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第4話 ああ、これ死んだわ。確実に
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【トラビス】
モンスターハウスとは大量のモンスターが発生した部屋のこと。
しかもいくらモンスターを倒してもどんどん増殖するというおまけつき。
ニックはすぐに決断を下した。
「正面突破しかない。ひとかたまりになって駆け抜けるぞ。イライザ。【ガード・アップ】の魔法をみんなにかけてくれ」
「うん、分かったわ。守護の神よ。我らを見えざる壁で守りたまえ! ガード・アップ!」
守備力アップの魔法で俺たちの体が薄い緑色の光に覆われる。
これでダメージを軽減できる。
しかしだからと言って、怒涛のように押し寄せてくる大群を突き抜けるなんて不可能だ。
「囮がいるな」
トラビスが俺に優しい目を向けながらつぶやいた。
嫌な予感しかしない……。
「ニック。迷ってる暇はないわ。決断して!」
イライザもまた俺に笑顔を向けている。
ざわざわと胸の奥が騒がしくなり、ひたいに脂汗が浮かんできた。
そしてニックはここでもまったく迷わなかった。
「ピート。君に任せる」
「ちょ、ちょっと待て! ここで囮になれってことは、死ねって言ってるのと同じだぞ!」
「なにも君が囮になる必要はない」
ニックが視線を動かした方を見る。
言うまでもなくそこには、不安げな瞳のサン。
カッと血が頭に上った。
「ふざけるな! こいつはずっと俺のそばにいてくれた相棒だ! 見殺しになんかできるか!!」
「ピート。情にほどされているようでは、君をSランクにさせるわけにはいかない。これは一種の試験だ。一流のテイマーなら状況に応じてモンスターを盾にも槍にも使うだろう。違うかい?」
「……っ!」
とっさに何も言い返せなくなってしまったのは、確かにニックの言う通りだから。
レベルの高いテイマーほど、ずっと同じモンスターを使役し続けることはなく、戦闘のたびにモンスターを入れ替えるのが当たり前だって聞いたことがある。
俺だって過去に他のテイマーと同じようにできないか試したよ。
サンを【モンスターボックス】と呼ばれる、テイマーが腰にぶら下げた小箱の中に入れ、モンスター召喚の魔法を唱えてみた。
だが現れたのはサンだった。何度やってもサンしか出てこなかった。
だから俺にとってサンは大切な相棒なんだ。
サンを見捨てるなんて俺にはできない。
「それにサンだって君を生かすために自分が犠牲になるなら本望なんじゃないかな」
「ニック。もう時間がないわ」
モンスターが迫ってきている。
もう本当に時間がない。
ニックは小さくうなずくと、魔法を唱えた。
「神をも恐れぬつわものよ。その身に悪を呼び寄せたまえ! ヘイトコレクター!!」
モンスターの狙いを1人に集中させる魔法。俺とサンが灰色の霧に包まれる。
しかし俺にとっての悪夢はこれで終わりじゃなかったんだ。
「風の妖精よ。彼に深き眠りを! スリープ!!」
なんとイライザが俺に眠らせる魔法をかけてきたのだ。
「せっかくモンスターから狙われやすくなったのに、隣の部屋に逃げ込まれたら無駄になっちゃうでしょ。あははは!!」
「どうせてめえには家族も友達もいねえからな。万が一死んでも誰も悲しまないから問題ねえよ! ガハハハッ!」
「ま……て……。たの……む……」
「あはは! 待つわけないじゃーん! そこの薄汚いゴーレムと一緒に地獄でおねんねしてな! あははは!」
「ガハハハ! 役立たずゴーレムと役立たずテイマーが、最後の最後で役立ったってわけだ! じゃーな! ガハハハ!!」
「サン……を連れて……いって……」
遠のく意識の中、3人の背中へ懸命に手を伸ばす。
「悪く思うな、ピート。これもさだめだ」
ニックの最後の声は、仲間を憐れむでもなく、むしろ晴れやかだった。
◇◇
真っ暗闇の中。ふと少女の声がした。
「ピートさん。ピートさん。聞こえる?」
ゆっくり目を開ける。
……と言ってもまだ闇の中、つまり眠りの中だ。
それでも髪の長い整った顔立ちをした少女の姿ははっきりと見えていた。
「君は……?」
「サンです」
ゴーレムのサンが女の子だと……?
モンスターハウスとは大量のモンスターが発生した部屋のこと。
しかもいくらモンスターを倒してもどんどん増殖するというおまけつき。
ニックはすぐに決断を下した。
「正面突破しかない。ひとかたまりになって駆け抜けるぞ。イライザ。【ガード・アップ】の魔法をみんなにかけてくれ」
「うん、分かったわ。守護の神よ。我らを見えざる壁で守りたまえ! ガード・アップ!」
守備力アップの魔法で俺たちの体が薄い緑色の光に覆われる。
これでダメージを軽減できる。
しかしだからと言って、怒涛のように押し寄せてくる大群を突き抜けるなんて不可能だ。
「囮がいるな」
トラビスが俺に優しい目を向けながらつぶやいた。
嫌な予感しかしない……。
「ニック。迷ってる暇はないわ。決断して!」
イライザもまた俺に笑顔を向けている。
ざわざわと胸の奥が騒がしくなり、ひたいに脂汗が浮かんできた。
そしてニックはここでもまったく迷わなかった。
「ピート。君に任せる」
「ちょ、ちょっと待て! ここで囮になれってことは、死ねって言ってるのと同じだぞ!」
「なにも君が囮になる必要はない」
ニックが視線を動かした方を見る。
言うまでもなくそこには、不安げな瞳のサン。
カッと血が頭に上った。
「ふざけるな! こいつはずっと俺のそばにいてくれた相棒だ! 見殺しになんかできるか!!」
「ピート。情にほどされているようでは、君をSランクにさせるわけにはいかない。これは一種の試験だ。一流のテイマーなら状況に応じてモンスターを盾にも槍にも使うだろう。違うかい?」
「……っ!」
とっさに何も言い返せなくなってしまったのは、確かにニックの言う通りだから。
レベルの高いテイマーほど、ずっと同じモンスターを使役し続けることはなく、戦闘のたびにモンスターを入れ替えるのが当たり前だって聞いたことがある。
俺だって過去に他のテイマーと同じようにできないか試したよ。
サンを【モンスターボックス】と呼ばれる、テイマーが腰にぶら下げた小箱の中に入れ、モンスター召喚の魔法を唱えてみた。
だが現れたのはサンだった。何度やってもサンしか出てこなかった。
だから俺にとってサンは大切な相棒なんだ。
サンを見捨てるなんて俺にはできない。
「それにサンだって君を生かすために自分が犠牲になるなら本望なんじゃないかな」
「ニック。もう時間がないわ」
モンスターが迫ってきている。
もう本当に時間がない。
ニックは小さくうなずくと、魔法を唱えた。
「神をも恐れぬつわものよ。その身に悪を呼び寄せたまえ! ヘイトコレクター!!」
モンスターの狙いを1人に集中させる魔法。俺とサンが灰色の霧に包まれる。
しかし俺にとっての悪夢はこれで終わりじゃなかったんだ。
「風の妖精よ。彼に深き眠りを! スリープ!!」
なんとイライザが俺に眠らせる魔法をかけてきたのだ。
「せっかくモンスターから狙われやすくなったのに、隣の部屋に逃げ込まれたら無駄になっちゃうでしょ。あははは!!」
「どうせてめえには家族も友達もいねえからな。万が一死んでも誰も悲しまないから問題ねえよ! ガハハハッ!」
「ま……て……。たの……む……」
「あはは! 待つわけないじゃーん! そこの薄汚いゴーレムと一緒に地獄でおねんねしてな! あははは!」
「ガハハハ! 役立たずゴーレムと役立たずテイマーが、最後の最後で役立ったってわけだ! じゃーな! ガハハハ!!」
「サン……を連れて……いって……」
遠のく意識の中、3人の背中へ懸命に手を伸ばす。
「悪く思うな、ピート。これもさだめだ」
ニックの最後の声は、仲間を憐れむでもなく、むしろ晴れやかだった。
◇◇
真っ暗闇の中。ふと少女の声がした。
「ピートさん。ピートさん。聞こえる?」
ゆっくり目を開ける。
……と言ってもまだ闇の中、つまり眠りの中だ。
それでも髪の長い整った顔立ちをした少女の姿ははっきりと見えていた。
「君は……?」
「サンです」
ゴーレムのサンが女の子だと……?
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