出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

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第3章

マタ王国の内戦13

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◇◇
ラーミア現マタ国王は、まだ30歳にも満たない、若い国王だ。
名君として名高い父と、将来を渇望された器量持ちの兄のいる、次男坊として、何不自由ない悠々自適な毎日を送ってきた。
周囲からは何も期待などされない、自分も周囲に対して何の不都合を働かない、そんな風に彼は育ってきた。
決して優秀になり過ぎず、やんちゃな事もしない、空気の様な存在である事に、産まれた時から慣れ過ぎていた。

そんな彼に降って沸いた最初の試練。
それは家族旅行で海まで出掛けた際に魔物に襲われ、父と兄それに母親までをも一辺に失った事だった。

その時に彼を救ってくれた命の恩人が宰相のパブロである。
彼はその時から決めていたのだ。
パブロの勇気と才覚に頼り、飾りだけの、空気のような国王になろう…と。

しかし、つい先ほど転がるようにして飛び込んできた一人の少女が、そんな彼の枯れた心をひどく揺り動かした。
それは尊敬しているパブロをひどく罵られたから、と言う単純な理由からだったのだろうか?
否(いな)!
そうではない。
なぜなら彼に沸いてくるこの感情は、親しい人間を侮辱された怒りではないからだ。
もっと沸き立つような、不思議な感情。
産まれてこのかた感じた事のないその感情に、彼はひどく動揺していた。
しかしいても立ってもいられない気持ちは、彼を甲冑姿に身を包ませるには十分な動機になり得た。


「僕は何をやっているのだろう…」

甲冑に身を包んだ彼は、そのまま出陣するでもなく、そのままベッドの縁に腰をかけていた。
まるで背中を後押ししてくれる何かを待っているかのように…

ドン!!

そしてそれは、彼の期待に応えるかのように、またしても突然訪れた。
そして高らかに彼に告げたのである。

「国王様!迎えに参りました!民があなたを待っております!」

ラーミアはふと顔をあげる。
そこには先ほどやってきた一人の少女の顔。
それに彼の頼み事を一蹴した勇者たちの姿があった。
彼は少しがっかりした。
なぜなら彼はパブロが来るのを期待していたからである。
国王が先頭に立って軍隊を指揮するのを、彼は思い描いていたのだ。

「なんだ…君たちか…」

あからさまに歓迎されていない態度を取られても、エミリーの表情は変わらない。
むしろ使命に燃えた瞳に、さらに力が込もってきている。

「国王様!今こそ、国王様が国王様である事を示す時です!」

「僕が国王である事を…?何を言っているんだ君は…
僕はそんな事をしなくても、もう国王じゃないか…」

エミリーはその言葉に強く首を横に振った。


「いえ!残念ながら、あなたを国王だと心の底から思っている民は誰一人としていません!」

俺とティナは驚いてエミリーを見る。
当の本人は全く悪びれもせずに、堂々と続けた。

「むしろパブロの人形と卑下している者が大半です!」

「何を!!?きさま!黙って聞いておれば!!」

ラーミアが剣を抜いて、エミリーにつきつけた。
しかし彼女は目をそらすどころか、ますますその眼光を強くして、ラーミアを睨み付けた。

「やれるものならやってみなさい!」

エミリーの挑発に、威嚇の構えから動かないラーミア。
それを見てエミリーは鼻で笑うと、
「今のあなたは小娘一人の首をはねるのでさえ、躊躇(ためら)うほどの小心者に過ぎないのです!」
と言葉で切り捨てた。

ワナワナと震えながらエミリーを睨み付けるラミーア。そんな彼を睨み返すエミリー。
しかし俺にはそこに殺気が一切感じられない事に驚いていた。
それはまるで、駄々をこねる子供を、母親がきつく叱りつけているような、そんな光景に思えた。

しばらくの間、その睨み合いが続いたが、ラーミアが諦めたように剣を納めた。
そして彼は、
「もういい…今回の件は不問とする…だからもう帰れ。今はそっとしておいてくれ…」
と、下を向いて言うと、俺たちに背を向けた。

それを見たエミリーが悔しそうに言葉を振り絞った。

「ラーミア様はずるい…私なんか…なんの力もないのに…」

その言葉を聞いた瞬間、ラーミアの何かが切れた。
クルッとエミリーの方に振り返り、

「お前に何が分かるんだ!!?僕の苦悩を…何も出来ない僕の嘆きを…
君は全然分かってないんだ!!
僕には何の力もないことを!!」

と渾身の力を込めて叫んだ。
しかしエミリーは一歩も引かない。

「それがずるいと言っているんです!
あなたは勘違いしている!
あなたは力がないのではない!
あなたは力をどう使ったらいいのか、分からないだけなんです!!
あなたに足りないのは『見ること』。
見て感じた事を実行に移す事です!
だから一緒に見てください!
その目で!
そして感じた事を実行に移してください!!
民はみなその時を待っているんですから!!」

「僕のことを…民のみんなが…?」

ラーミアがエミリーの言葉に驚く。
そして頬を涙で濡らしたエミリーが、彼女の精一杯の心を込めて言った。

「あなたは自分が強い事を知らないだけです!
私は…そんなあなたがもどかしい!
頑張れ!
絶対にあなたなら出来るはずですから!!」

ガシャッ…

その言葉と同時にラーミアの膝が折れた。

一人の少女の言葉が一国の王を動かした瞬間であった。

しばらくうつむいていたラーミアの顔が上がる。
その顔には先ほどまでの迷いや弱気はない。
一人のリーダーの顔がそこにはあった。
ゆっくりと立ち上がるラーミア。
そして彼は言った。

「いいだろう、僕はこの目で戦況を見る。
その上で判断しようじゃないか」

エミリーの顔がみるみると喜色に変わった。

「ただし、その決断は決して君たちの思い通りにいくとは限らないから、そのつもりでいてくれ。いいね?」

国王の問いかけに

「はい!国王様!」

と明るい声でエミリーは答えた。

そして国王は俺たちの方を向いて

「さあ、連れていってくれ。僕を戦場に」

と手を差し出した。
俺はその手を取り、頷く。

「…時間はない。行くぞ」

その言葉に全員が頷いて、国王の寝室を後にしたのだった。

城の外へと急ぐ俺たち。
そんな中、国王がエミリーに言った。

「君は『自分には力がない』と言っていたね?」

エミリーは不思議そうな顔で
「はい…事実ですから…」
と答えた。

それを聞いた国王は笑顔で
「君に力がないなんて嘘さ。なぜなら、君の言葉は国王である僕を動かしたのだから」
と返した。

エミリーは顔を赤めると、達成感に満ちた表情で国王から目線を、前に移していった。

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