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第30話 力の差を見せつけてやんよ~トラビスとの対決~

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「ああ、すまん。ニック。ここを通すわけにはいかない」
「は? どういことだい?」
「いや、とぼけるのもいい加減にしろよ。おまえ、アルゼオンの手下に成り下がったんだろ?」

 ニックの口元がピクリと引きつる。
 視線が刺すように鋭い。

「な、なんの根拠でそんなことを言ってるんだい?」

 声が震えてる。
 ああ、これ完全に怒ってるよな。
 でもこの際だ。言いたいことを全部言ってしまおう。

「いや、だって、おまえたちのレベルで第51層にいるアルゼオンの前を素通りできないだろ。でもおまえは五体満足だ。となれば考えられるのは一つ。アルゼオンにひれ伏したってことだ」
「ははは。君はいつから名探偵になったんだい? 僕たちはイライザのダンジョンエスケープで脱出に成功した、とは考えられなかったのかい?」
「ああ、なるほどね。イライザは未熟だからダンジョンエスケープで脱出できたのは2人まで。だから今度はトラビスを囮にしたんだな?」

 ニックの顔色がさっと青くなる。
 当てずっぽうだったが図星らしい。
 どこまで腐ってやがるんだ……。この男は。

「まあ、この際、互いのことはどうだっていいじゃないか」
「まあ、そうだな。いずれにしたって『鎖の封印』を解かせるわけにはいかない。力づくでも止めてみせる」
「あははは! ピート、冗談はよしてくれ! 君みたいな無能なテイマーに何ができるって言うんだい?」

 両手を広げて大笑いするニック。
 完全に油断している今なら、サン譲りの重い一撃を腹に食らわせることも造作ない。
 だがダンジョン内で冒険者同士が戦うのは禁じられているし、俺だってめんどくさいことは避けたい。

「やめようぜ。争いは好きじゃないんだ」
「あはは。だったら君が大人しくここを通してくれればいいだけの話さ」

 もう、いい。多少めんどくさくなってもしょうがない。
 元から他人の話を聞くようなタイプじゃなかったしな。
 俺は無言のままニックを睨みつけた。
 一歩も動く気はない、と視線にメッセージを込める。
 ニックは相変わらずニタニタしている。
 こちらも引くつもりはないと、視線だけで返してきた。
 と、そこに サン、ルナ、ピピ、エアリス、カーリーの5人が駆けつけてきた。

「ピートさん!!」
「ご主人様!!」
「ピート!!」
「ご主人さま! あ、あいつぅ!」
「……嫌なヤツだ」

 みな心配そうに俺を見ている。

「驚いた。君がいつの間にかハーレム生活を送ってたなんて。意外と君って男はゲスなんだね」
「あんたに言われたくない」
「あはは。君の気持ち、すごく分かるよ。彼女たちの手前、カッコ悪いところを見せたくないんだろ? でもなんでもあきらめと引き際が肝心さ」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
「そうか。なら仕方ないね。でも僕は自分の手で友を傷つけるのは趣味じゃない。だから僕の犬が相手してあげよう」

 ニックがくいっと人差し指を曲げると、ゾンビになったトラビスがズリズリとこちらに近寄ってきた。
 片手には彼自慢の長剣が握られている。

「あはは! 僕に対する無礼な態度を謝るなら今のうちだよ! そうだな……。うん、サンだっけ。彼女を僕に渡せば許してやってもいい。大丈夫、僕がたっぷりかわいがってあげるからね」
「断る」
「ピートさん! 私を使役してください!!」

 サンの叫び声が響いてきた。しかし彼女を危ない目にあわせるわけにはいかない。
 俺はその声を無視して、トラビスの方を向いた。

「あはは。言っておくけどね。今のトラビスはレベル200を軽く超えてるんだよ。腕力、スピードともに800ちょうど。この僕でも魔法抜きだとかなわない。君なんて一瞬のうちに切り刻まれるだろうよ。それでもいいのかい?」

 思わず、クスッと笑いが漏れた。
 ちなみに俺の腕力が1300以上で、スピードにいたっては2300を超えている。
 腕力、スピードともに800で勝ち誇ったような顔されてもな。
 
「何を笑ってるんだい? もしかしてあまりの恐怖に気がふれたのかな?」

 いやいや、その逆だから。
 あまりに楽勝すぎて笑いが止まらないってやつだ。
 さてと……。
 じゃあ、今までに受けた屈辱を晴らさせていただくとするか――。

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