出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

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第3章

マタ王国の内戦7

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◇◇
「ようこそ、いらっしゃいました!勇者様!」

俺たちはパブロの誘いに従って、彼の屋敷までやってきた。
その屋敷は、王城よりも大きく、中にいるメイドの数もその比にならない程多かった。

彼の成り上がりと権力の大きさを象徴している様な、華やかな装飾の数々。
俺はそんな物には目もくれずに、万が一に備えて、ここから脱出するルートを頭に叩き込んだ。

既にティナにもパブロが魔物である事は話してある。
もしこの屋敷の中で乱戦になった場合は、エミリーを助けてここから脱するように言い含めていた。

そんな状況なので、流石のティナも屋敷の中の華やかな装飾品に対して興味を示すことはなかった。

緊張状態を保ったまま、屋敷の中を進んで行くと、今回の歓迎パーティーの会場である大広間に俺たちは通された。

そこはダンス会場のような大きさで、そこにきらびやかなテーブルがいくつも置かれている。
テーブルの上には豪勢な食事が並んでいた。

「ジェイ!ティナ!こっちよ~!」

俺たちに気付いて手を振るエミリー。
彼女の側には、アクセサリーショップの店主が、緊張の面持ちでこちらを見ていた。
あの様子だと、俺たちの素性は既に知れているのだろう。なんだか少し気まずい感じがする。
そんな彼らから目を離し、周りを見渡すと、中心街で店を構える人々と思われる者たちが多数参加しているようだ。

俺たちの登場に、一様に視線が集まってくる。
それはいかに俺たちを取り込もうか、という嫌らしいものが大半であるように思えてならなかった。
しかしそれでも俺は彼らの事を不快に感じる事なく、

「…全員人質という事か…」

と不憫に思っていた。

◇◇
どの国の歓迎パーティーも同じようなものだ。
主催者の挨拶から始まり、主役は客人たちに囲まれて淡々と挨拶をかわしていく。
心の内では何を考えているのか分からないような、虚飾に満ちた言葉の数々に、一体どんな意味があるのだろう。
俺はそんな事を思いながら、パブロの横で客人の相手をこなしていった。

ようやく一息つくと、パブロが飲み物を持ってやってくる。

「お疲れでしょう?勇者様、どうぞこれを」

俺は無言で受け取る。
さしずめ毒でも盛ってあるのだろう、全くの無駄である事も知らずに。

「毒など入っていませんよ。仮に入っていたとしても、そんな事で倒れてしまうような方ではないでしょう?」

パブロはこちらを見透かしたかのように、俺に差し出した飲み物を一口で飲み干し、もう一つの方を差し出した。

俺はそれを受け取ると、一口で飲み干す。
確かに毒は入っていないようだ。

「今夜は何も起きなくてよかったですよ。
実はこんな物が自宅に届いてましてね」

とパブロは俺に一枚の紙を手渡す。
そこには…

今日の夕刻までに農民に掛けられた税率を商人と同じように、半分にしろ。
さもなくば、今夜お前と家族の命はない。

と書かれていた。

パブロの横には心配そうに見つめる女性と少年。
おそらく彼の家族…
という『設定』なのだろう。
無論、こいつらも魔物だ。

「農民どもが最近うるさくて困っているのですよ。
こんな物まで送ってきて…
罰に税率を倍にしてやったんですよ、つい先ほど」

俺は興味なさげに彼を見る。
パブロはニヤけた顔で続けた。

「このパーティーも彼らからの税金で行わさせていただきました。
参加を許されない彼らからの、せめてもの感謝とお受け取り下さい」

「あんた最悪だわ…」

いつの間にか俺の隣にいたティナが吐き捨てるように言った。
俺は今にも飛び掛らんとする彼女を制する。

「…そろそろ帰らせてもらう」

「おやおや、これは残念です。そろそろメインの余興が始まるはずなのですが…」

パブロの口角が気味が悪いほど引き上がる。
俺はその顔を見た瞬間に察した。
時すでに遅し!彼の罠に、まんまと掛ってしまった予感がした。

「…しまった!」

ドーン!!!

大きな爆発音とともに屋敷が大きく揺れた。

キャァァァァ!!!

パーティーに出席していた婦人たちの叫び声が聞こえる。
そして次の瞬間、

ウォォォォ!!!

と外から掛け声が上がった。

「農民どもが屋敷に火をつけているぞ!!」

バルコニーから様子をうかがっていた商人の一人が声を上げた。

逃げろーーー!!!

誰からともなく、声が上がる。
会場はパニックに陥った。

「…ティナ!エミリーたちを!」

「うん!分かったわ!」

程なくしてエミリーと父親を見つけたティナは、彼女らの元へと飛び出し、その手を取って俺の目配せをした。
「先に外に出る」の合図だ。
俺も黙って、その目配せに頷きで返した。

すでに会場内にも煙が充満し始めている。
このまま屋敷は焼け落ちてしまうだろうと思われた。

ヤツの狙いはこれだったのか…

農民の怒りを爆発させて、自分たちを襲わせる。
そしてその鎮圧と称して、農民たちを殲滅させていくつもりだろう。
農民がいなくなれば、国の生産力は落ち、商人たち同士での争いにつながっていく…
自分の手は汚さずに、内戦で人間を滅ぼすという狡猾なやり方だった。

そして俺の考えが正しければ、この屋敷の中で俺にも何らかしら仕掛けてくるだろう…
その予想は見事に的中した。

「勇者様…どうかお助けください…」

目の前には足を『怪我した設定』のパブロの母親と子供の姿。

「…俺がお前を…か?」

俺の視線に母親役の方が答える。

「ええ、そうです。だって…あなたは勇者様…困っている人がいたら助けなきゃ…ですよねぇ?
それが例え…魔物であっても…クククク!!」

これがパブロの仕掛けた俺への罠って訳か。

勇者として魔物を倒すのか、それとも魔物と知っていても宰相の家族を助けるのか…
後者を取れば、俺はこの国の大罪人だ。
下手をすれば、世界中に『悪事』として知らされるだろう。
もし前者を取れば…それは勇者として魔物を助けたとして、人間への裏切りとして、俺の名声を貶める事になる。
どちらを取っても俺にとっては不利になる選択と言えた。

「さあ、どうするの?勇者さん?それとも一緒に焼け死ぬ?クククク」

俺は目の前の魔物を睨みつけた。

「…なめるなよ」

ダッ!

俺は、目にも止まらぬ速さで一直線に飛びだす。

ズン…

俺の剣が母親の魔物の腹を一瞬で貫いた。
あまりの速度に、なすすべもなく致命傷を受けた魔物は、それでも不気味な笑顔を浮かべている。

「かは…っ。こ、この選択で…貴様は…大罪人に…」

スパッ!
ゴトン…

鬱陶しいので、最後までは言わせずに、その首をはねた。

「…一人は寂しかろう」

ズバッ!

『子供役』の方の魔物の方も、あっさりと首をはねると、俺は部屋を出ようと入口の方へと駆けだした。
すでに煙で視界が遮られ始めている。
その時、死角から鋭い突きが俺を襲った。

シュッ!

上体をそらし、それをかわす。

「リトルフレア!」

ドン!!

「ギャァ!」

その槍が飛んできた方向に向けて、魔法を唱えると、魔物の短い断末魔が聞こえた。
ふと前を見ると、パブロのメイドたちが無表情で武器を持って立ちはだかっている。
ヤツらも全部魔物か…

俺はその光景を見て、ニヤリと笑った。

「蹂躙の時間だ。覚悟しろ、魔族ども」

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