出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

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第3章

マタ王国の内戦15

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◇◇
「おやおや…追い詰めちゃいましたねぇ」

王国の軍勢を率いたパブロは、裏山を既に取り囲んでいた。

「さてさて…山に火を放つか、それとも兵たちに山狩りをさせるか…どちらもたまらないですね。ククク」

軍勢の一番後ろで派手な輿(こし)を数人の屈強な兵士に担がせ、その上に鎮座しているパブロ。
彼はまさに今、裏山に避難している大勢の農民たちをどのように虐殺しようかという事を思案していた。
農民たちの命はまさに風前の灯と言える状況であった。

…とその時だった。

「みなのもの!!争いをやめよ!!」

と天から響く大きな声がした。
パブロはその声に思わず歯ぎしりをした。

「なぜ?あいつがここにいる…!?ええーい!早く反転せい!!」

輿を担ぐ兵士たちに荒々しく指示をすると、彼は声がする方向に向きを変えた。
遠くから一頭の駿馬と気品に満ちた青年が駆けてくる。

みるみる近づくと、パブロから少し離れたところに馬を止め、馬上から声を上げた。

「私はマタ王国の国王、ラーミアである。みなのもの!我が言葉に耳を傾けよ!」

その声は天まで届き、裏山で避難している農民ひとりひとりにまでしっかりと届いていた。

裏山ではサム爺が
「勇者の魔法か…あやつワシとの約束を守ってやろうとしているではないか。嬉しいのう」
とニヤリと笑っていた。

暗闇の中での「ヘヴンズ・ボイス」の魔法によって、仄かに輝きを放つ国王。
その姿は遠く離れた裏山からでも、神々しいものに映った。
固い決意に彩られた国王の瞳は、以前の優柔不断で八方美人の彼のそれとは異なり、王としての威厳に満ちている。
その強い瞳に惹かれた人々は、先ほどまでの喧噪を忘れ、静寂の中で国王の次の言葉を待っていた。

「まず最初に私はみなに謝らねばならぬ事がある。
それは今回の件に至るまでの全ての経緯を見過ごし、そして多くの同胞を死へと追いやってしまった事である。
この報いはいずれきっちりと受けるつもりである。
ただ今は、国王としてこの場を収める事を許していただきたい!」

そう国王が頭を下げた。
続く静寂…誰一人として異を唱えるものはいなかった。

国王が再び顔を上げる。
その場にいる全員が固唾を飲んでその一挙一動を見つめていた。
今までとは全く異なる彼の姿に、すでに涙を流す農民や兵士までいた。

「では裁きを下す!これは私が自分で状況を見て、自分で判断するものである!
今から言う裁きに他者からの諫言は一切ないと心得よ!!」

そこまで宣言すると国王は腰の剣を抜き天に掲げた。

「聖女テレシアに誓う!われの言葉に嘘偽りなき事を!そして我が言葉に反するものをこの剣で罰する!」

俺は聖女の名前が出てきたことに立ちくらみを覚えた。
そっとティナが肩を支えてくれる。
心配そうな彼女に対し、「大丈夫だ」と頷き、再び国王の言葉に耳を傾けた。

「一つ!ここにいる王国兵は即刻武器を納めよ!」

ガシャ、ガシャ、ガシャ…

兵たちが剣をその場で納める音が闇夜に響く。
それがひと段落すると、国王は続けた。

「一つ!パブロ宰相の屋敷の焼き討ちを首謀した者を投獄し、禁固1カ月とする!
しかし残念な事に彼らは全員討たれていたのを確認した。
よってこの罪は私の名において赦免する!
農民たちへの罰は以上とする!!」

「お…お待ちください!国王様!それでは示しがつきません!」

パブロが相変わらず輿に座りながら、進言した。
そのパブロを国王はキッと睨みつけた。
思わずパブロが後ずさる。

「我が裁きに異を唱えるつもりか!?」

「な…何を…く…若造が…」

パブロは恨めしげに国王を睨みながら、口を閉ざした。

「次に、宰相パブロへの罰である!」

ざわ…

この国王の言葉に周囲がざわついた。
宰相であるパブロの人形に過ぎないという評価は覆らない、今回も茶番であると思っていた人々が大半だったからである。
パブロの顔が青ざめていき、怒りに震えだす。

「一つ!不当に農民たちの税率を上げ、彼らを苦しめた事!
この件は他の商人たちも同罪である!彼らからの税で勇者様の歓迎会を行ったと聞く。
そこに参加した商人は全て税を3カ月間は倍とする!
一方、農民たちの税は本年は半分とし、以降は商人と同等とする!
国庫に足りない分は国王である私の私財から捻出する!」

オオオオオオ!!!!

大きなどよめきが裏山から上がった。
それもそのはずだ。
彼らの念願がまさに今叶った瞬間であったのだから。
それが静まらないうちに、国王は続けた。

「一つ!我が裁きを下す前に国王の軍で国民を殺めた事!
国の政治を預かる宰相にあるまじき行動である!
よって宰相の任を解く!」

オオオオオオオオ!!

今度は兵からどよめきが起こった。
今まで自分の手足のように扱われてきて、同じ国民を傷つけてきたことから解放された喜びが彼らを包んだ。

ドシャッ!!

その裁きととも輿を支えていた兵はその任を投げ出し、パブロは近くの畑へと投げ出された。

「グヌヌ…ユルサンゾ…」

パブロは顔を泥まみれにしながらうめいている。
国王は続けた。

「そして最後に一つ!魔物を屋敷の中に住まわせていた事だ!」

その一言に今までの歓声がピタリとやんだ。
国王はそんな民衆の反応を見ずに、続ける。

「これには証拠がある!勇者様!ここへ!」

俺は促されるままに、魔物の頭を2つ、その場に投げた。
無論それは暗闇の中で、その姿を明確に目にできる者は少ない。
しかし国王はパブロだけに見える事が出来れば、それでよいと思っていた。

「これはパブロの妻と子の首である!しかしその姿は魔物そのものだ!
これが意味する事はただ一つと言えよう!
パブロ!お前の正体を現せ!」

ザン…

気付くと国王の前には彼の付き人であった大きな男と同じ背丈をした兵士たちがずらりと並んでいた。
そしてゆらりとパブロが立ちあがる。

「コロス…コロス…コロシテ…コノクニハオレノモノ…」

パブロのその姿は裏山からでも確認できる程、大きく、醜く変化していた。
その殺気に民衆の全てが飲まれている。

ザッ…

そこに二人の若い男女が国王の前に立った。
言うまでもない…


俺とティナだ。

ティナが国王に向かって言う。

「国王様、よくやったわね。後は私たちに任せて、下がっていて頂戴」

「ああ、よろしく頼むよ」

「…任せろ」

大男の兵士たちは鬼の連中だろう。
ジリジリと俺たちとの差を詰めてくる。
俺はパブロをティナに任せる事にした。

「分かったわ!任せて!」

そして俺は…
鬼どもだ。
その数は約100体。

俺はニヤリと笑う。

「蹂躙の時間だ。覚悟しろ、魔族ども」


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