18 / 88
第18話 この幼女、あどけない顔して強すぎだろ!
しおりを挟む
◇◇
どんな分野でも上には上がいるというのは、世の常みたいなものだ。
第53層のモンスターハウスで無双できるようになったからといって、最強になったわけじゃないのにな。
ここまであまりに順調だったから、すっかり油断していたのだ。
「ルナ! エアリス! カーリー!」
洞窟の中。
突き当りの大きな部屋で3体は仰向けに倒れていた。
「ううっ……」
「いてて……」
「……やられた」
3人とも白銀の体が真っ黒にこげている。
かなりの重傷だが、息はあるようだ。
完全に死んでしまったモンスターはも二度と召喚できなくない――と何かで読んだ覚えがある。
せっかく仲良くなったのに、死なせるわけにはいかない。
どこか安全な場所に避難させることはできないか……。
「ピートさん! モンスターボックスです!」
「そうか!」
腰にぶら下げたモンスターボックスに入れてしまえば、敵に狙われる心配はなくなる。
しかも時間とともに体力が回復するようにできているから一石二鳥だな。
3体を手早くモンスターボックスに収納すると、サンが再び甲高い声をあげた。
「ピートさん、あれ!」
彼女が指さした先に松明を向けると、巨大なコウモリが赤い目を光らせてこちらを睨みつけている。
「ルナたちを痛みつけたのはあんたか?」
「ルナ……ね。モンスターになまえをつけちゃうあたり、まおーのてしたって感じね!!」
ん? このコウモリずいぶんと若いな。
声だけしか分からないけどサンたちよりも随分幼く感じる。
「魔王の手下? 誰が?」
「あんたに決まってるでしょ! パパのさいだんもめちゃくちゃにして! あたしが許さない!!」
「パパの祭壇?」
いったい何を言ってるんだ?
だが俺が眉をひそめた瞬間に、コウモリは甲高い声をあげて激怒した。
「もういいっ!! くらえ! ホワイトスパーク!!」
「ピートさん! 危ない!!」
俺の前に回り込んだサンが両手を広げた。
同時にコウモリの全身から白い閃光が放たれる。
あまりの眩しさに目を開けてられない。しかもとんでもなく熱い。
「ぐっ……!」
苦しそうなうめき声が耳に入る。
ゆっくりと目を開くと、サンががくりと膝を落としていた。
「サン!!」
「ピートさん……。無事で……よかった……」
「サン!! サン!!」
意識を失ったサン。だが息はあるようだ。
綺麗な体は見る影もなく真っ黒に焦げている。
ルナたちと同じだ。きっと彼女たちもホワイトスパークを食らったのだろう。魔法耐性のあるプラチナゴーレムを一撃で戦闘不能におちいらせるとは……。
恐ろしい魔法だ。
だが怖がっていても仕方ない。この状況を何とかしなくては……。
サンをモンスターボックスに収納した後、あらためてコウモリと向き合った。
「これ以上、好きにはさせない」
「好きかってやってるのはあんたのほうよ! あんたのせいでパパのくろーがパアになったじゃない!」
相変わらず言っている意味がまったく分からない。
が、タダではここから逃がしてくれなさそうなことはよく分かった。
「君が何を言いたいのか、は知らない。でももし棲み処を荒らしてしまったなら謝る。だから俺たちをここから逃がしてくれ」
「いやっ!! あんた、この先にある『くさりのふーいん』をねらってるの、あたし知ってるもん!!」
「鎖の封印?」
「とぼけないで! いいわ! ゆーしゃのむすめのあたしが相手してあげる!!」
コウモリは地面に降り立った直後、なんと人間の幼女に姿を変えた。
背丈からして8歳くらいだ。毛先がカールしたブロンドの髪を揺らしながら、可愛らしい顔で俺を睨みつけている。
「なっ……!」
驚く俺をよそに幼女は一気に間合いをつめてくる。
早いっ……!
――ドンッ!
彼女の小さな拳が俺のみぞおちにめり込んだ。
「ぐっ!」
鈍い痛みが腹全体に広がる。
だがサンほどのパワーはないようだ。
三歩よろめいただけで、どうにか態勢を整えることができた。
「ふふふ。さすがはまおーのてした。いくらあたしがゆーしゃマリウスのむすめだとしても、パンチいっぱつでは死なないみたいね」
「マリウス……。って、あのマリウス!?」
「マリウスと言えばパパしかいないでしょ! まおーアルゼオンをたおして、このダンジョンにふーいんしたでんせつのゆーしゃだもん!!」
少女が腕を組みながらドヤ顔で鼻を鳴らした。
……が、そんなバカな。
伝承によるとマリウスは数百年前に活躍した人だぞ。
「あんたは自分が英雄マリウスの娘だと言いたいのか?」
「むふっ。えーゆー……って、そうよ! あたしがえーゆーマリウスの娘よ!」
ん? 幼女の顔がちょっとだけニヤけたような……。
気のせいか? いや、違う。気のせいじゃない。
ということは、この幼女、もしや……。
「そうだったのか……。マリウスと言えば世界一有名な英雄だもんなぁ。その英雄の血を引いた娘もまた英雄ってことか……」
「んなっ! あたしがえーゆー!?……むふふふっ。……って、そんなのかんけーないでしょ! つぎはホワイトスパークのばんよ!! こんどこそ死になさい!」
やはりこの幼女。おだてに弱いな。
よしっ。サンが一瞬で瀕死に追いやられた魔法を食らったらたまったものじゃない。
だったらおだてまくってここを乗り切るしかない!
どんな分野でも上には上がいるというのは、世の常みたいなものだ。
第53層のモンスターハウスで無双できるようになったからといって、最強になったわけじゃないのにな。
ここまであまりに順調だったから、すっかり油断していたのだ。
「ルナ! エアリス! カーリー!」
洞窟の中。
突き当りの大きな部屋で3体は仰向けに倒れていた。
「ううっ……」
「いてて……」
「……やられた」
3人とも白銀の体が真っ黒にこげている。
かなりの重傷だが、息はあるようだ。
完全に死んでしまったモンスターはも二度と召喚できなくない――と何かで読んだ覚えがある。
せっかく仲良くなったのに、死なせるわけにはいかない。
どこか安全な場所に避難させることはできないか……。
「ピートさん! モンスターボックスです!」
「そうか!」
腰にぶら下げたモンスターボックスに入れてしまえば、敵に狙われる心配はなくなる。
しかも時間とともに体力が回復するようにできているから一石二鳥だな。
3体を手早くモンスターボックスに収納すると、サンが再び甲高い声をあげた。
「ピートさん、あれ!」
彼女が指さした先に松明を向けると、巨大なコウモリが赤い目を光らせてこちらを睨みつけている。
「ルナたちを痛みつけたのはあんたか?」
「ルナ……ね。モンスターになまえをつけちゃうあたり、まおーのてしたって感じね!!」
ん? このコウモリずいぶんと若いな。
声だけしか分からないけどサンたちよりも随分幼く感じる。
「魔王の手下? 誰が?」
「あんたに決まってるでしょ! パパのさいだんもめちゃくちゃにして! あたしが許さない!!」
「パパの祭壇?」
いったい何を言ってるんだ?
だが俺が眉をひそめた瞬間に、コウモリは甲高い声をあげて激怒した。
「もういいっ!! くらえ! ホワイトスパーク!!」
「ピートさん! 危ない!!」
俺の前に回り込んだサンが両手を広げた。
同時にコウモリの全身から白い閃光が放たれる。
あまりの眩しさに目を開けてられない。しかもとんでもなく熱い。
「ぐっ……!」
苦しそうなうめき声が耳に入る。
ゆっくりと目を開くと、サンががくりと膝を落としていた。
「サン!!」
「ピートさん……。無事で……よかった……」
「サン!! サン!!」
意識を失ったサン。だが息はあるようだ。
綺麗な体は見る影もなく真っ黒に焦げている。
ルナたちと同じだ。きっと彼女たちもホワイトスパークを食らったのだろう。魔法耐性のあるプラチナゴーレムを一撃で戦闘不能におちいらせるとは……。
恐ろしい魔法だ。
だが怖がっていても仕方ない。この状況を何とかしなくては……。
サンをモンスターボックスに収納した後、あらためてコウモリと向き合った。
「これ以上、好きにはさせない」
「好きかってやってるのはあんたのほうよ! あんたのせいでパパのくろーがパアになったじゃない!」
相変わらず言っている意味がまったく分からない。
が、タダではここから逃がしてくれなさそうなことはよく分かった。
「君が何を言いたいのか、は知らない。でももし棲み処を荒らしてしまったなら謝る。だから俺たちをここから逃がしてくれ」
「いやっ!! あんた、この先にある『くさりのふーいん』をねらってるの、あたし知ってるもん!!」
「鎖の封印?」
「とぼけないで! いいわ! ゆーしゃのむすめのあたしが相手してあげる!!」
コウモリは地面に降り立った直後、なんと人間の幼女に姿を変えた。
背丈からして8歳くらいだ。毛先がカールしたブロンドの髪を揺らしながら、可愛らしい顔で俺を睨みつけている。
「なっ……!」
驚く俺をよそに幼女は一気に間合いをつめてくる。
早いっ……!
――ドンッ!
彼女の小さな拳が俺のみぞおちにめり込んだ。
「ぐっ!」
鈍い痛みが腹全体に広がる。
だがサンほどのパワーはないようだ。
三歩よろめいただけで、どうにか態勢を整えることができた。
「ふふふ。さすがはまおーのてした。いくらあたしがゆーしゃマリウスのむすめだとしても、パンチいっぱつでは死なないみたいね」
「マリウス……。って、あのマリウス!?」
「マリウスと言えばパパしかいないでしょ! まおーアルゼオンをたおして、このダンジョンにふーいんしたでんせつのゆーしゃだもん!!」
少女が腕を組みながらドヤ顔で鼻を鳴らした。
……が、そんなバカな。
伝承によるとマリウスは数百年前に活躍した人だぞ。
「あんたは自分が英雄マリウスの娘だと言いたいのか?」
「むふっ。えーゆー……って、そうよ! あたしがえーゆーマリウスの娘よ!」
ん? 幼女の顔がちょっとだけニヤけたような……。
気のせいか? いや、違う。気のせいじゃない。
ということは、この幼女、もしや……。
「そうだったのか……。マリウスと言えば世界一有名な英雄だもんなぁ。その英雄の血を引いた娘もまた英雄ってことか……」
「んなっ! あたしがえーゆー!?……むふふふっ。……って、そんなのかんけーないでしょ! つぎはホワイトスパークのばんよ!! こんどこそ死になさい!」
やはりこの幼女。おだてに弱いな。
よしっ。サンが一瞬で瀕死に追いやられた魔法を食らったらたまったものじゃない。
だったらおだてまくってここを乗り切るしかない!
0
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
婚約者を奪われて冤罪で追放されたので薬屋を開いたところ、隣国の殿下が常連になりました
今川幸乃
ファンタジー
病気がちな母を持つセシリアは将来母の病気を治せる薬を調合出来るようにと薬の勉強をしていた。
しかし婚約者のクロードは幼馴染のエリエと浮気しており、セシリアが毒を盛ったという冤罪を着せて追放させてしまう。
追放されたセシリアは薬の勉強を続けるために新しい街でセシルと名前を変えて薬屋を開き、そこでこれまでの知識を使って様々な薬を作り、人々に親しまれていく。
さらにたまたまこの国に訪れた隣国の王子エドモンドと出会い、その腕を認められた。
一方、クロードは相思相愛であったエリエと結ばれるが、持病に効く薬を作れるのはセシリアだけだったことに気づき、慌てて彼女を探し始めるのだった。
※医学・薬学関係の記述はすべて妄想です
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
いじめられて死のうとしていた俺が大魔導士の力を継承し、異世界と日本を行き来する
タジリユウ
ファンタジー
学校でのいじめを苦に自殺を図ろうとする高校生の立原正義。だが、偶然に助かり部屋の天井に異世界への扉が開いた。どうせ死んだ命だからと得体の知れない扉へ飛び込むと、そこは異世界で大魔導士が生前使っていた家だった。
大魔導士からの手紙を読むと勝手に継承魔法が発動し、多大な苦痛と引き換えに大魔導士の魔法、スキル、レベルを全て継承した。元の世界と異世界を自由に行き来できるようになり、大魔導士の力を継承した正義は異世界と日本をどちらもその圧倒的な力で無双する。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
モブ高校生と愉快なカード達〜主人公は無自覚脱モブ&チート持ちだった!カードから美少女を召喚します!強いカード程1癖2癖もあり一筋縄ではない〜
KeyBow
ファンタジー
1999年世界各地に隕石が落ち、その数年後に隕石が落ちた場所がラビリンス(迷宮)となり魔物が町に湧き出した。
各国の軍隊、日本も自衛隊によりラビリンスより外に出た魔物を駆逐した。
ラビリンスの中で魔物を倒すと稀にその個体の姿が写ったカードが落ちた。
その後、そのカードに血を掛けるとその魔物が召喚され使役できる事が判明した。
彼らは通称カーヴァント。
カーヴァントを使役する者は探索者と呼ばれた。
カーヴァントには1から10までのランクがあり、1は最弱、6で強者、7や8は最大戦力で鬼神とも呼ばれる強さだ。
しかし9と10は報告された事がない伝説級だ。
また、カードのランクはそのカードにいるカーヴァントを召喚するのに必要なコストに比例する。
探索者は各自そのラビリンスが持っているカーヴァントの召喚コスト内分しか召喚出来ない。
つまり沢山のカーヴァントを召喚したくてもコスト制限があり、強力なカーヴァントはコストが高い為に少数精鋭となる。
数を選ぶか質を選ぶかになるのだ。
月日が流れ、最初にラビリンスに入った者達の子供達が高校生〜大学生に。
彼らは二世と呼ばれ、例外なく特別な力を持っていた。
そんな中、ラビリンスに入った自衛隊員の息子である斗枡も高校生になり探索者となる。
勿論二世だ。
斗枡が持っている最大の能力はカード合成。
それは例えばゴブリンを10体合成すると10体分の力になるもカードのランクとコストは共に変わらない。
彼はその程度の認識だった。
実際は合成結果は最大でランク10の強さになるのだ。
単純な話ではないが、経験を積むとそのカーヴァントはより強力になるが、特筆すべきは合成元の生き残るカーヴァントのコストがそのままになる事だ。
つまりランク1(コスト1)の最弱扱いにも関わらず、実は伝説級であるランク10の強力な実力を持つカーヴァントを作れるチートだった。
また、探索者ギルドよりアドバイザーとして姉のような女性があてがわれる。
斗枡は平凡な容姿の為に己をモブだと思うも、周りはそうは見ず、クラスの底辺だと思っていたらトップとして周りを巻き込む事になる?
女子が自然と彼の取り巻きに!
彼はモブとしてモブではない高校生として生活を始める所から物語はスタートする。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
W職業持ちの異世界スローライフ
Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。
目が覚めるとそこは魂の世界だった。
橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。
転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる