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第45話 次に絶望を味わうのは、ばあちゃんじゃねえぜ
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サンがそっと肩を抱いて、サマンサばあちゃんの優しく背中をなでる。
「怖がらなくても大丈夫ですよ。私がお守りしますから」
「ぜ、絶対にダメ。は、早く逃げなさい」
「え?」
「いいから逃げなさい!!」
サマンサばあちゃんが、これまでの穏やかな口調を一変させた。
そして目から大粒の涙をぽろぽろ落としながら、金切り声を上げたのだった。
「そのオオカミはブラック・ファング」
「ブラック・ファング?」
聞いたことない名前だな。
俺とサンが眉をひそめると、サマンサばあちゃんは顔を紅潮させて続けた。
「畑を荒らし、人間の肉を食らうの。王国兵ですらかなわない凶悪な悪魔。お父さんは……私の夫はヤツに食い殺されたの!!」
「なんと……」
ブラック・ファングは数百年も前から村に伝わるオオカミの姿をした化け物らしく、村の人口が100人を超えるとどこからともなく現れるという言い伝えがあったそうだ。
村人たちは言い伝えを信じていなかったけど、村に100人目の住人となる赤ん坊が産まれた翌日に、ブラック・ファングが伝説通りに現れたらしい。
それから10日に1回村を襲っては、1人ずつ殺していった。
村に化け物が住み着いている、という噂は瞬く間に周囲に広がって、村から次々と人が消えていったそうだ。
そうして10日前。ついにサマンサばあちゃんの旦那さんが殺された。
「私はこの村の最後の住人。でも行く当てなんてないし、今さら逃げるつもりはないの。でも、あんたたちは違う。お願いだから逃げておくれ」
……ったく。そんなこと聞かされたら、ますますここを離れられないじゃないか。
ちらりとサンの顔を覗いてみると、彼女は目を合わせてきた。
やっぱりそうか。
サンも俺と同じ考えか。
「ははっ」
思わず笑いが漏れる。
サマンサばあちゃんは顔をしかめた。
「笑ってる場合じゃないわね。早くお逃げ」
「ばあちゃん、わりぃ。逃げられないわ」
「あんた……。死ぬのが怖くないのかい?」
顔を引きつらせたサマンサばあちゃんが、俺を凝視する。
俺は肩をすくめた。
「そりゃ、怖いです」
「だったらなぜ逃げないんだい?」
「俺、自分が死ぬことより、誰かを見殺しにして逃げる方が怖いんです」
「んな……?」
サマンサばあちゃんが口をぽかんと開けて俺をみつめる。
しばらくして彼女はサンに視線を動かした。
あんたはどうなの?
と聞きたいのだろう。
俺とサンはもう一度顔を見合わせる。
サンは力強くうなずいた。
「おばあさま。私もピートさんと同じです」
「あんたら、ほんと変わった人たちだねぇ……。でも本当に逃げた方がいい。ヤツは人間が苦しむのを楽しみながら、ゆっくり殺すの。そして最後は全てを食らう……。骨の一つも残さずになぁ……。私は目の前で何人も親しい人をヤツに殺された。何度も絶望を味わった。だからもう……」
「大丈夫だ。次に絶望を味わうのはサマンサさんじゃないから。あ、もうおしゃべりはここまでみたいだ。サン、サマンサさんを頼む」
「はいっ! ピートさん」
漆黒のオオカミがひらりとあらわれる。
サンがサマンサばあちゃんを背にしたのを確認してから、俺はオオカミの前に立った。
「グルルルル……!」
こいつがブラック・ファングか。
大きさは普通のオオカミの倍以上。
目は真っ赤に光り、鋭い牙はまるで短剣のようだ。
確かにこれは悪魔だな。もっと言えば、モンスターだ。
けどダンジョンの外でモンスターが出現するなんて話、聞いたことないぞ。
もしかして魔王復活と何か関係があるのだろうか……。
もしそうだとしたら、なおさら引き下がるわけにはいかないよな。
責任の一端は俺にあるんだし。
「さてと……」
んじゃあ、ばあちゃんの敵討ちをはじめようか――。
「怖がらなくても大丈夫ですよ。私がお守りしますから」
「ぜ、絶対にダメ。は、早く逃げなさい」
「え?」
「いいから逃げなさい!!」
サマンサばあちゃんが、これまでの穏やかな口調を一変させた。
そして目から大粒の涙をぽろぽろ落としながら、金切り声を上げたのだった。
「そのオオカミはブラック・ファング」
「ブラック・ファング?」
聞いたことない名前だな。
俺とサンが眉をひそめると、サマンサばあちゃんは顔を紅潮させて続けた。
「畑を荒らし、人間の肉を食らうの。王国兵ですらかなわない凶悪な悪魔。お父さんは……私の夫はヤツに食い殺されたの!!」
「なんと……」
ブラック・ファングは数百年も前から村に伝わるオオカミの姿をした化け物らしく、村の人口が100人を超えるとどこからともなく現れるという言い伝えがあったそうだ。
村人たちは言い伝えを信じていなかったけど、村に100人目の住人となる赤ん坊が産まれた翌日に、ブラック・ファングが伝説通りに現れたらしい。
それから10日に1回村を襲っては、1人ずつ殺していった。
村に化け物が住み着いている、という噂は瞬く間に周囲に広がって、村から次々と人が消えていったそうだ。
そうして10日前。ついにサマンサばあちゃんの旦那さんが殺された。
「私はこの村の最後の住人。でも行く当てなんてないし、今さら逃げるつもりはないの。でも、あんたたちは違う。お願いだから逃げておくれ」
……ったく。そんなこと聞かされたら、ますますここを離れられないじゃないか。
ちらりとサンの顔を覗いてみると、彼女は目を合わせてきた。
やっぱりそうか。
サンも俺と同じ考えか。
「ははっ」
思わず笑いが漏れる。
サマンサばあちゃんは顔をしかめた。
「笑ってる場合じゃないわね。早くお逃げ」
「ばあちゃん、わりぃ。逃げられないわ」
「あんた……。死ぬのが怖くないのかい?」
顔を引きつらせたサマンサばあちゃんが、俺を凝視する。
俺は肩をすくめた。
「そりゃ、怖いです」
「だったらなぜ逃げないんだい?」
「俺、自分が死ぬことより、誰かを見殺しにして逃げる方が怖いんです」
「んな……?」
サマンサばあちゃんが口をぽかんと開けて俺をみつめる。
しばらくして彼女はサンに視線を動かした。
あんたはどうなの?
と聞きたいのだろう。
俺とサンはもう一度顔を見合わせる。
サンは力強くうなずいた。
「おばあさま。私もピートさんと同じです」
「あんたら、ほんと変わった人たちだねぇ……。でも本当に逃げた方がいい。ヤツは人間が苦しむのを楽しみながら、ゆっくり殺すの。そして最後は全てを食らう……。骨の一つも残さずになぁ……。私は目の前で何人も親しい人をヤツに殺された。何度も絶望を味わった。だからもう……」
「大丈夫だ。次に絶望を味わうのはサマンサさんじゃないから。あ、もうおしゃべりはここまでみたいだ。サン、サマンサさんを頼む」
「はいっ! ピートさん」
漆黒のオオカミがひらりとあらわれる。
サンがサマンサばあちゃんを背にしたのを確認してから、俺はオオカミの前に立った。
「グルルルル……!」
こいつがブラック・ファングか。
大きさは普通のオオカミの倍以上。
目は真っ赤に光り、鋭い牙はまるで短剣のようだ。
確かにこれは悪魔だな。もっと言えば、モンスターだ。
けどダンジョンの外でモンスターが出現するなんて話、聞いたことないぞ。
もしかして魔王復活と何か関係があるのだろうか……。
もしそうだとしたら、なおさら引き下がるわけにはいかないよな。
責任の一端は俺にあるんだし。
「さてと……」
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