出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

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第3章

マタ王国の内戦11

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カシャン!!

乾いた音を立てて、牢屋の檻が勢いよく閉められた。

ガシャッ!

閉まると同時にエミリーがその檻を両手でつかみ、

「出して!このままだと人間同士での殺し合いになっちゃうの!お願い…」

と、泣き叫ぶようにして、目の前の二人の大きな男に懇願した。しかし、その様子を蔑視するかのように、冷たい目線で見下ろしていると、
「それがどうした」
と言い放った。

「どうした…ですって?あんた正気なの!?
このままでは国が滅びちゃうのよ!」

「ふん、そうなればパブロ様がこの国を治めてくださるだろう」

「そのパブロが化け物なんだから、魔物にこの国を乗っ取られる事になるのよ!」

「それがこの国の運命だ」

ここまででようやくエミリーは一つの事に気付いた…
目の前の二人の男の正体に。

「あんたたちも魔物なのね…」

そう指摘された二人の男は何も答えない。
しかしその頭には二本の角。
それはエミリーの問いへの回答として、何よりも雄弁に語っているように思えた。

「お前は農民どもとともに処刑だ。ここで大人しく最後の時を過ごすんだな」

エミリーは再び自分の無力さを嘆き、その場に座り込んでしまった。

「お父さん…ごめんなさい…私…もうダメみたい」

目の前で殺された彼女の父親に想いを馳せ、力なき謝罪をする事くらいしか、今の彼女に出来る事はなかったのであった。

そんな絶望的な状況の中、

タンッ…
タンッ…

と二つの
床に降り立つ音が響いた。

「誰だ!?」

大きな男たちが音のする方に振り向いた。

カツ…カツ…カツ…

二つの足音が徐々にこちらに近付いてくる。
そしてその姿がはっきりとエミリーにも分かるようになった時、女性の方が彼女に向かって話しかけた。

「エミリー、諦めるのはまだ早いわ」

エミリーの頬を涙が再び濡らす。
しかし今度の涙は先ほどまでの冷たいものではなく、彼女に生きる力を再び与える、温かいものであった。

そして男の方が二人の大きな魔物にむかって言い放った。それはもう、ぶっきらぼうに…

「…震えながら地獄へ落ちろ」

そこには…
言うまでもない。
世界に残された唯一の希望である二人が、救世主の如くエミリーの前に姿を現したのだった。

◇◇

俺たちがエミリーの元に現れた理由を説明するために、少しだけ時間を戻すことにする。

「…ここは?」

メイド姿の魔物たちを一掃し終えた俺は、延焼がひどい玄関の方とは反対側の方へと進んでいた。

その時、一つの部屋の扉が開いている事に気付いた。

「…誰かいるのか?」

俺は何かに引かれるように、その部屋へと足を忍ばせた。
部屋には明かりが灯っておらずに、暗い。
しかし入った瞬間に異変に気付いた。

「…血の臭い!」

その方へと駆けていくと、目の前にティナがうつぶせになって倒れていた。

「ティナ!」

俺は彼女を抱き起こす。
返事はない。
背中には大きな傷を負っていて、そこから血を失い過ぎたのだろう。
顔は青白く、血の気は失せている。
俺は急いで彼女の首の脈に手を当てた。

「…生きている!」

とにかく彼女の蘇生をせねば。
そう考えた俺は考えもなしに、生と死を司(つかさど)る聖女
テレシアの魔法をとっさに口にしていた。
聖女テレシアは俺にとって、忌むべき相手にも関わらず…

「聖女テレシアよ!そなたの持つ大いなる癒しの力持って、目の前の者に祝福を!癒しの最上位魔法!『アルティメット・キュア』!!」

パァァァ…

俺が魔法を唱えた瞬間に柔らかい桃色をした光がティナを包む。
この魔法は怪我、病気、毒などあらゆるものを癒す魔法だ。
ただしかけられた相手の生きたいと思う力が足りないと、その魔法の威力に飲まれ、体が爆発すると言う、テレシアらしい恐ろしいものでもある。
俺は修羅場を潜り抜けてきたティナの生命力にかけていた。
というよりも、この魔法以外でもはや彼女を助ける手だてはなかったのである。

ティナの呼吸が早くなる。

「うぐぅ…ぐぬぬ…」

苦しそうに喉をかきむしっている。
生きる力と死へとおいやる力が拮抗しているのだ。
俺は彼女を強く抱き締めた。

「戻ってこい!ティナ!」

俺の背中に彼女の爪が食い込んでくる。まだ必死に彼女は戦っているのだ。
俺も必死になって彼女に声をかけた。

「戻ってきて、俺の側にずっといるんだ!」

「ぐぁぁ…!!」

「俺がお前を守り続けてやるから!」

するとティナの動きが止まった。
俺は彼女の顔を覗き込む。
すると彼女はゆっくりと目を開けて、笑顔になった。

「今の言葉…約束なんだから…勇者は約束を守る人なんでしょ?」

ガシッ!

俺はもう一度強くティナを抱き締めた。

「…ああ、約束だ」

「フフ、嬉しい。でもジェイ、今は愛し合ってる場合じゃないわ」

ティナが俺を諭すように言うと、少し離れた。

「…ああ」

俺たちは決意を込めた表情で頷き合う。
するとティナが部屋の片隅を指差して言った。

「パブロがあそこから姿を消したの」

俺はその方向を注意深く凝視する。
床からわずかに魔力が感じられた。

俺たちはそこに近付いた。
床には小さな魔法陣が書かれている。

「…これは…」

その時、
ドカーーン!!
と言う大きな爆発音が背後から聞こえた。

「ジェイ!もう時間がないわ!早く窓から脱出しましょう!」

俺は少し魔力を魔法陣に込めた。

ボウン…

魔法陣が仄かに輝き始める。
やはり予想通りだ。

「…これは転移装置だ」

俺はティナを抱き寄せた。

「ちょっと!だから今は…」

顔を赤らめながら恥ずかしがるティナを無視して、俺たちは魔法陣の中へ入った。

「なに…!?これ!?うわぁぁ!」

光に包まれた俺たちはそのまま、魔法陣に吸い込まれていった。


転移した先は暗い牢獄のような場所だった。
暗がりを照らすように、ティナの指輪が柔らかな光を放っていた。
その先の下の方で、声が聞こえる。
エミリーの声だ。
俺とティナは顔を見合わせ、頷いた。

タンッ!
タンッ!

俺たちは下に降り立った。

「…ようやく来たぞ…」

「ええ、そうね」

「…俺たちの反撃の時間の始まりだ!」

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