出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

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第3章

マタ王国の内戦12

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大きな体に二本の角。
魔物のその姿は『鬼』そのものであった。
どこかで見た顔かと思っていたが、思い出せない。
すると魔物は
「あの時、国王と貴様で俺たちに恥をかかせやがって…!」
と青筋を立てている。
その姿を見て、俺は思い出した。

「…国王の付き人か」

国王に鞭で打たれて、シュンとなっていた時のあの顔が浮かぶ。
俺は思わず笑顔になった。
それを見た鬼たちがさらにいきりたつ。

「くっそ!この場でお前をぶちのめして、この国がパブロのものになったら、次は国王を俺たちの手で葬ってくれる!」

「…やれるものならやってみろ」

俺は手のひらを上にして、クイクイっと動かす。

「…かかってこい」

「死ねや!!」

二人の鬼が俺に目掛けて殺到してきた。
二人とも武器は持たず、素手での攻撃だ。
俺はバックステップで二人の攻撃をかわす。

ドゴォォン!

一人の鬼の拳が床に叩きつけられる。
床が大きく凹(へこ)んだ。

「ぐはは!我らの一撃でも食らえば、貴様など粉々だ!ぐはは~!!」

続けざまに、床に拳を叩きつけた鬼とは別の鬼が蹴りを飛ばしてくる。

「しねぇぇぇ!!」

鬼の飛び蹴りをしゃがんでかわす。

ブォォ…

間一髪、凶悪な足の裏が俺の頭をかすめていった。

「そう来ると思ってたぜ!」

先程、床に拳を叩きつけた鬼が、左足を大きく踏み込んだ。
そして、グッと腰を落としてくる。
そして右手を地面スレスレから一気に振り抜いてきた。
俺の顔に向けて、空気抵抗などものともせずに、一直線に飛んでくるアッパーパンチ。
それを見て俺は、
「…そう来ると思ってたぜ」
とニヤリと笑った。

俺も左足をグッと踏み込む。
そして鬼の一撃必殺のパンチを…
寸での所で左にかわす。

ピッ…!

パンチによる風圧が俺の頬にかすり傷をつける。
しかしそんな事をもろともせずに、俺の体は前へと出ていった。
それを見た鬼の顔が恐怖にひきつる。
そして…
俺の右拳が深く沈み込んでいた鬼の顔に向かって、吸い込まれるように放たれた。

「…カウンター」

ドッパァァァァン!!!

拳がちょうど鬼の鼻にめり込んだ瞬間、高い炸裂音が牢獄内をこだました。
俺はそのまま右手を振り抜く。
ただでさえ大岩をも砕く俺の一撃に、鬼の渾身のアッパーの力がカウンターとして加わったのだ。
想像を絶するような衝撃が鬼の頭蓋骨と脳みそを破壊した。

鬼は派手に吹き飛び、大の字になって倒れると、そのまま動かなくなった。

俺はすぐに後ろを振り返る。

「ひぃっ…!!」

情けない声をあげる、もう一人の鬼。

「こうなったら!せめて貴様を!!」

何を血迷ったか、残った鬼はティナに襲いかかった。

ティナはそれを予測していたかのように、冷静に鬼を目線でとらえている。

「死ねぇ!!」

鬼の強烈な拳がティナに振るわれる。

ブン…

しかしいとも簡単にそれはティナにかわされてしまう。

ブン…
ブン…
ブン…

何度拳や蹴りを繰り出しても、全く当たらない鬼の攻撃。
後ろに下がりながら、ティナは器用に鬼の攻撃をかわしていく。

「くっそ!!ヒラヒラとよけやがって!」

しばらく鬼の攻撃が続いたその時…

トン…

ティナの背中に壁が当たる…

「ぐはは!もう後がないぞ!!覚悟しろ!!」

「覚悟するのはあなたの方よ!」

ティナは焦る様子もなく言い返した。

「これで終わりだぁ!!」

渾身をこめた鬼の一撃が炸裂する。
ティナはそれを今度は横によけてかわした。

ドゴンッ!!

鬼の拳が壁に深くめり込み、すぐには抜けない。

「な、なにっ!?」

ティナはこの時を待っていたかのように、微笑みを顔に浮かべた。

「これで終わりです!堪忍しなさい!」

「待て!待ってくれ!!」

情けない声で命乞いをする鬼。
そんな鬼を無視するように、ティナは刀の柄に手をかけた。

「行きます!」

ティナは大きく開いた足にグッと力を込めて、腰を落とす。
そして左手で鞘を、右手で刀を握りしめると、
「天空流!居合一閃(いあいいっせん)!」
と刀を一気に抜き、そのまま横に斬りつけた。

スパッ!

綺麗な刀の軌道が、鬼の腹に筋を残す。

ティナは振り抜いた刀の血を落とすように、ヒュンとその場で振ると、そのまま刀を鞘に納めた。

チン…

刀が鞘に納まった、その瞬間…

ズリッ…

鬼の上半身と下半身がずれた。

「がはっ…」

鬼は恐怖に引きつった表情のまま、その上半身だけ地面にゴトリと落ちていった。

「成敗完了…」

ティナはその様子を見て、そう呟いた。

◇◇

「…下がってろ」

俺はエミリーにそう指示を出した。
俺の指示に従って彼女が後ろに下がったのを見計らって、俺は剣を抜くと、檻を高速で斬りつけた。

カシャン…ガラガラガラ…

檻はバラバラになるのを見届けると、エミリーが俺に抱きついてきた。

「ジェイ!!来てくれてありがとう!」

そしてすぐに離れると、今度はティナに抱きついた。

「ティナ!生きててよかった!」

「エミリーこそ!」

と抱擁しながら、喜び合う二人。
そんな微笑ましい光景も束の間、エミリーはティナから離れて俺たちに告げた。

「パブロが軍隊を率いて、農民たちの討伐に向かってるの!なんとか止めなくちゃ!」

俺たちは頷いた。
しかし、率いているのが魔物とは言え、人間同士の争いに手を出すと、俺が人間を傷つけかねない。
ポートの街の時のように、相手が極悪人でもない限り、それは避けたかった。
ではどうするべきか…
俺が戸惑いを見せると、ティナが俺の肩に手を乗せて言った。

「私たちに出来る事は…国王様に状況を見てもらう事。
その先は国王様が決める事でしょ」

俺はティナの方を向いて、頷いた。

「…エミリー、国王の元へ」

エミリーの瞳に再び決意の炎が灯った。

「うん!行きましょう!国王様の元へ!」

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