほど、人間関係も希薄だと思う。もう関わりたくなかった。一人で生きていかなければいけない。この町を居なくなっても悲しむ人など誰もいないのだから。信じれるのは自分だけ。そう思って足を進める。
早朝の駅だった。朝靄がかかっているその駅にたどり着いて、清子はため息を付いた。
強がっていると思いながらも。
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