出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

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第3章

マタ王国の内戦17

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パブロの爪が重力に乗って加速する。
その速度と威力はティナを縦に真っ二つにするには十分なものだ。
まともに当たれば…

「負けるかぁ!!」

グルン!!

ザッ!

上体を素早く回転させてなんとか致命傷をかわす。
しかしティナの脇腹の肉がわずかにかすめ取られた。

「ぐわぁぁっ!!」

激痛がティナを襲う。
パブロは渾身の一撃だったのか、追撃に若干の隙が出来た。
その間に脇腹を抑えながら立ち上がるティナ。
その額には脂汗が浮いている。

「キヒヒヒ!イマノデシンデイレバ、イタミナドナカッタモノヲ…」

「フフフ、おいにく様。私はしぶとく生き残る事だけが取り柄なのよ」

「キヒヒヒ。ソレモ、ツギデオワリダ」

「さて?どうかしら?」

ティナは今のパブロの一連の攻撃で、彼の戦闘力を悟った。
魔法攻撃はたいした事はない。
一方の爪による物理攻撃が彼の主力だ。
そしてもう一つ悟った事…それは、この想定が外れればティナは自分の負けであると。

「次がないって言うのは、お互い様よ」

ティナは刀を正面に構えた。

ふぅー…

ティナは息を整え、精神を集中させる。
脇腹の傷はジンジンと痛む。
しかしティナはそこから意識をそらし、全ての神経を刀に集中させた。

「行きます!」

カッと目を見開いて気合いを入れると、一気にパブロに向けて駆け出した。

「キヒヒヒ!」

パブロは右手のひらをティナに向けて、魔力を放つ。

ドン!

強い力がティナを押し出すが、その力は彼女の想定の域を出ない。
ゆえに、彼女の勢いを殺すには不十分だった。

「コシャクナ!!」

すかさず左の爪を振り下ろすパブロ。
ティナは下半身を少し落とし、ググッと両足に力を込める。

ダッ!!

そして高く跳び上がり、パブロの攻撃をかわした。

「ダァ!!」

そして空中でグイッと上体を反らすと、刀を頭の上まで振り上げる。

「ダークペイン!!」

素早く魔法を唱えるパブロ。

黒くて不気味な塊が、ティナの体を覆うように直撃した。

バリバリ…

助かった…ティナは魔法の直撃を受けて、素直にそう感じていた。
なぜならこの魔法は痛みを錯覚させる精神魔法だったからだ。
そんなものは彼女には通用しない。

「私が今まで受けてきた痛みをなめるな!!!」

バン!!

魔法がティナの強い精神力によって、はじけ飛ぶ炸裂音がこだました。

「ナ…ナニ!?」

パブロの顔が驚愕に変わる。
ティナは跳躍しながらその顔を睨みつけていた。

「父さん!!お師匠様!!私に力を!!」

とっさに左手の爪で体を守る体勢を作るパブロに対し、ティナの大きな跳躍が下降を始める。
そのタイミングで彼女は剣を振り下ろした。

「天空流!一の太刀我流!!地空真波斬・天の型!!」

ティナ腹に目いっぱいの力を込める。
大きく反った彼女の体が、腹筋の収縮とともに、急速に前のめりに回転し始めた。
そしてその勢いと重力の相乗したパワーが刀全体に伝わり、高速で強烈な振り下ろしを生み出す。

「いっけぇぇぇ!!!」

グォォォォォォ!!

彼女は全体重を刀に預け、空気を裂くその勢いのまま、パブロに目がけて渾身の一撃を浴びせた。

ドシュッ!!

何かを切り裂く鈍い音とともに彼女は着地した。

「ギエエエエエ!!」

爪もろとも左腕を根元からバッサリと落とされたパブロが激痛に耐えかねて、叫び声をあげる。

「ガラアキダゾ!!!!」

グワ!!

間髪いれずに、パブロは残った右手でガラ空きになったティナの左肩目がけて爪で襲ってくる。
その様子に横目でちらりと確認したティナは口元を緩めた。

「今度は決める!」

実のところ、彼女は前回の戦いで決め切れなかった「あの技」で決めようと、心に決めていた。
そしてその時を常にうかがい、ようやくそのチャンスが巡ってきた。

一直線に彼女に向かってくるパブロの強烈な突き攻撃。
それを見極め、必殺の一撃を繰り出した。

「天空流!秘技!流水閃(りゅうすいせん)!」

以前は攻撃が浅すぎた。
今回は絶対に決める!
その為には…

「ギリギリまで呼び込む!!」

ティナは着地したその体勢から左足に力を込めた。
沈んだ下半身をさらに沈みこませる。
そして彼女の視線はパブロの爪と足の両方に向けられていた。
前回の失敗…
それはパブロが踏み込みきる前に技を繰り出した為だ。

踏み出してこい!踏み出してこい!

彼女は祈るようにその瞬間を待つ。
わずかゼロコンマ何秒の攻防の中、ティナにとってはスローモーションのように動きが止まって見えていた。

真っすぐな爪の突きが先に飛んでくる。

カッ…

何度も練習した通りにその突きはあっさりといなされる。

まだだ…まだだ…

そして、その瞬間がとうとうやってきた。

ザッ…

勢い余ってパブロの右足が半歩だけ前に出たその瞬間が…

「きたぁぁぁ!!!」

ティナは溜めに溜めた左足の踏み込みを一気に爆発させた。
地面である土にその爆発力がめり込まれる。
そして限界まで引かれた弓矢のように、刀の一閃がパブロの腹に向かって弧を描いた。

スパッ!

刀を振りぬいた体勢のまま、しばし硬直するティナ。
前回はそのティナの背中にパブロの爪が襲いかかった。

しかし今回は…

「ゴフ…」

パブロは血を吐き出すと、その上半身と下半身が綺麗に分断され、糸が切れたように崩れ落ちていった。

ゴトン…ゴトン…

ティナはその様子を、ゆっくりと体勢を戻しながら、鋭い視線を崩さずままに確認する。
そして刀の血を振り落としてから、それを鞘に納めた。

「成敗完了…」

そう呟くと、目の前までやってきた一人の若い男性に、倒れ込むようにその身を預けた。

「…無茶しやがって」

「ヘヘヘ、私も少しは役に立てるようになってきたかな?」

「…だからパブロを任せた…それで察しろ」

「ありがとう、ジェイ。大好きよ」


ワァァァァ!!!!


マタの民衆からは、ティナへの喝采が地鳴りとなって響いている。
しかし、残念ながら彼女自身がその歓声を聞く事は出来なかった。
なぜなら、彼女は難敵を一人で倒した満足感と、愛する男性に認めてもらえた幸福感に包まれ、休息を取るように意識を失っていたからであった。


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