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第四幕 よみがえりのノクターン

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「うわっ! 驚いた! まさかソラにまた会えるなんて! やっぱり僕と遊びたくなった!?」

「ウミ。勘違いするな。これには訳が――」

「ウミ様! お願いがあるんです!!」

 二人の間に割り込んだ私。

 ――ソラ。もう一度、ウミ様のところへ連れていって!

 さすがのソラでもそんなことを言いだすなんて想像してなかったみたい。
 顔を歪めて露骨に嫌そうにしたが「とことん振り回せ」と言ったのは彼だ。
 渋々引き受けてくれて、再びウミ様のもとまで連れてきてくれた。
 もちろん危険をおかしてまで、戻ってきたのには訳がある。
 それは……。

「花音さん……八島花音さんの霊がどこにいるか、教えてください!!」

 そう、八尋さんの亡くなった奥様の霊の居場所を知るためだった。
 
「え? あ、うーん……」としばらく考え込んだウミ様だったが、「ごめん、そんな霊は知らないよ」と、申し訳なさそうに首をすくめた。
 でも私にとっては想定内だ。

「つまり黄泉にはいないってことですか?」と念を押す。

「僕が知らないと言えば、そういうことになるね。なんだい? このニンゲンは……」

 ウミ様が眉をひそめて、ソラに向かって口を尖らせた。
 でも私はそれ以上、彼に口を挟ませなかった。

「もう一つ聞かせてください! 数年前、黄泉に黒猫が迷い込んできませんでしたか?」

「黒猫? あ、そう言えば母さんが『黒の子猫を見かけた』と、言ってたような……」

 やっぱりそうだ!
 私はパンと手を叩くと、ウミ様にぺこりと頭を下げた。

「ありがとうございました! ソラ、行こう!!」

「は? おい、待てよ。けっきょく何も解決してねえだろ!?」

「いいから、いいから。ウミ様、お会いできてうれしかったです! では、また! さよなら!」

「あ、え、うん。バイバイ」

 きょとんとした顔をしているウミ様をそのままにして、私はソラやレオたちとともに、その場を後にした。

「いったいどういうことなんだよ? ちゃんと説明しなきゃ分からねえだろ」

 途中、そう問いかけてきたソラに、私は素直に自分の考えを話した。

「黄泉に迷い込んできた黒猫に、花音さんが乗り移ったんだと思うの」

「はあ!? つまりノクターンは花音だった、と言いたいのか!?」

 八尋さんが私にこれまでのことを打ち明けてくれた時、ノクターンのことをこう言っていた。

 ――物を置いてある場所なんかは彼女の方がよく分かっていてね。『あれ、どこへやったっけ?』みたいな時は、たいてい彼女の後をつけていくと見つかったんだ。

 もちろん偶然の出来事を、多少おおげさに言ったかもしれない。
 でももしノクターンが花音さんだったとしたならば説明がつく。
 それに加えて、八尋さんの前にあらわれたタイミングも、八尋さんにとてもなついていた理由も、すべて理にかなうことになる。

「でもよ。百歩譲ってノクターンが花音だったとして、今、彼女はどこにいるんだよ?」

 川を越えて河原に戻ってきたところでレオたちと別れ、私とソラは黄泉から現世へ戻る坂を上っていた。

「それは分からない」

「おいおい、だったらどうするんだよ?」

「分からないけど、想像はつく。でもそれには一つ条件が必要なの」

「条件? どんな」

「先へ行けば分かる!!」

「おい、ちょっと待てよ!」

 私はソラの甲高い声を背中に聞きながら、全力疾走で坂を駆けあがっていった。
 向かう先はただ一つ。
 八尋さんの待つ楓庵。
 もう立ち止まるものか。
 そう心に固く誓って、一直線に進んでいったのだった。
 
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