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第四幕 よみがえりのノクターン
34.焼き芋を3本ともあげるから
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◇◇
三が日が過ぎ、せわしない日常が戻ってきた。
新年と言えば聞こえはいいが、日本の景気は心機一転とはいかないらしい。あいかわらずの不景気で、私の勤務形態も相変わらず不安定なままだ。
でもおかげで楓庵で堂々と働けるのだから、それはそれでありがたいのかもしれない。
そして今年に入って初めての楓庵で働く日を迎えた。
途中、つぼ焼きのお芋を3つ買い、暖かい紙袋を抱えながら、三芳野神社の森の前に立つ。
いつもなら何も考えずに進む足がなかなか動きそうにないのは、八尋さんのことがあるからなのは考えるまでもない。
「自然に。自然に!」
そう、まずはいつも通りに接すればいいのだ。
それからチャンスがあれば、例のことを聞いてみよう。
でもチャンスがあれば……って、いったいどのタイミングが『チャンス』にあたるのだろうか……。
当然、仕事中は無理よね。だとすれば仕事終わりかな。
まかないのご飯を食べている最中なら、話を切り出せるかもしれない。
そうと決まったら、あとは料理ね!
どんな料理なら自然と話ができるかな――。
そう考えを巡らせていた時だった。
「……おいっ! 美乃里!」と、背中から鋭く尖った声で名前を呼ばれたのだ。
「へっ!? 私?」
ふいを突かれて、思わず鼻から抜けたような声が出てしまった。
くるりと振り返って声の主に目をやると、そこには怪訝そうに眉間にしわを寄せ、あごに手をあてるソラの姿があった。
「そんなところでボケっと突っ立って何をしてるんだよ?」
「え? べ、別に、か、考え事よ!」
「考え事だぁ? どうせ『今日のまかないは何にしようか』とでも悩んでたんだろ?」
ぎくぅ!
ズバリ言い当てられて、顔が引きつる。
ソラは目を細くして私の顔を覗き込んできた。
「図星かよ。ったく、そんなんだからいつまでたっても『やせな~い!』とか嘆いてるんだぜ」
人を小馬鹿にした物言いに、ついカッとなって、
「んなっ! ち、違うわよ! バカにしないで!」とつっかかると、ソラもぐいっと顔を突き出して、
「何が違うんだよ! だっていつも言ってるじゃねえか。『今週のスイーツは何にしようかな? 迷っちゃう』って! 美乃里の悩みなんていつも飯のことばっかじゃんか!」と言い返してきた。
私の良くないところは、相手の挑発にホイホイと乗ってしまうことだ。
今回もまた、完全に頭に血が上ってしまい、思わず本当のことを口走ってしまったのだった。
「私が悩んでいたのは八尋さんのことだもん!!」
ソラが目を大きくして私のことを穴が開くほど見てくる。口を半開きにして、どんな言葉を返そうか迷っているみたい。
あきらかに様子がおかしい……。
「もしかして……。ソラは八尋さんの秘密を知ってるの?」
ぎくぅ!!
実際に聞こえてきそうなほど、ソラの顔が青くなる。
それでも懸命に表情を隠そうとしているのか、ぷいっと横を向く様子に、私は抑揚のない声をあげた。
「教えなさい。焼き芋を3本ともあげるから」
ソラがちらりと私の顔色をうかがってくる。その顔を私はまばたき一つせずに見つめる。
その有無を言わさぬ視線で、もう逃げられないと観念した彼は、焼き芋の入った紙袋をパッとひったくり、
「……言っておくが、八尋には俺が話したことは内緒だからな」
と、芋をかじりながら捨てるように言ったのだった。
三が日が過ぎ、せわしない日常が戻ってきた。
新年と言えば聞こえはいいが、日本の景気は心機一転とはいかないらしい。あいかわらずの不景気で、私の勤務形態も相変わらず不安定なままだ。
でもおかげで楓庵で堂々と働けるのだから、それはそれでありがたいのかもしれない。
そして今年に入って初めての楓庵で働く日を迎えた。
途中、つぼ焼きのお芋を3つ買い、暖かい紙袋を抱えながら、三芳野神社の森の前に立つ。
いつもなら何も考えずに進む足がなかなか動きそうにないのは、八尋さんのことがあるからなのは考えるまでもない。
「自然に。自然に!」
そう、まずはいつも通りに接すればいいのだ。
それからチャンスがあれば、例のことを聞いてみよう。
でもチャンスがあれば……って、いったいどのタイミングが『チャンス』にあたるのだろうか……。
当然、仕事中は無理よね。だとすれば仕事終わりかな。
まかないのご飯を食べている最中なら、話を切り出せるかもしれない。
そうと決まったら、あとは料理ね!
どんな料理なら自然と話ができるかな――。
そう考えを巡らせていた時だった。
「……おいっ! 美乃里!」と、背中から鋭く尖った声で名前を呼ばれたのだ。
「へっ!? 私?」
ふいを突かれて、思わず鼻から抜けたような声が出てしまった。
くるりと振り返って声の主に目をやると、そこには怪訝そうに眉間にしわを寄せ、あごに手をあてるソラの姿があった。
「そんなところでボケっと突っ立って何をしてるんだよ?」
「え? べ、別に、か、考え事よ!」
「考え事だぁ? どうせ『今日のまかないは何にしようか』とでも悩んでたんだろ?」
ぎくぅ!
ズバリ言い当てられて、顔が引きつる。
ソラは目を細くして私の顔を覗き込んできた。
「図星かよ。ったく、そんなんだからいつまでたっても『やせな~い!』とか嘆いてるんだぜ」
人を小馬鹿にした物言いに、ついカッとなって、
「んなっ! ち、違うわよ! バカにしないで!」とつっかかると、ソラもぐいっと顔を突き出して、
「何が違うんだよ! だっていつも言ってるじゃねえか。『今週のスイーツは何にしようかな? 迷っちゃう』って! 美乃里の悩みなんていつも飯のことばっかじゃんか!」と言い返してきた。
私の良くないところは、相手の挑発にホイホイと乗ってしまうことだ。
今回もまた、完全に頭に血が上ってしまい、思わず本当のことを口走ってしまったのだった。
「私が悩んでいたのは八尋さんのことだもん!!」
ソラが目を大きくして私のことを穴が開くほど見てくる。口を半開きにして、どんな言葉を返そうか迷っているみたい。
あきらかに様子がおかしい……。
「もしかして……。ソラは八尋さんの秘密を知ってるの?」
ぎくぅ!!
実際に聞こえてきそうなほど、ソラの顔が青くなる。
それでも懸命に表情を隠そうとしているのか、ぷいっと横を向く様子に、私は抑揚のない声をあげた。
「教えなさい。焼き芋を3本ともあげるから」
ソラがちらりと私の顔色をうかがってくる。その顔を私はまばたき一つせずに見つめる。
その有無を言わさぬ視線で、もう逃げられないと観念した彼は、焼き芋の入った紙袋をパッとひったくり、
「……言っておくが、八尋には俺が話したことは内緒だからな」
と、芋をかじりながら捨てるように言ったのだった。
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